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第8話:2000年11月28日

「4日間もやることあるかなって思ってたけど、あっという間だったね。」


雅典は、緊張でうまく言葉が返せなかった。



「ナベさーん?疲れちゃった?

ごめんね、3日間思いっきり連れまわして。」


美菜が少しだけ申し訳なさそうに、でもほとんど悪いとは思っていない顔で言った。

そこではじめて、雅典も笑みを返した。


「ごめんとか全く思ってないだろ。」









土曜日曜、そして月曜と、美菜は行きたかった場所や買いたかったものを求めて、雅典を引っ張った。

もはや雅典の役目は案内ではなく、付き人だった。


そして最終日の今日は、朝から雅典の家でのんびりする、という計画だったのだ。

美菜は午後の新幹線で帰ることになっているから、昼過ぎには出なければならない。




当然、美菜はホテルを取って一人で泊まっていた。


夜になって美菜をホテルまで送り届けるたびに、もう1日が終わるのか、と不満に思う雅典だった。

そして、来たばかりだと思ったのにもう帰る日。

もう、あと数時間しかないのだ。美菜に気持ちを伝えるチャンスは。




昨日までの3日間、雅典は美菜との時間を純粋に楽しんだ。

いつも話題に出る彼氏のことは、一切話さないようにした。

美菜も心から楽しんでいたようだった。

しかしそれが、東京に来たからなのか、雅典と一緒だったからなのかはわからない。


どうか後者でありますように、そう雅典は祈った。



そして雅典は、話を切り出した。




「ミナちゃん、その後彼氏とはどんな感じなの?あいかわらず?」


美菜は、東京に来ている間は、その話をしたくなかった。

悠馬に対して少しずつ募る不信感。それをこちらに来てからは忘れることが出来ていたのに。


美菜は、ふて腐れた顔をして言った。


「そーだよ。全く進展なし。東京に遊びに来るのだって、いい顔しなかった。」




東京にいる友達のところへ遊びにいくと言ったら、悠馬は途端に不機嫌になった。

そして、学校を休んでまで遊びにいくなら俺のとこにもっと来いよ、と言った。


もちろん、友達というのが男だなんて言わなかった。


それはやましい気持ちがあるわけではない。

晴彦にまで妬く悠馬だ。だから美菜は、日頃から悠馬の前では他の男の影など一切見せないことにしていた。

高校の友達と男女混合で遊ぶ時だって、女の子だけだと言うのだ。





「こっちに来ること、なんて説明したの?」


「友達のとこに遊びにいくって。さすがに男の人とは言えないから、転校しちゃった女友達って言っておいたけどね。」


「それでもダメなのか。」


「うん。結婚の話を伸ばし伸ばしにしてるうちに、どんどん束縛が激しくなってきて。」



美菜は、どうしたらいいのかわからず、困っていた。

しかし、自分のことを想うからこそだとわかっているので、耐えるしかなかった。







「ミナちゃん。ここでひとつ、提案があるんだけどさ。」


「なに?」


「いっそのこと、結婚しない、っていうのはどう?」


雅典は、ついに本題に入ることにした。




「えっ?それはどういうこと?」


「そのままの意味だよ。だって今のミナちゃん、とてもじゃないけど、幸せそうには見えない。」


「それは…確かに。

でも!あと1年ちょっと我慢して、一緒にいられるようになれば解決すると思うし。」


美菜は、今の自分を否定されたような気がして、少しむっとした。



「怒るなよ。

そうじゃなくてさ、幸せそうには見えないっていうのは、俺の希望的観測によるものでもあるから。」


「キボウ?」


美菜は、雅典の言葉を聞き、訝しんだ。

雅典は、このまま一気に攻めることにした。


「そう、希望。」


「それ、どういう…」

「ミナちゃん。ここでひとつ、相談があるんだけどさ。」


先ほどは提案だったのが、相談へと繰上げされた。


美菜は、何も言わずに続きを待っていた。









「彼氏と別れてくれませんか?それで、俺と付き合って?」





「ちょっ…ナベさん、いきなりどうしたの?もう脳の老化が始まっちゃった?」


美菜は、雅典の言うことが冗談だと思い、いつものようにからかった。



「そんなに老けてねーよ。…じゃなくて。

俺、本気で好きなんだよ、ミナちゃんのことが。」


「ナベさん、」



美菜は予想もしなかった出来事に、ただただ驚いていた。


雅典のことは好きだったが、まさか相手が恋愛感情を持っているだなんて。

晴彦と同じように、妹のように思ってくれているとばかり思っていた。





「ミナちゃんが、実は彼氏のことそんなに好きじゃないって思うのは、俺の単なる思い違いか?」


「私、悠馬のこと好きだよ?

ナベさんは、悠馬の悪口みたいなことしか聞いてないからわからないかもしれないけど、私と悠馬は3年も付き合ってるんだよ?」


「それはわかってる。けど、少なくとも、今のミナちゃんはそれほど彼氏のこと好きには見えない。

いや、好きなんだろうけど、そこまでだ。愛してない。」


「愛、って…。私老けて見られるけど、まだ17才だもん。そんなのわからないよ。」



美菜は雅典の口から出てきた「愛」という言葉に照れているようだった。

それでも雅典は、あくまで真剣だった。



「17才だから、とか。それじゃダメだろ?結婚するんだから。

愛してると思えないやつと結婚したら、俺の二の舞踏むことになるぞ。」


「ナベさん、急にそんな風に色々言われても、わからないよ。」



美菜の困り果てた顔を見て、雅典は少し冷静さを取り戻した。


「そうだよな、ごめん。でも、考えてみて欲しいんだ。

ミナちゃん、前に言ってたよな?」


「何を?」


「彼氏とあまり会えなくても、電話やメールがあればそれで満足できるって。」


「うん、言ったね。」


「俺さ、もうプロジェクトも終わったし、あっちに出張することもなくなるんだよ。」


「…。」


「だから、ミナちゃんと会うことはもうないかもしれない。想像してみてよ。

ミナちゃんは、俺と会えなくて寂しくない?」







――寂しい。



反射的に、そう思った。

電話やメールでは、雅典との触れあいは不十分だった。直接会わないと、駄目な気がした。







「今、寂しいと思っただろ?」


雅典が急に、いつものようなからかい口調で言った。


「ちーっとも、思ってませんよーだ。」


悔しい気持ちと恥ずかしい気持ちが混ざり、その複雑な気持ちをごまかそうとふざけて返した。


「なんだと?このやろう、みーすけのくせに!」


「みーすけ言うなー!!」


そしていつものように、じゃれ合った。



雅典に頭を掴まれながら、ああこれか、と美菜は悟った。


雅典と会えないと寂しいのは、このせいなのだ。

メールや電話では、こうして髪の毛をくしゃくしゃにされることも、いい年して10も年下の小娘と本気でじゃれる姿を見ることも、できないのだ。





「ナベさん、私今すぐ答えを出すことはできそうにないよ。」


「わかってる。今日は俺の気持ちを知ってもらいたかった。

向こう戻ってから、じっくり考えてみて欲しい。」


「うん、ありがとうね。私、ナベさんと会えないと、なんか自分の一部が欠けてしまったような気持ちになるかも。…かも、だからね!」


「はいはい。かも、な。」


「私、14の時から悠馬と一緒にいて、もうそれが当たり前みたいになってるから、今更好きかどうかとか、考えたことなかった。好きに決まってる、って決め付けてた。」


「うん。それはそれで、本当に好きな証拠だと思うよ。

でも、俺のことそれ以上に愛してくれたら、本望だ。」


「愛って…。ナベさん、恥ずかしくないの?」


美菜は顔を真っ赤にしていた。

初めて見る美菜のかわいらしい表情に、雅典は抱きしめてしまいそうな手を止めるのに苦労した。




「恥ずかしいに決まってるだろ。俺だって必死なの!分かれよ、それくらい。」


雅典も少し顔を赤くしていた。

美菜はそれを見て、一気に緊張が取れた。



「ははっ!やっぱり私とナベさんに真剣なのは似合わないね。」


「…だな。」













東京駅の新幹線ホームで。



「ナベさんの気持ち、うれしかった。帰ってから、じっくり考えるね!答えが出たら、連絡します。」


そう言って、美菜は帰っていった。





雅典は、去っていく新幹線の車体を、祈るような気持ちで見つめていた。














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