第16話:2002年4月12日(1)
かなり長くなってしまったので、2つに分けます。
まずは前半です。
「すいません。入会希望なんですけど…」
「はーい!じゃあちょっと説明するからこっちきてもらってもいい?
2人とも入会希望?」
「あ、いえ。私は入会希望で、こっちは見学してから考えるそうです。」
「そっか。えーっと、名前と学部聞いてもいいかな?」
「経済の今原美菜です。」
「本田朱美です。同じく経済学部です。」
「今原さんと本田さんね。僕は新歓担当をしている、大岩です。ちなみに法学部の3年ね。」
金曜日の夕方。
約束どおり、美菜と朱美はサークルの部室を訪れた。
部室では、30人ほどの部員が集まってミーティングをしていた。
その部室の片隅に案内され、大岩と3人で向かい合う。
「まず、なにでこのサークルのこと知りました?ビラ?」
「えーっと、知り合いにすすめられて知りました。」
「あ、メンバーの知り合い?誰だれ?」
「すごい昔にやってた人なんで、わからないと思います。」
「そうなんだ。親とか?」
「あー、まあ。」
横で、朱美が何か言いたそうな顔をしていたが、笑って返した。
この団体の歴史は古く、自分達の親ほどの年齢のOBもいる。
もっとも、OB会で活動するのは30歳前後までという暗黙の了解があるようだったが。
「で、本田さんは?」
「私はこの子に話を聞いて、面白そうだなと思ったので。」
「そっかそっか。じゃあ、活動内容とかは2人とももうわかってるの?」
「だいたいしか聞いてないので、あんまりわからないです。」
「そうか。じゃあまずは活動内容から説明するね。
その前に、今日この後、飲み会があるんだけど参加できる?」
「はい。」
即答した美菜とは反対に、朱美は遠慮がちに聞いた。
「あの、まだ入るかどうかわからないんですけど、参加しても大丈夫ですか?」
「まったく問題ないよ!
今日のミーティングも来なくて、入会する気も全然ないのに、タダ飯だけのために来る新入生とかいっぱいいるしね。
もともと、多くの人にこのサークルのことを知ってもらうためにやるんだ。
うちはOB会っていうのがあって、こういう飲み会とか合宿の時には金銭面とかハード面でお世話になってるんだよね。だから気にしなくていいよ!」
「じゃあ、参加します。」
「よし。飲み会は7時からだから。」
そして、活動内容や、日程などの説明を受けた後、ミーティングに参加させてもらい、他の上級生とも交流した。
ミーティングが終わる頃には、見学希望や飲み会目当ての新入生が、30名ほど集まっていた。
上級生もいれると、かなりの大所帯だ。
「じゃあ、そろそろ飲み会の会場に移動しまーす!
歩いて10分ぐらいのとこだから、みんなで固まって移動してください。
自転車の人は、この男の人についていってー!会場に行ったら、OBが先に入ってるから。」
不慣れな土地の上、雅典の近くに家を決めた美菜は、大学周辺の地理がまったくわからなかった。
そのため、ミーティングの時から積極的に話しかけてくれている2年生の男たちに、はぐれないようについていった。
アットホームな雰囲気の居酒屋を、店ごと貸しきりにしているらしい。
店の中に入ると、スーツ姿の男性や女性が10人ほどいるのが見えた。
大岩が、その人たちに挨拶をしてから、新入生に向かって言う。
「この人たちが、今日のスポンサーのOBでーす!」
「よろしくー。OB会長の飯野です。
まだ残業とかで遅れるやつもいるけど、所詮俺達はOBだから、今日は現役同士で交流を深めてください。」
OB会長の飯野は、雅典の1つ先輩で仲が良いらしい。雅典から話に聞いていた通り、人懐っこい感じの男性だった。
「ねえ、ミナちゃんの彼氏はどの人?」
美菜の隣にピタリとくっついた男達に聞こえないように、朱美がこっそりと尋ねた。
この男達が美菜狙いであることは、誰の目にも明らかだったからだ。
「まだいないよ。残業で遅れるって言ってたから途中で来ると思う。」
新入生と上級生がうまく均等になるように、席に着いた。
美菜と朱美が座ったテーブルには、やはり先ほどからずっと一緒にいる男子グループがやって来た。
この男達は、このサークルには珍しい少し派手なグループだ。
その上何故か、新入生の女の子4人と2年生の男4人という構成になってしまったため、美菜のテーブルだけがまるでコンパのような雰囲気になっていた。
美菜は他の上級生とも話をしてみたいとは思ったが、断るわけにもいかないので大人しくそこに留まった。
飲み物を注文するために、上級生が朱美にメニューを渡して聞く。
「飲み放題のメニューの中ならどれでもいいよ。何にする?」
朱美がメニューを見ながら首をかしげた。
「私飲んだことないから何がいいのかわからないや。」
「そうなんだ?じゃあなんか飲んでみなよ!チューハイなら飲みやすいんじゃない?」
その上級生に言われるまま、朱美は青りんごチューハイを選んだ。
「私は、ウーロン茶にする。」
美菜は朱美から回ってきたメニューを次の子に渡し、自分はろくに眺めることなく即答した。
「ミナちゃんも飲んだことないの?飲んでみなよ。」
ミーティングのときから一緒にいて、今も美菜の前に陣取った達哉が勧めた。
「ううん。
そういうわけじゃないんだけど、私このあと車に乗る用事があるから飲めないの。」
「車持ってんの?すげーな。
てかもう免許取ったんだ。浪人?」
達哉の左側、朱美の正面に座った亮太が驚く。
「持ってないよ!ちょっと知り合いに借りるの。
免許は高校のときに取っちゃった。別に禁止されてなかったんだ。
…はやく決めないと、店員さんが注文待ってるよ?」
美菜は曖昧に話を流した。
乾杯を終えると、早速達哉が話し出した。
「とりあえず、全員の名前覚えようぜ!
じゃあ1年生から自己紹介。ミナちゃんとアケミンはもう覚えたから、その隣の子は?」
同じテーブルについたのは、佐喜子と真希という女の子だった。
「じゃあ、さっちゃんとマッキーでよくない?」
亮太がそう言い、本人達が了承した。
「で、俺らはそっちからリョウ、タツヤ。で、俺がヒロで、こいつがコウジね。」
達哉の右側にいる弘樹が全員の名前を紹介し、最後に浩次が話し出した。
「うちのサークル、先輩後輩とか関係ないから、全員タメ口で大丈夫だよー。
俺も、コウジって呼び捨てで全然いいから!むしろそっちのがうれしいし!!」
男達の盛り上げがうまいせいか、緊張気味だった佐喜子と真希も、すぐに打ち解けた。
「さっちゃんとマッキーは出身どこなの?」
美菜と朱美は既にミーティングの際にその話をしていたので、残りの2人にそう聞いた亮太。
「群馬だよ。」
佐喜子がそう答えると、浩次がうれしそうに反応した。
「まじ?俺も群馬!どこ高?」
「北高っていうとこなんだけど…」
「俺東だよ!北高とか知り合いいるし。
えー、ヤマダカズキとか知ってる?学年違ったらわかんないか。しかも俺浪人だし。」
「あっ、知ってる!私、2浪なんだ。だから同じクラスだったよ。」
「まじでー?今度カズキに聞いてみるわ。」
その後も地元ネタで盛り上がりだした佐喜子と浩次。
それを横目に、美菜は残りのメンバーに向かい話し出した。
「すごい偶然だねー!」
「いいよなー。俺の地元が一緒の人なんて滅多にいないし。」
「ヒロくんは、どこ出身なの?」
「こいつ、佐渡島出身なんだよね。」
本人が答える前に、達哉がからかい口調で言った。
それに真希が答えた。
「それじゃあ、なかなか見つからないねー?」
当事者の弘樹以外の、全員が笑った。
次回に続きます。
ようやく雅典が登場です。




