表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/38

第9話:2000年12月3日

あれから5日間、美菜は毎日考えていた。



答えが出ていない以上、雅典に連絡することはできない。

こうなってからはじめて、今まで雅典と3日以上連絡を取らなかった日がないことに気付いた。


一方で悠馬とは相変わらず毎日連絡を取っていた。

雅典と連絡が取れないのを寂しいとも思うし、悠馬との毎日の連絡を楽しいとも思う。




美菜は自分の気持ちがわからなくなっていた。


そんな気持ちのまま、悠馬のアパートへと来ていた。



「はい、東京のおみやげ。」


「おっ、サンキュー!」


美菜は土産に、悠馬の好きな東京銘菓を買ってきていた。

悠馬はあんなに東京行きを反対していたのをすっかり忘れ、無邪気に喜んでいる。その姿が微笑ましかった。





「ねえ、悠馬?」


「どした?」


「悠馬はさ、あんなにやきもち妬くくせに、どうして私にハルのこと紹介したの?」



悠馬のこと、悠馬とのこれまでのことをじっくりと考えているうち、そんな疑問が出てきた美菜は、今日会ったときに聞こうと決めていた。


悠馬はなんでそんなことを聞くのか、不思議そうにしながらも、話し出した。


「あのころはさ、俺夏休みで実家帰ってただけだったし、大学始まったらまたこっちに戻ってこなきゃならなかっただろ?」


「そうだね。」




出会った頃、大学生だった悠馬は、このままいけば私が受験する予定の「こっちの大学」に通っていた。



「付き合ってすぐに離れ離れになるのも不安だった。

それに、年の差のせいでミナも色々不安だろうなと思って。

信頼してるハルに頼んでおけば、いろんな面で大丈夫かなって。」



確かに、あのまま離れ離れになっていたら、携帯電話だけのつながりでは安心できなかったかもしれない。

悠馬の親友である晴彦ともつながることで、自分が彼女とまわりにも宣言してくれているのだと思えた。




「そっかー。そんな風に考えててくれたんだね。うれしい。」


「でも、今考えたら、失敗だったかもなー。」


「えー、なんで?」


「まさかミナとハルがこんなに仲良くなると思わなかったし。」


「後悔、してるの?」


「後悔っていうか、んー…後悔、なのかな。」


「そう…」



その言葉を聞いて、美菜は答えがわかった気がした。

少なくとも、悠馬に対しての自分の気持ちが。





「悠馬。私ね、悠馬のことすっごく好き。」


「俺もミナのこと、すっげー好き。」


「うん。

でもね、私が好きなのは、3年前の悠馬で、…今の悠馬とは結婚できそうにない。」





悠馬は、今聞いた言葉が受け入れられなかった。


あまりに突然であったことと、そうじゃなくても受け入れたくない内容だったから。



「ミナ。それは、」

「私と別れて欲しいってこと。」


最後まで聞かなくても、悠馬が何を言おうとしているのかわかった美菜は、簡潔に、結論を述べた。

3年という長い付き合いが、そんなふうに阿吽の呼吸として現れていて、少し寂しく思った。




「無理。ダメ。別れない。」


悠馬は即答した。考えるまでもない。

そのような選択肢は、悠馬の中には存在しなかった。



「ゆうま、」

「聞きたくない!」


悠馬は部屋を出て行こうとした。


「じゃあ私、もうここへは来ない!」


美菜は、悠馬の背に向けて叫んだ。

それを聞いた悠馬が慌てて戻ってきた。


「ミナ!なんでだよ?どうしたんだよ?」



「私、悠馬と一生一緒にいるんだって思ってた。だけど、今すぐ結婚だとかは考えてなかった。」


「だから、結婚は高校卒業するまで待つから。」


「ううん。それだけじゃなくて、婚約してからの悠馬の態度もちょっとだけうっとおしかった。」


「うっとおしいって…」


信じられない、という顔をした悠馬に、罪悪感を覚えながらも美菜は続けた。


「ハルとか、学校の男の子とか、挙句の果てには女の子の友達にまでやきもち妬いて。

私はこれから、ずっと悠馬と2人だけで生きていくわけじゃないんだよ?

それなりに友達づきあいだってするし、大学に入ったらまたいっぱい新しい出会いだってあるの。

その度にそんな態度取られたら、私だって嫌な気持ちになるの。」


「それは!ミナのことが好きだからだろ?

それに、ミナは自覚ないのかもしれないけど、お前めちゃくちゃモテるんだよ。」


「でも誰が私のこと好きになったって、私の気持ちは悠馬に向いてるんだから、それを信用してくれてもいいんじゃないの?

最近の悠馬は、自分の気持ちしか考えてない。」


「そんなことない!」


「さっき言ってくれたみたいに、私のことを考えて、ハルを紹介してくれるような、そんな気持ち。

悠馬はもう忘れちゃったんでしょ?」


「ッ…」


「もう、ダメだよ。私、悠馬のこと本当に好きだったけど、私の運命の人は悠馬じゃない。」




「ミナ、なんで急にそんなこと言い出すんだよ。なんかあったのか?」





美菜は、雅典のことを話そうか迷った。

だがすぐに、隠し事はすべきでないと思った。



「知り合いの人に、言われたの。今の私は幸せそうに見えないって。」


「男、か?」


「…うん。」


「そいつ、ミナのこと好きなのか?」


美菜は黙ったまま、頷いた。



「で、ミナはそいつのこと好きなのか?

誰が好きになっても、ミナの気持ちは俺に向いてるんじゃなかったのか?」


悠馬は早口で、美菜に詰め寄った。



「まだ、自分の気持ちはわからない。でも、その人に言われて、改めて考えたの。

それまで悠馬といるのが当たり前だと思ってたけど、…」



そこまで言って、美菜は続きを言うのをためらった。

これを言ったら、どれだけ悠馬を傷つけるだろう。

でも、それくらいしないと悠馬は別れを承諾しないだろうから、嘘でもなんでも言うしかない。




「…悠馬と別れて、自由になってこれから生きていくことを考えたら、そっちのほうが楽しく思えた。」



美菜の予想通り、悠馬はこれ以上ないくらいに傷ついた顔をしていた。


いつもの癖で悠馬の頭をなでようと伸ばした手を、寸前で止め、力なく下ろした。



「悠馬、ごめんね。私、これから先も、ずーっと悠馬のこと好きだし、付き合っていきたい。

だけどそれは、恋人でも旦那さんでもなく、友達としてなんだよ。」



「ミナが、たとえ友達としてでも、俺のこと好きでいてくれるなら俺はそれで構わないから。

絶対に別れたくない。また、恋人として俺のこと思えるようになるまで頑張るから。」



「悠馬、もう無理だよ。」


「無理じゃない、頼むから…」



悠馬は涙を流していた。

予想はしていた美菜だったが、いざ目にするとやはり辛かった。


でも、もう後戻りは出来ない。





「とにかく、急な話だったから、今日はこれくらいにしよう。

私の気持ちは、もう変わらないから。悠馬もよく考えてみて。」





それだけ言って、美菜は逃げるようにアパートを出て行った。










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ