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2.運命を憎む少女

 ――場所は変わって、僕達の泊まっている宿屋の一室。路地裏で話すような内容じゃないと感じた僕は、ソフィアについていたお付きを魔術で適当にごまかし、彼女を連れてイヴと宿屋に戻ってきていたのだ。

 隠蔽を面倒になったので、丁度いいと考えソフィアを僕の世界に引きずり込む。――辺り一面真っ白な世界にご招待、ってわけだ。

 可哀想な侯爵家のお嬢様は震えながら、でもしっかりと僕とイヴの方を見ていた。……意思の強さは合格点。

「……驚かしてすまなかったね、ここが僕の世界。永遠の世界さ。魔法使いの支配する空間だ。ここなら外に話が漏れることはない」

「……驚きましたわ。文献などで知ってはいましたけど、体験するとまた違った怖さがあります」

 震える少女に、僕は適当に白の椅子を取り出して白い空間に並べる。僕とイヴ、そしてソフィアの椅子だ。

「……取り敢えず座れば?話は長くなりそうだしね」

「……それでは失礼致します。――乙女ゲーム。この単語に驚かないのですね」

「単語自体は既に聞いたことがあってね。でも詳細は全くさ」

 僕の言葉に、しっかりと頷く彼女の身体の震えは既に止まっていた。……肝が太いというか、なんというか。恐らく僕の予想では、彼女はエーレーの言っていた「転生者」なのだろう。だって、明らかに会話の内容がただの侯爵令嬢じゃない。普通の侯爵令嬢はお付きから離れたりしないし、そもそも王都だろうとこんなところに来るはずがないのだ。

「……わかりました。お話致します。――まず、これを先に言っておきます。私は「転生者」です」

「転生者」だと断言したソフィアに、僕は面白そうに微笑んだ。



 ――中々ぶっとんだ話だった。この世の外の理を司る魔法使いである僕がいうのもなんだけど。

 でも確かに、彼女の話から考えるに「転生者」というのは上位世界から落ちてきた異物で間違いないだろう。そりゃエーレーや「終焉」が興味をもつはずだ。僕ら魔法使いや魔女は、上位世界から下位世界であるこの世界を観測して暇を潰す生き物なのだから、上位世界でありながら僕達の知らない世界から来た「転生者」は興味深いにきまってる。

「乙女ゲーム」というものは正直よくわからないというか、なんでそんなものに憧れるのが僕には理解できなかった。イヴもそうらしい。まぁ僕もイヴも人間じゃないから、その辺りは彼らの感覚なのだろう。

(……世界の修正力ね。神とやらも随分性格が悪いわ。まぁ知ってたけど)

(下位世界に落とされた挙げ句悪役令嬢とかいう転落する人生に生まれるとか、なんか業でもあるのかと思っちゃうよね。可哀想だけど、さてどうしようかなぁ)


 ――ここで僕らが取れる選択肢は2つある。

 一つはソフィアの記憶を消していじって、このことをなかったことにする。そうすれば僕もイヴも平穏にこの国で過ごし、去ることができる。

 2つ目は、彼女を僕らの弟子にすることだ。「終焉」に狙われることになるが、将来の「魔女」、仲間を増やすことにつながる。……視る限り、ソフィアの魔術・魔法の才能は最高峰だ。僕達が指導すれば、魔女になることも可能だろう。彼女にはそれだけの強い望みも探究心もある。

 後、エーレーにソフィアを投げるという選択肢もあるか。エーレーの言う弟子とやらと高めあいながら魔女に到れるかもしれない。どの選択肢も中々魅力的だ。

(……「終焉」を消し去るためには、もっと協力できる同族が必要だ。そのことを考えると、僕の下につけることができるソフィアはかなり魅力的)

(人間をやめることになるけど、まぁそのくらいは私達にかかれば簡単よね。……そう考えると結構メリットがあるわ。「終焉」が狙うってのも、あれを見つけ出すよりは手間がかからなくていいかも)

(「終焉」は確かに脅威だけど、エーレーの方の転生者も狙うってことだからね。狙いが散開するから、その辺りについてもどうにかなるかぁ、そういえばまだこの国には弟子はいなかったし。)

 イヴと念話で会話するが、イヴも中々乗り気である。ソフィアレベルの魔術・魔法の才能がある人間は珍しいというのも大きいだろう。彼女なら必ず大成する。そう言い切れるだけの才能があるのだ。

 ――彼女なら魔女になることができる。


「……君の話はよくわかった。まぁ乙女ゲームとかその辺りの話は微妙だけど。一応事情は理解したよ。……それで?君は魔法を目指すということがどんなことを指すのか、本当にわかってる?」

「……魔女になるということでしょう?私は――きちんと理解しています。人間をやめることになることも、全部わかっています。それでも――婚約破棄されたとしても、お父様やお母様、お兄様が没落し、路頭に迷うような未来は――許せない。たとえそうならないとしても。もしそうなった時に、私は私を許せません。私のせいで彼らが傷つくような未来なんて、断じて否定しなければならない。そのために私が人間でなくなるというのであれば、私は人間をやめましょう」

 僕の言葉に、強い意志を込めてソフィアは宣言した。

「――私は魔女になり、魔法を得てこの憎い運命を書き換えて見せます。世界の修正力だって、全て、私に害をなすものすべて変えて見える。――お願い致します。私を弟子に――魔女にしてください」

 ――世界を変えるほどの強い望み、ソフィアにとってはそれは運命ということなのだろう。僕の脳裏に、かつての僕の弟子達が浮かぶ。彼らと同じ、これがソフィアにとっての運命の岐路か。

「――合格。……わかったよ。僕――「永遠の魔法使い」であるこの僕が、君を魔女にしてあげよう。これは契約だ、ソフィア・フォン・キュアノエイデス。君は僕の弟子となり、魔女に至る者だ」

 ――新しい魔女の卵の門出に、僕は笑みを浮かべてソフィアを祝福した。


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