あかり
すると、もうひとりの友達である、あかりが声をかけてきた。戸に半身を隠して、どう見ても挙動不審だ
「ふうか…、翔子は?」
「いま、帰ったよ」
「…ちょっといいかな?」
「なに?」
「相談したいことがあるんだけど」
「…今日はよく相談される日だねぇ」
「だめかな」
「いいけど、うまく答えられるかどうかわからないよ」
「いや、そういうことを求めてるんじゃないし」
あかりが、さっきまで翔子がいた場所に座った。
「『気に入らない答えをされて、ぷりぷり怒りながら帰っちゃう』、なんてことをしない?」
「え?」
「…何でもない。それで、無気力でなんにもする気が起きないとか、そういうこと?」
「なんで予想がそんなに具体的なの?」
「何でもない。それより相談ってなに?」
「ふうかってさあ…、三年生の陣内真先輩を知ってるよね」
「そりゃまあ、アニキだからね」
真とふうかは年子のきょうだいで、同じ高校に通っている。もっとも、両親が長男である真ばかり大事にしているため、あまり仲は良くない。
「真さん、彼女いる?」
「いないけど、なんで?」
「そうか…、彼女いないんだ…」
「なんでうれしそうなの?」
「いや、別にうれしくはないんだけど」
「いや、ものすごくうれしそうだけど」
頬がにやけるのを必死に抑えているせいか、ぴくぴく引きつっている。美少女が台無しだ。
「うん、うれしい!」
「あかりはわたしのアニキが女の子にモテないのがうれしいわけ?」
「真さんが女の子にモテなかったらうれしくないけど、真さんに彼女がいないのはうれしい。っていうか、彼女がいたらくやしい!」
「って、まさかあかり…」
「いや、そういうことじゃなくて、いや、そういうことなの!」
「アニキが嫌いなの!」
「なんでそうなるの!」
「いや、『真なんかが彼女をつくるなんて許せない。自分には彼氏なんかいないのに!』っていう意味かと」
「逆だ、逆!」
「逆っていうと、まさか!」
「うん…」
「なんだ、水くさいなぁ」
「ごめんね…」
「あかり、彼氏がいたの!」
「いないわ!」
「何言ってるの?」
「コッチのセリフだ!」
「あかりは何が言いたいの!」
「わたしは、真さんが好きなの!」
…。
「は?」
「だから、わたしは真さんが好きなの! できればつきあいたいの!」
「あまりにも意外な展開だったから、アタマが追いつかなかったけれど、それをわたしに言うってことは…」
「うん…」
「あたしがアニキとつき合ってないかを確認…」
多様性の時代だから、そういうのもアリなんだろうか。
「してるの?」
「そんなこと確認してない! だから! できれば真さんとつき合いたいから、間に入ってほしいって言ってるの!」
「そういうことなの…、最初からそう言えばいいのに」
「ふうかが話をさせなかったからじゃない!」
「ふーん。そんなこと言っていいのかなあ。なんだったらアニキに、あかりのことをあることないこと…」
あかりがぴくぴく震えている。こんどは頬ではなくこみかみのほうだ。青筋までたっている。MK5だ。マジでキレる5秒前だ。
「ごめんなさい! 冗談です!」
「間に入ってくれるの! 入らないの!」
「入らせていただきます…」
あかりがにっこり笑ってふうかの手を取った。
「ありがとう! やっぱりふうかは親友だよね!」
「多分アニキも喜ぶと思うよ…」
ちょっとめんどくさいけど。
数日後、あかりと真は晴れてカップルになった。