27話_倒すは天帝。目指すは天界大宮殿3
「気持ち悪い……」
列車が動き出して数分、
僕の膝を枕にして横になっているスカーレット。列車酔いでぐったりとしている。
「スカーレットは乗り物に弱かったのか」
「忘れてた…」
「忘れるとかそういうことあるのか…まぁ、着くまで安静にしてるといいよ」
可哀想に思いスカーレットの背中を軽くさすってやる。
「えへへ、もっとさすって…」
そう言いながら僕の太ももをさするスカーレット。
「触るのはやめような」
「触れば落ち着くから……」
「そんなわけないでしょ」
「あいたっ」
スカーレットの頭を小突くミュウ。
「具合が悪いのなら黙って席の端で寝ていなさいな」
「ふふ、うらやましいんだろぉ……うぇ」
勝ち誇りながらえづくスカーレット。
「具合悪いのに張り合うなって……」
「ふん、別に羨ましくなんてないわ。だって、」
そう言ってミュウは僕の顎をくいっと上げ、
チュッ
軽く唇を重ねる。
「あなたとはもうレベルが違うもんだの」
「あーーーーーっ!!!なにそれ!!!?なにそれ!!?」
目を真ん丸にさせて起き上がるスカーレット。
それを見て勝ち誇った表情をするミュウ。
「ずるい!!!いつの間にそんな関係になってるわけ!!?おかしいじゃん!!」
スカーレットは子供のように手足をジタバタとさせる。
「スカーレット、具合悪いのは?」
「そんなの、今ので飛んじゃったよ!!え、シオリどうして!!?」
「シオリと私の関係を考えたら当り前よ」
唇を軽く触り、ペロッと舌を出す。
スカーレットはボスンッと僕の膝の上に跨がってくる。
「ずるーい!!!ずるいずるいずるいずるい!!!」
僕の肩を掴みながらガクガクと揺するスカーレット。
「お、お、落ち着いて。僕が酔う……」
「私もする!!」
ぐいっと近づいてきた唇をミュウがむんずと頭を掴んで止める。
「させるわけないでしょ」
「こ、このっ!!大体なんであんたがシオリとキスしてるのよ!!ソフィアに譲ったんじゃなかったの?」
「勿論姉さまに譲ってるわよ。私はその次だから」
「へ~、なぁんだ。シオリそれでいいんだ。じゃあ私も入れてよっ!!」
「よくはないよっ!!ミュウのはなし崩し的にそうなってるだけであって…」
「あら、あの時の約束忘れたの…?」
「だーかーらー!!」
顔を寄せてくるスカーレットとミュウにたじろぐ僕、シェイドはだんまりを決め込んでいる。チャミュは窓の遠くを見て聞こえないフリをしている。
「サキュバスは人数にこだわりはないから、受け入れても悪くないと思うよ」
「僕がもたないよ!!」
「大丈夫、シオリなら私とソフィア、どっちも愛せる!!」
「勝手に私を外さないでくれるかしら。シオリには姉さまと私、2人だけで十分よ」
「頼むからどっちも落ち着いてくれ……」
目の前で繰り広げられる喧嘩。だいぶ見慣れた光景になってきたが、不毛な争いに心が痛い。
「さて、そろそろ第2層に着くよ。外を見てみるといい」
「もう2層かぁ。おぉ、でっかい!!」
そこには、空に浮かぶ大きな島が広がっていた。
高くそびえる外壁が2つあり、その中に建物がたくさん見える。フランスの港町のようなオレンジ色の屋根に所狭しと建ち並ぶ民家。その一画とは別に工場のようなものや教会のような建物も。天使が行き交う姿も見え、非常に活発なようだ。
その様子なのだが、なにやら駅付近が物々しい雰囲気になっている。
「あれって……」
「さっきの天界蜘蛛ね、ここが発生源だったのかしら」
1層で列車にへばりついていた大型の天界蜘蛛が2層の駅にも蠢いていた。天使たちは遠くに避難していて、駅員らしき天使がかろうじて戦っている。
「助けよう!!シェイド」
「わかった」
僕は列車が駅に入ると、シェイドを起動させると蜘蛛に向かっていく。
「まったく、熱いな彼は。私はサポートに回る。君たちも各自頼むよ」
「私はシオリのお手伝いするだけだから~」
「勝手にやらせてもらうわ」
「本当に協調性のない……」
それぞれ勝手に動きながら蜘蛛を片付けていく。
「やぁあっ!!」
ザシュッ!!ザシュッ!!
ミュウの鋭い剣さばき。スカーレットは大鎌で一振り、蜘蛛を薙ぎ払っていく。
チャミュは正確な射撃で蜘蛛を撃ち落としていった。
◆◆◆◆◆
退治は物の数分で片付いた―――。
蜘蛛を倒して一段落している僕たちに駅員が駆け寄ってくる。
「君たち!!おかげで助かったよ」
「これって一体何があったんですか?」
「なぜか天界蜘蛛が大量発生してね。乗っ取られてしまったんだ。1層に降りた列車にも蜘蛛が行ってしまったから下が心配で…」
「それ、僕達で倒しましたよ」
「ほ、本当かい!!助かるよ…。ひとまずこれで、掃除が終わり次第また運行できるよ、ありがとう」
駅員はお礼を言うと、駅の掃除に行ってしまった。
「謎の集団か…なんだか変なことになってちるみたいだね」
状況を訝しむチャミュ。
「確かに、異変が起きているのは間違いないみたいだ。さあ3層に急ごう」
「それなんだが、まだすぐには行けなくてね。作戦を練る必要がある。まずは街へと行こう」
チャミュの提案で、2層の街を歩くことになった。
自分の天界のイメージとはまた違い、えらい庶民的なイメージだ。
天使たちの服装も、白いローブをまとったような物だが、微妙に装飾でオシャレをしていたり、丈が違ったりしている。
「この地帯は2層の中でもどちらかといえば貧しい地域だ。それぞれ上層、中層、下層と3エリアに分かれていて列車で移動することができるよ」
「2層の中でも格差があるのか」
「そうなんだ、そのうち3層に上がるには2層の上層から直接行くしかない。その前に上層に入るにしても知り合いの紹介がないと行くことができなくてね」
「そうなんだ」
「その点は心配いらないわ」
髪をサラッとなびかせるミュウ。
「ミュウ、どうしてだ?」
「私たちがいるからね」
スカーレットも自信満々に指を指す。
「スカーレットも。もしかして2人は?」
「そう、ソフィアとミュウの家は上層にあるんだ」
「あーいやらしいいやらしい」
「あんたも一緒でしょう、何言ってるのよ」
いわゆる天使のお嬢様とでも言うべきなのだろうか。裕福な家系ではあるみたいだな。
ってことは、ソフィアの家が見れたりするのだろうか。
「家に寄る気はないわ。3層に殴りこみに行くのに私たちがここにいるのがバレたら絶対に止められる」
そう言えば、ソフィアたちは3人姉妹って話してたっけ。
「ミュウをアテにしていた部分はある。3層に突入する算段がつかめたら上層へと向かおう。今日のところは宿にでも泊まろうか」
「こっちの世界では通貨とかあるのか?」
「それは私が出すから心配いらないよ。なにか欲しいのがあったら買ってあげるから言ってくれ」
「わかった」
と言っても観光に来てるわけでもないし、欲しい物は特にないかな。
早くソフィアを助けないと……。
「シオリ、大丈夫。姉さまは必ず助けるわ」
「ミュウ……」
「シオリは安全に帰ることを考えていればいいの」
ミュウは僕に顔を近付け、ゆっくり唇を重ね、
「させないから!!」
スカーレットの邪魔が入る。
「せっかくの夫婦のコミュニケーションの邪魔をしないでくれるかしら」
「夫婦じゃないでしょ!!何一段すっとばしてるよの!!シオリ、油断しちゃダメなんだから~」
ガシッと飛びついてくるスカーレット。
「決めた。ソフィアを助けたら私もシオリと夫婦になる」
「ちょっと待って!!これ以上話をややこしくしないで!!そもそも夫婦じゃないし!!」
話があらぬ方向へと飛び火していく。
「スカーレット、今シオリをあまり困らせないでやってくれ。ソフィアを助けた後にいくらでも愛し合えばいい」
「チャミュ、待って」
「……わかった、でも今日は一緒に寝る」
「ダメよ、私が寝るんだから」
「いーっだ!!」
「なによやる気なの」
「んーっ、もー!!」
火花を散らすスカーレットとミュウ。
早くソフィアを助けて家に帰りたい、心の底からそう思った。
◆◆◆◆◆
同時刻、天界第3層にある天界宮殿。
連日、ソフィアを陰湿に弄ぶ行為が行われていた。
ソフィアは別な部屋に閉じこめられ、部屋の中心に囚われている。
両手両足を鎖で縛られ、顔以外はシルエットがわからないくらいの厚手の衣装を着せられていた。地面から緑の透明な液体がソフィアの足下からせり上がり、ソフィアの衣装を溶かしていく。腰当たりまで衣装が溶け、肌が露わになっているがソフィアは一切表情を変えず、黙って受け入れていた。
その様をモニター越しでのんびり眺めている天帝。
だが、反応を示さないソフィアにおかんむりな様子だ。薬の効きも鈍いらしく、彼の想定通りになっていないらしい。
「つまらんな…、色々試しているが一向に反応を示さん。我はもっとこう、彼女が悶え、我を求める姿を見たい……」
天帝は横にあったグラスを地面に叩きつけながら熱弁する。そばにいたネリアーチェは慣れた手つきでグラスの片づけを始める。
「おい、誰か彼女を辱める方法を知るものはいないのか!!?」
「天帝」
「なんだ、リーガロウ」
「サキュバス天使には、ともに暮らしていた人間界の男がおりました。そいつを使えば、なにかしらの反応を得られるかもしれません」
「人間界の……、もしやあのゴミか。あれは我が燃やしてしまったわ。ふむ、燃やしたことだけでも伝えて反応を見るか」
天帝は念話によってソフィアに直前話しかける。
「ソフィアよ、いい加減我のものになると言ってはどうだ?あれだ、お前が大事にしていたあのゴミ、なんといったか。人間界の男は我が燃やしてしまったから助けに来ることもないぞ?」
その言葉に激しく心を揺さぶられるソフィア。
人間界の、男…シオリ!!?
「そんなはずないわっ!!?」
「おおっ、ようやく反応してくれたな!!」
激しく感情を見せるソフィアに喜びを隠せない天帝。
「シオリは絶対に助けに来てくれる……」
「ははっ、健気だな。それが実にいい…もっとそういう表情を見せてくれ」
天帝は久しぶりに苦痛に歪むソフィアの顔を見ることができて上機嫌になる。
「おいリーガロウよ」
「ハッ」
「ソフィアが大事にしていたというゴミ、あれの人形を大量につくってまいれ」
「承知いたしました」
リーガロウは一礼し、部屋を後にする。
「はっはっは、あれの人形があればソフィアの心を少しずつ壊せそうだわ。……くっくっく、はーっはっはっはっは!!!」
天帝は自分の考えに上機嫌になると、高笑いをしたのだった。
◆◆◆◆◆
場所は戻って第2層の宿。
1人ベッドで考え事をしていると、リュックの中がなにやらガサゴソと騒がしい。
「なんだ?」
なにか変なものでも入れただろうか。いや、そんなはずはないのだが。
様子を見ようとリュックに近付くと、ポーンッと大きな毛玉のようなものが飛び出してくる。
「フーマル!!?」
「やっと出れたぜ……」
「お前、ついてきてたのか」
「当たり前だ!!お嬢の一大事について行かなくてどうする!!」
フーマルは僕に体当たりをしてくる。
「私は知っていた」
「シェイド!!知ってたのか」
「リュックがうるさかったからな」
「にしても、どうして今まで出てこなかったんだ?」
「あの天使がいる限り、ワシは出ない」
「かたくなだな……まぁいいや、第3層に行く手掛かりを探しているんだ。なにかないか?」
「第3層に行くには許可証がないと行けないからな。ワシはお嬢の姉に頼むのが一番早いと思うが」
「姉って一番上のか?」
「そうだ。お嬢の姉は第2層の上層にいるはずだ」
「そうか、わかった」
「ワシはまたリュックに戻るが、お嬢のこと頼んだぞ」
さっとリュックに戻っていくフーマル。
その時、ノックの音がした。
「シオリくん、今後の作戦を話し合いたい。君の部屋で話してもいいかい?」
「あぁ、いいよ」
チャミュ、ミュウ、スカーレットが僕の部屋に集まる。
「あー、シオリの匂い…」
早速ボスンッと僕のベッドで寝そべるスカーレット。
「スカーレット、そんなことをしている時間はないよ。チャミュ、これからどうするんだ?」
「それなんだが、方法は2つ。上層にいる人物から第3層への許可証を用意してもらうか、第3層行の夜間列車に潜入するか、のどちらかだ」
「許可証を用意してもらう人のアテはあるのか?」
「私の知り合いに許可証を用意してもらえる可能性はある。あとは、裏市で買うという手もあるが、金額が法外に高いから望みとしては薄い」
「そうか。ミュウの上のお姉さんって上層にいるんだよな?」
さっきフーマルから聞いた情報を探ってみる。
「姉さまから聞いたのかしら?そうね…大姉さまは上層で仕事をしていらっしゃるわ。
でも、大姉さまから許可証を貰うなんて無理よ。さっきも言ったけど、3層行き自体を止められる可能性が高いわ」
「そしたら、そっちの望みは薄そうだな……。じゃあ、チャミュの知り合いのところに行ってみるとしよう」
ミュウがここまで消極的になるとエレダという人物、気になるな。
「行くならば死を覚悟することね」
「一体どんな人なんだ……」
「事情はわかった。そしたら私の知り合いのところを訪ねるとしよう。今日は動くには遅い。明日の朝、列車に乗って上層へと移動しよう」
「わかった」
「じゃあ、今日のところは休むとしようか」
「うんっ」
ギュッ。 ピトッ。
僕の左腕を掴むが1人、右腕にくっつくが1人……。
「あなた、離しなさいよ」
「そっちが離したら?」
「2人とも……」
「それ、私も混ざった方がいいだろうか」
「チャミュはいいよ!!できれば止めてよ!!」
◆◆◆◆◆
大宮殿、リーガロウの私室。
天帝から人間の男の模造品をつくるよう指示を受けたが、リーガロウは悩んでいた。
人形をつくるにしても、元がもう存在しないのだ。
天帝の無茶ぶりにも困ったものだと頭を抱えているとエメが入ってきた。
「リーガロウ様」
「エメか、どうした?」
「第2層の下層駅にて謎の魔形が現れたとの情報を受けています。そこに、こんな人物が……」
そう言って出された写真を見る。
「こいつは……!!?」
それは、まさしく自分が模造品を用意しようとしていた男だった。
生きていたとは……!!
以前、エメにリストとしてソフィアを知る者の情報を渡していたのが功を奏したな。
それに、自分が追い求めていた女性も一緒にいる。これは千載一遇のチャンス……!!
リーガロウは机の下で軽くガッツポーズをする。
「至急、この男を捕まえて来い!!他の部隊を動かしてもかまわん!!」
「ハッ!!」
エメは下の部隊に伝達し、部屋を出ていく。
「よし。念のため私も出るとするか」
リーガロウも装備を取ると自分の部屋を出た。そんなリーガロウの部屋の天井、耳をそばだてていた男が1人……。
「そうか、あいつ生きてたのか……これは主人に知らせないと」
エターナることはないのでご安心ください。
毎日複数話更新していきます。
「面白い!!」
「続きが気になる、読みたい!!」
「今後どうなるの!!」
と思ったら、
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、
正直に感じた気持ちで大丈夫です!!
ブックマークもいただけると本当に嬉しいです。
何卒よろしくお願いいたします。




