謝罪
そんなある日の帰りのSHRで、担任の望月が国語の課題テストをひとりひとりに返していた。
「ほのか」
「まあ、こんなもんだよね」
「あかり」
「この前より上がったからヨシとしよう」
「翔子」
翔子が、何も言わずにテストを受け取っている。
「ふうか」
「はい」
ほのかが聞いてきた。
「どうだった?」
「いつもとおんなじ」
ほのかがふうかのテストをチラ見してきた。
「ふうかって、なにげに成績いいのね…。とくに文系科目」
「オタクの読書量をナメないでね!」
生徒たちが全員席についた。望月が言う。
「正直言って、今回はあんまり良くない。このクラスは女子ばっかりだけど、男子のいるクラスより良くない。というか、女子が男子よりも成績悪いのはカッコ悪い、っていう感覚はないのか?」
ふうかは言った。
「ないなあ…」
「あれよ!」
翔子がいきなり立ち上がった。
「先生、今のは差別です!」
「は?」
ふうかは、あっけにとられた。いや、みんながキョトンとしている。
「勉強が得意でない女子も、勉強が得意な女子もいます。勉強が得意な男子も、得意でない男子もいます。先生の今の発言は、男子は勉強しなくていいけれど、女子はしなくちゃいけない、って言っているのと同じです」
「そんなことは言ってないぞ。両方やらなくちゃダメだろう。っていうか、おまえ勉強してないだろう。そんなことより自分が勉強しろ」
「論点をずらさないでください! 先生の今の発言の差別性を問題にしているんです!」
「何が言いたいんだ」
「女子が男子より勉強ができないのがカッコ悪いなら、男子が女子よりもスポーツができないのがカッコ悪いともいえます」
「そう考える人はいるだろうな」
「だけど、スポーツができない男子だって普通にいるじゃないですか!」
「いるな。おれもそうだけど」
「そういう男子は、いつも劣等感をもって生活しなくちゃならない!」
「そうでもないけど」
「女だから男だからって、一まとめにするのが差別なんですよ!」
「なんだか、大げさな話になってきたな…」
「あいつは外国人だから…、あいつはどこそこの出身だから…、あいつは男だから女だから! そういう気持ちが差別を生むんです!」
「確かに一理あるな。悪かったよ」
「わたしにではなく、世界中の女性に謝ってください!」
「おまえいま、女とか男とかひとまとめにするのが差別だって…」
「早く!」
ほのかとあかりとふうかが言った。
「そーだ、そーだ!」
いつのまにか、クラスの全員が言っていた。
「そーだ、そーだ!」
「あーやまれ、あーやまれ!」
「わかったよ」
望月が丁寧に頭を下げた。
「世界中の女性のみなさん、差別して申し訳ありませんでした!」