邂逅
やっと書けましたね…エタらないようにしたいです
睦月大渡は急いでいた。普段ならば彼はここまで急ぐことは無い。なんならゆったりと「あー今日も平和だなー」なんて言いながら散歩気分で帰路についているくらいだ。
だが、今日の彼はそうでは無い。否、そうせねばならないのだ。
全力ダッシュしつつ魔法で限界までリュックサックを軽くし、知っている限りの近道を使って下宿先へと駆ける。高校から僅かな期間しか住んでいない街だが、自分はこういった事は覚えがいいのだ。
「はあっ…はあっ…えーっといつも書くのが5枚、それを補って書くと…10枚は超えるかな……っと危ない」
提出書類の枚数を計算しつつしっかり周りを見て帰る。
1分程度うとうとしていたのならまだしも、二限ぶっ通して眠っていたというのだからもうどうとも言えぬ問題である。
「……っはあ!…はぁ………」
一息つこうと1度止まってみると、ポケットに違和感を覚えた。
急いでいた為に気が付かなかったが、どうやらスマートフォンが震えている。
それもメールや電話ではなく、一定時間継続して鳴る、政府や自治体からのお知らせのタイプらしい。
…しかし、何か特異なことがあったのだろうか…?
「…分かんないけど、取り敢えず見てみるか」
カバーを開き、文面を確認する。
『凶暴化した魔物の目撃情報、並びに襲撃被害と通達』と、題に。
「え……………?」
目を通した数瞬、大渡は理解が追いつかない状態に陥った。
エリアメールタイプの通知が来ただけで既に只事ではないが、実戦においてほぼ戦力でないに等しい自分自身の能力を加味すると、不味いどころの騒ぎでは無い。
「……でも、そんな放送、あったっけ………?」
いや………校内放送でそのような趣旨の話があった気がしないでもない。増加した課題の事に気を取られ、慌てて行動したのが裏目に出たか。
しかし、こうなった以上自分に出来ることと言えば。
「……すぐに、帰らないと」
実戦が脆弱となれば、遭遇したとて太刀打ちできるはずもない。ならばさっさと家に帰り、警察の対策班なり自衛隊の特別課が動くのを大人しく待つ他にない。
「そうと決まれば────────」
瞬間、大渡を衝撃波が襲った。
「──は」
状況を飲み込むより先に、身体が地面に叩き付けられる。飛ばされた時にリュックは数メートル先に転がっていた。
衝撃の主を突き止めんと、当たりを見回し───────
「………っ!!」
遭ってしまった。
どす黒く染まり、目や血管のような線のみ不気味な程赤く輝いた、猪と人を取り合わせたような図体。
そんじょそこらの魔物と違うことなど大渡ですらも分かるような、絵に書いた危険な魔物だった。
「──、───!」
文字に起こせないような複雑怪奇な声を上げ、魔物がこちらを見据えて歩んで来るのが分かる。
「……っ、【火炎玉】…っ!」
基礎的戦闘魔法、炎の応用形。炎を球体に圧縮し、対象に打ち出す魔法。とはいえこれも幾らか簡単な部類、むしろ出来なければ辛い。
「……………」
当然と言うべきか、魔物にはまるで効いていない。火球が身体に当たる事も意に介さず、獲物へと躙り寄って来る。
「その場しのぎにもならねえか…!【一時速走】っ!」
身体強化魔法を脚に付与し、一時的に加速させる。急いでリュックを掴み、魔法が持続する間ひたすらに走る。
距離を取れば、それだけ相手が自分に近寄るまで間が出来る。その間にトラップでも組めればいいが、回路を組んでいる暇はない。となれば曲がり角を利用して撒くのが最善か。
「───、──!!」
そう考え、角を曲がろうとした瞬間、魔物が衝撃球をこちらへ投擲して来た。
「………っあ!」衝撃球が足元で炸裂、強い衝撃を受けて転倒してしまった。
脚に鈍い痛みが走り、再びリュックを手放してしまう。
先程までと同じならば、一時速走を使って再度逃走ができる。
…だが、それはあくまで先程と同じ状態にある時の話。
今の大渡には、衝撃球の衝撃波による片脚へのダメージというハンデがある。少なくとも、先程までのように逃げる事など叶わないだろう。
「いっ………てぇ……!」
「──!、──…─!」
だが当然魔物はそんなことに構いはしない。暗いオーラを放ちながら、大渡へ刻一刻と近付いて来る。
「【火炎玉】っ!」
焼け石に水程度の力だとは重々承知ながらも、魔法による抵抗を続ける。次から次と火球を飛ばし、どうにか敵が気絶する程度の決定打を与えられないかと足掻く。
放たれた火球は全て魔物に命中し、炸裂する。少ないながらもダメージを与えられていると信じ、大渡は抵抗を続ける。
────────しかし、抵抗は無意味に終わった。
「…!がっ……んぐっ…!」
魔物にとうとう距離を詰められ、首を掴まれてしまったのだ。
「んのっ……かっ……ぁ!」
当然ながら人間、それもまだ学生が刃向かえる程のヤワな力では無い。こうしている間にも首にかかる力がどんどん強くなっていく。
「っく、がはっ………んあっ……(もうダメだ、意識が………!)」
もはや助からない。絶望に覆われ、諦めかけたその時。
「はああっ!」
「──────!、────!?」
何者かに攻撃され、魔物が吹き飛ぶ。同時に大渡の身体は開放された。
「…かはっ!げほっ、げほっ………たすかっ、た………?」
地面に横たわった状態から上半身を起こし、そして、大渡は見た。
──────────自らの前に立つ、薄灰色の鎧を纏った者の姿を。
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