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第28話:2006年1月14日


佐喜子と約束した、土曜日のお話です。




雅典は、家路を急いだ。


土曜の午後らしく駅は混雑していたが、器用に人の間をすり抜けていく。





美菜はどういうつもりなのだろうか。



美菜には水曜日のうちに話をしてあると、佐喜子は言っていた。

その上で、今日のことを提案してきたのは、美菜の方なのだと。




佐喜子との件はこれからだが、その前に美菜の考えを聞きたいと雅典は思った。


なぜ昨日、美菜は何も話してくれなかったのか。




普段あまり電車に乗らない雅典は、複雑に入り組んだホームに苛々を募らせた。



――こんなことなら、車で来るんだったな。



場所が駅前だし駐車場も探すのが大変だろうからと美菜が言うので、車を置いてきてしまった。


しかし今から電車に乗り、さらに最寄りの駅からマンションまで30分の道のりを考えると、選択を誤ったと思わずにはいられない。



ようやくホームにたどり着いた雅典は、ちょうど入ってきた電車が満員なのにも構わず飛び乗った。









美菜が雅典の家に泊まるのは金曜と土曜の夜だけというルールを、美菜が上京してきたときに決めていた。


正直な話、雅典はそんなルールなど不要だと思っているが、美菜の頑固さは十分すぎるほど理解しているので、諦めている。


だから二人は夕食をほぼ毎日共にしているにもかかわらず、そのあとは雅典が美菜をアパートまで送っていく。

雅典のマンションからわずか2キロほどの距離を、時には車で、時には徒歩で。


そのおかげなのか、付き合い始めて五年以上が経った今でも週末の夜は貴重で、金曜日がいつも待ち遠しい。



昨夜も、待ちに待った金曜の夜だった。


そして土曜日は朝早くから少し遠出をする予定を、前の週に決めていた。




ところがそんな金曜の夕食で、美菜がいきなり今日のことを話し出したのだった。





「明日のことなんだけど。さっちゃんが、雅に会って話したいんだって。」


「え?明日は、出かける予定だっただろ?」


「それはまた来週でも行けるでしょ?」


「そうだけど。今さら、さっちゃんが何の用なんだ?俺は正直会いたくない。」


「きっと、謝りたいんだよ。」


「そんなの、俺も悪かったからいいんだよ。」


「だからこそ、さっちゃんのけじめのために、聞いてあげてよ。」


「…じゃあ、美菜も」

「私は、もう会ってきたの。明日は、二人だけがいいんだって。」



「会ってきたって…。なんで言わなかったんだよ?」


「私も急だったの。とにかく、明日は一時にさっちゃん待ってるから、行ってあげて?

私はちょっとやりたいことがあるから、ここで待ってるね。」



「…わかったよ。」





そして今朝。



「…じゃあ、行ってくるな?」


「うん!行ってらっしゃい!雅、…帰ってきてね。」


「ん?当たり前だろ?どうした?」


「…早く帰ってきてね、ってこと!さ、もう行かなきゃ遅刻だよ。」


「ああ。すぐ帰ってくるよ。」



雅典はなんだか腑に落ちないまま、半ば強引に美菜に見送られて自宅を後にしたのだった。











―ガシャン


ようやくマンションに到着し、入り口のオートロックは自分で開けて部屋まで上がってきた雅典は、玄関に鍵がかかっていることに気付いた。



―ピンポーン




五秒ほど経っても応答が無いことに焦れた雅典は、持っている鍵を使って部屋に入った。







「美菜?」



リビング、寝室、風呂場、ひとつひとつの部屋を回ったが、部屋で待っていると言ったはずの美菜はどこにもいなかった。



雅典は携帯電話の短縮ダイヤルで、1番を呼び出した。





―プルルル、プルルル…カチャ



『…です。お客様がお掛けになった電話番号は、現在、使われておりません。番号をお確かめになって…』



聞こえてきたのは美菜の声ではなく、虚しく流れるアナウンスだった。


信じられない雅典は念のため、今度は短縮ダイヤルを利用せずにメモリから呼び出して掛けてみた。





『…は、現在、使われておりません。番号をお確かめになって、もう一度お掛け直しください。こちらは…』



それでも結果は同じだった。



嫌な予感がした雅典は、車のキーを掴んで部屋を出た。


美菜のアパートまで2キロほどの距離を、今はのんびり歩いている場合ではなかった。









―バタンッ


運転席のドアを乱暴に閉め、雅典は駆け足で階段を昇った。


鍵がかかっていることと、呼び鈴を鳴らしても応答がないことを確かめ、合鍵を取り出す。




―カチャリ…ガチャッ



そのまま勢いよく玄関に足を踏み入れた雅典は、目の前の光景に、ただ呆然とするしかなかった。





少なくとも雅典が見た木曜の夜までは、美菜の好きな白の家具たちで溢れていた部屋は。





そこは既に、もぬけの殻だった。







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