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35話_得たもの失ったもの

大宮殿。

全てが終わり、静まり返る天帝の部屋。


僕はシェイドが残してくれた力を使い、ゆっくりと起き上がる。

体の感覚は自分に戻っている。シェイドに呼び掛けても返答は何も返ってこない。


力を振り絞り、倒れるソフィアの元まで這っていく。


「ソフィア……」


「シオリ……」


ソフィアの体をゆっくり抱き起こし見つめる。前に会った時よりやつれているのがわかる。


僕はソフィアギュッと抱きしめた。ソフィアも今ある力を振り絞り、僕の手を握り締めてくる。


「家に帰ろう……」


「はい……」


「シオリ、こっちを向いて……」


ソフィアは僕の顔を上げると目を閉じてゆっくりと唇を重ねてきた。僕も、目を閉じて唇を重ね合わせる。今ま会えなかった時間を取り戻すように互いを求め合う。


背中の激痛が徐々に引いていく、体に生気が宿るようだった。


口惜しそうに唇を離すソフィア。顔が少し紅潮している。


「…これが私の能力なんです…」


手を握る力が戻っているのを感じる。


「触れた者を癒すのが私の能力。清き天使の加護ピュアメルシィです」


ふと、ソフィアの体を見渡すがソフィアには変化が見られない。


「その能力は、ソフィアには?」


「自分にはこの能力は使えません」


「そうなのか…ソフィア、ありがとう。帰ってゆっくり休もう」


ソフィアを抱きかかえて階段を降りる。


途中の階段で倒れているミュウを見つけ、そばにソフィアを下す。意識を失ってはいるが、息はあるようだ。


「ミュウ、ごめんね…」


ソフィアがミュウに触れると、2人のまわりを淡い光が包み込む。


意識を取り戻し、ゆっくりと目を開けるミュウ。


「……ね……姉さま……」


「ミュウ……!!」


「倒したのね、天帝を……」


「あぁ、終わったよ」


「そう、良かったわ……」


体を起こしたミュウ。服が破け、胸が露わになっていることに気付き、恥ずかしそうに隠す。


「……見たでしょ?」


「い、いや、その……」


ガバッ


慌てる僕に、ミュウが裸に近いままで覆いかぶさってくる。


「ミュウ!!?」


「……無事で良かったわ」


「うん……ミュウのおかげで助かったよ」


「…帰ったら覚えておきなさい」


うつむくミュウの目に涙がたまっているのが見える。


ポンポンとミュウの頭を叩く。角が折れているのに気付き、ミュウには申し訳ないことをしたと罪悪感が残る。


「さぁ、皆で帰ろうか…」


その時、大宮殿が大きく揺れ出した。揺れは大きくなり、壁や柱に亀裂が走り始める。


「これは!!?」


「宮殿が崩れるようね」


「急いでここを出ましょう…」


僕は再びソフィアを抱え、階段を下りる。途中、倒れているリーガロウを見つけ、

ソフィアに頼んで回復してもらった。


「シオリ、なんで敵をわざわざ助けるのかしら?」


「いや、よくはわからないんだけどさ。こいつ、天帝の攻撃からミュウを守ったんだよ」


「……私を?」


「うん…何故かは知らないけど。だから、悪い奴じゃないんじゃないかと」


「相変わらずお人よしね…」


ソフィアのおかげで意識を取り戻すリーガロウ。


「こ、ここは…!!?私は天帝に殺されたはずでは……」


「生きてるよ、ここはもうじき崩れるみたいだ。早く脱出してください」


「なんだと!!?では、天帝が…貴様、天帝を殺したのか!!?」


ギラッと僕を睨むリーガロウ。ミュウが割って入ったことによりリーガロウの表情が弱まる。


「殺してはいない、まだ生きていると思うよ……僕たちは脱出する。あとは好きにすればいい」


僕はソフィアを抱きかかえるとリーガロウに背を向けて階段を下りていく。

ミュウもリーガロウを一瞥すると、同じく階段を駆けて行った。


「……私は、どうすれば……」



◆◆◆◆◆



崩れ行く大宮殿。


揺れはますます大きくなり、大小の瓦礫が落ちていく。


意識を失った天帝を抱えるネリアーチェ。


最強だと信じていた天帝がこうも無残にやられようとは…。


信じられない気持ちがネリアーチェを支配する。天帝を支えられるのは自分だけだ、ネリアーチェは心に誓っていた。


「天帝様、また一から始めましょう…天帝様がいれば私はどこへでも着いていきます…」


ネリアーチェは天帝とともに、宮殿の奥深くへと消えていった。



◆◆◆◆◆



宮殿から脱出するために、急いで階段を下りる。

ソフィアの能力のおかげで、体力はそこそこ戻ってきていた。ミュウもソフィアの手を握ることで、徐々に体力を取り戻してきている。


途中、壁際で休んでいたチャミュを見つける。


「チャミュ!!」


「やぁ、無事ソフィアを助けられたようだね。ここは無事ではないようだけど」


チャミュに抱き着くソフィア、それを優しく抱き締めるチャミュ。


能力のおかげでチャミュの傷が癒えていく。


「おかえり、ソフィア」


「チャミュ、ありがとう」


「それも全てシオリくんのおかげだ。さぁ、喜びたいところだがここも時間の問題だね。急いで出たいところなんだが、ひとつ頼まれてもいいかい?」


「なんだ?」


「そこの彼女も助けてやってほしい」


チャミュは、仰向けになって倒れているネツキを指さした。


「麻痺で痺れさせたのは良かったんだが、このまま死なれるのも目覚めが悪い」


「……大丈夫ってことなんだな?」


「あぁ、責任は私が持つよ」


「わかりました、チャミュが言うなら」


ソフィアをネツキの近くにまで運ぶ。ソフィアの能力によって光に包まれるネツキ。


「天帝やられたんやなぁ……予想外やわ」


「あんたを直したら僕たちはここを脱出する。後は自由にしたらいい」


「あんさんが、天帝を倒しはったんやね?…ふふっ、ほんまに」


「な、なにがおかしいんだよ」


「普通の人間やなぁって…。治してくれておおきに」


ネツキは立ち上がると、爪を落とし、埃をはたく。


「ウチに構わずお行き。大丈夫、死にはせぇへんから」


ネツキはカラカラと笑うと奥に行ってしまった。


「不思議な奴だな…」


「そうだな…さぁ、急ごうか」


◆◆◆◆◆



大宮殿の広場まで戻ってきた僕達、広場には誰もいなかった。スカーレット達はどうしたんだろうか。


「スカーレットの姿が見当たらないな?」


「先に脱出しているかもしれない、まずは外に出よう」


瓦礫を避けながら、宮殿の外へと出る。宮殿はまだ形を残しているものの、もうじき崩れてしまいそうだ。


「シオリー!!!」


スカーレットの声が聞こえる。


「スカーレット!!」


そこにはスカーレットにラム、聖武がいた。全員恰好がボロボロだ。


「シオリッ!!」


スカーレットはぴょんと飛び乗ってきて熱烈なキスをせがんでくる。それを手で押さえながら、


「スカーレット、ありがとな」


「えぇぇ!!なんでよー!!こんなに頑張ったのにー!!!」


「姉さん……」


「……あら、なに、生きてたんだ?」


ソフィアを見た途端テンションがだだ下がりになるスカーレット。


「来てくれて、ありがとう」


「べっつにー。私はシオリのために来ただけだから。あんたがどうなろうが知ったこっちゃないわ」


顔を背けて、突き放すように言うスカーレット。


「…それでも、ありがとう」


「………んーっ!!!!あんたのそういうところがホント嫌いよ!!」


イーッと舌を出すスカーレット。ソフィアを無視して再び僕にキスをせがんでくる。


「は、離れてくれスカーレット」


「イーヤー!!!約束忘れてないよね、シオリ!!」


「か、帰ったらな!!」


ドタバタしている僕の元にラムとカゲトラがやってくる。


「天帝は、どうなったの?」


「僕が倒したよ。死んではいないと思う」


「あの天帝を倒すとはね……大した奴だよ」


「あんた達はこれからどうするの?」


僕にくっついたたまラムに尋ねるスカーレット。


「さぁね、宮殿もこの通り壊れちゃってるし、ふらふらしながら考えるわ」


「僕は主人に着いていくだけなんで、ま、なんとかなりますよ」


「困ったらシオリの家に来るといいわ。シオリならなんとかしてくれるから」


「おい、スカーレット!!」


「ふふふっ、家主よりえらそうなんて聞いたことないわ!!」


笑うラム、カゲトラも苦笑いをする。


「気が向いたらお邪魔するわ。行くわよ、犬」


「シオリ、またな」


ラムとカゲトラは僕達に手を振ると、第三層に消えていった。


「さて、ここからどうやって帰ろうか…」


「また第一層まで戻るのは御免ね……」


帰りをどうしようか悩んでいた時、上空から車のような物がけたたましい音とともに降りてくる。


「シオリくーん!!!!」


聞きなれた声。この声は……


「博士!!?」


「と、私たちもいます」


メイドのハモる声。


「博士、どうしてここに?三層には来れなかったのでは?」


「ゴタゴタが起きているのに便乗してね。彼女たちも心配そうにしてたから、迎えの車を用意してたんだ」


中にはエルとアルが座っていた。


「エレダ様が本日だけお休みをくださるとのことでしたので、お迎えに上がりました。ソフィア様、お帰りなさいませ」


「エル、アル…ありがとう」


「さぁ、これで一気に一層まで送って行っちゃうよ!!!」



◆◆◆◆◆



博士が運転する浮遊車ホバーワゴンに乗り、第三層を後にする僕たち。

大宮殿はほとんどが崩れ落ちた状態になっていた。


僕はそれを眺めながら、これまでのことを振り返る。長いようであっという間だった気がする。


「やっと、終わったんだな……」


「……」


返事はない。


いつの間にかついていたシェイドに話しかける癖。しかし、彼ももういない。

落ち着いてきて寂しさがこみ上げてくる。あの時、彼に無理をさせなければ……。


思えばシェイドには助けてもらってばかりだった。

今回のことも彼がいなかったらどうにもならなかったに違いない。


「…シオリ?涙が、」


「あ、あぁ…ごめんね、みっともないとこ見せちゃって…」


「いえ…泣きたいときは、泣いてください」


そう言って、ソフィアが僕を優しく抱きしめてくれる。


「泣いていいんです、私がいますから」


「……ありがとう、ありがとう」


僕は、せきを切ったようにソフィアの腕の中で泣きじゃくった。こらえきれなかった。

スカーレットが僕のそばに来ようとしたのをミュウが静止する。


大事な物を取り戻し、大事な物を失った。僕の天界での冒険はこうして幕を閉じた──。


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