表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/229

55話_サキュバスと絶対零度の少女2

天界からやって来たアイシャという天使。


彼女の話では天界にある精霊地区水冷課で異変が起きているとのことだった。

その地域の問題解決のため、僕とソフィア、シェイドは天界に向かうこととなる───。



◆◆◆◆◆



「──というわけで、この体を耐冷仕様にしてもらいたい」


エデモアの骨董屋にて

開口一番、エデモアに対してシェイドはそう言った。


「簡単に言うけどさ~、なかなかに大変だよこれは~」


エデモアは回転椅子にくるくる回りながら頭を抱える。


「そこを頼む」


「ほら、エデモアは天才研究者だろ」


「……天才!!」


まんざらでもないように椅子から立ち上がるエデモア。


「ん~、わかったよ~。じゃあシェイドはこっちに~。シオリ、天器スカイケイスの対応が済んだらそっちに寄越すからさ」


「頼りになるよ、エデモア。シェイド、そしたら後で会おう」


「わかった、先に行って情報を集めておいてくれ」


そう言ってシェイドはエデモアの後を付いていった。


「大丈夫なんだろうか、シェイドは」


天器スカイケイスについては、大丈夫なんじゃないかと…」


他の発明品については以下略。とにかく、その点については期待する他なかった。


僕とソフィア、チャミュはエデモアのいつもの扉を抜けて天界の一層へ足を踏み入れる。

今回僕たちが目指すのは一層の端にある精霊地区と呼ばれる場所だ。


精霊地区とは、天界の中でも地火水木の4要素に分かれている区域のことで、精霊によって天界の重要な自然の資源を生成している場所のようだ。天帝が実権を握っている時にはこの地域に対する弾圧がひどかったらしく、凄惨せいさんな現場だったということをアイシャから聞いている。


天帝が失脚して数か月は問題なかったものの、徐々におかしくなっていったという話らしい。


とにかく、現場に行って話を聞いてみないことには何とも対処のしようがないな。


「シオリくん、すまないな。本来であれば君が関わることではないのだが」


後から合流してきたチャミュが僕に声をかける。


「あ、あぁ。いいさ。天帝の関係もあるみたいだし、僕が全くの無関係ってわけでもなさそうだしさ」


「迷惑をかける。精霊地区は私の管轄ではないが、癖のある精霊が多いと聞く。くれぐれも注意してくれ」


「わかった、まぁチャミュも一緒に来てくれるわけだし、大丈夫だと思うけど」


「だといいが」



◆◆◆◆◆



精霊地区水冷課は第一層を北東に進んだところにある。


一層の中心から四方向に分かれており、西に地、北西に火、北東に水、東に木と属性が分かれているようだ。場所以外の情報は今のところ聞いていないから、あとはアイシャに聞いてみようか。


アイシャからもらった地図を頼りに、僕とソフィアは水冷課が管理する場所へとたどり着いた。


「ここが、アイシャが言ってたところか?」


「地図上は、そうみたいですね…。けど、これでは」


あたりをゆっくりと見回す。水冷課、というからには水があると思うのだが、肝心の水がどこにも見当たらない。


代わりに丸っこいスライムのような青い物体が『労働改善要求』『休日をよこせ』というようなプラカードを掲げてなにかに対して抗議をする光景だった。


「なんだ、ストライキか?あの丸っこいのが精霊?」


「そうみたいですね、なんだか可愛らしいですけど。怒ってるみたいですね」


「たしかにな」


小さな手いっぱいにプラカードを持ち左右に振っている精霊たち。そこにアイシャが現れたのだが、アイシャを見るなり精霊たちは蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。アイシャが走ってきた後には氷でバリバリに固まった道が出来上がっている。


「天寿様~!!」


「おわわ、アイシャ!ストップ!ストップ!」


「は、はい!!」


こちらに駆け寄ってくるアイシャを両手でストップの合図をする。

このまま目の前に来られた日には完全に凍死する。出来るだけ、距離をとって話すようにしないとな…。


「ここが、アイシャが言っていた水冷課なのか?」


「はい、そうです」


「それにしては水が一切見当たらないんだけど」


「それはですね……。今、精霊たちが一斉にストライキをしてまして。水をつくっていないんです」


「水をつくっていない?」


「はい、この区域は精霊たちが水をつくらない限りこの場所に水は溜まりません」


「じゃあさっき逃げて行った精霊たちがストライキを起こしているから水がないってことか?」


「はい、そのとおりです」


「なるほどな。にしても、さっきの慌てっぷりは普通ではなかったような気がするが」


「そ、それはですね。私のせいです……」


「どういうことなんだ?」


「私って、この通り、周りのものを全部凍らせてしまうから…」


アイシャは自分の手を見ながら悲し気な顔をする。


「事情が色々とあるみたいだね。まずはストライキが起きた経緯から話してもらっていいかい」


「はい…」


「ここの水冷課は、前までは百体ほどの精霊と、6名の天使で構成されていました。天使の仕事は毎日水を生成する精霊の監督とスケジュールの管理です。私の上には先輩が5人いました。天帝の統治時代はノルマが相当きつく、皆でなんとか乗り切っていたのですが天帝の失脚以後、皆順々に体調を壊したり、辞めていったりしてしまって…今は私だけです」


「私は水冷課の冷却担当なので、水は専門ではないんです。こんな体ですし…。それで、残った精霊ときちんと話もできずに、精霊の方では不満だけが高まっちゃって…」


しゅんとするアイシャ。


「なるほど、そういうことだったのか」


少しずつ話が見えてきたな。経営が成り立たなくなった会社みたいなものなんだろう。

これは、精霊の方の話も聞いてみる必要がありそうだ。


「精霊たちの話も聞いてみたいんだけど、いいかな」


「あっ、はい。でも、あんな感じでスト起こしてますけど……」


「大丈夫大丈夫。あっ、そうだ。精霊たちの好きな物ってある?」


「好きな物ですか?」



◆◆◆◆◆



僕はアイシャに教えてもらい、ある物を用意して精霊たちがストライキを起こしている場所へとやってきた。チャミュ、ソフィアにある物の袋を持っていてもらう。


「シオリ、これでいいのか?」


「ああ、僕に考えがある。2人は後ろで見ててくれ」


僕はストライキのプラカードを抱えている精霊たちの前まで来ると、メガホン片手にこう叫んだ。


「えー、マイクテストマイクテスト。大丈夫だな。あー、こんにちわー、水冷課代行の者ですー。皆さんにですねー話を聞かせてもらいたいんですけどー、ちょっとだけ時間もらえないでしょうかー」


ざわめき出す精霊たち。アイシャ以外の天使がやってきてびっくりしているようだ。


「話を聞かせてくれた方には、もれなくこのキャンディーをお渡ししますー」


ソフィアとチャミュが袋を掲げる。袋には色とりどりのキャンディーがぎっしり入っていた。ゆうに100個は超えているだろう。


キャンディーの言葉に精霊たちの反応が明らかに変わる。最初は小さかったざわめきも、徐々に反応が大きくなっていく。


しかしなかなか一歩を踏み出す精霊がいなくて膠着こうちゃく状態が続く。


そう簡単にはいかないか、そう思っていると、前でプラカードを掲げていた精霊が、ゆっくりとこっちに向かってきた。行くな、と後ろから精霊たちが声をかけるのが聞こえてくる。


「…な、なんでも聞いてくれるんだな?」


「うん、もちろん。ようこそ、最初のお客さん。どうぞ、かけてかけて」


精霊を席に促し、僕も椅子に座る。

さながら、病院で診察でもしているような気分だ。


「……労働時間を改善してほしい」


精霊は重い口を開いた。


「なるほど、具体的にはどんな感じで働いてるんだ?」


「働き詰めだ。毎日働いている。休みもない。天帝の支配はなくなったのにこれはおかしい」


休みがない、と。


「ふむふむ、休みがそもそもないんだな。あとは?」


「あとは──」


かくかくしかじかで、精霊から話を聞く。


「ありがとう、この意見はまとめさせてもらうよ。ソフィア、キャンディーを」


「はい、ありがとう」


精霊にキャンディーを手渡すソフィア。精霊はそれを受け取り黙って見つめている。


「どうかしたのか?」


「キャンディー、もう少しもらえないか」


わりと欲の深い奴だな、と一瞬思ったのだがそうではないらしい。


「元気のない仲間に分けてやりたい。これならきっと喜ぶ」


「そうか、ソフィア。渡してあげてくれるかい」


「はい」


キャンディーを精霊の手のひらいっぱいに渡してあげる。


「…恩に着る」


精霊はお辞儀をすると精霊たちの方に戻っていく。向こうで大きな反響になっているのがわかる。


そこからはもう雪崩なだれのような勢いだった。精霊たちが一挙にこちらにかけ込んでくる。それをソフィアとチャミュに整列を手伝ってもらい、順番に話を聞いていく。


「なるほど…」


「なるほどねー」


相づちを打ちながら精霊たちの話を聞いていく。結構不満が溜まっていたらしく、わんさか情報が出てきた。


そうして、百体ほどの精霊の話を聞き終わる頃には、キャンディーもすっかりなくなっていた。


「ふぅ~、疲れた~」


「シオリ、お疲れ様でした」


「シオリ、お疲れ様」


「2人もお疲れ様。そしたら集計したアンケートをまとめて対策を考えようか──」




「──よし、まとまったな。大体掴めてきた」


「シオリ、なにかわかったんですか?」


「うん、あとはもうひとつの方だな」


「もうひとつ?」


不思議そうに僕を見るソフィアに僕は笑いかけた。


「もう少しでわかるよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ