13. ありたいじ
閑話として12.5を投稿したので、まだお読みでない方はぜひ!
武装許可が下り、引きの訓練を始めてから一か月。
拳銃のほかにアサルトライフルやブレードの訓練の回数もある程度こなし、どの装備も一応は扱えるようになってきた。レベルも6から7に上がり、『攻撃力』と細かい数字が表示されるようになったのはうれしいところだ。今の表示は『出雲春高 Lv.7 HP(220)███████ スタミナ(470)███████ 能力E(22万7千)███████ 攻撃力:190』。まあ、見える内容が増えただけでいまだ能力でできることは自分の情報を見ることだけだが、それでもうれしいものはうれしい。
しかし、ここで一つ問題がある。
今のところ、僕はどの武器も「うまく」使いこなすことができていないのだ。
正確には「しっくりこない」といったほうが近いかもしれない。アサルトライフルもブレードも、「何かが違う」という、喉の奥に刺さった魚の小骨のようなもやっとした感覚がぬぐえないのだ。当然、そんな感覚を持ちながら武器を振るってもうまく扱えるはずがない。
強いて言えば、3つの支給武器のうち拳銃が一番個人的に使いやすくはある。しかし支給武器の拳銃は『EDA最弱の武装』として有名なくらいの威力不足。ある程度の性能のカスタマイズはできるので、威力重視の設定に調整しているのだが、それでもまだ心もとない。
こんな状態で実戦訓練などが始まろうものなら、散々な結果になるのは必然。というわけで、僕は各種武器の習得を急がなければいけない、のだが……。
「お前ら、今日から実戦もやってくぞ」
唐突に佐久間教官から告げられた言葉に、教室はざわめきたった。僕の顔からは血の気が引いていく。
「お前らが武器の訓練初めて1か月たつからな。もうだいぶ慣れてきたろ。そんなわけで、実戦だ。ちょうどよく練習台になりそうな敵が出てきそうだってのもあるけどな」
教官は手元の端末を操作し、電子黒板に画像を映した。映し出されたのは、巨大な赤黒いアリの写真数枚。
「今回お前らに討伐してもらうのは、オーガアントだ。敵性レートはF。次元の狭間に巣を作るアリで、たま~に次元の境界を食い破ってこっち側に出てくる。攻撃方法は顎での嚙みつきのみ。頭の向きにさえ気を付けときゃ、まず当たることはない。図体がでかいだけで、正直言ってただの雑魚だ。多分数だけは多いだろうがな。ノルマは対象の完全殲滅。討伐には二人一組であたってもらう。組み分けは話の後すぐ送っとくから目ぇ通しとけ。で、場所は埼玉県XX市YY、今から15分後に転送開始だ。……ここまででなんか質問あるか?」
一気に任務の詳細を説明し終えた教官は、ゆっくりと教室内を見回した。
中には、不安げな顔をしている人もちらほら見える。いきなりあの量の説明を早口でされたのだ、驚きもするだろう。僕も聞きたいことがあったため、教官に手を挙げた。
「質問です!」
「どうした出雲」
「オーガアントの弱点はどこですか?共有しておいたほうが、スピーディーな討伐になると思うのですが」
――というのは半分建前。威力に欠ける拳銃で敵を倒すコツが聞き出せるかもと思ってした質問だったのだが……
「内緒」
「え?」
「だから内緒、だ」
にやりと笑いながら佐久間教官が言葉を続ける。
「もしお前らが討伐任務で全くの新種の敵と遭遇したとき、ソイツの弱点なんざ誰も教えてくんねーぞ。相手は雑魚だ、弱点くらい自分で見つけろ」
「じゃ、じゃあ……どうして攻撃方法は教えてくださったんですか?」
「それはまあ簡単に言えば――生死に関わるからだな」
佐久間教官は口元に浮かべていた笑みを消し、答えた。
突然教官の口から放たれた「生死」の二文字に凍りつく教室の空気。
「何度も言ってるが、オーガアントは攻撃手段が嚙みつきしかない雑魚だ。でも、そのたった一つの攻撃は、お前らを死に追いやる力を十分に持ってる。戦闘体が破壊されれば、生身の体で敵の前に放り出されるわけだからな。そうなりゃ当然、待ってるのは死だ。流石に訓練生のお前らを死なせるわけにゃいかん」
教官はいつものやる気のなさそうな目ではなく、鋭い真剣な眼差しで周りを見回した。
「相手は雑魚だ。でも決して、油断はするなよ。全力で討伐にあたるんだ。以上、解散。転送まで時間ねえぞ、しっかり準備しとけ」
「「「はい!!」」」
そんなわけで、いくつかの不安要素を抱えたまま、僕たちは初陣に備えるのだった。
~~~
30分後、埼玉県XX市YYのとある住宅街。
「いないね、敵」
「そ、そうですね……」
隣を歩く、小柄で少し緊張した様子のショートカットの女の子、衛ノ宮まもりさんに話しかける。
衛ノ宮さんは入隊式で席が隣になった女の子で、訓練でも一緒になることが多く、個人的にはそこそこ仲がいい(つもりだ)。
今僕たちは、任務エリアの担当区域を巡回しているところだ。いつでも攻撃体制に移れるように、僕は両手に灰色の拳銃を持ち、衛ノ宮さんはアサルトライフルを抱えている。
衛ノ宮さんが言葉をつづける。
「レ、レーダーにも反応がないですしね……。正直なところ、このままここには来ないでほしいです……」
「ははは、同感だ」
衛ノ宮さんの言う通り、敵の姿は全く見えないし、標準装備のレーダーにも反応がない。
少し遠くからは時折銃声が聞こえてくるため、敵が出現していない、というわけではないのだろう。
それに引き換え、僕たちのいるエリアはまったくもって静かなものだ。
敵がいないことに加え、周辺の人たちの避難も終わっているため、人の気配すらない。
まだ昼時にも関わらず、夜のような静けさを纏った住宅街は、少しだけ不思議な雰囲気だ。
と、レーダーを確認していた衛ノ宮さんが、突然声を上げた。
「レ、レーダーに反応ありです!これは……上!?」
衛ノ宮の声に釣られ、上を見上げる。
そして次の瞬間、「キシャアアァァッッ!!!」という鳴き声とともに、僕たちの頭上にオーガアントが降ってきたのが目に入った。
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