11. Q,あなたの自宅はどこですか? A,ここ(研究室)です
EDAの基本装備は、能力由来の強くて軽い新素材で出来てます。弾とか各種機能の動力源は、能力発動に使う能力エネルギー(戦闘体もこれで出来てる)です。
「レベルアップ、それに一度に二つも……」
今まで僕は、『ゲーマー』のレベルアップは、僕の努力が可視化されたものだと勝手に思っていた。
レベルアップするたび、頑張りが評価されてもらえたような気がして喜んでいたのだが……。
拳銃の訓練を少しするだけで二つもレベルが上がるだなんて、ちょっと拍子抜けしてしまう。
「また表示が増えてるな」
レベルアップごとに変更が加わっていた僕の頭上の表示。今回も二回のレベルアップ分内容が追加されていた。「スタミナ」と書かれたオレンジ色のバーと、「能力E」と書かれた緑色のバーだ。
何を示しているのかはなんとなく予想がつくが、研究室に行けばより確実なことがわかるはず。
「おい出雲、何ぼーっとしてんだ?訓練中だぞ~」
「あ、すみませんっ」
そうだ、今一番大事なのは目の前の訓練だ。
銃の訓練なんて、戦闘に直接関わってくる大事なものだ。残りの時間はちゃんと集中しよう。
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訓練の後、僕はそのまま研究部エリアへと向かった。
研究部エリアは通路が複雑に入り組んでいるが、もう迷うことなく目的地の研究室にたどり着く。
「研子さん、起きてますか?研子さ~ん!」
ドアの脇に備え付けられてあるインターホンのボタンを押しながら声をかけるも、応答はなし。
「じゃあ入りますよ〜?」
仕方ないので、セキュリティキーが登録されている灰色の指輪をドアノブにかざして鍵を開け、研究室の中に入る。
部屋の中は相変わらずぐちゃぐちゃに散らかっていた。
床には書類や分厚い専門書、タブレットが無造作に散らばり、机や椅子には資料の山。ホログラム型パソコンもかなりの数がつけっぱなしでいろんなところに放置されている。自動整頓機能がついているはずの本棚の中さえめちゃくちゃなのは、最早才能だ。
そんな足の踏み場もない部屋の奥になんとか進んでいくにつれ、段々と軽くて穏やかな呼吸音――つまり寝息が大きくなっていく。
そしてたどり着いた部屋の一番奥の机には、資料の山に埋まった、白衣の女性が突っ伏していた。
「研子さん、起きてください。研子さん!」
声をかけても体をゆすっても、一向に起きる気配はなし。こうなっては、アレをやるしかない。変態みたいだからあまりやりたくはないのだが……
「失礼しま~す……」
ゆっくりと手を伸ばし、首筋を軽くなぞる。
「わひゃうっっっっ!!」
僕の指先がうなじに触れるか触れないかのところで、奇声を上げながら飛び起きたこの女性が僕の担当研究員、村木研子さんだ。
「メガネ、メガネはどこだ……?」
「はい、どうぞ」
足元にひっくり返っていたメガネを、キョロキョロと周りを見回す研子さんに渡してあげる。
「ああ、すまない…… ってなんだ君か、春高君。今日はどうした?」
寝ぼけ眼を一瞬で吹き飛ばし、キリッとした様子で僕に声をかける研子さん。
言葉ではそっけないように聞こえるが、僕の突然の訪問をかなり喜んでくれているらしい。口角が2°ほど上がっている。
「研子さん、ちゃんとご飯食べてますか?最後に食べたのいつです?」
机の上で森を作り上げている栄養剤のビンを横目に尋ねてみる。
「ちゃんと食べてるさ、最後に食事をしたのは4日と13時間4分26秒前だ。出雲君、君こそちゃんとカウンセリング受けているかい?」
「大丈夫ですよ。毎日欠かさずやってます」
「ならいいのだがね。それはそうと出雲君、君はこんな話をしに来たんじゃないだろう?さあ、本題に入ろうじゃないか」
表情筋はほとんど動いていないが、こちらを見つめる目がめちゃくちゃキラキラしている。新しいプレゼントが目の前にある子供みたいだ。
「僕のレベルが上がりました。それに一度に二つ」
「一度に二つもか……新しい表示は増えたかい?」
「はい、きっちり二つ分」
「よし。経緯は後で聞こう。まずは計測からだ。大丈夫だね?」
研子さんの話すスピードがどんどん速くなっていく。もし研子さんが犬なら、しっぽが大暴れしているはずだ。多分もう彼女の能力のスイッチも入っている。こうなった研子さんは誰にも止められない。今回は一体何時間付き合わされるか……。まあ僕もそれを承知で能力の変化の詳細を知るためにここに来たのだ。ある程度の覚悟はできている。
「大丈夫ですけど、計測終わったら一緒にご飯食べに行きましょう。いいですね?」
「わかった。では始めようか。『室内モード:計測場・OC』」
村木研子 26歳 女性
研究部に所属するランクA研究員。
詳しい内容は後述するが、「集中力がやばい」というだけの能力で、ほかの思考系、頭脳系、解析系能力持ちの研究員を上回るマジの大天才。功績をあげればキリがないが、代表的なものとしては、いまやEDAの施設に欠かせない空間拡張技術の研究などがある。
研究時以外はほぼ寝てる。壊滅的に掃除が苦手。
能力『フルダイブ』:好奇心が常人よりもはるかに旺盛で、自分の興味のある、または好きな分野のこととなると没頭して止まらない。没頭中はすさまじいほどの集中力が常に維持され、一切ほかのことに意識が向かなくなる。耳元で爆弾が爆発してもなんのその。それに加え、没頭中は集中を妨害しようとするものすべてをはじく簡易無敵が常時発動。発動中の唯一の弱点はうなじ(本人の体質的にうなじはいつも弱い)。