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異世界帰りの最強勇者~祟り神の生贄となった妹を救うため俺は神を殺す

作者: WING

5月6日の文フリがコロナウイルスの為に中止になったためにこちらに投げました。

元々はもっと加筆しようと考えていましたが短編集で出す予定だったものです。

良かったら読んでいただけると嬉しいです!


評判が良ければ加筆し続きを連載しようと考えております。

 「──これでトドメだ!」


 光り輝く聖剣が魔王の心臓を突き刺し、魔王は倒れ灰となって消えた。

 ここは魔王城であり勇者と魔王の、世界の命運を賭けた戦いであった。

 そして先程勇者の持つ聖剣によって魔王が討伐された。

 数日にも及ぶ激戦だったためか、全員が満身創痍の姿となっていた。


「やりましたねヤイチ様!」


 一人の白い衣装に身を包んだ少女が勇者でる俺──片桐夜一へと声をかけた。


「あぁ、これで、これで元の世界に帰れる……」

「本当に、帰ってしまわれるので……?」


 彼女の名前はセリシア。聖女として俺の魔王討伐の旅に付き従った者の一人だ。


「帰るよ。やっぱり故郷が一番だからな」

「そう、ですか……」


 瞳を潤ませるセリシアの肩に小柄な少女が声をかけた。


「しょうがないよセリシア。ヤイチは召喚された勇者なんだから」


 名前はミリアで魔法使いだ。

 もう一人大柄な男がおり戦士のカインである。


「セリシア様、ヤイチは帰られるのです。我々には止める事は出来ません」

「ミリア、カイン……そう、ですよね……」


 そこでセリシアは俺を見て口を開いた。


「ヤイチ様! せめて、せめてパレードだけでも!」


 俺は首を横に振って断る。


「ごめん。俺には似合わないさ。だから──帰るよ。みんなには「故郷」に帰ったと伝えてくれ」


 ここで別れるのも寂しい気はするが、長居していは余計に帰り辛くなってしまう。ここで別れるのが正解だろう。


「ヤイチ、俺達の世界を救ってくれてありがとう」

「世界を救うのは勇者の役目だろカイン」

「そう、だな……寂しくなるな」

「きっとまた会えるさ」

「……ああ。元気でな」


 拳を付き合わせそして互いに抱き合い友との別れをする。


「ヤイチ……」

「泣くなよミリア。俺はいつも通り強気でいるミリアが好きだぞ?」

「ひっぐ……うぅ……うん……!」

「だから泣くなって」

「……ヤイチ!」


 ミリアが抱き着いてきた。

 そして俺の胸に顔を埋めて泣きだしてしまった。そんなミリアに俺は頭を優しく撫でてやる。

 少しして泣き止んだミリアは俺から離れると、それはいつも通りの強気なミリアに戻っていた。


「また会いに来なさいよ! 来なかったらこっちから会いに行くんだから!」

「おうよ!」


 最後にセリシアだ。慈愛に溢れたその瞳からは涙が零れ落ちていた。

 ゆっくりと俺に歩み寄ったセリシア。今は聖女などではなく。ただの一人の少女であった。

 俺の前に来ると立ち止まった。


「……ヤイチ様。本当は、気づいておりましたよね?」


 セリシアの言った意味は理解できる。

 だから俺も静かに頷く。


「ああ。俺を想っていてくれたのは知っているよ」

「なら!」

「でも応えられないんだ」

「どうして……」


 悲痛な表情となったセリシア。


「向こうに残してきた妹がいるから」

「……」


 セリシアは何も言えなかった。


「私はどうすれば……」

「新しい人を探してくれ」

「ッ! それは無理ですよ! だって、だってこんなにもヤイチ様の事が好きなのに! 他の人を好きになれなんて……」

「……ごめん」


 俺には謝ることしか出来なかった。

 そこで俺の体が光り輝き出した。そろそろ時間のようだった。


「ヤイチ様!」


 セリシアが俺へと抱き着いた。


「せめて私の気持ちだけでも」


 そう言ってセリシアは俺の唇へとキスをした。

 短いようで長く感じたキス。俺も少なからずはセリシアに好意を抱いていた。

 だからその行動がとても嬉しかった。

 そっと離れたセリシアの目にはもう涙が無かった。


「絶対、絶対に戻って来て下さいね。それまで私は貴方を待ち続けます。来なかったらこっちから会いに行きますから」

「わかったよ。ありがとう。最後にセリシア」

「はい」

「大好きだ」

「ッ!」


 そして俺は光の粒子となって消えて行く。


「ヤイチ様! 私も、私も大好きです! だから、だからいつか必ず、必ず戻って来て下さい!」

「──ああ。必ず戻って来る。来なかったら会いに来てくれ」

「……はい!」


 こうして俺は元の世界、地球へと帰還したのだった。

 セリシアは空へと消えて行く光の粒子を見て呟いた。


「ヤイチ様。世界を救って下さりありがとうございます。そして必ずまた」


 光が収まりゆっくりと意識が覚醒してゆく。辺りを確認するとどうやら神社の様であった。


「そうかここは……」


 目が覚めた場所は俺が召喚された場所、自宅から少し離れた所にある小さな祠の前であった。幸いにも人が通らない場所だ。

 そもそも俺の住む家は人里離れた山奥に存在しており人口百人程度の集落となっている。そんな集落で俺の家は先祖代々祟り神を鎮めてきた家柄で家族全員が『術』を使うのだ。残念ながら俺には術を使う力が無かった。家族以外にも術を扱う者はこの集落にいる。そもそもこの集落が異常なのだ。

 そんな事よりも俺は日が傾き始めた空を見上げた。


「やっと、やっと帰ってこれたんだ……」


 そして気が付いた。自分が勇者の装備をしたままだということに。

 魔王を倒すまでの旅は夢ではなく全てが現実なのだと物語っていた。


「マジか。そのままの恰好になってる。流石に着替えないとな」


 魔王戦の後だからか装備がボロボロであるが聖剣は今も神々しく輝いていた。


「こっちでは聖剣は使わないな」


 装備を脱いだ俺はアイテムボックスへと装備を仕舞った。仕舞ったのと同時に俺は衣服を取り出した。


「こっちの服を入れておいて助かった」


 召喚された際に来ていた衣類を見て俺はそう呟き急いで着替え自宅へと向かった。

 自宅前に着くと大きな門が待ち構えていた。この集落で俺の家が一番デカい。なので門構えだってあるのだ。その門を開け俺は足を踏み入れた。そのまま限界に向かい戸を開いた。


「ただいま~」


 俺が我が家を懐かしく思っていると奥から声が聞こえてきた。


「おかえりなさいお兄様。今日は帰りが早いですね?」


 出迎えたのは俺の妹である天羽雫(あもうしずく)であった。普段着の着物姿で玄関で正座をしている。久しぶりに会った妹を懐かしく思うのと同時に、二年も経っているのに姿が変わっていないのだ。それに……


「帰りが早い? 何かあったっけ?」

「……え? だって今日はお兄様が祠のお掃除ではありませんか」

「祠の、掃除……?」


 雫は何を言ってるんだ? 祠の掃除なんて……待てよ?


「なあ雫」

「なんですか?」

「今日って何年の何月何日だ?」


 どうして急に? 的な表情をする雫だったが答えてくれた。


「今日は2020年の7月20日です」


 俺が召喚された日? ってことは召喚された日なのか。


「ありがとう。掃除に行ってくるよ」

「あっ、折角です。私もお兄様に同行いたします」

「いや、大丈夫だよ。雫はゆっくりしていてくれ。それに父さんと母さんだってそろそろ帰ってくる頃だろ?」

「うぅ~、分かりました。お気をつけて」

「ああ。行ってくる」


 俺は家を出て祠へと向かった。人気も少なく俺は走り出した。


「うおっ!? 能力値はそのままなのかよ」


 どうやら戻ってきても身体能力は異世界のままなようだ。


「魔法はどうだ?」


 指先に火が灯った。次にスキルだ。


「――縮地」


 数メートル先に俺は移動していた。どうやらスキル関連も使えるようだった。

 この世界で俺は人外になってしまったかもしれない。家族や村のみんな達も俺が術を使えないことは知っている。だが、術とは対照的に俺は魔法を手に入れた。俺からして見れば術は魔法の劣化版、いわば陰陽術の様なものだ。今の俺からしたら全員が雑魚同然。全員でかかって来られても無傷で勝てる自身がある。

 走ると山の頂上付近の洞窟にある祠へと着いた。この祠こそが祟り神が封印されている祠だ。何枚もの重厚な扉があり祠までの道を閉ざしている。この扉は全部で四枚あり硬く閉ざされているのだ。この第一扉の前には小さな祠がありそこには封印が施されているのだ。


「はあ、掃除なんてめんどくさいな。そうだ」


 俺は手の平を前に向け魔法名を紡いだ。


「――ウィンド」


 風が巻き起こりゴミが浮かぶ上がった。そのまま一ヵ所に固めそのまま洞窟の外へと逃がした。


「ふう。これで綺麗になったなからもういいだろ。少しゆっくりしてから帰ろう」


 こうしてのんびりしていると日が傾き始め俺は自宅へと帰るのだった。

 自宅に帰ると案の定雫が出迎えてくれた。


「おかえりなさいお兄様。夕飯の準備がそろそろできます」

「ありがとう。父さんと母さんは?」

「帰ってきております」

「分かったよ。食べようか」

「はい」


 手洗いうがいをした俺が向かうと父時貞(ときさだ)と母志信(しのぶ))が座って待っていた。俺が座る隣には雫が座って待っていた。久しぶりに見る父さんと母さんの姿。


「夜一、早く座れ」

「分かったよ父さん」


 席に着いた俺達は夕飯を食べ始めた、食べ始めて少しすると母さんが俺に話しかけた。


「夜一」

「なに?」

「何か変わった? 雰囲気とか」


 恐らくは雰囲気が戦場の感覚のままなのだろう。俺は適当に誤魔化した。


「いや、気のせいじゃないか? 少し鍛錬していたからかもね。結構集中していたし」

「そう?」


 父さんも思ったのか俺に聞いてくる。


「だが夜一には力が無いはず。不思議だな」

「そうだな」


 その日はそんな会話で終わった。

 翌日。俺は雫と共に祠に来ていた。ただ単にお供え物と掃除だ。何故学校に行かないのかと思うが、この集落には学校は存在しない。ならどうやって勉強をしているのかというと、教材があるのである程度の年になったら勉強するだけだ。それでも俺と雫の知力は高校生より少し上程度には出来る方だったりする。


「あ、あのお兄様」

「どうした?」

「……いえ。何でもありません」


 雫の方を振り返ったのだが少し悲しそうな表情をしそう言葉を返された。

 何か悩みを抱えているのかもしれない。だが、雫が話そうとするまでは無理に問いたくはない。

 だから俺がとる行動は……


「雫。何かあったら言ってくれよ? 雫の為だったら俺はなんだってやってやる」

「……はい。ありがとうございますお兄様」


 ニコッと微笑んだ雫。俺は笑顔を守るためだったらなんだってしてやる。そう誓うのだった。



 それから何事も無くその日の夕食となった。夕食の途中、俺は雫の表情に違和感を感じた。無理やり笑みを作っているような感じなのだ。だが父さんも母さんも何も言わない。

 夕食を食べ終わり俺がリビングを出て行こうとしたのだが、父さんの声によって呼び止められた。


「待て」

「なに?」

「いいからここに座れ」


 父さんと母さんを見るといつもとは違い真剣な表情をしていた。一方雫の方はというと、顔を俯かせているために伺えなかった。どうやら雫のことについてらしい。

 しばらくの沈黙のあと父さんが口を開いた。


「――祟り神の封印が弱まっており三日後に封印が破られる。そのため封印が解かれる三日後。雫を生贄に捧げることが決まった」

「……今、何て言った?」

 聞き返した俺に父さんは再度口を開いた。

「三日後の7月23日。これ以上はもう言わない。分かったか?」

「……納得いかない」

「いい加減分かれ!」


 滅多に大声を出さない父さんが大声でそう言った。


「雫は『封印の巫女』なんだ」


 父さんから聞きなれない単語が飛び出た。『封印の巫女』? 俺は何も聞いてはいない。


「それに母さんはこのことに納得しているのか!?」

「……ええ。これが私達天羽家の運命ですから」

「そうか。なら雫はこれでいいのか? 死にたくはないだろ!?」


 俺の問いに雫は口を開いた。


「仕方ないじゃない。私は――養子だもの! お兄様の実の妹ではないの!」

「……は?」


 俺は雫の放った言葉を処理出来ないでいた。雫が実の妹ではない? 俺は何も聞かされていない。俺に何かを隠していたようだ。


「おい」


 低い低い地の底から発せられるかのような低い声。それは父さんへと向けられていたことに気づいていたようだった。


「落ち着け。元々話すつもりだった」

「……分かった」


 座った俺はそのまま父さんの目を見つめた。


「雫はお前が3歳の時養子に迎えたのだ」

「何処の子だ?」

「……わかない。だが家の前に捨てられていたのだ。引き取って育てているうちに雫が『巫女』の適性があることがわかった。ただの巫女ではない。『封印の巫女』だ。その封印の巫女は代々祟り神をその身と引き換えに封印してきているのだ。封印の効力は二百年。今回がその時なのだ」


 養子だということはまだ許そう。だがそれとこれは別なのだ。


「雫が養子だという事は信じ難いがわかった。だが封印の巫女に関しては別だ。それに祟り神ってなんだ? 俺は詳しく聞いた事が無い。教えて欲しい」


 俺の瞳を見つめた父さんは頷いた。


「そうか。少し長くなる。今から1200年前。奈良時代初期の出来事――」


 そう言って父さんは語りだした。

 奈良時代この地には誰も住んでいなかった。元々は他の場所、山の麓にて集落で暮らしていた。集落のみんなは平和に暮らしていたのだが、それは突如に終わりを告げることとなった。

 晴天の昼下がり、突如として空が雲に覆われた。人々が空を仰ぐと、雲が渦を描きうごめいていた。渦巻く雲の中央に出来た穴からそれは地に降り立った。長い首に大きな翼。縦に割れた黄金の瞳。その姿は神話に出て来る――『(ドラゴン)』の姿をしていた。名も無き災いの神――『邪龍』。邪龍は一瞬にして村々を滅ぼし人々を喰らった。絶望が広がる中、三人の救世主が現れた。その救世主こそ俺達天羽家の先祖であった。その救世主は邪龍と数日にも及ぶ死闘の果て、救世主である一人の巫女がその命と引き換えに邪龍を洞窟に封印した。

 その救世主の一族がその洞窟の管理者となった。


 だが封印は、二百年置きに生贄となる『巫女』を差し出さなければ効力が弱まってしまうという。そこで村々が集まりまり一つの集落としてその邪龍の封印を管理することになった。だが村には巫女がいない。封印の巫女には一種の力が存在しておりその力が『回復』と『封印』であった。だが時代が移るごとに救世主の血が集落の人々に流れるようになり、人々は『術』という力を使えるようになった。だが巫女の力は二百年おきに現れその際に生贄になってきたという。


「――という事なんだ」


 集落の人達が力を使える理由と祟り神、巫女に関して事情はわかった。静寂が部屋を支配し誰もが顔を下に向けていた。


「……そんな理由で雫が生贄に? 父さんと母さんはそれで納得できるのかよ!」

「……掟でもある」

「そうよ。じゃないと再び災厄が……」


 父さんと母さんは俯いた顔を上げない。


「――掟? そんなの関係なだろ! 雫は大事な家族だぞ! それでもお前等は雫の親なのかよ!」


 二人は無言。何にも言えないといった状況なのだろう。


「お兄様……」

「雫はそれでいいのか!? 一生がこんな終わり方をするんだぞ。俺は大事な兄妹が、妹がこんな死に方させたくはない!」


 雫が「でも……」と顔を上げ俺を見つめた。


「掟です。私は納得してますので」

「だがッ!」


 俺が言葉を続けようとしたが父さんによって遮られた。


「私だって嫌ださ! 大事な娘が生贄になるなんて!」

「だったら――」

「でも、それ以上に封印が解かれたらあの時以上に人が死ぬかもしれないんだ!」

「……」


 俺は父さんの言葉に何も返せなかった。一人の代わりに何十人、何百人が死ぬことになるのだ。


「お前は少し頭を冷やせ! 封印の儀式が終わるまでは拘束させてもらうぞ」

「親父!」

「久しぶりにそれで呼んだな。私だって辛いのだ。だが封印を解いてしまってはご先祖様に顔向けできないんだ。――許せ」


 そうして家の中に数人の人が入って来て俺は術によって身柄を拘束された。


「おいお前等! ここは人の家だぞ! 離せ!」


 抜け出そうと思えば拘束は抜け出せる。だがこんなところで力は使いたくはないのだ。

 そんな俺の叫びに現れ俺を拘束した人は申し訳なさそうに口を開いた。


「今日拘束するように頼まれてな。何かする前に拘束するように話していたのだ。それに私達もこの儀式だけは辛いのだ。分かってくれ……」

「クソッ! 雫!」

「お兄様! お父様、お兄様の拘束を解いてあげてください!」

「出来ぬ。今回だけはお前の頼みでも聞けない。許してくれ」

「お母様!」

「ごめんなさい」

「そんな!」


 父さんは村人の術師に告げた。


「連れていけ」


 こうして俺は連れていかれるのだった。




 少しして俺は古い一軒家へと連れて来られた。その家の中に鉄でできた檻がありそこに俺は入れられた。


「この檻は何人もの術師で強固に出来ている。力がないお前では抜け出すことは不可能だ。安心しろ。妹には合わせてやるから」

「……わかった」

「そうか。見張りは居るから抜け出せたとしても結局戻ることになる」

「ああ……」

「ではな」


 そう言って俺を拘束した男達は出て行った。残るは俺のみとなった。

 寝そべり天井を見上げ考える。

 抜け出したとしてもその後だ。取り敢えずは儀式当日までここで作戦を考えることにし、俺は早々に眠りにつくのだった。



 ――翌日。

 俺は一人の男によって起こされた。


「朝だ。起きろ」

「う、う~ん。あ?」

「何寝ぼけてる。ほら朝飯だぞ」

「あ、ああ」


 朝食を受け取った俺。食べながら色々と考える。


「儀式当時まであと二日後か……俺に出来ることは何か……」


 その日は考えるだけで終わった。

 そして儀式が行われる前夜。皆が寝静まった時に家の扉が開かれた。こんな時間尉誰だと思い視線を向けると、そこにいたのは――巫女姿の雫であった。


「お兄様……」

「雫か!」

「お静かに。こっそりと抜け出してきました」


 悪戯っぽい笑みを浮かべる雫だが、その笑みは何処か儚げであった。


「まったく……それで何しにここへ? それに外の見張りは?」

「外の見張りの人は少しだけ時間を頂きました」


 どうやら合うことを許してくれたようだ。そう言えば合わせてやると言っていたのを思い出した。


「そうか」

「その……」


 言葉に詰まる雫。


「怖いのか?」

「……はい」


 そう小さく答えた。無理もない。死ぬのだ。死は誰だって怖いものだ。俺だって向こうの世界で怖かった。今でも死ぬのが怖い。


「そうか。逃げたくはないのか?」

「正直に言ってしまえば逃げたいです。でも、私一人の犠牲で大勢を救えるのなら本望です」


 本当にそう思っているのだろうか? 俺には『嘘』だと感じる。いや、わかるのだ。長く一緒に過ごしてきたのだ。それくらいわかる。


「――嘘、だな」

「ッ!?」

「兄妹だろ。それくらいわかるさ」

「でも血は繋がって――」

「関係ない」


 関係ないとも。だって――血は繋がっていなくとも兄妹なのだから。


「だって兄妹だろう? 雫。本音を聞かせてくれ」


 俺は雫の目をみてそう言った。長い長い沈黙。数秒、あるいは数分だろうか? 雫は口を開いた。


「――死にたく、無いです!」


 そう言った雫の目からは涙が頬を伝って零れ落ちた。


「良く言った。なら俺は迷わなくて済む」


 俯く雫の、涙を俺は親指の腹で拭ってそう告げた。


「迷わ、なくて……?」

「ああ。俺はお前の為なら全力を惜しまない。持てる限りの力を使って全力で必ずお前を――助けてやる」


 その言葉に雫は顔を上げ俺を見上げた。


「でもお兄様には――」

「力がない、てか?」

「そうです。術は使えないはずです」

「――確かに術は使えない。だが――」


 雫の言う通り俺は術を使えない。だが、術とは違い遥かに強力な力を向こうの世界で、異世界で手に入れたのだ。


「――俺には魔法がある」

「魔法、ですか?」

「ああ。俺が術が使えない弱い兄とでも? 違うな。俺は――異世界の勇者だぞ」

「異世界の、勇者……?」

「そうだ。証拠にほら」


 俺は指先に小さな炎を灯した。


「お、お兄様、それは術、ではないのですか……?」

「確かに術とは似ているが違う。これが魔法だ。術とは違うんだ」


 雫は驚きのあまり固まっている。いつの間にか涙は収まっていた。


「そうだな。話すとしようか。俺が異世界で魔王を倒すまでの話を」


 雫は静かに俺を見つめ話を聞き始めた。


「あれはつい最近の事だ――」


 そう言って俺は話し始めた。俺が召喚されてから仲間達と共に魔王を倒すまでの物語を。

 召喚されてどれだけ死ぬ思いをしてきたか。どれだけ人の死を目の当たりにし、戦友の死を見届けてきたのか。これ以上死なせない為に血の滲む努力をしたのか。

 最終決戦がどれだけ辛かったかを。戻ってきたら時間が変わっていなかったことに。

 話を聞き終わる頃には雫の目から自然と涙が流れていた。


「――とまあ、こんな感じだ。救えなかった者達もいる。だけどその思いを託され俺は戦ってきたんだよ」

「そんな、思いを……」


 そんな中、玄関がノックされた。


「そろそろ時間だ」

「わ、わかりました」


 扉越しに聞こえた声に雫は返した。


「お兄様、ありがとうございました。さようなら」

「待て。これを持っていけ」


 そう言って俺はある物を雫へと手渡した。それはラピスラズリーがはめ込まれたネックレスだった。


「お兄様、これは一体……」

「宝石の名前はラピスラズリー。意味は『永遠の誓い』と『成功の保証』だ。まあ他にも意味はあるが」

「どうしてこれを……」

「雫、『お前が望めば俺は必ず助けに行く』と誓う。だからそれを持っていけ」

「分かりました。有難く頂きます。それでは」

「ああ」


 そうして雫は出て行ってしまうのだった。



 ◇ ◇ ◇



 ――儀式当日の正午。


「雫。準備いいか?」

「――はい」

「夜一に会ったのか?」

「……いいえ」


 父である時貞に雫は首を振ってそう言葉を返した。


「いいのか? 最後なのだぞ」

「はい。もう別れは済ませましたので」

「……そうか。では行こう」


 前夜に会ったことを察してか時貞と母志信は何も言わなかった。

 一行を引き連れて邪龍が封印されている洞窟まで向かった。

 道中は誰も口を開かなかった。そんな中、雫は首に付けられたネックレスを手に握り締め思う。

 兄はそう言っていたが実際は嘘なのかもしれないと。全て雫を安心させるための虚偽ではないかと。

 死にたくはないのは確かだ。でも、雫がやらなければ多くの人が犠牲になるのだ。

 それだけは避けたかった。父と母、集落の人達の想いに答えたいのだ。


「大丈夫、雫?」

「お母様……はい。大丈夫です」

「こんなことをさせたくなないの。でも……」

「分かっています。これも巫女の務めです」

「うっ、ごめんなさい」


 しのぶは目に涙を溜めていた。

 そんなこんなで一行は洞窟前へと到着した。


「扉は全部で三枚。二枚の扉を解放させる」


 父時貞の言葉に術師達は頷く。


「では――始めるぞ!」


 扉の封印解除の詠唱が始まった。数分もの長い詠唱が終わると重い音を響かせて扉が開門した。


「次だ」


 さらに次の詠唱が始まった。今度は先ほどよりも長い詠唱だ。


「――開門したまえ!」


 時貞の言葉に合わせて第二の扉が開門した。すると術師達がよろめいた。


「まだこれほどの力が……」


 邪龍から放たれる力によって顔を青くさせる者が出て来る。第三の扉を解放したらそこには邪龍が封印されている宝珠が祭壇に祭られている。


「第三の扉は雫。巫女の力を持つお前にしか開けることは出来ない。それに私達はここでお別れだ」


 時貞の言葉に雫は頷いた。


「はい。今までお世話になりました。この村を、集落を、お兄様をお願い致します」

「ああ」


 時貞の目には涙が溜まっていた。それは志信も同じであった。


「雫……」

「お母様も。今までお世話になりました。私はこの集落をお守りいたします」

「うっ……ごめん、なさい雫……」

「謝らないでください。私は二人の娘でいられて幸せでした」

「雫……」

「お父様、お母様、ありがとう」


 そうして第二の扉が閉められて雫は一人になった。その目には涙が溜まっている。袖で涙を拭った雫は扉を見つめた。


「では私の最後の役目を……」


 詠唱を始めた雫。第二の扉よりも長い長い詠唱だ。数十分もの詠唱が終わり扉がゆっくりと重い音を響かせて開かれた。

 扉の先は真っ暗ではなく、淡い光で満ちていた。それによって思った以上に明るかった。

 そして雫の視線の先には――大き目の祠があった。恐らくこれが祭壇なのだろう。術によって朽ちることなく綺麗に保たれていた。祭壇の中央には不気味に光り輝く黒い宝珠が安置されていた。


「あれが……」


 そう。あれこそが邪龍が封印されている宝珠だ。ゆっくりと祭壇に近づくと何処からともなく声が聞こえてきた。


『ほほう。今回は貴様が巫女か』

「誰です!」

『目の前におるだろう? それじゃよ』

 目の前、そこにあるのは――宝珠。

「邪龍……」

『その呼ばれ方は気に食わんがまあ良い。今回の生贄は上物だ。暴れる前に食事として美味しく頂くとしようか』

「今なんて――ッ!?」


 瞬間、気配が増大し宝珠にヒビが入り黒い漆黒の螺旋を描きながら天井を突き破った。そして――


『何故とな?。我は百五十年前に封印を解いておる。長きに渡りこの封印を破壊したのだ。それで力も元に戻っておる。――今までの恨み、晴らしてくれよう!』


 その強大なまでの気配、気配、気配! (圧倒的なまでの実力の差。宝珠が割れ――邪龍の封印が解かれた――否。邪龍によって封印は破られたのだ)150年前に壊したんじゃ…?。その瞬間、漆黒の噴き上がる螺旋のの中から出た黒い巨大な何かによって雫は掴まれた。


「きゃっ!」


 衝撃に声を零した雫。


『貴様は我の最初の贄となるのだ。喜ぶがよい』


 気が付くと雫は空中にいた。


「そんな……」


 雫は自分の存在意義が無くなってしまった。封印の巫女としての役目が出来なくなったのだ。それに封印が解かれた今、集落は邪龍によって滅ぼされる。

 眼下には突然噴き上がった漆黒の螺旋から現れた巨大な龍を見つめ、絶望の表情を浮かべる時貞達の姿があった。


 雫は昨夜、兄である夜一が言った言葉を思い出した。

『お前が望めば俺は必ず助けに行く』と。

 そしてネックレスを力一杯握って精一杯願った。


(お兄様、助けて……!)


 時貞達は突然覆った雲を見上げた。


「まさか……」


 困惑するみんな。


「封印が失敗に終わったのか……?」

「そんな! では雫は……!」


 志信も雫の事が気になっていた。すると突如噴き上がった漆黒の螺旋と強大なまでの気配。みんなが悟った。封印は失敗に終わったと。


「雫は!」


 すると螺旋が収束したそこには一匹の、巨大な黒い龍が黄金の龍眼にて睥睨していた。


「あれが、邪龍……」

「あなたアレを!」


 絶望で顔を俯かせていた時貞に志信の声が届き見上げ指を指す方を見ると、そこには邪龍に掴まれている雫の姿があった。


「雫!」

「お父様にお母様! 早く逃げて下さい! 邪龍は、百五十年前に封印を解いて力を蓄えていたのです!」


 生きていた雫からそんな報告がもたらされた。


「なんだと!?」


 時貞のみならず全員がその言葉に驚いていた。そして全員が膝を突き絶望の表情をしていた。


『その表情だ。我はその絶望の表情を待っていたのだ』


 低く腹の底から恐怖を起き上がれる声に顔を青くした。

 そんな中、何処からともなく声が聞こえた。その声は誰も聞いたことがある声であり、その声色は地獄の底、奈落の底から発せられたようなドスの効いた声だった。


「おいそこの爬虫類。俺の妹からその汚らわしい手を放せ」


 声と共にこの場にいる全ての者が悟った。これは――化け物だと。

 声の主の正体は薄い着物に身を包んだ――夜一の姿だった。



 ◇ ◇ ◇



 儀式当日。俺は瞑想していた。見張りはいる者の俺に声を掛けようとはしない。それは圧倒的なまでの集中力を見せていたからだ。

 そして俺は強大な気配を感じ取った。それと同時に頭の中に声が入ってきた。


『お兄様、助けて……』


 目を開いた俺は呟いた。


「ああ。勿論だ」


 そこに一人の術師が入ってきた。それは俺にではなく見張りへの言葉だった。


「大変だ! 空が!」

「なんだと!? では封印は……」

「恐らく……」


 そんな会話をする二人に俺は声を掛けた。


「なあ」

「なんだ!」

「ここから出してくれないか?」

「そんなことは出来ん!」

「そうか。仕方ないな」


 立ち上がった俺は檻に近づき、力づくで檻をひん曲げた。そんな俺の行動に驚くも武器である刀を俺に向ける。


「なっ! どうやって曲げた! それよりも大人しく戻れ!」

「そうだ! これは君の父からの命令なんだ!」

「そうか。そんなので俺は倒せない。悪い。妹が助けを呼んでるんだ。通してくれ」

「ダメだ!」

「そうだ!」


 ゆっくりと地数いた俺は向けられる刀を掴み――へし折った。「ほへっ?」と間抜けな声を漏らす二人に俺は言葉をかけた。


「通せと言ってる」


 ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえるも、俺は歩を止めない。そのまま外へと続く扉に向かうのだが、背後から……


「と、止まれ!」

「――何度も言わすな」


 振り返り一睨みすると二人は気絶してしまった。


「すまんな」


 そう言葉を残して俺は雫の元へと向かった。そして到着して俺が見たのは地面に膝を突く父さんと母さん達の姿と――龍に握られている雫の姿だった。

 その瞬間俺の中で何かが切れた音がし、空に佇む黒い龍に向かって口を開いた。


「おいそこの爬虫類。俺の妹からその汚らわしい手を放せ」


 そんな俺に父さんが声を掛けてきた。


「夜一、お前どうやってここに……? それにどうやって抜け出して……」

「そんなことはどうだっていい。俺は雫を助けに来ただけだ」


 邪龍が眼下にいる俺を見て口を開いた。


『貴様、この我に命令するのか?』

「命令しているのではなく、これは強制だ。俺の妹を返してもらうぞ」

『ふん。下等な人間如きが――ッ!?』


 邪龍は腕の違和感に気が付き見ると――眼前には雫を抱える俺の姿があった。


「確かに返してもらった」

『いつの間に!』

「さっきだよ」


 邪龍には俺の動きが見えていなかったようだ。デカいだけで大して強くないように感じる。そな中俺に抱えられている雫が口を開いた。


「お兄様……」


 雫は安堵した表情をしており目尻には涙が溜まっていた。


「よく我慢したな。お前の思いしっかりと俺に届いた」

「ッ……」


 ついに涙を零した嗚咽も漏らしながら俺の胸に顔をうずめ泣いていた。そのまま父さん達の元に着地した俺は雫を地面に下ろした。


「「雫!」」

「お父様にお母様、すみません、私、何も出来なくて……」


 そんな雫に二人は安堵し「これは私達のミスだ」と、雫に責任は無いと告げた。


「ほんとうにすみません。私のせいで……それにお兄様……来てくれたのですね……?」

「当たり前だ。それに雫はいつも強がり過ぎだ。少しくらいはお兄ちゃんを頼ってくれ」

「はぃ……でも流石にお兄様でも邪龍は……」


 雫の言葉に父さんと母さんが頷き口を開いた。


「確かにもう手遅れだろう。集落のみならず他の街までもが被害に……」

「避難も間に合わないわ……」

「……お兄様?」


 ただ邪龍を見つめる俺を不思議に思ったのか雫が声を掛けてきた。


「早く逃げろ」

「……え? お兄様も一緒に――」

『――消えろ』


 その瞬間、邪龍は俺達に向けられて黒い漆黒の極光が放たれ、俺はすかさず手を前突き出すと光の障壁が展開された。ブレスが障壁にぶつかった。周囲の木々が風圧で薙ぎ倒され、しばらくするとブレスが収まった。後ろを確認すると俺が張った障壁から後ろは無傷であった。だが父さんや母さん、他の面々達はブレスが収まり目を開け、正面に手を突きだし障壁を張る俺を見て口を開いた。


「い、生きている……?」

「あなた、夜一が」

「分かっている。これは術、なのか……?」

「術に似ているけども、明らかに違う力を感じるわ」

「確かに。力の正体は一体……」


 どうやらこれが術ではないと分かったようだ。そんな会話をする父さんと母さんに雫は俺の力の正体を説明した。


「あれは魔法っていうらしいです」

「……魔法? お伽話に出て来るあれか?」


 父さんの言葉に雫は「はい」と答えた。


「お兄様は異世界に行ったと言ってました」

「異世界?」

「はい。この世界とはまた別の世界。魔力を扱い魔法を使うそうです。そしてお兄様は召喚され勇者として二年間向こうで戦ったそうです。そして召喚された時と同じ日に戻ってきたそうです。信じるかはお父様とお母様次第ですが、アレを見ては信じるしかないでしょう」


 そう言って雫は俺を見た。


「信じ難いがこの光景を見ては信じるしかあるまい」

「そうね。でもいくら夜一と言えど邪龍が相手では……」


 三人のみならず他の面々も同じことを思っているようだった。そんなみんなに俺は振り返り口を開いた。


「俺が奴を抑えている間に早く集落まで逃げるんだ!」

「でも! それではお兄様が!」

「俺のことは気にするな。だって俺は――異世界を救った『勇者』だぞ」

「それでも!」

「そうだ夜一! 父さん達も一緒に――」

「足手纏いなんだよ! 分かったら早く逃げてくれ! 俺一人じゃこの人数は守り切れない!」

「――ッ! 分かった。必ず生きて戻って来るんだぞ!」


 父さんは悔しそうに唇を噛みしめていた。


「当たり前だ。雫も一緒に逃げるんだ」

「分かり、ました。お兄様、ご武運を」

「ああ。行けっ!」


 そうして雫たちは走り去って行った。残るは俺と邪龍のみ。逃げる雫達に攻撃しなかったことを邪龍に問うた。


「おい邪龍。あいつらに攻撃しないのか?」

『ふん。どうせすぐに死ぬ奴等だ。後で殺すのと最初に殺すのもそう変わらないだろう』

「そうか」

『貴様も我のブレスを防げたのはまぐれだろう。今度は殺す』

「出来るもんならやってみろよ?」

『下等生物如きが調子に乗るなよ!』


 そう言って再度放たれるブレス。威力も速度も先ほどよりも早い。だが――


「ふんっ!」


 気合一発。

 ――ブレスが真っ二つに裂け消滅した。手には神々しく輝く剣が。


『なにッ!? 切り裂いた、だと……?! それに手に持つその武器はなんだ!』

「聖剣だよ。それじゃ足手纏いがいなくなったことだ。――正義執行の時間といこうか」


 俺は不敵に口角を釣り上げ――駆けだした。


『潰れろ!』


 迫る邪龍の尾。それはまるで巨木をイメージするほど太かった。そしてそのまま――俺に直撃した。


『ふんっ。口ほどにもない。これだから下等種族は嫌なのだ』


 俺が死んだと思った邪龍はそう呟いた。


「――おい爬虫類。誰が下等種族だって?」

『なっ! 何故生きている! 我は確かに貴様を潰したはずだ!』


 邪龍は空中にいる俺を見て驚きの声を上げた。


「――人間を舐めるな」


 そうして俺は聖剣を振るった。それはそのまま光の斬撃となって邪龍へと迫り――腕を斬り落とした。


『ぐッ! 下等な人間がぁぁぁぁッ!』


 空中に展開される巨大な闇の塊。それには強大な力を感じた。闇の塊は地面に着地した俺へと次々と襲い掛かってきた。

 焦る事無く俺は聖剣を構え――振るった。すると全ての闇の塊は真っ二つになり霧散して消えた。


『……は?』


 邪龍から間抜けな声が漏れた。


「聖剣は魔を断つ剣。お前とこの剣の相性は最悪だ。残念だったな」

『だから何だ! これでも喰らうがよい!』


 邪龍は腕を振り上げると、その腕には闇が纏わり付いた。邪龍はその腕を俺目掛けて振り下ろした。

 すると三本の斬撃となって高速で俺に迫った。

 急いで障壁を展開すると直撃した。(全撃破)斬撃は?ここも修正案がいまいち謎なのでマーキング的な修正)消えることなくそのまま障壁を破壊しようと威力を増していく。ビキッと障壁から嫌な音がし亀裂が全体へと広がっていき――パリンという音を立てて破壊された。


「なんて威力だよ」


 ギリギリで避けた俺が背後を振り返ると、そこに数キロ先まで斬撃が続いていた。

 冷や汗が流れる。ブレスの時よりも威力が高い。少しでも避けるのが遅かったら俺に直撃していた。当たったら最後そのまま死ぬだろう。


『運よく避けたようだな?』

「そうかな? ならこっちからも面白いのを見せてやるよ」


 俺を片手を突き出し唱えた。


「――光の槍(ホーリーランス)!」


 すると俺の目の前には数十もの光の槍が出現し放たれた。

 邪龍に当たると思われたその槍は何かによって阻まれ消失した。


『そんな貧弱な攻撃では我には届かないぞ?』

「そうかな? お前も俺に攻撃が届いていないけどな」

『そう言っていられるのも今のうちだ。貴様と遊んでいるほど我も暇ではない』

「暇って、お前はただ暴れたいだけだろ? なら俺と遊んでくれよ。まあこっちは遊ぶ気なんてこれっぽちもないけどな」


 鼻を鳴らして笑ってやった。邪龍はその笑いが気に食わなかったのか何も言わずにノータイムでブレスを放ってきた。今回は太いブレスではなく細いレーザーの様なブレスだった。障壁を何枚も展開するもことごとく破られていく。


(不味いッ!)


 慌てて横へと跳躍し回避すると、先程まで居た所にブレスが通り過ぎた。そのまま向山まで一直線に伸びたブレス。直後にはブレスが過ぎた場所で大爆発が起きた。幸いにもブレスが過ぎた場所は集落とは反対側の山しかない所だった。人的被害は出ていないのがせめてもの救いだったことに安堵するも束の間、爆風が俺のところまで迫る。


「おいおい、何て威力だよ」


 手で顔を覆いながらも俺はブレスの威力にそんな声を漏らした。大した力を感じないと思っていたが違ったようだ。どうやら相当の化け物らしい。


(腐っても『神』が付く邪龍ってわけか……)


 俺は持ちうる力の全てを使い戦うことにした。そうでもしないとこの邪龍を倒せないからだ。


『先程までの威勢はどうした? 口だけなのか?』

「そんなまさか。全力で行かせてもうぞ」

『どれ、相手をしてやろう。来るがよい』


 どうやら邪龍は己が有利だと思っているようだ。


(今はそれでいいさ)


 俺はスキル『身体強化Ⅹ』を発動した。駆け出し邪龍の目の前に跳躍し躍り出た。


『空に飛んで動けまい。そのまま死ぬがよい!』


 俺の周囲三百六十度に槍状の何かが出現した。


『そのまま串刺しになって死ね!』


 邪龍の声に合わせて槍が俺に迫った。


「俺を舐め過ぎだ」

『なに!? 空を蹴った、だと!』


 スキル『天脚(てんきゃく)』。俺は空を足場として蹴って槍の合間を潜り抜け回避したのだ。そのままスキル『豪脚(ごうきゃく)』を使いスピードを加速させ邪龍へと迫る。


『ふん。だが我の障壁を突破することは出来まい』

「そうか?」


 俺は聖剣に力を籠め。


「――閃光・連斬!」


 聖剣を振るうと無数の光の剣撃が障壁へと衝突しては霧散してを幾度も繰り返す。繰り返すうちに障壁に一筋の亀裂が生じた。


『なっ!? まさか!』


 亀裂が生じたことに驚く邪龍だったがついに障壁が破壊され、俺は笑みを浮かべ邪龍へと迫った。


「これで終いだ!」

『甘いわ!』


 すると邪龍の尻尾が俺へと迫り、さらには強大な闇の塊までもが出現した。だが――俺の笑みは崩れることなく余裕の笑みを浮かべていた。何故なら――


「勇者を舐めるな! ――神聖領域(セイクリッドゾーン)!」


 瞬間俺から聖なる光が爆発するかのような勢いのまま広がった。それは邪龍までもを包み込み、強大な闇の塊は消滅した。あとは迫る尻尾のみ。だが――一閃。迫りくる邪龍の尻尾がきれいに切断され消滅した。


『ぐッ! 何だと!? それにこの光は神にも近い光! 貴様は、貴様は一体何者なのだ!』

「言ったろ。俺は――『勇者』だと。さらばだ邪龍。俺の全力を持ってお前を殺してやる」

『まだだ! まだ負けてはいない! 我は最強の龍なのだ!』


 放たれる極大のブレス。俺も天に掲げ聖剣に言った。


「――聖剣よ。俺に応えろ!」


 俺のその言葉で聖剣が強く光り輝き天にまで届く長い光の剣となった。


「――

聖なる(セイクリッド)断罪(ジャッジメント)


 俺はそう呟いて聖剣を振り下ろした。そのまま聖剣は邪龍を真っ二つに切り裂いた。切り裂かれた邪龍はそのまま地面へと体を隅から消滅させていきながら墜落していく。


『ぐぉぉぉぉお! 許さん! 我は貴様を許さんぞ!』


 そんな捨てセリフを吐く邪龍に俺は言ってやった。


「これは神の光だ。お前は復活できない。消滅するんだよ」

『そんなことがあってたまるか!』

「ドンマイだな。どうだ? お前が言う下等な人間に見下される気分は? さぞ愉快だろうか。俺は愉快だぞ?」

『クソガァァァァァァッ!』

「さらばだ。古の邪龍」


 そうして邪龍は霧散して完全に消滅するのだった。邪龍が消滅するのに合わせて空が晴れ日の光が差した。


「正義執行完了だ。さて、戻るか」


 こうして俺は集落へと戻るのだった。


 集落に戻るとみんなが俺の到着を待っていた。


「お兄様邪龍は!」


 そんな雫の問いに父さんと母さんのみならず集落の全員が聞きたそうにしていた。俺は答えるために口を開いた。


「――しっかりと仕留めた」

「と言いますと――」

「もう二度と復活することは無い」


 そんな俺の言葉に一同は笑顔で喜んだ。中には抱き合う者までいた。そんな集落全体が歓喜に満ち溢れる中、父さんと母さんが俺に歩み寄ってきた。


「良くやってくれた。お前には感謝しかない」

「ありがとう夜一。本当に無事でよかったわ……」

「ああ」


 そこにゆっくりと雫が歩み寄ってきた。その目には涙が溜まっていた。俺の目の前まで来ると――俺に抱き着き涙を流しながら。


「本当に、本当に無事で良かったです、もしもの事があったと思うと私は心配で心配で……」


 そんな雫の頭を撫でながら俺は雫に。


「しっかりと戻ってきたんだからもう泣くな」

「うっ、は、はぃ……グスッ」

「生贄はいらなくなった。雫は――自由なんだ」

「はぃ……ありがとう、ございます……」


 それから少しして泣き止んだ雫。俺は父さん達と向き合った。集落のみんなはそんな俺達を無言で見ていた。


「父さ――いや。親父」

「なんだ?」

「この集落はそのままなのか?」

「……ああ」


 なら、と俺は気持ちを打ち明けた。


「俺は――向こうの世界に戻りたいと思う」

「そうか」


 父さんはただそう言って俺の話を聞いていた。だが、雫は突然の俺の言葉に「え?」と目を丸くしていた。


「向こうには仲間が、戦友たちがいるんだ。いいか……?」

「……お前がそうしたいならそうしろ。俺は何も言わない」

「ありがとう」


 母さんをみると静かに頷き「したいようにしなさい」と言って微笑んだ。だが、雫は違った。


「お兄様……」

「なあ雫」

「はい」

「良かったら――雫も一緒に俺が救った世界に行かないか? 楽しい仲間達を紹介してやる」

「……え? でも私には巫女という役割が――」

「そんなものはない」

「お父様?」

「そうよ。雫のしたい事をしなさい。私達は雫にこういった役目を押し付けてしまったのだから。止める権利はないわ」

「お母様……」

「そう言うことだ。雫の好きにしなさい」


 父さんと母さんはそう言って優しく微笑んだ。そして雫は頷き俺の目を見て言った。


「お兄様、私も連れて行ってください! お兄様が見た世界、救った人達を見てみたいです!」

「ああ! 勿論だ! 一緒に世界を回ろう」

「はい!」


 そして雫は父さんと母さんに抱き着いた。


「お父様、お母様。私をここまで育ててくれてありがとうございます。何も恩返しができていませんが……」


 雫の言葉に二人は「気にするな」と告げた。二人の目には涙が。


「はい。お父様、お母様、大好きです!」


 三人は抱き合って涙を流した。しばらくして父さんが俺を見て。


「しっかりと守るんだぞ」

「まかせろ。俺は勇者だ」

「そうだったな」


 無言となった。話すことはもうない。別れの言葉なんていらない。だって俺達は――家族なのだから。


「――じゃあ」

「ああ」

「元気でね」


 二人は優しく微笑んだ。


「雫」

「はいっ!」


 俺の腕を取って嬉しそうにくっ付く雫。


「それじゃあ――」

「「行ってきます」」


 俺は自然と涙が零れていた。


「「行ってらっしゃい」」


 二人の見送りの言葉を聞き届けた俺と雫は、光の粒子となって空へと溶けるようにいして異世界へと渡ったのだった。





(END)

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― 新着の感想 ―
[一言] そこそこ楽しめたけど誤字脱字なんとなくおかしいところがいっぱいでした… あと普通に妹連れていけるなら最初に別れずに連れて帰れよって突っ込みいれたくなりました…(´・ω・`)
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