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2.抱き枕との出会い

よろしくお願いします。


遠く都市を守る隔壁を超えていった二人の男たちを見送った俺は、やれやれと息を吐いた。


俺はクロゥイン・キップという。

仮の市長兼冒険者ギルド長をしている。昼寝を確保するために条例を定めたのも俺だ。


だが、昼寝をしようと寝床にもぐりこんだとたんに、がらがらと響き渡る車輪の音に、眉を顰め、すぐさまこちらにやってきたのだ。


地獄耳も困ったものだ。


正確には探究者の耳、だが。

探究者の職業レベルを限界まで引き上げると得られる能力だ。


フェーレンの市内ならどこでも音を拾ってしまう。

魔法で遮断しても、音を小さくすることくらいしかできない。ささやきくらいになるので、常時このレベルに聴力を維持するため防音魔法を効かせているが。

仲間に自分の魔法の上から、さらに防音の魔法を重ねがけしてもらっても、その他人の魔法の気配が俺の安眠を妨害するのだ。


繊細な心を持つ俺には、安眠は死活問題となる。


眉間の深い皺、半目が俺の標準装備だ。

ただ立っているだけで凶悪犯と間違えられて通報されたこともある。

仮の立場といえど、市長や冒険者ギルド長がされる扱いではない。


人々は遠巻きにしかやってこないし、小さな時から年齢を10歳以上も上に見られている。


睡眠不足になった日は最悪で、凶悪さに磨きがかかるとダグラスは指摘する。

市民やギルド利用者、各職場の職員一同に怯えられないためにも俺の安眠は確保されるべきだ。


でないと、心が傷つく。立ち直れない。


そのため(仮)市長の権限で昼寝を確保するための条例を設けたのだが、外から来た者たちは門番の忠告を無視して騒ぐ始末だ。


結局、こうして昼寝の時間を削って対処するしかない。


残された幌馬車に目を向けると、中から生き物の気配がした。

警戒しているのか、呼吸は浅くて早い。


俺は幌に近づくと、入り口を大きく開いた。


中にはぎっしりと荷物が入っている。積み上げられた木箱には果物の絵が描かれているが、飛ばした男たちが果物を売っているようには思えなかった。


密輸犯の可能性が俺の脳裏に浮かび上がる。


魔王城の近くにあるこのフェーレンには、見慣れない魔物が多数存在する。

捕獲すればそれだけで一攫千金も夢ではない。

そのための力は必要となるが、勝手に捕獲して連れ出す者は後を絶たない。


通常の魔物ならば問題はないが、時には魔族に連なる種族を攫う者たちも出てくる。

そうなると俺の肩書き上では無視することができず、結果として(仮)市長の権限で、討伐または捕獲した魔物などの種類と数を申告することを義務付けた。


そうすると出てくるのが、密輸犯だ。


申請せずに大峡谷周辺の森からこっそりと魔物を捕獲し攫って行く。


ちなみに大峡谷に続く深淵の大森林には広範囲の結界が張られており、唯一の玄関口がこのフェーレンの都市になるため、魔物を狩るためにはこの都市を必ず通らなければならない。市の北門から大森林へとつながり、南門は街道へとつながっている。


俺は木箱を適当に外へ放り投げると、奥から隠されたように布の被った檻が出てきた。


隠ぺいの魔法がかけられているようだが、探究者の職業を持っている俺には魔法の気配を敏感に感じられるので効かない。

さっさと布をはぎ取る。


そこには、足枷をはめられた犬耳の少女がうずくまって俺を威嚇していた。

年の頃は十歳くらいだろうか。

銀色の毛に覆われた耳をぴんと立て、金色の瞳をぴたりと俺に見据えている。


黄色みの生成りの服はところどころ裂け、血がにじんでいるようだ。


犬の獣人のようだが、大層な魔法の檻に囲まれているほどの存在には思えない。


「こんなツラだが、敵じゃないぞ。俺に攻撃してくるのは構わないが、責任はとらないからな」


俺は言葉をかけると、檻に両手をかけた。そのまま力を込めて、左右に開く。

ぐにゃりと鉄が曲がり、人ひとりが通れるほどの空間ができた。


『ヒール』


回復魔法をかけると少女は目を丸くした。

耳がぺたんと伏せている。様子を窺っているようだった。


足枷に触れるとそのまま鎖を引きちぎった。

魔法で破壊することもできるが、俺は威力調整が下手なので、少女の足どころか下半身以上を吹っ飛ばしそうなので控える。


「立てるか? お前を保護するから俺と一緒に来てくれ」


少女は不思議そうに首を傾げただけだった。


まさか、言葉が通じないのか?

魔族の知り合いは皆、言葉が通じたので深く考えたことはなかったが、通じない種族もあるのかもしれない。

いや、言語を共通にしたのは神話の時代の話だ。それはないと、即座に否定する。


となると思い当たるのは俺に怯えている線だろう。これはかなり濃厚だ。

怖くて口もきけないなら、納得できる。


俺は面倒になって少女の細い腕を掴むと魔法を唱えた。


『トランスフェレンス』


俺は空間転移魔法を唱えた。

お読みいただきありがとうございました。

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