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18. チュートリアルクリア

「どうしたの、こんな朝早くに」


 痛みにうずくまる衛ノ宮さんに、とりあえずそう声をかけた。

 現在時刻は午前五時二十分。早朝と言って差し支えないような早い時間に、なぜ衛ノ宮さんが僕の部屋の玄関先にいるのか。「?」が頭の中を埋め尽くす。


「す、すみません、出雲さんにもう一度謝りたくて……。!、も、もしかしてご迷惑でしたか……!?」


「いや、迷惑ってより、どうしてこんな朝早くに僕の部屋の前にいるのか不思議なんだけど……。『もう一度謝りたい』って何のこと?」


「ほ、ほら、昨日わたしずっと倒れてて何の役にも立てなかったじゃないですか……」


 申し訳なさそうに顔を伏せる衛ノ宮さん。僕が全く予想していなかった彼女の言葉に、一瞬思考が飛ぶ。

 オーガアントの討伐が完了した後、僕はすぐに衛ノ宮さんのことを助け起こしに行った。

 その際、ずっと目を回していた衛ノ宮さんと何度も白盾に命を助けてもらった僕との15分にも及ぶ謝罪&感謝合戦が勃発したわけであるが……。僕個人の中では、てっきり謝り謝られはあの場で終わった話だと思っていた。


「あ、あの時確かに謝りはしましたけど、夜ベッドに入ったあとずっとそのことばかり考えちゃって……。『謝り足りなかったんじゃないか』とか『言い方失礼じゃなかったか』とか……。そ、それで眠れなくなっちゃったんです……」


「あー……」


 なんというかまあ、いかにも衛ノ宮さんらしい理由だ。ただ、今回の件については僕だって衛ノ宮さんに思い切り助けられた。彼女に謝らせてばかりではいられない。昨日みたいに長引かないよう気を付けながら、できるだけ元気づけてあげよう。


「そんな、気にしなくていいのに。謝罪の気持ちは昨日ので十分伝わったから大丈夫だよ。それにさ、衛ノ宮さんは僕のことを救ってくれた恩人なんだよ。だからもっと、自分に自信もっていいと思うけどな」


 伏せられた衛ノ宮さんの顔が僅かに上がる。潤んだ瞳に僕の顔が映った。


「恩人、です、か……?」


 肩を震わせながらぽつりと呟く衛ノ宮さん。


「わ、わたし、本当に何もできなかったのに……」


「あー、まあ確かにあのとき衛ノ宮さん自身が何かアクションしたわけじゃないけどさ。それでも、僕が衛ノ宮さんの能力に助けられたのは事実で、それは衛ノ宮さんがあの場にいてくれたからなんだよ。正直に言っちゃうと起きて一緒に戦ってくれたらうれしかったけど、それでも僕はあそこに衛ノ宮さんがいてくれるだけで心強かったなぁ」


「~~~~~っっ!!」


 一際眼を潤ませた衛ノ宮さんの顔が薄い赤に染まる。さりげなく彼女のつま先を見ると、ほんの少しピクピクと動いていた。ここ二か月の付き合いで分かった、衛ノ宮さんが喜んでいる、またはうれしくなっているときの癖だ。

 これで大丈夫そうかな……と思いきや、衛ノ宮さんは伏せていた顔をばっと勢いよく上げ、口を開いた。


「あ、あの!もしよろしければ!!なんですがっ……!」


 珍しく前のめりになって言葉を続ける衛ノ宮さん。


「?どうかした?」


「あさごはん、まだですよねっ……!?」


 朝ごはん?

 ちょうどこれから支部に行って食べるところだった。今僕の胃の中には何も入っていない。


「う、うん。まだだけd」


「ぜ、ぜひ、ごちそうさせてくだひゃい……!!」


 食い気味に、そして盛大に噛んだ衛ノ宮さんは、顔を赤くしながらもそう言い切った。


 ~~~


 数時間後。


「やっぱりこれだと当たるんだよなぁ」


 数メートル先の、弾痕がはっきりと残る的に向かってそう呟く。多少のブレはあるものの、大体は的の真ん中に当たっている形だ。……当然、外れたのもある。

 そして僕の両手にはEDA基本装備の拳銃HG-45。

 片手に数えられる程度の的が並ぶ射撃場には、僕以外誰もいない。


 つまり、僕は今一人で拳銃の訓練をしているわけだ。どこで?研子さんの研究室で。


 衛ノ宮さんに半ば押し切られる形で朝食を奢ってもらった後、僕は直ぐに研子さんの研究室に向かった。なぜかと言えば、何もできない問題が解決したからだ。それも驚くほどあっさりと。

 食事の後でふとスマホを見ると、メールが一通送られているのに気付いた。『そうそう、君のセキュリティキーに部屋の制御権の一部を付与しておいた。私が来るまで訓練でもしていたらいい』とのこと。というわけで、僕は研子さんの部屋で銃の練習をしている。


 訓練に一区切りつけたつもりで、軽く息を吐く。

 ふと時計を見れば、13時半過ぎ。もうそろそろ研子さんが帰ってくるはず……


 ガチャリという音がして、ドアが開いた。


「今の時刻は13時37分24秒、大方予想通りといったところだな。やあ春高くん、待たせてすまないね」


 部屋の主であるEDAの最高頭脳の一人、村木研子の帰還である。

 ボロボロでよれよれの白衣を着込んだその顔は表情筋が死滅しているがしかし、好奇心で燦然と輝いている。


「わからないことだらけで困ってるんです。何ですか、『チュートリアルクリア』って」


 目の前に浮かぶ半透明の表示を横目に、僕は研子さんにそう応えるのだった。

まもりちゃんとの食事のシーンはのちのち書きますね

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