16. 大事な会議があるのに1時間寝坊してしまったときのような
僕がアサルトライフルの引き金を引いた瞬間、派手に大爆発したオーガアントの頭。
赤黒い甲殻と肉片、緑の体液が飛び散りながらも閃光に焼かれていく。
そして頭を失ったオーガアントの胴体は、先ほどまで爆走していた勢いのままアスファルトの上を数メートル滑ってから沈黙した。
「か、勝った――ぁぐえっ」
怒り狂ったオーガアントから逃げるために僕を乗せて高速飛行していた白盾は、脅威の消失を認識したのか唐突に消え去る。
慣性により投げ出された僕の体は、勢いよくゴロゴロと道路の上を転がった。
「痛つつ……」
実際痛みは皆無だが、半ば体に染みついた癖で思わず痛みを口走りながら体を起こす。
オーガアントの方を見ると、ピクピクと痙攣こそすれ、起き上がってこちらに大顎を向ける様子はない。そもそももう大顎がないし、自己再生の気配も皆無だ。
「ほんとに、勝った――」
ようやく脳が討伐を認識する。肩からどっと力が抜け、それまで強く握りしめていたライフルのグリップが手から滑り落ちた。
今回の討伐は、100%このアサルトライフルの性能のおかげで成し遂げることができた。
対大型敵モードのアサルトライフルの弾丸は、相手に着弾させてから任意のタイミングで爆破させることができるのだ。敵の体にめり込ませた弾丸にライフルからエネルギーを送り込むことで小さな弾丸に見合わないほどの爆発力を生み出し、広範囲を消し飛ばす。
ノーマルモードのライフルは威力こそ高いが、どうしても点の攻撃になりがちだ。巨大な敵には点の攻撃は効果が薄い。その弱点を補うための対大型敵モードというわけである。
僕の作戦としては、ただアントの頭を撃ち破るのではなく、最初からこの機能を使うつもりでいた。攻撃の最中跳ね飛ばされたのは完全に予想外だったものの、うまくこめかみに弾丸を残すことに成功、討伐までもっていくことができたというわけだ。
「うぅん……」
ふと小さなうめき声が耳に入り、そちらの方を向く。未だ目を覚まさぬ衛ノ宮さんが、わずかに身じろぎをしていた。
正直なところ、今回の戦闘で、衛ノ宮さん自身は全く何もしていない。開幕から気絶してしまったのだ、そりゃそうだろうとしか言いようがない。
しかし、彼女の能力玉隔には何度も大顎の攻撃を防いでもらった。あの白盾がなかったら、とっくに僕はあの世行きだっただろう。
現代社会において、能力は立派な個人の構成要素の一つだ。頭がいいだとか、スポーツが得意だ、と同じ分類になる。そういう考えで行くと、衛ノ宮さんの能力に助けられたということは、衛ノ宮さん本人に助けてもらったことと同義。
「あとでちゃんとお礼しないとな」
そう呟き、僕は衛ノ宮さんのところへ駆け寄るのだった。
……頭に鳴り響く通知音と目の前を飛び回る表示を意図的に無視しながら。