中古のAK
「こんちわー。」
ある週末。サバゲーマーの俺は行きつけのサバゲショップを訪れた。
「いらっしゃいませー。あ、明野さん、お久しぶりですー。」
顔馴染みの店員、香田が気さくに声を掛けてくる。しかし、その顔はしばらく見ないうちに随分とやつれていた。
「あれ、なんか具合悪そうですけど、大丈夫ですか?」
「なんか最近、調子悪くて・・・」
「仕事、大変なんですか?」
香田は過去に激務で体を壊したことがあるため、俺は不安になった。
「いや、仕事自体は最近安定してるんですけど、なんか眠れないっていうか・・・」
「そうですか、あんまり無理しないでくださいね。」
そう言って俺は中古品コーナーに足を運ぶ。
このショップの中古は稀に掘り出し物がある。
「お、次世代のAK47。」
壁に掛けられた六丁の中古トイガンの中にある一丁に目が止まる。
それは国内のメーカーから販売されている高性能電動ガンだった。
「付属品込みでこの値段か・・・」
スペアマガジンなどの付属品付きで市場より価格設定が安く心が揺らぐ。
「それ、すごく調子いいですよ。」
「マジか・・・どうしようかな・・・」
香田の言葉に俺は本気で悩んだ。
「多分、売れるのは時間の問題ですよ。」
「んー・・・じゃあ、買おう。」
そして、香田の煽りに俺は決断を下した。
「ありがとうございまーす。」
「ああ・・・やっちまった。」
俺は後悔を口にするが、顔は明らかににやついていた。
「・・・なんか身体が重いな・・・」
家に帰り、ひとしきりAKを撫でまわした俺は異変に気づく。
「まあ、今日は色々あって疲れたからな。早めに寝よう。」
そして、俺はAKを押し入れのガンラックに立てかけると、いつもより早めに布団に潜り込んだ。
「風邪でも引いたかな・・・」
この数日間すっと身体がだるい。
―ブーン、ブーン、ブーン
目の前に置かれたスマホが着信を告げる。ディスプレイにはサバゲ仲間の名が表示されていた。
「はいはい。どうした?」
「あれ?なんか妙にテンション低くないですか?」
サバゲ仲間の堂島はすぐに俺の異変に気づいて聞く。
「ああ、ちょっと身体の調子が悪くてな・・・。で、どうした?」
「今週末にゲームがあるんですが・・・その調子じゃ無理ですよね。」
「いや、行く。」
一方的に結論を出そうとする堂島を押しのける。
「え?・・・大丈夫ですか?」
「ああ。ちょっと軍拡したから新しい装備を使いたい。」
俺は絞り出すように言った。
「そうなんですか。わかりました。・・・でも、無理はしないでくださいね。」
「ああ、わかった。じゃあ、週末に・・・」
そう返事をして電話を切る。
「よし・・・這ってでも行くぞぉ・・・」
その夜。
「・・・。」
不意に目を覚ました俺は何やら気配のようなものを感じた。
時計を確認すると時刻は午前一時。
違和感に飲まれ動けないでいると突然、足元の押し入れから何かがズンズンと迫り、俺に覆いかぶさって来た。
「うわぁっ・・・!」
反射的にベッドから飛び起きる。
「・・・。」
辺りを見まわすと部屋に違和感はなく、いつも通りの朝を迎えていた。
どうやら夢だったようだ。
「なんだよ。もう・・・」
悪態をつきながら俺は疲れの取れていない重い身体を引きずってベッドを出た。
「おはよーございまー・・・うわっ!どうしたんですか?ひどい顔してますよ。」
サバゲー当日。ショップ主催の定例会のため、スタッフとして来ていた香田が俺の顔を見るなり驚いた顔をする。香田の方は先日会った時より随分顔色が良くなっている。
「いやぁ、ここ最近よく眠れなくて・・・」
「明野さん、ホントに今日来て大丈夫なんですか?」
ゲームの準備をしていた堂島が駆け寄り、心配そうな顔をする。
「ああ、大丈夫。でも辛かったらセーフティで休んでるよ。」
「どんだけサバゲー好きなんですか・・・・・・あ、新しい装備ってそれですか。」
堂島がケースからはみ出たAKに気がつく。
「そう。見る?」
「どうも・・・」
堂島はおもむろに次世代AKを手に取り、まじまじと見つめた。
「・・・明野さん、このAK譲って貰えませんか?」
「いや、それ今回が初使用だけど?」
「うーん、わかりました。明野さんの購入金額の三割増しで買いましょう。」
「・・・お前、その銃に何かあるのか?」
無駄に粘る堂島に違和感を覚えた俺は聞く。
俺はあまり信じていないがこいつはいわゆる見える人だ。
「確証は持てません。」
「・・・わかった。購入金額でそのまま譲る。」
ここ最近の身体の異変など、心当たりがあった俺は購入した金額でAKを手放した。
そして、その日は香田やサバゲ仲間達の説得により、ゲームをすることなく帰宅した。
それから俺の体調は見る見るうちに回復し、普段通りの生活を送っている。
「なあ、堂島。それ使ってて大丈夫なのか?」
数週間後。ゲームに復帰した俺は譲り渡したAKを使い続ける堂島に聞いた。
「ん?ああ、僕なら大丈夫ですよ。ちゃんと処置はしましたんで。」
そう笑う堂島の顔色はいつも通りだ。
そういえば、こいつの実家だか親戚は寺をやっていると以前聞いたことがある。処置とはつまりそういうことなのだろう。
「そのAK、過去になんかあったのかな?」
「ああ、いや、そういうのじゃないです。たまにあるんですよ。何もない所に悪い物が入っちゃうってことが」
「ふーん、いろいろあるんだな・・・」
「まあ、ホントに稀なことなんでそんな心配することではないですよ。」
不安が表情にでていたのか堂島がフォローを入れた。
ただ、今後中古品を買うときはある程度用心した方が良さそうだ。