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1.邂逅

「……あほかあいつ。「終焉」に目をつけられるってわかってて、転生者を拾うとか。まぁ話を聞く限り面白そうな人間だけどさ」

「歴代最高の「聖女」の素質を持っているのに、心が汚れすぎてて、「神聖魔法」の一つも使えないとか。まぁ私にとっては嬉しいことですけど。心が汚れているのに「聖女」の素質があるなんて驚きね」

「「転生者」とか言ってたけど、どうせ「憑依」みたいな感じだったんだろうね。塗りつぶされる前の人格は正しく「聖女」になれる資格があるような人間だったんだろ。まぁ神の尖兵が増えても面倒だし、その点転生者ってのは都合が良かったよ」

 エーレーとのティータイムを終え、イヴと二人で借りている宿屋に戻る途中。エーレーの言っていた「面白い転生者」について話しながら帰り道を歩いていた。確かにエーレーなら面白がりそうな人間だ。

 なんでもエーレーのことも「乙女ゲーム」とやらで知っていたらしく、その人間の記憶を漁ったエーレーが過去最高にノリノリで話してくれたのだ。……まぁちょっと頭が足りなさそうな、お花畑のような少女――ヒロイン願望があるような人間らしく、僕からするとお断りなんだけど。


 そうして宿屋に戻る途中。

 僕達のことをつけてきている人間の女がいる。魔法使いである僕や最強種である吸血鬼のイヴからすればすぐわかるような、へたくそな追跡だ。明らかにそういうことに慣れていないような女。

「――そこの後ろの人間の女。私達の後を付いてきているのはわかっているのよ」

 裏路地に入った僕達の後ろから焦って追ってきた女に向かって、イヴが高圧的に話しかけた。

「……ふむ。ローブで顔を隠したままなんて、悪い子だね。……命令されるのがお好みかい?」

 きょろきょろとローブのフードを抑えたまま退路を探す女は、僕の冷たい声を聞いてびくっと身体を震わせた。そのまま数分黙り込んだかと思うと、急に僕達に頭を下げた。

「――「永遠」の魔法使い様とお見受けします!どうか、私に魔法を教えてください!」



「……取り敢えず、頭をあげなよ。後頼み事をするならフードくらいとれば?」

 僕の呆れたような言葉に頭を上げた女は、そっと顔を隠していたフードを取り去る。――銀髪の長い、毛先まで綺麗に手入れされた美しいロングヘアに透き通るような蒼の瞳をもった女だ。まだ成人もしていないくらいの女、いや少女か。

「……急に申し訳ございません。私はソフィア・フォン・キュアノエイデスと申します」

 ――キュアノエイデス。そう名乗った少女の名字に、僕は嫌なことに思い当たりがあった。「青」の名をもつこの国有数の貴族家、確か侯爵家だったか。

(……キュアノエイデス?フォンが付いてるし、貴族よね)

(貴族だよ。それも高位の貴族だ。侯爵家じゃなかったかな。……なんか嫌な予感がする)

(……奇遇ね。私もよ)

 目の前の少女にわからないように、「念話魔術」でこっそりイヴと会話をする。そうしてから、目の前の少女から情報を引き出すべく、僕が主体となって少女との会話を続けた。

 ……正直な所、僕はこの少女に魔法を教える気はない。だけど、この少女は僕を「永遠の魔法使い」だと認識していたのだ。僕は他の魔女達と違って、あまり目立つようには動いていない。なのにこの少女は僕を「永遠の魔法使い」だと断定し、その上で話しかけた。

 この少女から情報を得て、面倒になるようだったら記憶処理の魔術を掛ける必要があるだろう。

「……キュアノエイデスって確かこの国の侯爵家だよね。なんでそんなとこのお嬢様が僕達なんかに話しかけてくるのさ。魔法ってのも意味がわからないよ。君もこの国の貴族だっていうなら、魔法と魔術の違いくらいわかっている筈だ」

 ――一般的に人間の使うものは魔術というものだ。これは僕達魔法使いや魔女が使う魔法とは違い、世界を永遠に変えることはできない、僕らからすれば不完全な術である。マジックみたいなものだ。他にも色々と違いはあるが、この魔法と魔術の違いというものは基本的に一般常識で、魔術国家でもあるこの国に住んでる人間なら知っていて当然のことだ。侯爵家のお嬢様が知らない訳が無い。

「……魔術と魔法の違いくらい知っています。ですが、魔術程度では私の待ち受ける運命を破ることはできないのです。私が思い望む未来を得るためには、魔法でないと意味がないのです」

 ――人間の癖に、運命について語っている。運命を知ることなんて、できるはずがないのに。興味を惹かれた僕は、少女に質問をした。

「……そこまで考えた動機は何なんだ。君を待ち受ける運命とやらはなに?」

 少女――ソフィアは僕の目をみてはっきりと、その単語を発音した。……ほんの数分前に、エーレーから聞いた僕の知らない単語を。

「――乙女ゲームです。クリストファー王子に婚約破棄される未来を、私は変えたいのです」


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