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帰り道

作者: 釜鍋小加湯

短編

 希望なんていらない。

 希望の裏には絶望がある。

 だから、希望はいらない。

 拾い胸にしまおうとして、俺はそれをそっと地面に置いた。

 何もいらないよ。あるものだけで充分。重い荷物は、ここに置いていこう。持っていったところで、途中前に進めなくなるだけだから。

 持っていて苦痛なものや思い出すことで気持ちが落ちるものをそっと置いて、俺はゆっくりと一歩一歩優しく地面を踏んで歩いた。


 天気がいい時に、「天気がいい」って思えること。通勤途中に毎回赤信号でも、自然体でいられること。忘れ物をしても、次から気を付けようと気楽に考えられること。難しいことじゃない。

 生きていれば上手くいかないことも結構ある。些細なことまでカウントすれば、上手くいかないことの方が多くなる。

 捉え方次第だ。上手くいかなくても、こんな日もある。小さな幸せを沢山見つけよう。

 Yシャツの袖に、暖かい風が通り過ぎる。

 春が近いなあ。土筆が生えて桜も咲いて、晴れる日も増えてくる。

 満たされないこと。納得できないこともある。そこに目を向けてばかりでは、気持ちは下がるだけ。

 歩いていると雨が降り出してきた。生憎傘はない。

 自然と足早になり、雨が強くなるにつれ俺は走り出した。普段走らないせいもあって、足は重く感じる。

 自分の他にも走っている人を見掛けると、何だか笑えてきた。息が上がり、濡れた靴でドタドタと地面を叩くようにして走り続け、俺はアパートのドアの前で走るのを止めた。

 息を荒く吐きながら、ポケットから鍵を取り出す。

 鍵穴にキーを差し込みひねりドアを開けると、俺は玄関に座り込んだ。

「いやー疲れた。天気予報外れたな。でもお陰で、早く家に帰れた」

 独り言の後、靴を脱いで廊下を歩いた。

 バスタオルで頭を拭きながら玄関の方に目をふと向けると、二十六センチの足跡がついていた。

最後まで読んでくれて、ありがとうございました。

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