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第3話:そこが冒険の入り口

 冒険者見習いが熟練冒険者の率いるパーティに参加しても、出来ることは片手で数えるほどしかない。前衛、後衛とそのどちらに組み込んだとしても新人の存在は却って他の冒険者の動きを阻害する。これはミールも例外ではない。


「というわけで、ミール。お前には後援をやってもらう」


 団長、フレイグの判断は適切であった。


 邪魔にならず、かといってパーティの荷物にもならない新人でも出来る重要な役割。それが後援と呼ばれるポジションである。その内容は主にパーティを円滑に動かすための雑用を行うこと。具体的に言うと、回復薬の管理、素材集め、その他に消耗品の運搬を任される。前衛や後衛といった戦闘に参加するわけではないが、パーティの生命線を握っていると言っても過言ではない――と言えば聞こえはいいが、要するに荷物持ちである。


 フレイグはミールに薄汚れた巨大な背嚢を手渡した。大きい――屈んだ大の大人が二人は入れそうなほどの大きさに、恵まれた体格を持っているわけではないミールは圧倒される。まだ中には何も入っていないが、この中に道具や収穫物で一杯になったときをミールはいやでも想像した。とてもではないが、今のミールが背負うには負担が多すぎるだろう。


「……これは、やりがいのありそうな仕事ですね……!」


「ははは、意気込みがあることはいいことだ。けどな、君が思っているほど重くないんだぜ」


 バレスは悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべ、その背嚢の中に次々と慣れた手つきで必要な道具を詰め込んでいく。何も入っておらず、萎んでいた背嚢がみるみるうちに膨らんでいった。およそ、袋の八割は詰め込んだだろうか。


「ほら、背負ってみな」


 背負ってみれば確かに軽い。まるで、後ろから誰かに持ち上げられているような錯覚さえあった。孤児院で山のような洗濯物を運ぶときよりも遙かに軽く感じ、ミールは思わず、おお、と感嘆した。

 

「大層な仕掛けがあるわけじゃないが、魔道具の一種さ。ある程度の重さを一定に保つ、なんてつまらない能力だけれど荷物運びにはうってつけでね。数日、ダンジョンに潜るときには重宝するんだよ」

 

 この世界には魔道具(・・・)と呼ばれる、特殊な能力が付与された道具が存在する。ダンジョンから得られた素材を用いて作られた道具が、素材の帯びる魔力に反応して能力を得るのだ。素材と鍛冶師、そして組み合わせた数だけ異なる能力を持つ魔道具が出来上がる。


 重さを軽減する、といった見栄えのない能力も歴とした魔道具だ。日々の生活、とくに膨大な子供達の洗濯物を運ぶミールにとって、この背嚢は喉から手が出るほど欲しい物である。ミールのように、つまらない能力を持つ魔道具であっても、場所によっては需要がある。それゆえ、ダンジョンから生還することが出来れば、不利益を被ることは少ない。

 

 生還することができれば、の話だが。


「さて、陣形だが。前衛を俺、グリント。後衛をバレス――ああ、いつもの編成だ。新人のミールはさっきも言ったが、後援から俺達の動きを学んでくれ。実戦になれば観察している時間なんて無くなるからな」


 フレイグの言葉を皮切りに、各々は自分の得物を携えて意気込む。慌ててミールも、装備した短剣――飾りのようなものだが――を確認して、頼りない足取りで先輩達の後を追った。

 


◇◇◇◇◇◇



 そこは、まるで矮小な人々を飲み込むように口を開けていた。見るものを圧倒する、自然に形成されたとは思えないほど、巨大な口。その周囲には人々が軒を連ねるように露店を開き、猥雑で活気のある街が出来上がっていた。


「これが、迷宮(ダンジョン)……!」


 冒険者ギルドから一本道。昼の鐘を聞く前に到着したその場所は、時間帯に関係なく盛況であった。孤児院出身という身分を晒すように、ミールはあちこちへ視線を飛ばす。


 フレイグ達は慣れたもので、人混みをすり抜けてダンジョンの入り口へと向かっていた。ここはダンジョンから出てきた冒険者から様々な素材を他の商売敵から買い取ろうと、常に商人達でごった返している市場である。知らない者は、ダンジョンに入る前にここで迷うというのは巷で有名な伝説だ。


 当然、ミールは為す術なく迷った。するりするりと進んでいくフレイグ達に追いつこうとしたものの、大きな荷物が人の流れに(つか)え、程なくして人混みに飲み込まれた。


 ――完全に見失った。


 すわ冒険の終わりかとミールが思ったとき、彼の手を何者かが掴んだ。それは白銀に輝く籠手(ガントレット)――グリントのものであった。


「すみません、グリントさん……」


「……(ぐっ)」


 気にするな、と言わんばかりにグリントはサムズアップする。その小さな甲冑が、ミールにとても頼もしく輝いて見えたのは錯覚ではないだろう。


 その後はグリントに手を引かれる形で、ミールはダンジョンの入り口に到着した。市場からダンジョンの入り口前までで、もう冒険をしたような気分である。

 

「大丈夫か、ミール? もうぐったりしているけど」


「いえ、大丈夫です!」


 バレスの心配するような声に、ミールは空元気で答える。別に今回のダンジョン探索でミールに戦力的な期待はしていないらしく、フレイグはミールの様子を一瞥した後、淡々と説明を開始した。


「知っての通り、ギルドの依頼で新人のミールの面倒を見ることになったが、俺とバレスは第二十階層の踏破がレギオンから命令されている。臨時に組んだパーティとは言え、戦力的には申し分ないと見ているが、安全を維持しつつ探索をすることを約束しよう。さて、諸君。待たせたな」


 そこで珍しく、フレイグの表情に笑みが浮かんだ。


 それは未だ誰も到達していない、新たなる世界へ踏み出そうとする冒険者の喜悦であった。


「冒険開始だ」

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