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1. 灰色の憧れ

 桜が咲くには少し早い3月上旬。


 適度に暖かい気温の中、全国に何千とある高校のうちの一校が今日卒業式を迎えた。


 式典は滞りなく終わり、生徒は人生で最後のホームルームに参加する。堅物な担任の先生が思わず涙を流したり、そんな先生にサプライズの寄せ書きと花束が贈られたり。教室中がどこか別れを感じさせるような、切ない空気に包まれる。


 そして、ついにホームルームも終わりの時間がやってきた。流石に自分もここまでくれば悲しい気分にもなってくる、が。

 クラス委員の起立の声で立ち上がりつつ、さりげなくバッグをいつでも掴める位置に調整。礼に合わせて頭を下げながら足に力を込める。数瞬ののちその姿勢から勢いよく跳ね起き、僕はバッグをひっつかんで教室を飛び出した。


 正直自分でもどうかと思うほど雰囲気も感傷もあったものではない行動にも、訳を知っている友人は苦笑しつつ「頑張れよ、出雲( イズモ)~!」と声をかけてくれる。


 まさか卒業式と面接の日が被るとは思わなかった。


 激励を背中に受けつつ廊下を走り抜け、階段を駆け下りる。


「予定の時間が迫っているから急いでいる」 走っているのは、言ってしまえばこれだけの理由。ただ、この足を動かすのは、それだけではない。


 一体どれほどこの日を待ちわびたことか。

  今日は、地球防衛機関EDAの入隊試験、その1日目なのである。


 〜〜〜


 地球に人間の『( エネミー)』が出現し、それに対抗するために神を名乗る存在からいわゆる『超能力』が人類に与えられてから20年ほど。


 『( エネミー)』は何者で、どこからやってきて、何を目的としているのか。未だに、何一つとしてわかっていない。


 でも、20年の間に人類は後付けの超能力の使い方を覚え、制度設備を整え、激変する状況に何とか適応した。ある意味「平穏」を手にしたといえる。『( エネミー)』の攻撃による死傷者も始めの3,4年間からかなり減ったらしい。


 そのある種の「平穏」を支えるのが、地球防衛のために設立された組織EDA ――Earth Defense Agency だ。


 国連の下部組織を前身とし、所属人数はいまや全世界で5000万人超とも言われるほどの巨大機関。『( エネミー)』の撃退、討伐はもちろんのこと『超能力』の研究や管理、『( エネミー)』と同時に姿を見せるようになった人間に友好的な超常存在との交流などなど、20年前から続く新時代のほぼ全てを管理している。


 ――という基本事項を、緊張を紛らわすのもかねて頭の中で繰り返すこと十数分。

 控室の扉が開き、案内係の女性が顔を見せた。


「2009番、出雲( イズモ) 春高( ハルタカ)さん」


「は、はい!」


 証書が入れっぱなしのバッグを踏まないように気を付けながら立ち上がり、案内係の後ろについて面接室へ。


 案内係の人の靴の音は鳴り響く心臓の音でほとんど聞こえないし、廊下の周りの様子も正直あまり目に入らない。

 スタイリッシュめの総合体育館を思わせるような大きな建物、つまり今回の面接会場であるEDAの施設を目にした時から今に至るまで、緊張は全くと言っていいほどほぐれなかった。


 EDAへの入隊を志した5歳のあの日から、自分で言うのもなんだが血の滲むような努力をしてきた。人一倍頑張ってきた自信はある。

 そうやって何年も積み重ねた努力が、今日から始まる3日間の試験で実を結ぶか泡となるか、全て決まってしまうのだ。そう思うと、どうしても落ち着けない。


 とはいえ、もう面接室は目と鼻の先。ごちゃごちゃ考えていても仕方がない。大きく息を吐きながら、震えそうな手でネクタイを整え、ブレザーのボタンをかけ直す。


「こちらが面接室です。お入りください」


「ありがとうございます」


 案内係が指すドアを、ゆっくりと開ける。


 部屋の中には、試験官の中年男性が一人。


「失礼します」


 お辞儀をしながら入室し、試験官の声で着席する。握りしめた手に汗が滲むが、気にしてなんていられない。


「試験番号2009、出雲 春高さんですね。これからEDA入隊試験1日目の面接を開始します」


「はい。よろしくお願いします」


「最初の質問です。所属希望先と、その理由を教えてください」


 その言葉を聞いたとき脳裏をよぎったのは、あの日見た灰色のアーマー。その後ろ姿を目指してここまで頑張ってきたのだ。答えは決まっている。


「防衛部所属を希望しています。僕が5歳の時、家が( エネミー)に襲われました。両親は亡くなったのですが、僕はすんでのところで防衛部の戦闘員の方に命を助けていただきました。僕も防衛部に入隊し、たくさんの人を救いたいと思っています」


 これを聞いた試験官は、手元の書類に目を落とした。多分申し込みのとき自分で入力したものだ。今答えた所属希望はもちろん、住所経歴など、すべてが記載してある。当然、僕の能力も。


「次の質問です。あなたの能力と、その説明をお願いします」


 予想通りの質問。何も考えず、事実のみを、言葉にする。


「僕の能力は『ゲーマー』。自分のレベルと体力が表示される能力です」

お読みくださってありがとうございます。

本作品は週刊連載、主に日曜18:00に更新していきます。

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