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すぐ死ぬ勇者、恋する魔王。  作者: 吉田純一郎
1/1

魔王と東京

 二〇XX年、新宿。

 大地が揺れる。街を行く人のスマホからは、緊急地震速報の不快なアラームが鳴り響いている。

「かなり大きいぞ!」

 誰かが叫んだことを皮切りに、人々が混乱の渦に飲まれていく。

 やがて、地面が割れる。空には、暗雲。

 ——世界の、終わり。

 その場にいた誰もがそれを想像し、恐怖した。

 割れた地面から天を衝くように、城が聳え立つ。

 それは現代日本には似つかわしくない西洋風の城。

 城は東京都庁と対を成さんとばかりに、都民へ得も言われぬ恐怖をもたらした。


 城の最上部から地上に一人の少女が降り立つ。

 外見はあどけなく、まだ齢十六ほどに見える。

 だが、長い黒髪に生えるは大きな角。

 その小さな背中には似つかわしくない大きな翼。

 ニィと笑えば、その口からは鋭い牙が覗く。

 少女は腰に手を当て胸を張ると、言った。

「我こそは、魔王なり。今日を持って、この世界を我のものとするぞ!」

 

 それから、魔王は悪逆無道の限りを尽くした。


「わーっはっは! さあ、我のためにその血肉を差し出すのだ!」

 ——無銭飲食!


「ククク、貴様の全てを我に寄越せ。さすれば命だけは助けてやらんこともない。」

 ——カツアゲ!


「ハーッハッハ! 面白い。この我をここまで手こずらせるとは。我の恐ろしさを思い知らせてやるぞ!」

 ——台パン!


 魔王は、悪逆無道の限りを尽くした!


 魔王城、玉座の間。

 魔王は玉座の上に座り、配下を見下ろす。

「ククク、愉快愉快! 見たか、矮小なる人間どもの顔が恐怖に染まる様を!」

「はい、魔王様。」

「さすが、魔王様。」

「魔王様、万歳!」

 魔王が解散の号令を出すまで、玉座の間には配下たちの賛辞が響き続けた。


 ————。

 魔王城は退屈だ。誰もが私に頭を垂れ、私が右といえば右に、左といえば左に行くような者たちばかり。

 だが、このトウキョウは面白い。私が元居た世界とは違って娯楽に溢れている。

 飯も旨い。人々もこの私を恐れ、侮らない。

 この世界は素晴らしい。ずっとここに居たいとすら思わせる。否、もう私の世界なのだから、ずっとここに居るのだ。


 一人、魔王が玉座で物思いに耽っている。

 しかし、次第に階下が騒がしくなる。

 少しして、玉座の間の扉が勢いよく開いた。

「魔王様、勇者が現れました——ぐぁぁぁっ!」

 配下が告げると同時、両断される。

「悪辣なる魔王め、この勇者が成敗してくれる!」

「ククク、この私の楽しい異世界生活を邪魔しようなど、笑止千万! その命を持って詫び——」

 言って、魔王が勇者を見る。

 その双眸に写ったのは、勇者のまっすぐな目。

 凛々しく引き締まった口元。

 鼻筋は高く、髪は無造作ながらつややかで、シャンデリアの光を反射して煌めいている。

「えっえっ、勇者めっちゃイケメンじゃん……。」

 先ほどまでの威厳はどこへやら、玉座の上に座る少女は、ただの恋する乙女であった。


 ————。

 えーっ!? 勇者ってあんなにイケメンなの? えっ、好き……。

 そ、そうだ、せっかく私の”家”に来てくれたんだから、お茶出さなきゃだよね。おもてなししなきゃだよね。確か玉座の裏に高いお茶を隠してたはず……。

「勇者よ、貴様の最後の晩餐に、とっておきの茶を入れてやろう!」

「魔王からの飲み物など、何が入っているか分からん!」

 えっ、飲んでくれないの? 愛情たっぷり入れるのに。

「そう言うな、勇者よ。この我がそのような卑怯な真似をするとでも?」

「フン、いいだろう。だが、その茶が最後の晩餐になるのは、貴様の方だ!」

 えっ、それって私と一緒にお茶したいってこと!? て、照れちゃうな……。そうだ、お茶飲むなら立ったままじゃだめだよね。座布団もいるよね。

 フフフッ、勇者喜ぶかな? 私のお茶喜んでくれるかな?

「待たせたな。座布団と、茶だ。床の上に座るのは足が痛かろう。」

「余計な気遣いだ。」

 でも座ってくれてる! 実は意外と素直じゃないとこがあるのかな? 勇者って。

「冷めると味が落ちる。熱いうちに飲んでくれ。」


 勇者が湯呑を持ち上げ、口に運ぶ。

「あつっ!」

 ——ガシャン。

 湯呑が床に落ち、割れる。

「ああっ、ごめんね勇者! 熱すぎたかな……って、勇者死んでるぅぅぅ!?」

 座布団の上に座って、いや、置かれていたのは、棺桶。

 その蓋に貼られた銅製のプレートには、こう書かれていた。

《死因:舌の火傷》

「えっ、私の好きな人、弱すぎ?」



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