二月
まだ夕方の五時半だというのに、世界は夜の姿を見せ始め、昼の光を奪っていっている。
二月。立春も過ぎ、古文の世界だともう春だというのに、まだ空気は世の中の全てを刺すように寒かった。
センター試験が終わり、そこで転んだ私は国公立への挑戦を諦め、私立に行くことを決めた。
後悔も悔しさも何もなかった。やりきったからではない。とうに諦めていて、分かりきっていた結果だったからだろう。
私は道を歩いていた。散歩だ。受験勉強をしていた時、気が滅入り始める夕方に音楽を聴きながら散歩をするのが日課だった。それが今もまだ抜けず、ヘッドフォンを頭につけてマフラーに顔を埋め、今日も歩いていた。
曲が変わる。私が一番好きな曲。
今の時期。別れが近づく今。この曲を聴くと泣きそうになる。
『使い続けたスニーカーも
落書きだらけの教科書も
これから二度と使うことはないだろう
あの日のあの時僕は何してただろう
想いも感情も何も覚えてないけど
仲間ともに駆け抜けたあの風景だけは
色褪せず今も此処にある』
高校生。あっという間だった。
小学校よりも、中学校よりも、ずっと早かった。
人生で最も輝いているときと言われる高校生。
きっと私もそうなのだろう。
そうだったのだろう。
遅刻しそうになって走り回ったり、休み時間に友だちとゲラゲラ笑ったり。体育のバドミントンで本気で勝負したり、つまらない数学の授業で居眠りしたり。
何でもない日々が楽しく感じられるあの時は確かに輝いていた。
『もしもタイムマシンがあったとしても
僕はあの頃に戻らないだろう
青空だけが戻ればいい
僕は今いる此処に残るから』
私は戻りたいと思うだろうか。
若く、輝いていたあの時に。
いや、思わない。
どんなに楽しかったとしても、私は今いる場所で花を咲かす。
曲が終わる。次の曲はもう流れなかった。シャッフルにしていたアルバムは終わりを告げた。
家が見える。オレンジ色の屋根。夕食の匂いがする。人々の家に光が灯る。
私の横をセーラー服を着た中学生が自転車を漕いで過ぎていった。
憧れ続けたあの高校の制服を着れるのはあと三回。