19話_サキュバスとデッドヒートデート3
公園の湖コーナーにて。
いきなり水をかけられて、びしょびしょのまま立ち尽くす僕とソフィア。
せっかくのデートを台無しにされて、沸々と怒りが沸いてくる。
目の前に仁王立ちで立っている少女は一体何者なんだ。
ツインテールて飾りにはリボンをつけて白い軍隊のような制服を着ている。スカートは短めで、ニーソックスを履いたすらっとした脚の長さが際立つ。
「やっと見つけたわ、まさかこんなところにいるとは思わなかったけど。さぁ犬、彼女をさっさと捕まえちゃって……ってちょっと犬!!なにしてんのよ!!」
ツインテールの女の子はカゲトラに命令したのだが、当のカゲトラは僕とソフィアにタオルを渡してくれていた。
「すまねぇ、力加減がわからなくて力一杯漕いだら水を引っ掛けちまった」
「あぁ、ありがとう」
カゲトラからタオルを受け取り濡れている体を服の上から拭いた。
「カゲトラは天帝の使いだったのか?」
「あぁ、正しくはうちの主人だがな」
「そうか……」
残念だ。
出来ればカゲトラとは敵対する形にはなりたくなかった。
「俺もだ。まさかソフィアがうちの主人が探していた対象だったとはな」
カゲトラも残念そうに答える。
「こら犬!!なにのんきに敵と話してるのよ!!」
「主人、彼らは俺を助けてくれたんだ」
「だからどうしたっていうの?私の命令が聞けないって?」
「そうは言ってない。でも、今日じゃなくてもいいんじゃないか?」
「天帝様は彼女を早く見つけてこいって言ってるの」
イライラしながら答える女の子。主従関係は完全に女の子の方が強いらしい。
「君は一体誰なんだ?」
僕は、ソフィアを後ろに隠しながらツインテールの女の子に尋ねる。
「ハァ?あんた誰よ。どうせもうじき消えるんだから、知らなくていいわ」
「うちの主人、ラムだ」
「何勝手に喋ってんのよ!!犬!!」
カゲトラが勝手に喋ったことに激怒するラムと呼ばれた女性。カゲトラを完全に制御できてるわけでもないのか?
「カゲトラ、ソフィアを連れていく気なのか?」
「主人にはそういう風に言われているな」
「悪いがソフィアを渡すわけにはいかない」
「そうだろうな……参ったな。シオリ、お前のことは嫌いじゃない。むしろこの人間界で出会った奴の中では好感が持てる部類だ。俺の鼻がそう告げてる。ただ、俺は主人の使いである以上、命令は聞かないとといけくてな」
カゲトラは困ったように笑った後僕の目を見据えた。
「主人がソフィアを連れていく、という以上俺はそれを実行するだけだ。だが、使いにも誇りはある。勝手に奪うといったことはしない。シオリ、お前に勝負を申し込む」
真剣な表情のカゲトラ。カゲトラなりの僕に対する誠意なんだろう。そういうところは、僕も嫌いじゃない。だから、なおさら戦わないといけないのは嫌だ。
でも、ソフィアを失うのはもっと嫌だ。
「戦う以外の方法はないのか?」
「ないな、残念だが」
カゲトラは首を横に振って答える。
「ラムと言いましたか、天帝に言ってください。私はあなたのものにはならないと」
ソフィアはタオルで髪を拭き終わると、ラムに向かってそう言った。
濡れたスカートがソフィアの腰にぴったりと貼りついて下着の形が浮き上がっている。刺激の強い映像に、つい視線を奪われそうになる。
「あんたの意志なんて関係ない。私は天帝様にあんたを連れてこいと言われただけ。そんなに嫌なら直接言ったらどう?」
とりつく島もないといった形だ。ソフィアに対するあからさまな敵意が向けられている。
「会いにも行きません」
2人の中でバチバチと火花が散る。
「シオリ、どの道ここから逃げることは難しそうです。ですが、」
ソフィアは僕に近付いて耳打ちをする。
「(さっき邪魔をされてしまったせいでサキュバスの欲求が、抑えきれません…。今だけ、私の手を握ってください……)」
苦しそうなソフィアの声。
ソフィアに言われた通り手を握ってあげる。
「何、話の途中でイチャイチャ始めてんのよ。そんなに余裕だってわけ?バカにすんのもいい加減にしてほしいわ」
「ラムって言ったな。話は僕が聞く」
「ゴミは黙ってなさいよ」
「ゴ、ゴミだって…」
辛辣な言葉に凹む。が気を取り直してラムの方を見る。
「ソフィアは渡せない」
「だからゴミは黙ってろって言ったでしょ」
ラムは怒りがピークに達したのか、体のまわりに電撃をバチバチと放ち出す。
「主人、それはいけない!!被害がでかい」
「知らないわよ!!もういいわ、黙らせて連れて行くから」
ラムは人差し指を立て僕とソフィアに向ける。ラムのまわりに浮いていた電撃が一気に走り出す。
避けられない!!
その時、カゲトラが驚きの行動に出た。
僕とソフィアの前に割り込み、雷を弾き上げたのだ。バリバリバリと電撃は上に舞い上がっていく。
「主人、ソフィアに傷でもついたら天帝様が怒る」
「ぐぅ…」
カゲトラに弱いところを突かれ悔しそうなラム。
「…まぁ、いいわ。興が冷めた。勝負でもなんでもしたらいいじゃない」
「ありがとう、主人」
「じゃあもうこれで決めなさいよ」
そう言ってラムは自分たちが乗ってきたアヒルさんボートを指差す。
「この乗り物面白いのよね。これで私たちに勝ったら今日のところは見逃してあげるわ」
おそらくまともに戦って勝ち目がある相手ではないだろう。
シュールな形ではあるが、レースであればまだ勝てるかもしれない。
「わかった、受けて立つ」
僕は、用意されたアヒルさんボートへと向かう。
「私も一緒に」
ソフィアが僕の後をついてくる。
「私に考えがあります。一緒に乗せてください」
「わかった」
◆◆◆◆◆
策があるというソフィアと一緒にアヒルさんボートに乗り込む。
「それじゃあ準備はいい?湖を一周した方の勝ち。いくわよ、よーいスタート!!」
ラムの合図とともにスタートするアヒルさんボート。カゲトラの乗るアヒルさんは白。僕とソフィアの乗るアヒルさんは黄色だ。
僕は持てる力を振り絞ってペダルを漕ぐ。
キコキコという音ともに前へ進むアヒルさん2号。思った以上漕がないと前に進んで行かない。
さっき水で濡れたせいもあり体が冷たくなっていた。温めないと、身体が萎縮して堅く感じる。
カゲトラは1人猛然とペダルを漕いでいる。
真剣勝負、一切手を抜くことなく試合に臨んでいる。カゲトラが疲れるのを待つのはあまり賢いとはいえない。僕は距離を離されないように必死に食らいつく。
半分まで差し掛かったところで、ふくらはぎに疲労がたまってきたのを感じ始めた。流石にずっとこぎ続けるのは身体にとってハードだ。心肺機能もじきに限界を迎えるだろう。
「はぁ、くそっ…」
大きく息を吐きながら、懸命にペダルを漕ぐ。優しいフェイスとは裏腹に激しい攻防を見せる二艘のアヒルさんボート。
3分の2を過ぎたところで、カゲトラとの差が徐々に徐々に広がってきた。やばい、このままでは勝てない。
その時、突如ソフィアが僕に後ろから抱きついてきた。
「ソフィア!?」
「シオリ、前を見ていてください!!」
ソフィアに言われるまま、前に集中する。
背中にソフィアの柔らかなおっぱいの感触を感じながら、ペダルをこぎ続ける。
「今からシオリの疲労を私の方で受け取ります。その隙に前へ」
ソフィアがそう言うと、僕の体の周りに淡い光が出始める。それと同時に体の疲労感が一気に消えていくのを感じた。
ペダルを漕ぐ脚が軽くなる!!これならいける!!
「うおおおおお!!!!」
僕は今持てる力を最大限振り絞ってこぎ続けた。
「なにっ!!!?」
「嘘っ!!!!?」
最後の最後、猛追を仕掛けた僕とソフィアのアヒルさんボートは、くちばし先で差しきり逆転に成功した。
「なんだ最後のスピードは……」
カゲトラは手を抜かなかった。自分の持てる力を出して、最後に抜かれてしまった。
「やるじゃねえか、シオリ」
「ハァハァ…」
「ハァハァ……」
ソフィアと僕は互いにグッタリとして動くことができない。全ての力を出し切り、脚がけいれんを起こしている。ソフィアも僕の疲労を一心に受けたせいで、同じ状態に陥っていた。
「参った、俺の負けだ。今日のところは引き下がろう」
「アヒルさんボート、やっぱり面白いわね。ふん、まぁいいわ、あんたを連れてくのはまた別の日にってことで。犬、帰るわよ」
ラムとカゲトラはグッタリした僕たちを置いて帰っていった。
約束を守ってくれたのは良かったが、それからソフィアが回復するまではしばらく2人重なってぐったりしたままなのであった。
◆◆◆◆◆
思わぬ敵との戦いも終わり、ボロボロの体で家へと帰る僕とソフィア。
途中まで楽しかったゆったりした日々が別の日だったんじゃないかと思うくらい、後半は激しく動かされたのだった。
結局、あれから動けなくなったソフィアをおんぶして家にたどり着いた頃には夜になっていた。僕ではどうしようもなかったので、チャミュを呼びソフィアを着替えさせてもらった。
「無事に済んで良かったが、天帝の使いが現れたとなると、対策を考えないといけないな」
チャミュの言うことにうなずきつつも、まともに考えられる体力が残っていなかったのでまた別の日に来てもらうことにした。
水で濡れた体を温めて綺麗さっぱり。ようやく落ち着くことができた。
少し動けるようになったソフィアもパジャマ姿でソファに座っていた。
「ソフィア、今日はありがとう…」
「いえ、シオリが頑張ってくれたおかげです…」
力の入らない2人、ぐにゃぐにゃになりながら互いに感謝し合う。
「シオリ、ひとつお願いがあるのですが……」
「……なに?」
「実は、あの時能力を使ったことで体のリズムがまた変になったみたいで……サキュバスの発作が止まらないんです…」
「え、、、」
「シオリ、今日一日だけ、一日だけでいいので……一緒に寝てくれませんか…」
ソフィアの哀願する表情。動けないのも相まって、余計につらそうなソフィア。
そんな顔を見て断れるはずがなかった。
ソフィアを僕のベッドまで抱っこしていき、一緒に横になる。もうないだろうと思っていた光景がよもや同じ日の夜になるとは思いもしなかった。
ベッドの中で僕にぴったりとくっついてくるソフィア。
「お、お、落ち着いた?」
「はい、だいぶ体が楽です…」
つきものが取れたように安堵した表情になる。
そのうち、すぅすぅと寝息を立て始める。
こうやって見るとただの可愛い女の子なんだよな。
最後も僕を助けるために無理矢理能力を使ったわけだし、サキュバスの発作も相当我慢していたんだろう。
ソフィアにとって今日のデートは少しでも楽しいものだったのだろうか、それが少し心残りだ。
「シオリ…」
「ん?」
反応するが、特に返事はない。寝ぼけているのか。
「…ダメです…そこは」
夢の僕は何をしているんだろう。妄想が膨らんでくるのを慌ててシャットダウンする。
もう今日は疲れすぎていて頭が回らない。そうじゃなかったらこのシチュエーションには耐えきれなかっただろう。
ソフィアの肌の温もりを感じながら、僕もまどろみの中へと落ちていった。
こうして僕とソフィアの初デートは、想像していたのとはとんでもない方向で、とんでもなく濃厚なものとなった。これはしばらく忘れられそうにないな…。
追伸:翌日以降、サキュバスの発作が収まったソフィアは、自分がしてきた事の恥ずかしさに耐えきれず、僕をなにかと避ける日がそこそこ続いたのであった。
「面白い!!」
「続きが気になる、読みたい!!」
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