66.冒険者の立ち位置
よろしくお願いします。
「では、最後の議題に移らせていただきます。4番目はドルトミン市から隣国ヴィアインドーバとの協定についてデイツ・マグワイアギルド長より報告があります」
「デイツ・マグワイアだ。ドルトミン市の前冒険者ギルド長が、魔物に襲われ身罷られたので急遽、私が務めることとなった。ギルド長としてどころか、冒険者としての経歴も浅いがこの場を借りてご挨拶申し上げる。元は王国の騎士をしており、ドルトミン市へ派遣された一個大隊を預かる身だ。冒険者としての礼儀をあまり知らないこともあるので、先ほどのような場合には率直な意見を伺いたい」
屈強な男は、肩をいからせながら鼻息荒くまくし立てる。横に控えた事務官が可哀そうなほど真っ青になっているが、止められないのだろう。
「現在、隣国ヴィアインドーバとは停戦中ではあるが、先日あちらが魔物の大群に襲われた際に、こちらへと不自然な誘導があり抗議を申し入れている。向こうからの返答は言いがかりだ、とのことで、一触即発のにらみ合いが続いている次第だ。そもそも停戦条約であるデフォンタ地域の開放も見られず、近々、停戦破棄の可能性もあり、油断ならない状況にある。冒険者ギルドには、その折人を提供いただきたい。また、こちらからも依頼をだすので積極的に参加を呼び掛けてもらいたい」
「依頼を出されるのは構わないが、これはドルトミン市のみでの依頼になるのか?」
「いや、国王との連名だ。できれば、この場でおおよその数を知りたいところではあるが」
「冒険者個人の意見もありますので、すぐにいくつとは答えられませんわね」
「同じく。冒険者は兵士とは違うからな」
マグワイアの言葉に、レンスとベルクがそれぞれ答える。俺は静かに息を吐くばかりだ。
「国王の名を出しても難しいのか?」
「あなたも冒険者が付け上がっているとおっしゃられる口ですか?」
レンスが片眉を上げて問えば、マグワイアはううむと唸った。
「これだけ言って積極的な参加が見込めないのであれば、そう取られても仕方ないのでは?」
「小僧がいたるところで、悪行を広めるから儂らが苦労する」
「一概に俺だけのせいとは言えないだろう。老害もいるわけだしな」
冒険者がつけあがっていると言われる一端は俺にあるだろうが。
前国王の数々の依頼や要請を蹴って、フェーレン市の貴族どもをたたき出し、冒険者天国と呼ばれる市を作り上げたのは俺だからな。
その後、現在の国王と和解し、フェーレン市は冒険者ギルドとともに戦争などいかなる場合にも強制的な参加はさせないとの約束をもらった。
依頼されれば、できる範囲で協力はするが、それも本人たちの気持ち次第である。
だからといってすべて俺のせいだと言われても困る。
「小僧め、減らず口ばかり叩きおって…まあ、いい。時期はいつぐらいになりそうだ?」
「早ければ、今日明日にでもといったところだ。向こうも焦っているようでな」
「あら、もしかしてフェーレン市で結界が揺らいだことと関係があるのではありません?」
「はあ? なんの言いがかりだ?」
レンスの言葉に俺が顔を顰めれば、ベルクがああ、と納得したように頷いた。
「そもそも隣国ヴィアインドーバが、なぜドルトミン市から侵攻しないかご存知? 後ろにフェーレン市があるからですのよ」
「さすがに、隣国も『眠りのクロゥ』を起こすのは怖いらしい。どこまで攻めればこいつが出てくるか、試しながら攻めてきておったが、今回深淵の大森林の結界が揺らいだからな。小僧の力が弱まったか、何かのトラブルに巻き込まれたと思われたのでは?」
「なんだと?」
マグワイアが目の色を変えて、机から身を乗り出してくる。
「つまり貴殿が戦場に出れば、向こうも手出ししないということか?」
「そんなものはこいつらの妄想だ。たとえ、何かの抑止力になっていたとしても、俺には興味がない」
「興味の問題かっ」
激昂した男の声と切羽詰まったレミアルの声が重なったのは同時だった。
『クロゥくん! マヤちゃんが攫われちゃった!!』
はあ? どういうことだ?
マヤに手を出す愚か者がまた現れたのか?
俺の頭は一瞬にして、沸点に達した。
今までのイライラなど吹き飛ぶほどの激昂だ。
「少し用事ができた。ダグ、後を頼む」
「わかった」
「なっ、待て! 話はまだ終わっていないぞ」
俺は吠えるマグワイアを無視して、転移した。
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