14. 灰の銃(貧弱)と白き盾(気絶中)
突然頭上にその姿を見せたオーガアントは、緑色の体液をまき散らしながら僕たちの目の前に落下した。
「マジかよっ!!!」
「ぎゅボアっ」
咄嗟に数m後方へ飛び退き、かなりヤバめの奇声を上げた衛ノ宮さんの方を見る。やはりというかなんというか、衛ノ宮さんは口から泡を吐きながら目を回していた。
「マジかぁ……」
そんな僕たちに対し、オーガアントは体から体液を滴らせながらも、鋭い大顎をギチギチと鳴らしてこちらを威嚇している。
説明では聞いていたものの、実際に見てみるとかなり大きい。その体長は5mほどもあり、その巨体を見るからに堅そうな赤黒い甲殻で覆っている。
そしてなぜか、オーガアントは全身傷だらけの満身創痍だった。そのせいか、オーガアントは顎を鳴らしてこちらを威嚇こそすれど、襲い掛かってくる様子はない。おそらくだが、戦闘によって傷を負い、誰かの大技でここまで吹っ飛ばされてきたのかもしれない。そんなことができそうな仲間の顔が何人か頭に浮かぶ。
「これは……もしかしてチャンスか?」
相方は気絶、手元には威力不足の銃二丁。しかし敵はボロボロ。攻撃するなら、今。
両手の銃を構え、オーガアントの複眼に狙いをつける。
最初に脚部を破壊し機動力を奪ってから感覚器官を潰して隙を作り、一気に頭や心臓など弱点を攻めまくる。巨大敵討伐の基本だ。
今は相手は重傷のため動けない。まずは目と触覚を潰す!
「――今ッ!」
一気に両の銃から弾丸を3発発射しながら、アントの元へ全力で駆ける。
直後に聞こえる、眼球に突き刺さる弾丸の音と金切り声のような鳴き声。
音の響き方的に1,2発は外したみたいだが、とりあえずはOKだ。
そしてそのままアントの側面に滑り込み、バックリ開いた傷口を狙う。
拳銃は対大型敵モード。流石に傷口直に当てれば――
感じる違和感。背筋に走る、直観のような何か。
「キュアッ」
獲物を狙う、狩人の視線。
突然こちらを振り向いたオーガアント。振り向く勢いのまま、大顎を斧のように叩きつけてきた。
想定していなかった、いきなりの攻撃。防御が間に合わないっ――
「グッー-ッ!!」
迫る大顎に、思わず目を瞑る。
そして過ぎ去る数瞬。
おかしい。僕を貫くはずの衝撃が……こない。
代わりに聞こえる、ガチガチという堅いものがこすれる音。
「な、なんだ?」
恐る恐る目を開ける。
目に飛び込んできたのは、純白に金の装飾の大盾、の裏側だ。汚れひとつない美しい表面が日の光を反射し、少し眩しい。いきなり僕とアリの間に割り込んできた白盾は、アリの大顎をガッチリと防いでいる。
それを見て、自分が直近の危機をひとまず脱したことをようやく脳が認識。急いで後方へ退避する。
「た、助かった……。ありがとう衛ノ宮さん」
当の衛ノ宮さんは相変わらず気絶中。あとでもう一度お礼を言わなくては。
衛ノ宮さんの能力は『玉隔』。純白の盾を二つまで生成でき、それを自在に操れる。しかも自動防御モード搭載の、超ハイスペック能力だ。
そして、僕の隙を狙い一撃を放ってきたオーガアントの方を見る。
「嘘だろこいつ、再生能力まであるのかよ。聞いてないぞ……」
先程までボロボロだった外殻の傷が、みるみる塞がっていく。数秒後には、新鮮な目の弾痕以外すっかり元通りだ。
「もしかして、僕を威嚇して動かなかったのは、回復のための時間を稼ぐためなのか……?」
それか、あまり考えたくはないが、わざと回復を遅らせて自らの肉体を囮とし、僕を近くまで誘き寄せたか。
どちらにしても、強敵。これで敵性レートF、つまり7段階中下から2番目なのか……。
こんな化け物に一人で挑まなければいけないのは、正直かなりきつい。
気絶している衛ノ宮さんを意識して守らなくてもいいのが幸いといったところか。僕の周りをフワフワと飛び回っている盾はひとつのみ。もうひとつは衛ノ宮さんの自衛用の設定になっているはずだ。
「やるしか、ないな」
先程までと状況は変わり、相方は気絶、手元には威力不足の銃二丁とオート防御の盾。しかし敵は再生能力持ちで知能が高い可能性あり。
さあ、どうするか。
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