9. 君たちに死ぬ覚悟はあるか
『それではこれより、EDA日本支部防衛部入隊式を始めます』
会場が暗転しアナウンスが響いた瞬間、それまで微かに聞こえていたざわめきがピタッと収まった。
やはり、みんな何かしらこの入隊式に思うことがあるのかもしれない。緊張、不安、興奮……。僕なんかは、なんだかもういろんな感情がぐちゃぐちゃになった感じだ。とても一言じゃ言い表せない。
……ふと隣に目をやると、女の子はなんだか顔を真っ青にしている。本当に大丈夫なのだろうか…?
『始めにEDA日本支部長、六坂丈二の挨拶です』
アナウンスとともに壇上が明るくなり、一人の男性が現れた。
細身ながらもしっかりとした体つきに、鷹のような鋭い眼差し。頭には白いものが混じっているが、全身に漲った覇気は遠めの席であるここまで届くほどだ。
『EDA日本支部長、六坂だ。最初に、東京本部以外の会場にいる諸君には、立体映像での挨拶になってしまうことを謝罪する』
一旦言葉を切り、軽く頭を下げる日本支部長。それにしても、今壇上にいる日本支部長立体映像だったのか……。まったくわからなかった。
『さて、私の挨拶は手短に済まさせていただく。――君たちは、これからの日本、そして世界の命運を背負う人材となる。心して、それぞれに課せられた任務に臨んでほしい。期待している』
と、本当に手短に出番を済ませると、日本支部長は礼をして壇上から消え去った。
挨拶としては確かに短めだったけれど、その言葉一つ一つに強い力が籠っていた。無意識に、聞いているこちらの身が引き締まるほどに。
『続きまして、日本支部防衛部部長、南原銀介の挨拶です』
ステージに現れたのは、先ほどの日本支部長とは真逆な雰囲気を持った男性だ。細められた目と微笑をたたえた口元からは、なんとなく柔和そうな印象を受ける。
『こんにちは。防衛部部長の南原銀介です』
ここで一礼をする防衛部部長。
『皆さん、この度の入隊、おめでとうございます。今日こうやって初々しい皆さんの顔を見ることができて、とてもうれしく思います。さて、ここで私からひとつ、皆さんに質問があります』
防衛部部長は言葉を切って、僕たちのほうを見まわした。なんだか意味深な雰囲気だが、どんな質問をされるのだろうか。
そして数秒間を開けて、防衛部部長は再び口を開いた。
『――君たちに死ぬ覚悟はあるか?』
会場の温度が、一気に下がった気がした。もともと静まり返っていた空気の静けさが、さらに振り切れたような、そんな感じだ。
……死ぬ覚悟?今までそんなことは考えたことなかったけれど……正直、自分が死ぬことでほかの人のことを守ることができるなら……死んでも、いいかもしれない。少しでも、昔の僕のような子供を、減らせることができるなら。
『――この質問の答えは、どちらでも構いません。死んでもいいという強い気持ちをもって任務にむかえるのなら素晴らしいですし、死ぬのはごめんで、最後まで生きるために足掻きたいのなら、それでもいい。大切なのは、強い意志をもって自分の覚悟を貫き通すことです。あなたたちは、EDAの中でも最も危険な仕事に就くことになる。システムの進化によって数は大幅に減ってはいるものの、死亡者だって毎日出ています。もし、あなたが全力を使い果たして敵に敗れ、死の淵に立ったとき。あなたの持っている覚悟、そしてあなたがどれほどそれを貫けるかで、その後の結末は大いに変わってくる。強い意志と覚悟を、胸に秘めてください。皆さんが自分自身の覚悟を貫き通した結果見せてくれる雄姿を、楽しみにしています』
こうして防衛部部長の話は終わり、入隊式は閉幕を迎えたのだった。
以前のEDAの入隊式は、国連の下部組織ということもあって結構軍隊じみてました。規則とか雰囲気も厳しかったんですけど、結果人が入ってこなくなって人材が足りなくなり、大規模な組織改革の末に今の感じになりました。
以前の状態だったら、6裏の渡さんとか秒でクビになってますね。
また、入隊式は参加する幹部がめちゃくちゃ忙しく、上位ランカー戦闘員も何人か参加していますので防衛力低下の面も考慮し、結構短めになってます