17.貸出屋のトラブル
よろしくお願いいたします。
「おい、どういうことだって聞いてんだよ」
俺が研修所に向かって歩いていると傍の建物から怒号が飛んできた。
開かれた入り口を窺うと、受付カウンターを蹴りつける音が響いた。
男は三人組で、一人の男が蹴ったせいでガタンとカウンターが揺れ、幾人かいた客が一瞬で静まり返った。
冒険者ギルドの隣の建物は武器や防具を格安で貸し出せる貸出屋だ。所属は冒険者ギルドの出店になっている。
低いランクの冒険者が安全に森に入って魔物を狩れるように配慮された素晴らしいシステムの一つだ。
武器や防具は一級品でランクSの冒険者がこぞって借りたがるほどの品を揃えた。
もちろん、俺のパーティメンバーや有志のランクSの冒険者たちが快く貸し出してくれたものなので、品質はお墨付きだ。
ランクが低い者ほど格安の料金で借りられるようになっている。
貸出屋の受付カウンターにいた少女が半分泣きそうになりながら、必死で踏ん張っている姿が見えた。
「ですから、貸出したのはミスリルの剣です。こちらは違うものになります」
「じゃあ、なんだ。俺たちが剣をすり替えたって言いてぇのか!」
男のうちの一人が剣を振り回して怒鳴りつけると、少女はひっと息を飲んだ。
「ちょっと、貸してみろ」
俺は剣をかざしている男の手から剣を取り上げると、刀身に手をかざした。
『アプレイズ』
「なっ、鑑定魔法だと?!」
鑑定魔法は賢者のLv20で覚える魔法だが、賢者の職業を得るためには聖者と魔法士と探究者をLv50まで上げなければならないのだ。
ちなみに物体に対してのみ使える魔法で、探究者が使えるチェックとは少し異なる。
高度なのは断然、アプレイズだ。
魔力消費量もチェックが魔力5を消費するのに対し、アプレイズは魔力60を消費する。
面倒なので、冒険者で賢者まで極めている者は少ない。
そもそも職業を複数獲得している者の数が少ないのだから、数が多いわけがない。
せいぜい大きな国に1人か2人いればいいほうだ。
まさか辺境に鑑定魔法を使える者がいるとは思わなかったのだろう。
だがここはフェーレン市だ。
魔王のお膝元だという土地柄をもっと考慮してくれれば、レベル上げがいかに簡単かはわかってもらえたのだろうが。
彼らはよそ者のようだ。
ちなみに鑑定の魔道具というものもあるが、用途が決まっているため種類は多いが出回っている数が少ない。職業鑑定や人物鑑定の魔道具ならたくさんあるが、物品の鑑定魔法が使える者で、魔道具を作れる者がいないため、あまり出回らないのだが、もちろんこの貸出屋には俺が作った魔道具が置いてある。
受付の彼女がフェイクと見抜けた理由も、その魔道具を使ったからだろう。
「鑑定結果は銀メッキの剣だな。ここにはこんななまくらな剣は置かないぞ。おい、こいつらがどのミスリルの剣を借りたかわかるか」
「は、はい」
少女がカウンターの上に置いてある、一枚の紙を差し出した。
品物を貸し出す前に、冒険者の称号プレートのコピーをとるのだ。
コピーは生活魔法だ。
たいていは紙にプレートに刻まれた名前と所属先を写す程度だ。
俺がやれば現物と同じものが出来上がってしまうが。
「E-105のミスリルの剣だな、『サーチ』」
探索魔法をかけると、反応があったのはやや離れた場所だ。
ぼんやり地図を思い浮かべて、そこが宿屋あたりだろうと検討をつける。
「全く面倒な、『コール』」
召喚魔法を使うと、空間の中から突如としてロングソードが現れた。
鞘から引き抜くときれいな刀身が見られた。ミスリル製なので、白銀に輝いている。
「今度は召喚だと?!」
召喚魔法は召喚士が使える魔法だ。こちらは探究者と空間魔法士と魔獣使いをそれぞれレベル50すると得られる職業になる。
魔法は誰でも使える生活魔法と、職業に固有の魔法に分けられる。
魔力は生きていれば誰でも持っているので、生活魔法は皆使える。
一方で、職業は本人の適性がなければ得られないため、せいぜいが一つか二つくらいだろう。三つ持っているのはレアになる。
俺は昔から適性度外視というか、適性バカというか。
何をやっても職業が勝手に追加されたのだ。自分でももうなんの職業があるのかわからないほどである。
「こっちが店の剣だ、片づけておいてくれ」
手にした剣を少女に託すと、彼女は小さくお辞儀をして受け取ってくれた。
「さーて、君たち。お兄さんと少し話をしようじゃないか」
俺はにこりと男たちに向かって微笑んで見せた。
ダグラスが後ろでため息をついている。
彼いわく、俺の笑顔は脅しに使うにはもってこいとのことだ。
失礼なやつである。
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