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第18話:2002年5月27日


「じゃあ、部屋割り発表しまーす!!OBは一人一部屋で、現役は男女別学年別で大部屋です。

詳しくは今配ってるプリントに書いてあるから。代表者は鍵取りに来てー!」







「10人で1部屋ってすごいね。なんか、修学旅行みたい!」


部屋割りを確認した朱美が、楽しそうに話し出した。



「合宿は夜が一番楽しいって、先輩達も言ってたしね。」


美菜も、言いながら朱美に微笑み返す。









5月末の土日を利用して、サークルの新歓合宿が行われていた。


内容は、新メンバーがサークルの内容を理解するためのもの。

そのため、初日も2日目も、勉強のような堅苦しいコンテンツばかりだった。





しかし、夜はそんなものお構いなし。

割り当てられた部屋へと移動した1年生の女子が、ここぞとばかりに騒ぎ出した。


気心も知れた同学年の女の子が集まれば、話題は必然的に恋愛へ。



10枚並べられた布団を、じゃんけんで場所取りし、あとは寝るだけとなった途端、真希が話し出した。




「ねーねー!ミナちゃんは、ナベさんの部屋に行かなくていいのー?」


他の者も、そうだよー、とにやけながら言う。



「行くわけないでしょ!合宿なんだから。」


美菜はからかいに照れる様子もなく、あっさりと言い返した。

そんな美菜の反応に、つまらなそうにする女子達。



「ミナちゃんって、あんまりいちゃいちゃしないよねー?」


「そうそう、冷たすぎてナベさんがかわいそうだよ!」





先月の飲み会以来はじめて、今回の合宿に顔を出した雅典は、あいかわらず美菜への気持ちを隠そうとしない。

特別なにかするわけではないが、普段どおりに振舞おうとする。


反対に美菜は、あまりサークルの中では仲の良い姿を見せようとはしなかった。

あくまで現役とOBでいようとする。





「そうかなあ?だって、サークルはサークルなんだから、そこでいちゃいちゃする必要はないと思うんだけど。

家に帰ったら、ちゃんと仲良くしてるよ?」




「きゃーっ!!ラブラブじゃん!」


「でもミナちゃんって、全然照れたりしないよね。つまんなーい!」



「照れてないわけじゃないよ?でも、そうすると余計にみんな面白がるから、一生懸命平然を装ってるの!」



「えー、そうなのー?」


「やっぱミナちゃんも乙女なんだねー。」


なぜか嬉しそうに、頷きながら言った。

完全に、話題の中心人物となった美菜は、そこから抜け出すのを諦めるしかなかった。





「ずっと聞きたかったんだけどさ、ミナとナベさんって、どこまで進んでるの?」


全員の仲がよいこのサークル内でも、美菜が朱美の次によく話す、沙織(さおり)が聞いた。



「どこまでって、どういう意味で?」


「そりゃあもちろん、アレでしょー。」


真希がそう言い、他の子も目を輝かせて待っている。



アレ、の意味を悟った美菜は今更とは思ったが、答えた。


「えー、そういう意味なの?だっていくら遠距離とは言え、付き合って1年半だよ?聞くまでもないでしょ。」



「きゃー、やっぱりー?」


「やだー!明日の朝、ナベさんの顔見たら想像しちゃうかも!!」


「やだえりちゃん、えっちー!!」


廊下まで聞こえているのではないだろうかと懸念しながらも、美菜は高校生のようなこのノリに懐かしさを感じていた。



晴彦や雅典など、普段から同年代より上の世代の人との付き合いが多い美菜にとって、こんなに騒ぐのは高校を卒業して以来。

雅典とのことを聞かれるのは照れくさいが、この雰囲気を楽しく思った。





「そっちの意味もなんだけどさ、ナベさんってもう28でしょ?結婚の約束とかしてるの?」


沙織もどちらかといえば美菜と同じタイプのようで、他の子のように騒ぐことなく、重ねて質問した。




「んー、どうなんだろう?ちゃんとした約束とかはしたことないけど。」



「親に紹介とかは?」


「それはとっくにしてる。うちの親も知ってるし、向こうの親とも仲良しだよ。」




再び、真希たちが騒ぎ出した。


「えー、それって、もう結婚する気マンマンってことなんじゃない?」


「そうだよー!だって、もう28歳だよ?しかもナベさん、ミナちゃんのこと大好きだし!!」



「でも、結婚を前提に付き合いだしたわけじゃないし。いずれはそうなるのかなとも思うけど、具体的な話はしてないよ。

向こうも、私が卒業するまではって気使ってくれてるんだと思う。」



「別に学生結婚しちゃえばいいのに!!」


「それは私がしたくないってわかってるからね。」




「そうなの?なんで?」


「そういう話したの?」



不思議そうに、でも何気なく尋ねる仲間の顔を見ながら、どうやって説明しようかと迷った。


簡潔に済ませられる話ではないが、他に言い様もないので、ありのままを話し出す。




「雅と付き合う前に、婚約してた人がいて、その時にそういう話を雅に相談したんだ。学生の間は結婚したくないって。」





「えっ!!!婚約してた人がいたの?すごくない?」


「何歳のとき!?」


こんな夜には打ってつけの話題を提供してしまった美菜は、悠馬の話題に蘇ってきた罪悪感を、悟られないようにしながら答えた。



「16歳の誕生日にプロポーズされて、それから17歳の冬まで。」



美菜の微妙な気持ちの変化には、誰も気付かなかった。

お構いなしに、更に突っ込んだ話を求めてくる。


「それって、ナベさんのせいで婚約破棄したの?」


「なんか昼ドラっぽくなってきたんだけど!」


興味深々なのを隠そうともせずに聞いてくる真希たち。

そんな無邪気な様子に、美菜も罪悪感を忘れた。




「雅のせいで、っていうわけじゃないよ。

私その人のこと、実は好きじゃないってことに気付かなかったんだ。なんせ初めて付き合った人だったから。

それを、雅が気付かせてくれたって感じ?」



「えー、結局は、ナベさんが略奪愛したってことでしょ?」


「きゃー!!ナベさんかっこいいー!!」


「うらやましすぎるよーミナちゃん!」




「ナベさんも、見かけによらず熱い男だね。」


そう言った沙織に、美菜は得意げに返した。



「そうだよ?私のこと、大好きだからね。」



沙織にだけ言ったはずが、全員に聞こえてしまったようで、更に騒がしくなる。


思わず耳をふさぎたくなった美菜。





しかしその時、隣に座る朱美が言ったセリフに、手を止めることになった。




「さっちゃん、さっきから顔色悪いけど、大丈夫?」



美菜が佐喜子を見ると、やはり顔色が優れないようだった。

他の者も、先ほどまで騒いでいたのが嘘のように、一斉に心配げな表情になった。



「さっちゃん、どうしたの?」


「体調悪い?」


佐喜子はそんな問いにも、首を振るだけで何も言えないようだった。



かわりに、朱美が説明をする。


「話にあんまり入ってなかったから見てみたら、なんか泣きそうにしてて、だんだん顔色が悪くなってきたの。」





「さっちゃん、どっか痛い?」


そう言いながら美菜は佐喜子の額に触れたが、特に熱さは感じられなかった。


「熱はないみたいだけど。」





そこではじめて、佐喜子が言葉を発した。


「大丈夫…」





弱弱しく、今にも泣き出しそうな声に、全員が慌てだした。



「え、ちょっとやばくない?」


「さっちゃん大丈夫?横になったほうがいいよ!」





それでも佐喜子は、首を振って言った。


「大丈夫…違うの。体調が悪いわけじゃないから。」




その言葉にようやく安心したが、それならばどうしたのかと、佐喜子が話し出すのを待つ。





「ごめんなさい。私、ナベさんのことが好きなの…」







「え…」


誰もが予想しえなかったセリフに、思わず声を発した美菜以外は、誰も何も言えない様だった。





「飲み会で初めて見たときから、好きになっちゃって。

でも、ミナちゃんとの間に入り込めるとも思ってないから、どうするつもりもないの。」



「、さっちゃん…」


ついに泣き出してしまった佐喜子に、美菜はかける言葉が見つからない。



「ごめんね、ミナちゃん。奪うとかは全く考えてないから。告白するつもりもないし。

でも、こういう話聞くとやっぱりつらくて…」


泣きじゃくる佐喜子を慰めるように、朱美が背中をさすっている。

朱美以外のものは、佐喜子と美菜を見比べて、困り果てていた。





「さっちゃん、ごめんね?雅のことだけは、私も譲れないの。」


佐喜子は頷きながらも、悲しそうな顔をした。

朱美は、今それを言うなんて、と非難するように美菜を見た。




美菜はその朱美の視線をまっすぐ受け止めて、苦笑しながら言葉を続けた。


「でも、さっちゃんの気持ちを止める権利も私にはないから。

これからは、こういう話はしない。ね、みんな?」





それまで気まずそうにしていた真希が、ようやく口を開いた。


「うん!恋バナ以外にも、楽しい話はいっぱいあるもんね!!」


「そうだよ!ごめんね、さっちゃんの気持ちに気付けなくて。」


「さっちゃんかわいいんだから、すぐに彼氏できるって!」


「そうそう。それに、ナベさんかっこいいもん。好きになるのも仕方ないって!」



それぞれ、少しでも佐喜子を元気付けようと、明るく声をかけた。

そんなみんなの気持ちを汲み取ったのか、佐喜子は未だ涙を流しながらも、笑顔を見せる。





「他の話しよ!そうそう、私体育でフィットネス選択してるんだけどさあ、」


少し無理やりな感じはしたが、ようやく他の話題へと移った。







美菜は、このあと雅と会う約束をしていた。


しかしそんなことを言い出せる雰囲気ではなくなってしまったため、どうやって抜け出そうか考えていた。



また、佐喜子の気持ちにも、少し衝撃を受けた。

雅典の気持ちが脅かされることはないという自信はあるが、自分以外の人が雅典に気持ちを寄せるのを見るのがはじめてだった。





「私、ちょっとのど渇いたから自販機のところ行って来るね。」


横にいた沙織にだけそっと声をかけ、部屋を出た。











照明が落とされたロビーで、雅典が座っていた。


「おまたせ。」


「遅い。」


「ごめんごめん。」


そう言いながら隣に腰掛けた美菜に、缶ジュースを手渡す雅典。




「ありがとう。」




「何してた?」


「んー、みんなでおしゃべりしてたよ。」


すると、急に雅典が黙って、美菜を見つめた。





そして、言った。


「…美菜、なんかあった?」



美菜は内心驚きながらも、笑顔を作って答える。


「なんにもないよ?」




「いや、絶対なんかあっただろ。」


もう確信しているのか雅典は、納得しなかった。


しかし佐喜子の気持ちをここで美菜が言うことはできない。





美菜は、雅典の手を掴み、そのつながった部分を見つめながら言った。


「あったにはあったけど、なんでもないから大丈夫。」


「本当に?」


美菜の顔に手を添えて、上を向かせた雅典が、美菜の目を捉えた。




「うん、本当に。

雅がね?もてるから、ちょっと複雑な気持ちになっちゃっただけだよ。」




「なんだそれ。」


「だって、みんなうらやましいって言うんだよ?嬉しいけど、言われすぎてちょっと不安になっちゃった。」







「美菜、やきもちやいてんの?」


雅典の嬉しそうな顔を見て、美菜はようやくいつもの調子を取り戻し、にやっと笑った。





「それはどうかなー?」


「かわいくないぞ、みーすけのくせに!」


添えていた手で、美菜の頬を抓る雅典に、美菜も無邪気に笑った。




「もう、赤くなっちゃうでしょ!」


「どうせすぐ元に戻るって。美菜、若いんだろ?」


「すぐって言ったって、それなりに時間かかるの!飲み物買いに行くって言って出てきたんだから、怪しまれちゃう。」


「別にばれたっていいだろ。どうせみんな気付いてるって。」




「だーめ!さ、そろそろ戻ろっと。おやすみー。」



雅典のおかげで、すっかり元気を取り戻した美菜。


部屋に戻るまでに、このにやけた顔をどうにかしなければと思いながら、後ろ手で雅典に手を振った。








これで過去の話は一区切り。

次回現在の雅典サイドを挟んで、

その次からは再び過去ですが、

今回から更に2年以上経過した04年末の話です。

なんせ8年分なんで飛び飛びですいません。。。



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