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外交を担当する外務省の小会議部屋に声が響く。

「やってられへん!」

勢い良くソファに背を付けるのは第四王子ジュンリル。

「なんやねん、急に国賓待遇のメンバーの同行者が増えるって!」

普段から声は大きいが大体においてマイナス発言はない彼の珍しい悪態である。

彼は、王太子の補佐役でもある第二王子レンリルの実弟で学園卒業後は、外交を担っている。

室内にいるのは、長官と政務官、そして財務長官と政務官とそれぞれの所属王子殿下、宰相府から来たレンリルに王太子ショーン、そして、ケイリルの年長組殿下達だ。

「その聖女とやらの世話をするのに向こうからくる侍女が5人、護衛が3人増えたと……、」

寄せられた要望書に目を通す財務長官、ルキリオは引き吊った笑みを浮かべている。

「聖女は国王にも匹敵する地位にあるから、此方からも世話をする侍女を増やせだって?予算オーバーだ。」

暫く使ってなかった迎賓館のメンテナンスにも結構予算が割かれた。

彼等の国とは一応同盟条約を結んでいるが、予算的なこともあり、当初は王都を通過してゼファー領へ直接向かうと言ってきたのだが。

“訪ねる国の王には申し訳ないが、何も挨拶せず通過する。”

まったく申し訳ないとは考えられない文言が並んでいた。

ラインハルトは、面倒くさがりのため、それでよいと返答したが、政府首脳陣はゼノア国の非礼に眉を潜めた。

「あの国は、昔から我が国を敵対視しておる。魔界と妖精界の時空門を有しているのがズルいズルいと言い続けてな、我が国の戦力が高いのは魔界と妖精界のお蔭であり、決して混じり物達の力ではないと言いたいらしい。数年前までは、魔術と言う叡知を人族から奪った敵だなんて言っておったが、15年前のスタンピードで我が国の助力を得て王都の壊滅が防げたことで改めて同盟を結んでいて良かったなどと直ぐに主張を返す国だと言うことを忘れるな。」

王子達に聞かせた隣国との因縁。

そのような国に礼を持って対応するのも馬鹿馬鹿しいと一行の世話はゼファー領の者に任せようと、隣国の出迎は通達を出そうとした矢先、ゼノア国より『聖女が同行するので、一旦、王都で体を休めたい。』との通達が来たのである。

いやいや、王都に立ち寄るのは回り道言うて、妖精門の間にあるゼファーに直接行くさかい、そこんとこよろしゅー頼んまっせ、そんな通達っぽい親書を送って来たのは、ついこないだやん?

「馬鹿にしてますよね。」

テーブルに要望書の写しを叩き付け唸っているのは財務に携わっているルキリオだ。

「しかも、高級肉ホワイトグリスリのステーキを是非賞味したいとかリクエスト出すか!?」

ホワイトグリスリはラーネポリア王国北にある氷雪山に極希に出没するレアな大型魔物である。

討伐には綿密な計画と準備が必要となる。

「そもそもアレは、雪山が更に寒くなる冬にしか涌き出てこん!ジュンリル、まさか、”はい、喜んで!御用意します“、とか、言ってねーだろうな!」

分かっていて尋ねるルキリオにジュンリルが『堪忍して』とばかりに言い返す。

「言うわけないやん!馬鹿丁寧な言葉で無理やって返事したら、ラーネポリア王国は客人の接待には不慣れなのですね、ときたもんだ。」

手紙をレンリルが読む。

「人族の傲慢さが文面から出ていますね。」

ぐしゃりと手紙を握り笑顔のレンリル。

「会議に出席する使節団長は、ゼノアの第二王子だっけ?」

ショーンの質問に皆が頷いた。

「影の報告では聖女にメロメロなんだって?」

メロメロと言う言葉に各長官が眉間にシワを寄せる。

「今回の会議に出て一定の功績を上げれば継承権獲得への大きな一歩らしいから、張り切ってるんしゃないかな。」

ケイリルがモノクルを弄りながら言う。

「そう言えば、ケイリルはゼノアに留学していたな。」

レンリルの言葉。

当時、発明家でもあるケイリルは軽いスランプに陥っていた。

王国が発明した人族以外の気配を消せる薬と魔法を使ってゼノアの王立学園に留学した。

建前はゼノアの辺境伯の親戚としてだ。

理由は、ちょっと違う環境に身を置けば何か閃くかと思ったからだ。

思いたったら吉日のケイリルの後押しをしたのは、ショーンである。

「お隣さんの様子をケイリルの目で見ておいで。」

と送り出したのだ。

結構行き当たりばったりな行動をするケイリルが几帳面で少々理屈屋であるレンリルに相談しなかったのは賢い選択だなぁとショーンは感心したが、後にバレてレンリルとルキリオに怒られた。

留学中の資金はケイリルの資産とショーンの資産から出すことになってしまったのは御愛嬌。

王家の予算を握っているルキリオがいるから、王国は回っているとショーンは思っている。

「ケイリルから見て、ゼノアの第二王子は、どんな子だい?」

自分と対して年は変わらないのに時々ショーンの言葉は年長を越えてオジサン…げふんげふん。

「典型的な勘違いバカ。甘やかされてるから、自分は出来る男だって思ってる。オレ、嫌い。」

発明以外のことには寛容で、おちゃらけていることもあるケイリルが苦い顔をした。

「王子と接触は?」

外務長官な言葉。

「してないって言いたいけど、田舎者だと絡まれて結構ウザかった。」

だから予定より大分早く帰ってきたのか。と皆が納得した。

「変化してたとしても、王子一行が逗留中は、ケイリルは表に出ないってことにしておこうか。間諜とか思われたら面倒だから。」

ショーンの言葉に弟達が良い返事をした。

「とにかく、聖女なる人物の情報が少なすぎますので、至急、情報を集めるよう影に命じておきましょう。」

年長組の王子達は成人後より幹部会への出席率が高い。

そして、王子達が中心となって会議を回しているのだった。





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