第2話:2000年6月23日
今回から、過去の物語が始まります。2人の出会いから順に進みます。
「みーすけ、今日は俺の知り合いも一緒だからよろしく。」
美菜が兄のように慕う、斉藤晴彦から突然そう言われた。
「知り合い?てことは悠馬も知ってる人?」
「いや、俺の仕事で世話になってる先輩だから。東京から出張で来てるんだよ。」
「へー。珍しいね、いつもはハルが東京に行くのに。」
晴彦は服飾系の専門学校を卒業し、規模は小さいが良い仕事をすると業界内では評判のデザイン事務所に勤めている。
晴彦が自分で言っていたことなので評判の真偽はわからないが、頻繁に東京のアパレル商社に出向く晴彦がちゃんと仕事をしているのは確かなようだ。
「そうなんだよ。だからこっちを案内してあげようと思って。」
「ハルの先輩って、私が入ったら話が合わないんじゃない?大丈夫なの?」
「ミナは17才だっけ?むこうは27歳だから10歳上だな。ま、でも今日はいいんだよ。話が合わなくても、とりあえず盛り上がってくれれば。」
「なんで?」
「その人最近離婚してさ。だから元気付けてあげようと思って。そういうのにみーすけは打ってつけだしな。」
美菜には、遠距離というには距離が足りないが、それでも決して近くはない場所に住む婚約者がいた。
その悠馬を通じて知り合ったのが、悠馬の高校時代の友人である晴彦だ。
遠くの大学に通っているために、なかなか会えない悠馬。
そんな悠馬とは違い、今も実家に住み続けている晴彦にはよく遊んでもらっていた。
女友達には言えない悩みなどを話すうち、色気こそないが、まるで本物の兄妹のような仲になっていった。
悠馬には言えないことも晴彦だったら言うことができる、それほどに信頼している人物だった。
そんな晴彦から紹介された人物は、渡辺雅典と言った。
27歳と言われなければ、22歳の晴彦と同級生にも思えた。
時間が早いせいか、だいぶ空いている居酒屋で、雅典を見て最初に思ったのがそれだった。
「はじめまして、いつもハルがお世話になっております。妹の美菜です。」
「いや、ちげーし。ナベさん、本物の妹じゃないですけど妹分です。」
「クスッ、はじめまして。いつもハルをお世話しております、渡辺雅典です。
あだ名はもっぱら、ナベさんです。」
そんな自己紹介をして、早速雅典と打ち解けた。
「やっぱり渡辺っていう名前の人はナベさんになるんだね?私の周りにはいなかったからなんか感動。」
「感動のポイント浅いね。」
「失礼な!もっと高尚な感動もするんだから。」
「高尚な感動ってなんだよ。みーすけ面白いな。」
「みーすけはやめてってば!」
晴彦は、初対面でも構わず打ち解ける美菜の明るさを利用して、雅典の景気づけをたくらんだのだが、そのたくらみは大成功だったようだ。
10の年の差をものともせずに会話する2人を見て、晴彦は満足した。
実のところ、雅典はそれほど落ち込んでいるわけではなかった。
しかし美菜の明るさに触れ、仕事や身の回りの雑多なことからしばしの間解放された気分になることができた雅典だった。
「今日はありがとな。」
「いえいえ、次もまたいい店探しておきますから。」
「未成年が入れるお店にしてね!」
「はっ?たまにはこんなお子ちゃまじゃなくてきれいなお姉さんのいるお店にも行きたいんだよ。」
「はい?じゃあ、そのときはハル一人で行きなよ。私はナベさんと2人で遊ぶから。」
「だな、俺もきれいなお姉さんは興味ないわ。じゃあ次はハルだけ別行動ってことで。」
「ナベさんひどくないっすか?俺よりミナの味方かよ。」
店を出たところで、3人は大笑いしながら話していた。
「残念でした!私とナベさんはもうすっかりお友達だもんね。東京帰ってからもメールするね!」
雅典は、晴彦がいつも行く出張先である、東京のアパレル商社に勤めている。
今回は晴彦の事務所と協力してあるプロジェクトを進めており、その担当者が雅典なのだ。
そのため半年間ほどは、毎週のようにこちらに来ることになっていた。
「おー。どうせまたすぐこっち来るけどな。じゃあ、ハルもミナちゃんもまたな。」
「そーっすね、じゃあまた。」
「おやすみなさい。また遊ぼうね!」
これが、全ての始まりだった。