興味
古今東西部活動というと様々なものがある。1度は聞いたことのあるメジャーな部活から、そんなものがあるのかと言ってしまうような部活もある。
睦月大渡が属するのは多くの場合後者に当たる部活動だ。
『特撮同好会』
という、よくもまあそんなものが部活として許諾されたなと言われんばかりの部。
大会も無ければ論文を書いている訳でもない、部誌や部新聞の発行もしていない。いくら学校が生徒の自立性を尊重すると銘打っていてもこの調子じゃあどこかしらから苦情が来そうだと大渡は考える。ちなみにどこから苦情が来るのかは大渡は考えていない。
文化部室の比率が多い、というより文化部室しかない第二西棟の三階の左端からも右端からも三番目。即ち真ん中の部屋が部室となる。
引き戸に掛けられたプレートには『特撮同好会』の文字が手書きで書かれており、その下にやや小さく「新規入部大歓迎!!」という文字が付け足されている。
「失礼しまーす」
一声断りを入れてから入室する。
通常の教室の三分の二程の部室は所狭しと特撮グッズが並べられている。
入って右の棚には変身アイテムやソフビ人形や合体ロボなんかが幾分の狂いなく芸術作品かの如くして外箱入りで綺麗に整列させられており、反対側の棚にはヒーローショーや映画のパンフレットが博物館の展示のような陳列ぶりを見せている。
「うん、睦月も出席。ありがとうね」
「あ、睦月」
長い机が二つ四つ繋げられ、いくつかの回転椅子の並んだ会議室のような卓の最奥に座っている部長、速波 空がファイルの書類にチェックを入れながら対応してくれた。彼女こそがこの特撮同好会の部長だ。
続けて大渡の名を呼んだのは隣のクラスの清水、挨拶こそしてはいないが奥の方ではサングラスを頭に着けた森満が換気扇の下、食玩プラモに塗装を施している。
とここで大渡も部活としけこもうとするが、ここで問題が発生。
「(……よく考えると俺がやること無え)」
基本的にこの部活は明確な路線が無いため、特撮関連の議題を決めて論じ合うようなことがない限りは各々が何かしらして時間を潰すようなスタイルとかっている。
しかし大渡はこの日するべきことを準備していなかった。
かといって、部室には備品として沢山の特撮グッズが存在しているので何も無いという訳でも無い。備品で遊ぶだけで時間は十分に潰れるのだが…大渡は既にほぼほぼ満遍なく遊んでしまった為に「久しぶりにこれを〜」とかの状態にならない。
「困ったぞ………」
「何が?」
思わず心の声が漏れ、空に聞かれた。
「いやその………やる事ないから…あはは」
「ああ…睦月最近レポート多かったらしいし、忘れてても変じゃないよね…」
「うん…………」
下手に責めない辺り、空の優しさを感じる。
…………と、ここで大渡の脳裏に一つの話題が生まれた。
「なあ、空って……」
「?どうしたの?」
言って、大渡はスマートフォンを制服のポケットから取り出し、その中の写真を見せて聞く。
「こんな騎士、見た事ない?」
そこには大渡や水原が最近興味を示している件の鎧の騎士が写っている。
「うーん…………あっ、何回かあるよ」
「あ、ある?…ちなみに、いつぐらいのこととかっていうのは…分かったりとか……?」
「えーっと…多分最初に見たのが4月くらいで…その時からちらほら見てて…最後に見たのは多分3日前…かな……?」
「そっか…清水はどう?」
「それは………あ、俺も何回か見たことあるな。最初に見たのは速波と同じくらいでー……あーでも、最後に見たのは1週間くらい前」
「なるほど………」
と、再びスマートフォンに目を落とした時。
「俺は今年の一月に見た」
「うおわっ!?」
さっきまで塗装作業をしていたはずの満が、背後から大渡のスマートフォンを横目で見つつそう言ってきた。
(ちなみに他人のスマートフォンを覗き見るのは非常識と思われるのでやめておきましょう)
「やめてくれよ満………」
「んあ、ごめんごめん」
やや震えた声で言う大渡に対し、分かっているのかどうなのかというような態度で返してくる満。罪の意識とまでは行かないが少しくらい声色変えて欲しいと思うのは思い過ぎだろうか。
「じゃなかった、満、今言ったことについて教えてくれないかな」
「言ったことそのままだ」
「差し支えなければ簡潔に纏めて言って欲しい」
「今年の一月にそいつを初めて見てから、昨日までにほぼ毎日と言って問題ない程度の高頻度でそいつを目撃してる」
「…………わーお……」
とてつもない証言頂きましたいやほんと。この事は橋月や水原に是非とも報告せねばならない。
なんてことを考えていると、
『凶暴化した魔物が目撃されました、下校する生徒はなるべく速く、実力のある生徒と共に帰宅するようにして下さい』
という、平坦な声の校内放送が流れた。続きエリアメールタイプのメッセージがスマートフォンに通知される。メッセージには魔物の目撃情報や予想される出現場所が記されており、これを使うことで生徒は安全なルートから帰宅してゆく。
「あちゃー…まあ仕方ないな」
「退散退散」
清水と満がさっさと割り切って帰り支度をし始める。
「僕らも早く帰ろうか」
「ああ、そうだな」
空に言われ、椅子を片付けてリュックを背負い部室を出る。
「よお大渡」
「あれ、水原か」
下駄箱で水原と合流する(偶然と思われたがどうやら水原のほうは大渡を探していたそう)。
ちなみに立ち話などしている場合ではないので当然靴を履きながらの会話。
「どうしたんだ、こんな時に俺を探してただなんて」
「いやさ、魔物が出るって言うなら例の騎士が見れるんじゃないかって思って」
「確かに見れるなら見てみたいけど…危ないだろ。何も危険を冒してまで見るものでもないし」
「正体とか…気にならないのか?」
「……そう言ってくるのは卑怯だろ」
そんな言い方をされると、途端に興味をそそられてしまう。確かにあの騎士の正体について興味が無いと言えば嘘になるが、それよりも魔物との遭遇を回避する事の方が遥かに優先順位は高い。
「そういうとこを踏まえて、だ。睦月今から時間ある?俺の家来て欲しいんだけど」
「どういうことを踏まえてそうなるのか疑問だけど一応ある」
「よし、決まりだな」
「俺はまだ行く行かぬすら言ってないんですけどねえ!?」
「じゃあ聞くけど来るの来ないの」
「行くわ」
話し過ぎた故に走り続けて水原宅まで向かい、正直少々疲れたことは心の中に留めておこう。
学園寮に住むか否かは個人の自由な為に、近場に家のある生徒は自宅から通学する者がほとんど。水原も例外では無い。
「ちなみに今日親居ないから」
「一体その情報はいつ役に立つのやら」
親は居ないと言われたが、他に親族の方がいらっしゃるかもということでお邪魔しますは欠かさない。
二階のいくつかの部屋のうち一室が水原の部屋の様だ。部屋はそこそこ片付いており、机の上には様々な工具が散らばっている。
「こいつを使って探すことにした」
水原は机の横の棚に置かれたドローンを持って見せてくる。全長は凡そ15cm程度、やや小型のそれ。
「高かったんじゃないのか、そんなの」
「そう思うだろ?実は先日ジャンク品を安く買ったんだよ、今朝ようやく修理と改良が出来た」
率直に驚いた。玩具弄りが趣味と言うのは知っていたが、まさかこんな事までしてしまうとは。
「修理っていうのはまあ分かるけど…改良?」
見たところ、市販品と差して変化はないように思える。強いて言うなら小型カメラが付いているくらいだろうか。
「カメラは修理品、改良っていうのはまあ…護身、かな?」
「護身?」
「ん、【火炎玉】級の魔法を撃てるように改造したんだよ」
「こんな複雑な機械の中にか?」
………何処まで俺の中のイメージを覆して来るんだ、水原。
「話は以上だ、早速飛ばして例の騎士を探してみようぜ」
「了解」
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