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3.魔王退治の真実

引き続きよろしくお願いいたします。


二時の鐘が鳴り響くのをぼんやりと聞きながらベッドの上で、上半身を起こす。


俺の寝床は最高級に包まれている。ブフの毛皮の毛布に上質のドルル鳥の羽毛布団、シーツはゲザー蜘蛛が紡いだ滑らかな手触りの織物だ。枕は変質魔法で編み出したスポンジ製の低反発素材を詰め込んだ。柔らかすぎず固すぎない眠りにやさしい枕だ。


だが、物足りない。


まだ世界のどこかには、これ以上の素材が転がっているのかもしれない。俺は期待を込めてベッドから降りた。


俺の寝室には広いベッドが置かれているだけの簡素な部屋だ。そもそも寝るだけの部屋に余計なものは必要ないと突っぱねたからなのだが、カーテンにはこだわっている。


目に優しいモスグリーンは、癒しにもなるのだから。素材はマヤルートの毛を丁寧に織り染めたものだ。


満足して部屋を一瞥すると、メッセージが空中で光った。

黒の背景に白文字が浮かぶが、俺にしか見えていない。一種の魔法だ。


『Toクロゥ

起きたら、至急ギルド長室まで来られたし。

Fromダグ』


ああ、仕事だ。


俺はうなだれつつ、転移魔法を唱えた。




・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・☆・・・・・




ギルド長室に顔を出すと、部屋には3人の姿があった。


大柄な美丈夫で優男のダグラス。俺を呼び出したのもこいつだ。

緑色の髪は短いが前髪だけ一房長く横に流している。琥珀の瞳は穏やかに周囲に向けられている。

右耳には俺と同じく銀のイヤーリングをつけている。


俺の幼馴染みで兄貴分のポジションだ。年は1つ違いの26歳。その面倒見のよさから、今では俺の片腕としてフェーレン市冒険者ギルド長の補佐についている。


もう一人は長身の青年だ。藍色の髪をオールバックになでつけ紅玉の瞳を細めて俺に頭を下げている。細身だが弱々しさは感じさせない。

彼は魔族のデミトリアス。悪魔の中でも高位であるため存在の圧力が桁違いだ。

たいていの人間は彼を遠巻きにするほどだが、かなりの美形に分類されるため人気は高い。


人を惑わすことが仕事の悪魔は、美貌が命なんだそうだ。

確かにこの市長館には、様々な悪魔が働いているが、彼らも一部を除いて整った容姿をしている。

種族の違いと言われてしまえば、頷くしかない。


最後は先程の獣人を預けた俺の秘書のアリッサだ。正確には市長付き事務補佐官で、かなり優秀。いつもかっちりとしたスーツを着ているが、冷たいとか近寄りがたい印象はない。ふんわりとした微笑を浮かべているからだろうか。

人に恐れられない雰囲気は、心底羨ましい。


悪魔を筆頭に魔族は魔力量で力の優劣を決めるため、みな、魔力に敏感だ。特に俺の魔力量は相当なものらしくたいていの魔物や魔族は寄ってこない。

平然としているデミトリアスが珍しい部類に入る。


だが、魔族の彼に言わせれば、人間のほうが珍しい感覚をしているという。これほどまでに駄々洩れている魔力を感じて平気な顔をして傍にいられるほど鈍感なのがいっそ感心するほどなのだそうだ。

そうはいうが、俺の周りには顔が怖いという理由でほとんど人が近づいてこない。無意識に他者を威圧する魔力量だからかもしれませんね、とデミトリアスは楽しそうに笑うが、俺は落ち込むばかりだ。


まあ、そんなわけで、市長館には魔族と人間が仲良く働いている。


「で、起きて早々に何の用だ」


3人を見渡せば、ダグラスが苦笑した。


「言っておくがお前が連れてきたんだからな?」

「どういうことだ?」

「先ほど市長が連れて来られた少女ですよ」


ダグラスの言葉をアリッサが引き継いで説明した。


「犬の獣人だろ。珍しくもない」


なぜか、悪魔に目をつけられていたようだが。

元の場所に戻せばそちらのほうで対処するだろう。

俺はこれ以上関わって、余計な仕事を増やすつもりはない。


「マイ・ロード、それは余りなお言葉です。彼女は銀狼で、人狼の中でも特に大切にされるべき存在ですよ」


俺の内心はふーんとしか思えない。だが、それを口にすればデミトリアスの長い講義が始まるのは目に見えている。


「まったくあなたという方は相変わらず魔王という地位に誇りがないので困ります」

「いや、俺は仮にだからな。相応しいやつがいたらいつでも譲るから。そもそも、人間が魔王になるっておかしいからな」


そうなのだ。なんの因果か、うっかり魔王を斃したら魔族の頂点である魔王というわけのわからない仕事を押し付けられる羽目になったのだ。


大体、よく考えてみろ。

魔王を斃しただけで次の魔王になったら勇者が魔王になってしまうじゃないか。


今までの歴史でそのような事態になったことなど聞いたこともない。


なのに、熱心に目の前の悪魔が魔王を斃した者が次の魔王になるのだと言い張るので、このような仮の魔王という立場になってしまったのだ。


思わず胡乱な瞳を向けてしまう俺は悪くない。


「では前魔王を斃さなければよろしかったのです」

「あれは成り行きで仕方なかったんだ! 俺の本意じゃない」


アンデッドにされた仲間たちを弔おうとして使った浄化魔法で魔王がやっつけられるとは誰も思わないだろ。浄化だと思っていたのに、まさか威力が増し、精製を発揮して純粋な物質として変換してしまうだなんて。


だが、その真実は墓場まで持っていく案件だ。知られればデミトリアスが騒ぎたてるのは目に見えている。


「では、やってくる魔族なりに譲ればよろしいのでは?」

「あいつらはこの街ごと破壊するつもりでくるじゃないか!」


俺だっていつでも欲しいというやつに魔王の地位を譲るつもりでいるのだ。

だが、さすがに街を壊そうとやってくるやつらに甘い顔はできない。街の再建は容易いが住んでいる人間を復活させることはできないのだから。


かといって別の場所で移動して戦っても、相手の攻撃がさっぱり俺に効かないのだ。反対に、俺の攻撃で瞬殺できるレベルである。


それで魔王を譲ると申し出ても、誰も納得してくれない。

どこかに強いやつでもいないものか。


一番可能性を感じるのはデミトリアスだが、本人は俺の補佐で満足していて魔王になる気がない。

そもそもそんな面倒なことを押しつけないでくれと言われた。


今、まさに! 俺に押し付けているんじゃないかと言いたくもなる。


「もう10年もやっているなら宣言してもいい頃でしょうに。なぜ、それほど魔王であることを隠されるのですか?」

「俺はただでさえ顔が怖いって言われてるのに、魔王だなんて知られれば…」


彼女ができないじゃないか!


ただでさえ、女子どもに泣いて怯えられる、悪人どもは仲間だと思ってすり寄ってくるほどの極悪人顔なのだ。それが本当に魔族の王になっているなんて、ますます怖がられるだけで、誰も近寄ってく来てくれない。


25歳になるのに、彼女の一人もいないなんて、悲しすぎる。

だいたい、結婚適齢期は20歳頃だ。

同じ年の男どもは子供までいるというのに。


「知られれば、なんです?」

「とにかく、俺はいつでも魔王は辞めるんだ! だから、仮で十分なんだよ」

「はいはい、そこまで。お前たちは同じ話を10年間、平行線でやってるんだからいい加減諦めろ。そんで話を進めると、だな。その銀狼は最古の血統なんだとよ」


ダグラスの言葉に、俺は息を飲んだ。

お読みいただいきありがとうございました。

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