71話_いつか見た夜明け
リアが姿を見せなくなって1週間、街は依然として赤い雲に覆われていた。
街全体が何かに取り憑かれたように、異様な空気を放っていた。
そのうち、赤い霧が街に現れるようになる。
霧は人々の活力を奪い、次第に街としての機能も失われつつあった。
「シオリ、今戻った」
「お帰り、シェイド。街の様子はどうだった?」
「段々とひどくなっているな。店が徐々に閉まり出している。このままでは食糧の調達もいずれ難しくなるだろう」
「そうか、時間の問題だな……」
「ひとまず、今買える物は買ってきた。まずは食事にしよう」
僕はシェイドに買ってきてもらったパンと牛乳を飲みながら、ソフィアのことを考える。
リアに体を乗っ取られ、今は眠りについているのだろうか。早くソフィアに会いたい。
そのためにも、リアを見つけて説得しないと。
「シオリ、この先のことだがミュウと創造主の方でリアの行方を探っている。場所が判明次第突撃を仕掛ける予定だ。それと、」
「それと?」
「仲間の確保もしておきたい。私達だけでは限界があるからな。そこでシオリに頼みたいことがある」
「なんだ。僕に出来ることがあれば言ってくれ」
「まぁ、行ってみればわかる」
「??」
◆◆◆◆◆
「シオリ!!会いた…かっ…た……うぅ」
まず最初に、僕とシェイドはスカーレットのところへやって来た。僕に飛びつこうとしたスカーレットだが、近くになるにつれて動きが鈍くなり地面にへたり込む。
「リアが街全体にかけた呪いのようなものだ。シオリに近しい存在の者ほど接触できないよう術が施されている」
「なるほど、だからか」
「納得してないで…助けてよ……」
「あぁ、ごめん。で、どうすればいいんだ?」
「キスだ」
「へ?」
「ミュウにしたことと同じだ。シオリの体液で術を解除してやる必要がある」
「マジか……」
「マジだ」
真顔で返答するシェイド。そういう流れなのか…。しゃがみ込むスカーレットを見る。心なしか表情は嬉しそうだ。
「シオリ、この先もある。急いでくれ」
この先もということは、まだいるんだな…。しかい、今はソフィアを救うことが大事だ。
僕はスカーレットに近づき、唇を合わせる。スカーレットから紫色の霧が浄化していくのがわかる。
「……んんっ…シオリ!!」
ガバッ。スカーレットが馬乗りになり、もっと唇を押し付けてくる。動きを完全に封じられ、絡む舌で唾液の交換が行われる。
「むぐっ!!ぐっ!!」
「ぷはぁ、やっとシオリとキス出来た」
「の、呪いはとけたか…?」
「うぅ~ん…まだ☆」
もう一度唇を当てられスカーレットの気の済むまでキスをする。
数分後……。
「ん~っ!爽快!!重りがとれたみたいっ」
「そうか…」
「なによ、こんな美少女とキス出来たんだからもっと喜んでよ」
「はは…」
「スカーレット、早速だがこれからソフィアを助けに行く。力を貸してくれ」
「え、あいつを?嫌よ。面倒くさい」
わかっていた反応だが、こうも予想通りとは。だが、スカーレットに協力してもらわないといけない。あきれている場合ではないのだ。
「街がこのままでは困るだろう」
「別に、天界に戻ればいいだけだし」
「…」
「……」
僕とシェイドは無言でスカーレットを見つめる。
「う、嘘よ!!嘘!!シオリとデートするのに使うもんね、この街。あははっ」
「手伝ってくれて助かるよ」
「任せてよ、あっでも具合悪くなったらさっきみたいにキス、してね?」
「検討しておこう。さぁ、では次に向かうとしよう」
「ちょっとー!!」
◆◆◆◆◆
次に僕達が向かったのはラムとカゲトラのところだった。2人とも天界に住む者の意地として懸命に耐えていたようだがそろそろ限界のようだった。
「お、シオリ…久しぶりだな…」
「何しに来たのよ…」
「あらら、2人ともすっかり弱っちゃって」
まったく、さっきの弱々しい姿はどこへやら。
「スカーレットも先程はこれより弱っていただろう」
「そんなことないわよ。さ、シオリ、ささっと済ませちゃって。ささっと」
「なにか…あるのか?」
「街をこのようにしている元凶を止めに行く。そのために力を貸してほしい」
「なるほどな、僕は構わないぜ…。ただ、この身体が動けばだが。なぜか、抵抗する意志が出てこないんだ……」
「リアの呪いのせいだな。シオリ、さぁ」
「えっ、マジで?」
この流れだとカゲトラとキスすることになる。百歩譲ってスカーレットとのキスは女性ということもあって出来たが、男同士は……。
「…そういうことね、わかったわ」
「……ぐっ…」
ラムは痛みをこらえながら僕に近寄ると唇を合わせてきた。中の唾液を吸い取られた後、次はカゲトラにキスをする。
一瞬のことに驚き目を丸くする僕とカゲトラ。
「主人…」
「ラム…」
「これでいいでしょ。男同士のキスなんて見たくもない」
動けるようになったラムは立ち上がる。
「流石、隊長を務めていただけはある。理解したようだな」
「その子に浄化作用があるとは知らなかったわ。前々からそうだったかしら」
「そうか、シオリのおかげで…色々と複雑だが…」
「僕もそうだよ…」
苦虫を噛み潰した顔をする2人。
「とにかく、これで体が楽になった」
指を鳴らし、バチバチッと電撃を放出するラム。
「せっかくの地上ライフを満喫してたのにこれじゃあ台無し。手伝うわ」
「俺も手伝う。どうやらだいぶ強敵なようだからな」
「2人とも、助かるよ」
ラム、カゲトラと互いに握手をかわす。
「あとは誰か呼んだりするのか?」
「あと3人だな。2人の場所はわかるが、もう1人がわからなくてな」
「誰?」
「たしか、名前が……」
◆◆◆◆◆
「断る」
僕とシェイドは喫茶らーぷらすへと来ていた。何故ここに来たかというと、誘おうと思った人物がここによくいる、と話を聞いたからだ。
その人物はリーガロウ。天帝との闘いの時に隊長を務めていた天使だ。
「何故、私がそれに加わなければいけないのか」
頑なな姿勢を見せるリーガロウ。難攻不落とも思える強固な意志。
「(これ、説得できるのか?)」
「(わからん。最悪、いなくてもいいとは思うが)」
そこに、ミュウが帰ってきた。
「あら、あなた達何故ここに?」
「丁度今、交渉をしていてな」
シェイドを見た後にリーガロウを見るミュウ。
「あら、いつもの。いらっしゃい」
リーガロウは照れたように無言で会釈をすると視線を逸らす。それを、僕もシェイドも見逃さなかった。
「この人と交渉しているの?」
「あぁ、そうだ。だが、なかなか首を縦に振ってくれなくてな、諦めようとしていたところだ」
「やらないとは言っていない」
口を挟むリーガロウ。
「何故、とは聞いたがやらないとは言っていない」
「じゃあ、手伝ってくれるのか?」
リーガロウはちらりとミュウを見る。
「ミュウ、助けは多い方がいいよな?」
「そうね、その方がやりやすくなるでしょうね」
「わかった、やろう」
綺麗な手のひら返し。難攻不落の城にこんな簡単な裏ルートがあったとは。
「(ミュウに完全に惚れてるな、これは)」
「(あぁ、だが当のミュウは憶えていないようだが」
ひそひそ話をする僕とシェイド。後ろでミュウは?マークを浮かべている。
「なにか?」
「い、いや、なんでも!助かるよ!!よろしく!」
手を差し伸べるが、リーガロウは特に反応しない。
「勘違いするな、私はこの街を元に戻すために手伝うのだ。無駄な慣れ合いはしない」
「(働き方次第ではミュウが惚れてくれるかもしれない)」
シェイドがこそっと耳打ちする。リーガロウの目がカッと見開かれる。
「(上手くいけばご褒美がもらえたりするかも)」
カッ。さらに大きく見開かれる眼。
「よろしく頼む」
「あ、あぁ(なんて言ったんだよシェイド…)」
「(気にするな、こちらの話だ)」
こうして、リーガロウも新たに仲間に加わったのであった。
◆◆◆◆◆
僕とシェイド以外のメンバーは、準備ができ次第集合地点に集まってもらうことにした。
僕達は、最後の仲間のところへと向かう。
ぐったりと横になっているネツキ。上着がはだけて胸が見えそうになっている。
「…シオリはんか…ウチは今具合が悪うて……」
「リアの影響を受けているみたいだな。どうだそれを解消する代わりに手伝ってほしいことがある」
「なんや?チャミュも血相変えていなくなってしもて帰ってへんし。ウチで出来ることならかまへんよ」
「シオリ、交渉成立だ」
「せ、成立してるのか今ので…?」
半信半疑ながら、横になるネツキのそばに近付く。
「ネツキ、リアの呪いを解くためには、キ、キスをしないといけないんだけど……」
「なんや、そんなことなら…ほい」
ネツキは上体を起こすと僕の顔を掴み、躊躇なく唇を合わせる。
「…んーっ!!」
力強く抱き締められ、身動きがとれない。そのまま、じっくりとネツキと顔を合わせる。
「ふぅ…たしかに、楽になってきたわ。ん、どしたん?」
「どしたん、じゃないよ!!びっくりしたじゃないか!!」
「せやかてシオリの方からきたやんか。ウチは受け入れただけや」
「そ、そうなんだけど……」
「これで完了だな」
「えらいあっさりしてるよな、シェイド……」
「あとはチャミュだけだが…どこにいる?」
「チャミュなぁ、ずぅっと帰ってきてけぇへんのや」
チャミュはあの日から僕たちの前に姿を見せなくなった。リアにあの時の記憶を見せられたのが相当こたえたのだろう。
「…僕、連絡してみるよ」
携帯を取り出し、チャミュに連絡を取ってみるが反応はない。
「チャミュか、僕です。シオリです。話がしたい。僕の家に来てくれないか。待ってるから」
「電話には出なかったか?」
「あぁ、留守電だけ残しておいた。家に帰るとしよう」
「ネツキは準備が出来たらここに集まってくれ」
「りょーかい。チャミュのことよろしゅうな」
「あぁ、なんとかしてみるよ」
◆◆◆◆◆
家に戻ってきた僕とシェイド。玄関についたところでチャミュからの連絡が入った。
「チャミュか?」
「……」
受話器から声は聞こえてこない。
「そこにいるんだな?黙っていてもいい、聞いてくれ。明日僕たちはソフィアを救いに行く。時間は早朝5時。チャミュも出来たら来て欲しい」
「……」
「辛いのはわかってる、だから無理にとは言わないよ」
「……すまない」
たった一言、チャミュの連絡はそれで途絶えてしまった。
「話はできたか?」
「いや、でもソフィアを助けに行くことは伝えたよ。今はそっとしておこう」
「そうだな、それがいい。それはそうと、」
シェイドはそう言って僕に近付いてくる。
チュッ。
シェイドの唇が、僕の唇に触れる。
「…えっ?」
「ふふっ」
シェイドは軽く笑うと、リビングに上がっていった。
「え?シェイド?これってどういう……」




