Prologue
登場人物の名前は、某ボーイズグループを参考にそのものズバリ拝借しているのもありますが。某ボーイズグループとは、名前以外、何の関係もない作者が作りあげた世界のお話です。なので、実際の人物の性格については、作者の想像で、ちょーっと影響を受けた感じはありますが、物語のために作りあげたものなので、ご容赦ください。
2023/2/14 15加筆訂正。
「えっ?」
発せられた言葉に執務中の第一王子は頭を上げた。
「はい、カイン様、ジオン様、イゼイン様が大型のワイバーンを二匹討伐し、戻ってこられました。」
第一王子ショーンは、チラリと隣に立つ第二王子レンリルを見た。
彼はモノクルをクイッと上げ、いささか引き吊った顔をしているように見える。
「被害は?」
ショーンの問いに、一瞬間を開けて、老騎士が答える。
「リンドス村が襲われ、数人の死者が出ております。」
重々しい口調で老騎士が言う。先に名前の出た王子三人のお目付け役だが、年を考えるとそろそろ引退をしたそうだなとショーンは思った。
「そうですか…、ワイバーンは群れではなかったのですか?」
レンリルの問いに再び老騎士が答える。
「繁殖期前だったようで、群れではなかったようですな、殿下お三方で難なく討伐出来たようです。」
レンリルと視線を合わせたショーン。
「では、三人に被害状況の報告をルキリオにするように伝えてください。あぁ、それと今回の討伐が騎士としてなのか、冒険者としてなのかをハッキリさせるように伝えて。それによってリンドス村へ王家からの見舞金を決めることになりますからね。」
レンリルの言葉に老騎士はホッとしたような顔で部屋を出ていった。
「まぁ、想像してたより被害が少なくてよかった……かな?レン、あんまし、三人を怒ってはダメだよ、」
第一王子の言葉に呆れた顔を見せる第二王子。
「そもそも、あの三人は同じ授業が被らないようにしていたはずで、離れた学舎で座学中はずなんですよ。なんでつるんでいるのか。あのフットワークの軽さ、討伐以外にも役立ててほしいものです。」
「座学からの脱走には中々のフットワークを発揮するなぁ、あの子達は。」
のほほんとした口調の第一王子に、第二王子も苦笑した。
北を万年氷に覆われた雪山、西を海、南と東には、森を挟んで四ヶ国に囲まれている自然豊かな国であるラーネポリア王国。隣接する二国とは今のところ表向き友好な関係を保っている。残りの二国とはとある事案について同盟を結んでいるが国としての
方向性や価値観の違いから友好とは言い難い。
さて、この国と言うより、この世界の問題は人口より多いとされる魔物の数にある。
魔物は、その肉は食用として、皮や骨など殆どの部位がなんらかの素材として重宝され、力の強い魔物の中には魔石と言う魔物が内包していた魔力を秘めた石が存在し、あらゆる物の動力源となっている。しかし、魔物の七割が人間も対象とする肉食のため毎年被害が後を立たない。
また、どういった仕組かは分からないが魔物達は集団で突然現れて地上を荒らす行動をとる。スタンピードと呼ばれる暴動は規模も大小様々だが、小さくても街一つを壊滅出来るほどの威力がある。
現代に於てはスタンピードが起こる前兆が研究によりある程度分かるようになったがそれでもスタンピードを止めることは出来ない。集団で異空の穴から現れた魔物達が進行方向に現れる穴に還っていくのを待つしかない。一心不乱に還るべき穴を目指す魔物は兎も角、暴動行進の途中で隊列から外れてしまう正気を失った魔物が度々現れ手当たり次第に暴れるので討伐は必須となっている。二、三ヶ月に一度は規模に差はあるものの起こるスタンピードから人々、つまり国を守ることに忙しく、ラーネポリア王国周辺国は、対魔物討伐同盟を結んでおり、魔物による被害を最小限に抑えるべく各国が一応の協力体制をとっている。
南東に広がる森は国によっては魔の森と言われているが、ラーネポリア王国にとっては実りの森だ。魔物だけでなく、良質な鉱物も眠っている。魔の森の3/4を領土としているラーネポリア王国を妬み、虎視眈々と領土を狙っている国々はあるが、多種族国家であるラーネポリアの武力は群を抜いており、現実問題として攻めてくる国はない。
魔物のことさえなければ平穏と言っていいラーネポリア王国が歴史を重ねながら強国と呼ばれるようになったのは、北と南に魔界と妖精界に繋がる巨大な門が存在し政治や文化の交流が盛んであり、婚姻を交わし子をなす者が多くいたからだろう。様々な種族が交わる住人達で成り立つ多種族、多民族国家だ。
「ワイバーンの肉は騎獣達にも分け与えるように言わなきゃな。」
脳裏に浮かぶのはジューシーな肉。
「被害にあったリンドス村にも食料として提供しましょう。」
レンリルの言葉にショーンは頷いた。
彼等の言う騎獣とは大まかに言えば魔物であるが、その成長過程は特殊でラーネポリア王国のほぼ全ての住人が物心付く頃に手に入れる卵から生まれる。
ラーネポリア王国の守りの要である王立魔獣騎士隊の対魔物討伐部隊に入ることが出来るのも者は人を背にのせることの出来る魔物の卵を育て信頼関係を結んでいることが基本条件だ。
この国の人々は大なり小なり、己の魔力保有量にもよるが、一生に一度魔物の卵を得る機会に恵まれる。どういう仕組みなのかは未だに不明だが、ある日、枕元に卵が置かれているのだ。
卵の大きさは千差万別だが、人々は大切に卵を育てる。中には卵の大きさや種類によっては、卵を気に入らないと教会に卵を持ってくる者や、卵を割ってしまう者もいる。
ただし、卵を割ってしまうと魔物に襲われる率が上がると統計学で割り出されてから割る者は居なくなった。
ワイバーンの討伐に出た三人の育てた卵は、それぞれグリフォン、キマイラと呼ばれる騎乗出来る魔物で、三人はまだ成人前ではあるが王立魔獣騎士隊に見習いとして所属している。
学生のため学業が優先されるが、大型の魔物の出現やスタンピード発生時には警戒アラートが鳴るため、騎乗の出来る魔物と契約している彼らは重宝される。自ら進んで魔物討伐に行ってしまう我が子は少々無茶をしがちなため母マルティナによく泣かれていた。
今回のワイバーン討伐は三王子の誰か掴んだか、知り得た情報に後の二人が参戦したのだろう。
警戒アラートが鳴ってなかったのでスタンピードや魔物の繁殖が原因ではなかったのだろうと兄二人は推察した。
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王子達の父、つまりラーネポリア国王には、四人の妻がいる。正妃と三人の側室がいるのだが、後宮のドロドロした女達の争いとは皆無である。
元々今の正妃は、国王の四つ年上の兄の婚約者だったが、国民を庇い、国境に現れたドラゴンとの激闘の末に負った傷が原因で亡くなったため婚約が白紙となった。
長兄の遺言が婚約者を頼むと言うことだったので、三つ年上の次兄が次期国王として、長兄の婚約者を正妃として迎え、自身の婚約者を側妃とすることを公示した。
しかし、その数ヶ月後、王国をスタンピードが襲った。
王族は国民を守るため先頭に立たねばならない。国王と王妃は国民を王城の地下神殿に出来るだけ避難させ、内側から結界を張る役を。次期国王である王子にも国王と共に結界のために残るようにとの命が下されたが、弟に兄同様の遺言を残して去っていった。
兄からの手紙には、『お前は俺と違って頭がいい。これからの王国を盛り立てる存在だ。ミライアとサヤカ、アヤカを頼む。』
この遺言により現国王は自身の婚約者を合わせて四人と婚約を結ぶことになった。
四人の妃はとても仲が良く互いの婚約者が亡くなった後は慰めあっていた。
唯一王子として生き残った現国王ラインハルトの婚約者であるマルティナは、元々三人の妃にとって学園時代からの後輩で彼女達に可愛がられていた。おおらかな性格のマルティナは、これで王妃の負担が減ると喜び喪が開けてからは積極的に三人の妃と連絡を取り合い、どのようにしてラインハルトを支えていくか話し合いを重ねた。
現国王は、とても頭の良いワンコタイプの、兎に角、人たらしの性格だった。
末っ子ならではの少々のあざとさがあったこともあり、四人の妻から可愛がられた。
正妃であるミライアと国王は同い年、第二妃サヤカとアヤカは国王より1つ下の双子の姉妹で、マルティナはその1つ下。つまり、国王とは二つ年が離れている。四人は、スタンピードの傷が癒えた頃、合同婚姻式を行った。国民は生き残った王子が一度に四人の妃を持ったことに驚いたが、兄王子の遺言だったこともあり、割りとすんなり受け入れられた。
人たらしの国王は、其々の妃との間に沢山の王子達をもうけた。姫が一人も出来なかったことを嘆いていたが、王子が一定の年頃になると国政は息子達に託し、自分はアドバイザーに徹すると言い出した。
驚いたのは王太子であるショーンだ。
成人はとうに越えたが、あの詰め込み教育は、早々に引退したい父のせいだったのではないかと疑った。
しかし、元々穏やかで多少のことでは動じない性格だったことや、頼りになる弟達もいることから『どうにかなるか。』と考えた。
しかし、そこで待ったをかけたのが王妃達とショーンの弟達だった。
父国王には、せめて一番下の弟が成人し、ある程度一人立ちするまでは引退を認めないと、迫り約束させた。そんなこんなで、ラーネポリア王国は今のところ平和な時を過ごせている。