47話_規律と過去
ソフィア達が助けに来たと知ってから10分後―――。
僕は部屋で脱出の機会を伺っていたが、逃げるタイミングを見つけられずにいた。
列車内が騒がしくなっていたのは感じていたので、助けに来たというのは間違いないだろう。
そこにアナがやってくる。アナは部屋に入るなり、動けない僕をひょいと抱きかかえた。
「ハニー、列車が少し騒がしくなってきた。これから私たちは別のルートで式場に移動するよ」
ドレスによって体の自由を封じられているため、言われるがままに移動する。せっかくソフィア達が来てくれたというのに……。
僕を抱えたままアナは、部下の誘導で列車の前の方へと移動していた。
「なぁアナ。どうしてそこまで規律にこだわるんだ?」
「私にとって規律というのは全ての行動の規範だ。私は私にとって常に理想でなければいけない」
「それは、性別を偽っても、なのか?」
「答えはイエスだ。私には、それを守り通さないといけない理由がある」
アナは少し不機嫌そうに答えた。
彼女にとっての規律というものは、単なる決まり事ではなく、生活においての全てなんだろう。彼女を彼女たらしめるもの、それが規律なのだ。
「さぁ、ハニーこれに乗って式場に行くよ」
僕の目の前に列車に横付けされた車が現れた。アナはそのまま車に乗り込むと、僕を後部座席へと置く。
「さぁ、あと少しで式場だ」
ソフィア達は大丈夫なんだろうか。心配をよそに、車は列車を離れて動き出した。
◆◆◆◆◆
これは、子供の頃の私の記憶―――。
親が望んだのは、天界を背負って立つような大人物になる“男”の天使。
私は、その期待を一身に背負って生きて来た。
生まれた性別は女だったがそんなことは親には関係なかったらしい。
選ぶという選択肢もなく、親の期待に沿うことだけをやってきた。
子供の頃に規律を破るようなことがあれば、1日中倉庫に閉じ込められた。
私は幼いながら、規律を破ると死に直結するということを学び、規律に反するという行為を極端に恐れるようになった。
親の思った通りに育っていないと、厳しい言葉を浴びせられ続けた。
そんな生活を繰り返した結果、私は親が望んだ天使として成長した。
それが、まわりから見れば立派なのかもしれないが、私にとっては、ずっと重たい枷を首につけられたようなそんな感覚だった。
そして、今、私はその規律を守るために、横にいる彼を利用しようとしている。その店において、申し訳ない気持ちがないわけではない。ただ、規律を破るということを選択はとてもではないができなかった────。
◆◆◆◆◆
場所は、再び列車内のミュウへと―――。
ある晴れた気持ちの良い草原。
私とシオリは、ゆっくりとひなたぼっこをしている。
シオリと一緒に寝そべり、体を起こしてたまに唇に軽くキスをする。シオリは優しく私の頭を撫でてくれ、私もシオリの頬をなぞる。
「ミュウ、大好きだよ」
甘美な響き。普段聞いたことのないその言葉は、私の脳内を駆け巡り、幸福の信号へと変えていく。
「もう一度言って…」
その幸福を味わうべく、おねだりをする。何回聞いていたっていいくらい。そう、もっとシオリは私を欲してくれていいはず。
「ミュウ、好きだ…」
「もっと激しく…」
「ミュウ!!」
「シオリ!!」
シオリの顔が次第にぼやけていく。まわりの背景も徐々に、形がはっきりとしない形状へと変わり────。
「ミュ……ウ…ミュウ……」
シオリの声が、女性の声に変わる。この声は……。
「ミュウ、起きて。ミュウ!」
シオリの声が姉さまの声になる。いや、どうやら最初から姉さまの声だったようだ。
私は夢でも見てしまっていたらしい。先ほどのシオリとの幸せなひと時が夢だと知り、一気に残念な気持ちが押し寄せてくる。
「ミュウ、大丈夫?私たち眠らされてしまったみたいね」
「え、ええ、大丈夫。今目が覚めたわ」
私は起き上がり、スカートの埃をはたき落とす。どうやら、目立った外傷はないらしい。
「どうやら、アナたちはこの列車を捨てたようだ。この先を見てみたが既にもぬけの殻だったよ」
「そんな!?」
「シオリも連れていかれてしまったみたい。博士の話だと、列車は式場のルートから遠ざかるように変更されているみたいなの」
「じゃあ、早くここから出ないと」
「ええ、急ぎましょう!!」
私たち3人は急いで列車の外へと出る。外でスタンバイしていた浮遊車に乗り込み、列車を後にする。
「シオリくん達は、先に車で式場に向かっているようだ。先ほど、列車から車が数台出ていくのを見たからね」
「どれくらい前のこと?」
「数分前のことだ。今からでもまだ間に合う時間だよ」
「せめて式場前で阻止できればいいんだが……」
「車ごと叩き斬りましょう」
容赦はしない。シオリを助けるなら徹底的に。
「そんなことしたらシオリが危ないわ。ちゃんと策を考えましょう」
「シオリは車から落ちるくらい問題ないわ」
「あら、さっきはあんなにシオリのことを叫んでいたというのに、冷たいね」
「なっ//////」
この天使、さっきの私の寝言しっかり聞いていたのね……。チャチャを入れられて一気に機嫌が悪くなる。私はこういう風にいじられるのがいっちばん嫌いだった。
「……ちょっと、そこの天使降りなさい」
黒薔薇の剣を取り出しチャミュに襲い掛かる。
「わーっ、待った待った!!冗談だよ冗談!!」
「ミュウ、落ち着いて!!」
その後、しばらくチャミュをつかまえようと社内でのゴタゴタを繰り返した。




