25話_倒すは天帝。目指すは天界大宮殿1
ソフィアが天帝にさらわれた。
それは僕にとってとてつもなくショックな出来事だった。
ついさっきまで楽しかった1日が、絶望に変わり果てる。
僕とチャミュは、自宅のリビングで黙ってテレビを見ていた。
今回の件は、ショッピングモールでテロが起きたという報道がされていた。
外の広場は爆発で原形を留めておらず、事態のひどさを物語っていた。
僕はソフィアを連れて行かれた悔しさで思わず机を叩く。
「シオリ、すまない…」
「チャミュが謝ることじゃない、僕がもっとちゃんとしていれば……」
「天帝の力は圧倒的だ。人間1人でどうにかなる相手ではない」
「このままだとソフィアはどうなる?」
「天帝のことだ。ソフィアを自分の玩具にするだろう。ソフィアの精神が壊される前に連れ戻さないと」
「天帝……!!」
怒りに拳を強く握る。
「シオリ、怒る気持ちはわかる。だが、このままではソフィアは救えない。
方法を考えないと……」
「ソフィアのいる場所はわかるのか?」
「天帝の元にいるだろう。そうなれば、天界大宮殿にいるはずだ」
「それじゃあ…!!」
「気持ちはわかる、だが私たちだけでは無理だ。まずは準備を整えよう」
「準備って?」
「ソフィアを救うには仲間が必要だ」
チャミュはそう言ってテーブルから立ち上がる。
「仲間って、まさか…」
「そう、そのまさかだよ」
◆◆◆◆◆
「姉さまがさらわれた!!?」
喫茶店の裏で、仕事中だったミュウに今までに起きたことを話す。
「あなたがいながら何してたのよ!!」
「ごめん……」
「とにかく、これから助けに行くんでしょ?源十郎に話してくるわ」
「あ、あぁ。ミュウ、すまない……」
「謝る力があるのなら姉さまを救う方法を考えてくれないかしら。話をつけたら向かうから、準備をしておいてちょうだい」
ミュウは淡々と話をすると、喫茶店の方に戻って行った。
「シオリ、私たちも準備をしよう」
「あぁ、そうだな…」
僕とチャミュは家に戻り、天界に行くための準備を進める。とりあえず何が必要かわからないので携帯食、懐中電灯、寝袋等をリュックに詰め込む。
そこに、ミュウが簡単な荷物を片手にやって来た。
「あなた、その荷物は何?」
「何って、天界に行く準備だよ」
「ピクニックに行くわけじゃないのよ?まぁ、いいわ。行けばわかるでしょう」
「ミュウは準備はいいのかい?」
「ええ、問題ないわ。早く姉さまを取り返さないと。あの変態、絶対に許さないんだから……」
そこに、思わぬ人物が現れる。ショートカットに大きめのピアスを付けた女の子だ。
「おや、君は」
大きな鎌を後ろ手に携えたスカーレットが立っていた。
「話は聞かせてもらったわ」
「あなた……」
スカーレットの登場に露骨に嫌な顔をするミュウ。
「帰って」
「つれないな~、まぁ別に私はあんたのために来たんじゃないし。シオリ、困ってるんでしょ?」
スカーレットはステップを踏みながら僕の近くまで来る。
「手伝ってあげるっ」
「本当か?」
「うんっ」
満面の笑みを浮かべるスカーレット。
「そのかわり、」
「(ご褒美、期待してるからね♡)」
耳元でこっそりささかれる。前にも助けてもらった1日スカーレットの言うことを聞く約束をしていたが……。だが、最早そういうこともどうでもよかった。ソフィアが助かるなら安いものだ。
「わかった、スカーレット力を貸してくれ」
「ひゅー♪話が早くていいねっ」
大きなリアクションで僕の首に抱き着くスカーレット。
「シオリ!!私は反対よ!!」
キッと僕をにらんで詰め寄るミュウ。
「いつ裏切るかもわからない奴がいたら落ち着かないわ」
「へぇ、言ってくれるじゃないさ」
バチバチと火花が散る。早速険悪なムードだ。
「2人とも、喧嘩はソフィアを助けてからにしてくれ。今は、1人でも多く仲間が欲しい」
「そういうこと、お子様は黙ってなさい」
「くっ…覚えておきなさい」
ミュウは悔しそうな顔を残しながらスカーレットの元を離れていく。
「スカーレット、よろしく頼む」
「まかせておいて、シオリの言うことなら聞いちゃうっ」
「準備はできたかな、それじゃあ天界に向かうとしよう」
◆◆◆◆◆
天界の大宮殿―――。
大広間にラム、リーガロウが整列している。
その隣には狐目の外はねショートカットの女性が立っていた。
ひょうひょうとしていて表情が読めないが、ラム達と同じく隊長格であることが制服から見て取れる。
「(結局、天帝自ら捕まえちゃったのよね……この後絶対お仕置きがくるわ。それもこれも犬がしっかり監視してなかったせいよ…)」
「(…なんだ、主人から殺気を感じる)」
リーガロウはと言うと、瞑想しているようだ。もしくは、もうお仕置きを受けることを覚悟しているようにも見える。
狐目の女性は特に変わりはないようだ。
しばらくすると、天帝が大扉から入ってきた。
後ろには白い豪華なウェディングドレスのような衣装を着せられたソフィアが、ネリアーチェにサポートされながらついてくる。
首には真っ白な首輪のようなものをつけられており、表情は重々しい。
「どうだ、結局我自身で連れてきてしまったな」
天帝は玉座にドカッと座ると、高笑いをした。
「一体何に手こずったというのか。なぁ、ラム」
「はっ、はい、返す言葉もございません…」
「つまらんな…」
天帝はラムに向けて手をかざすと、ラムの周りを紫色の光が囲い出す。
「うっうわあああぁぁぁ!!!」
紫色の電撃が走りうめき声を上げるラム。
その光景に目を逸らすソフィア。
制服が完全に黒焦げになり、地面に崩れ落ちる。カゲトラがそれを倒れないように支えた。
「誰が一番早くソフィアを連れてくるかと楽しみにしていれば、誠残念な結果だ」
「リーガロウ、ネツキ、お前らもだ」
リーガロウ、ネツキと呼ばれた狐目の女性にも同じく紫色の球体状の電撃が襲い掛かる。
「ぐ、ぐぐっ!!!」
「あ、ああぁぁぁぁぁ!!!」
それぞれ電撃を受け、膝をつく。
ネツキの声だけは嬌声のように、喜びを帯びたような声だった。
「天帝様……今のをもう一度」
ネツキは起き上がると天帝におかわりをねだる。
「ハハハッ!!!相変わらずお前にはこれが罰とはならんな!!!よい、くれてやろう」
再び紫色の電撃がネツキに襲い掛かる。
「ア、アァァァァァァ!!」
達するような声を上げるネツキ。根っからのドMのようだ。
「……ふふ、ありがとうございます……」
細い目がさらに細くなる。衣服はほぼ焦げてなくなっているような状況だ。
「変わったやつだ、よいネツキのおかげで気が済んだ。お前ら全員下がっていい」
「ハッ」
皆ひざまずき頭を下げ、広間を後にする。
「あやつらが迎えではソフィアも余程困ったであろうな」
そう言って天帝はソフィアの体を無理矢理引き寄せる。
「天界中を探してもいないわけだ。いつの間にか人間界に連れて行かれたのだからな」
そう言って天帝はソフィアの胸元の服に手を伸ばすと一気に引きちぎる。
衣装がちぎれ、ソフィアの胸が露わになる。
「……!!?」
なるべく反応しないようにしていたソフィアだったが、あまりの恥ずかしさに
声を押し殺したまま腕で胸を隠すように体を丸める。
「ハハハッ!!!相変わらず初い奴だな!!良い、その恥じらいが実に良いぞ。
普段は触れられないようなものを自由にできるのは誠楽しいものだな」
「ネリアーチェ」
「ハッ」
「それはもう飽きた。次の衣装を着せてこい」
「御意」
ネリアーチェはソフィアを抱きかかえると、広間を降りて行った。ソフィアは抵抗することもなく
大人しくしている。
それを頬杖を突きながら見つめる天帝。
「なかなか心を開かんな。さて、次はどうやって遊ぼうか」
クククッと体を揺すらせた後、大きく高笑いをする。広間にその声だけが響き渡った。
◆◆◆◆◆
天帝の雷撃を喰らい、退室した隊長3人。
「あぁ、完全に怒られたわ……」
ボロボロの衣装のまま、しょげるラム。
「ラムはん、そんなに気にやむことないで。天帝、いつものことやんか」
ケラケラと笑いながらラムを慰めるネツキ。
「あんたはただの変態でしょ!!なんで雷撃喰らって平然としてるのよ、おかわりまでねだってるし!!」
「ウチ、天帝の雷撃好きでなぁ」
「真性のドMね……待って、もしかして、あんたが今回の件で一切動いてなかったのって……」
「バレました?」
「バレました、じゃないわよ!!どうりで何もしてないと思ったわ!!それなのに平然としててるし」
「元よりアテになどしていない」
「リーガはんは相変わらず辛辣ですなぁ。まぁ、それがゾクッとくるんやけど」
「筋金入りのドMね……。まぁいいわ、天帝様の癇癪も済んだし、しばらくは落ち着くんじゃないかしら。あとは、あの子がどこまでもつかだけど……」
「案外早いかもしらんなぁ、天帝なかなか過激なお方やから」
「私たちが考えるようなことではない」
「ホント堅物よね、あんた………さぁてと、お風呂入って綺麗にしなくちゃ」
「賛成どすな。ラムはん、一緒に入りましょ」
「あんた私の胸と自分の比べて見てドヤりたいだけでしょ……」
「バレました?」
「バレました、じゃない!!」
3隊長達は、黒焦げになりながら宮殿の廊下を歩いて行った。
◆◆◆◆◆
場所は変わって、エデモアの骨董屋。
準備を終えた僕たちは、エデモアに事情を話し、天界への扉を開けてもらった。
エデモアは話を聞いた時は驚いていたが、僕の真剣な表情を見ると後押しをしてくれた。
「頑張って行ってくるんだよ」
「うん、大事な人を取り返さないといけないからね」
僕は心配そうなエデモアの頭をポンと叩く。
「大丈夫、ちゃんと帰ってくるよ」
「そうかい。じゃあこれを持っていくといい」
エデモアは僕に青色の宝石を渡す。
「シェイドが危なくなったとき使うといいよ。役に立つ」
「エデモア、感謝する」
「ははっ、シェイドもよく喋るようになったねぇ」
「じゃあ、行ってくるよ」
「気を付けてね~」
扉を開けると、前と同じく綺麗な草原が広がる。
「天帝のいる宮殿はこの階層の更に上。3層だ。ここからは長い道のりになる」
「あぁ、わかってる。待ってろ……ソフィア!!!」
僕は強い決意とともに、草原を力強く歩み出した。




