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第3話:2000年8月4日

その後も雅典と美菜は連絡を取り合い、その上2週間に1度は、晴彦と3人で会っていた。




「ナベさん、結婚ってどうだった?」


「おいおい、離婚したばかりのやつにいきなりそんな質問するなよ。」


「そうだぞ!場の空気を読めよ。」


「えっ、ごめんなさい!

…でもなんか、ナベさん慰める必要ない気がするんだけど。」




結婚を控える身として、先輩の話を参考にしたかった美菜。

それに、美菜には雅典の態度が不思議に感じられた。


離婚という人生の一大事があったにしては、少しも心が痛んでいないかのような、そんな印象を受けたのだ。

無論、外見上そう振る舞っているだけなのかもしれないが。





「うーん。俺の場合はさ、結婚生活がうまくいかなかったというよりも、そもそもお互いに相手を間違えたんだと思うんだよ。」


「どういうこと?」


「確かに最初は好き合ってた。

でも結婚してすぐに、お互いに関心を持てなくなってきて、結婚生活の後半は会話もなかったな。」



それでも雅典は最初のうち、子供ができるまでの辛抱だと思っていた。

しかし、奥さんになった人が子供を作りたがらなかったのだという。


結局それが2人の関係を決定づけることとなった。


そして、仕事に追われてずるずると延びていた結婚生活を、先日ようやく終わらせた。

だから離婚も、すっきりしたというのが正直な気持ちだった。





「でも、好きだから結婚したんでしょ?結婚してみないと、相手が間違いかどうかわからないのかなあ?」


「好きだったけど、流されたっていう感じはあった。

年齢的にいいタイミングで、たまたま彼女と出会ったから。

もっと言ってしまえば、彼女と出会ったのがもう少し若い頃だったら、結婚する前に別れていたと思う。」


「それはあるかもしれないっすね。俺も今度付き合う彼女は結婚を前提かなって思ってるし。」


「へー。まあ、ハルのことは置いといて。

どれくらい付き合ってから結婚したの?」


「おい、俺は無視かい!」


「当然。ね、ナベさん?」


「そうだな。」


「ほんとナベさんひでーよな。前は俺のことあんなにかわいがってくれたのに。」


「はいはい。ハルうるさいぞー。」


ナベさんと2人で晴彦を散々からかってから、本題に戻った。



「で、どれくらい付き合ってから結婚したの?」


「1年位かな。俺、子供が好きでさ。昔から早く子供が欲しいと思ってたから、焦りすぎた。」


「そっか。」







14歳のときから悠馬と付き合っていた美菜は、16歳の誕生日にプロポーズされた。


悠馬は大学を卒業して就職、美菜は高校に入学して2ヶ月ほど経った6月のことだった。



しかし距離が邪魔して月1度程度しか会うことができない今の状況で、結婚というのは少し早すぎる気がした。

まして高校生になったばかりの美菜は、せめて卒業まで待って欲しいと頼んだ。

悠馬もしぶしぶ了承し、それまでは婚約期間として付き合っていくことになったのだった。




しかし、先々月に迎えた17歳の誕生日。


悠馬の口から出るのはあいかわらず結婚の話題ばかり。

悠馬のことはもちろん好きだが、正直まだ若い美菜にとって「結婚」の2文字は重すぎた。


そうして美菜は、わずかな違和感を覚えながら日々を過ごしていたのだった。







「…結婚って、なにがいいのかな?」


ちょうど晴彦が席をはずし、雅典と2人きりになったとき美菜は、これまで誰にも言えずにいた疑問をつい口に出していた。



「そりゃ、好きな人と一生一緒にいれるし、子供ができたら新しい家族もできるし。

…ミナちゃんは結婚したくないの?」


「わかるよ、そういう気持ちは。私だって悠馬のこと好きだし、一生一緒にいたいとも思ってる。

でもさ、私はまだ何年も学生でしょ?そしたら子供だって作れないし、なにも今このタイミングで結婚しなくてもいいと思うんだよね。」



悠馬とは「高校を卒業したら」と約束をしたが、「大学を出てから」というのが美菜の本音だった。


お互いがずっと一緒にいることを決めたのなら、別に結婚にこだわる必要はないのではないか。

美菜が大学を卒業し、悠馬の収入が安定し、新しい家族を作る準備が整ってから結婚すればいいのではないか。


もちろん悠馬にも何度も言っているが、まったく聞く耳を持たないのだった。





「そうだな。ミナちゃんも彼氏もまだ若いし、焦る必要はないかもな。」


「うん。でも何度言っても納得してもらえないんだよね。」


「大丈夫なのか?そういう価値観の違いってかなり大きいと思うぞ?

…とにかく、もう一度話してみろよ。」


「そうするよ。何度話しても事態は変わらない気がするけど。ナベさん、また相談にのってもらってもいい?」


「いつでもどうぞー。役に立つ自信はまったくないけどな!」


「なにそれー!まあ、聞いてくれるだけでもありがたいからさ。」


「ああ、いつでも電話しといで。」



そのうちに晴彦が戻ってきて、この会話は終了した。








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