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生き甲斐

その日の放課後、ふうかの方から、翔子に声をかけた。

「いやあ、すごかったよ、翔子!」

 翔子が照れながら言った。

「そうかな…」

「そうだよ! 望月のやつ、教師のくせして、あんなこといいやがって! あの時の望月の顔、真っ青だったよ。それであわてて謝った。」

ふうかは、あまり仲がいいとは言えない兄が両親に溺愛されているため、性差別というものには敏感になっている。

「なんだか、自分にもできることを見つけられた気がする…」

「そうなの? それならいいけど。もしかしたら翔子には、リーダーの素養があるのかもしれないね」

「いや、そういう意味じゃないんだけどね」

「そうなんだ…」

 なんとなく話題が途切れた。

「…ところで、兄貴とあかりのこと知ってる?」

「なに? そういうことにはうとくて」

「この前、公園で引き合わせて、あとは二人だけにしたんだ」

「え?」

「そのままデートに突入して、しまいにはあかり、うちで晩ご飯食べていったんだよ。あかりの奴、お母さんの質問攻めに合って、だけどまんざらでもなさそうだったよ。お父さんも『君になら老後をまかせられる』とか、気の早いことを言い出して…」

「いや、わたしはそういうの、よくわからないから。そんなことより、もっと大切なことに気がついたと思う」

 そう言った翔子の目の輝きには、なんのためらいもないように見えた。


 それからしばらく経ったある日のことである。ふうかに翔子が声をかけてきた。

「ふうか、連休に、つき合ってほしいところがあるんだけど」

「なに? デート? 焼き肉でも食べに行く?」

「わたしはお肉が嫌いなんだけど。小学校の担任が、無理やり給食を全部食べさせる人だったから、本当に困ったよ」

「そうなの? わたしも兄貴も好き嫌いが無いから、そういう苦労はしたことがないけど。あかりが言ってたけど、兄貴の奴、外で一緒にご飯を食べていると、あっという間に食べ終わっちゃうって。それであかりが、男の人の前で自分だけご飯を食べるのがバツが悪いって。だから兄貴に家で『女の子に合わせろ』って言ったら、『カツ丼を食べる時に、ご飯がなくなる前に、カツがなくなったらどうしようかと思って、思わず加速がついちゃうんだ』とか言って。『だったら他のものを食べればいい』って言ったら、『定食でも、おかずがなくなる前にご飯を食べなきゃならない』とか言うから、『家でも、パスタみたいなご飯とおかずにわかれてないものでも速いんだから、女の子に合わせる努力をしろ』って言っといた」

「男は、女の子のために努力するべきだと思うよ」

「それで昨日、あかりにこの話をしたら、兄貴が『やっぱり女の人は料理が上手な人がいいなあ』って言ってたって。それで『おまえ、ちょっとは料理の勉強しろよ』って言われたって、言ってたよ」

「ふうん…」

「それで、連休に行きたいところってのはどこなの?」

「ここなんだけど…」

 翔子が、ガイドブックを取り出して見せてきたのは、世界最大のLGBT街だった。

「ここは…」

「あかりとかほのかとか、他の子にも声をかけたんだけど。みんな行きたくないって。なんでも、小さいころから親に『ここには変な人がいるから行くな』って言われてた。って。」

「わたしの親は、そういうことは言ってなかったけどな。むしろそういう言い方を嫌ってたし」

「さすが人権派弁護士だよね。わたしもそう思う。多様性の時代だよね。同性愛者みたいな性的少数者の人たちを『変な人』っていうのはおかしいと思う」

「わかった。つき合うよ。わたしもそういう差別って好きじゃないし」

「ありがとう!」


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