6.弱者と強者
hhh~……!!
「オオカミの鳴き声か……?」
にしてはマキのようすがおかしい。警戒、と言うより、焦り?
「逃げますよ。コレは手に負えない……」
「何が居、・・・なにか来る!!」
ザッ、ザッ……
これ見よがしに音を立てながら、少なくとも2分前までは
音をギリギリで聞き取れる程の距離に居たはずの紅い狼が、林を抜けて
こちらをみやる。
「速すぎる……撤退します!殿は私がするので逃げてください!!」
「いや、あれは無理じゃないか多分」
完全に狙いを定めたその瞳から
感じる執着の強さ。今逃げても後で
必ず食い殺す。そんな目だった。
「倒せないの?」
「無茶言わないで下さい!」
戦う選択肢を選べない程の戦力差か。……ならやることは一つだ。
「俺をご指名みたいだ。可能だったら逃げろ。時間くらい稼げるだろ多分」
「なに言ってるんでッッ!!?」
「クジぃ、任せた」
ブンッ!
「初心者なんですから経験者のぃぅ~っ!!?」
遠ざかる獲物を追おうともしない。戯れか、遊び相手は一人で良いもんな。
「遊ぼう」
ガブッ!!
「……っなるほど、これは確かに無理だわ」
《40/57》
避けきった。そう思った時点から更にリーチが伸びてくる。
体に隠れて見えにくかったが、これは……。
「影か」
ジクジク……ダン!!!
「ガル”ア”!!」
「ッ!」
バキッ!
「んなろ、なんて力してやがる・・・」
《24/57》
支柱にした杖は無事、だが、緩衝材を前にしたはずの腕がぽっきり折れた。
これは・・・、喰らう事そのものが無茶か。・・・にしても。
「随分ボロボロだなぁお前も、いや、俺のはお前がやったんだが」
マキのレベルにもよるだろうが、普通に倒し切れたかもなぁ・・。
ちょっともったいない事した気がする。今からでも呼ぶか
「ノワール、仕掛ける〈伝言〉」
「ア”!」
ダッダッダッ!
「〈ガウ〉」
ゾグッッッ!!
(なん・・・!?)
体の奥底から恐怖心を引きずり出される感覚、心がソレに屈する事を
望んでいる。剥き出しの殺意に晒されたその二人に、ゆっくりと、
しかし着実に牙が迫る。
(一発すら当てられないか、・・くそ)
「グガアアアアアアアア!!!!」
死ぬ。そう思った瞬間、傍にいたゴブリンが吠える。
《魔法〈劣化瞬間加速〉を習得しました。同時に、能力の一部を制限しました。個体名:ノワールが加速魔法を手に入れました》
耳慣れない言葉と共に、迫る牙へ一つの影が立ちふさがった。
「・・・〈劣化瞬間加速〉」
恐怖を前にして、それでも立ち向かうその影をあざ笑おうと大仰に動いていた
狼が、初めて俊敏に距離を取ろうと動き、追い付かれた事に驚愕する。
「〈下位物理防御〉・・〈バ〉ッ!?ギャイン!!」
声が発せられるより早くノワールの一撃が狼の腹を叩き、弾かれた肢体が
バウンドしながら十数メートル飛ばされる。しかし・・。
「ググ・・グルァ゛ァ゛ァ゛ァ」
弾かれた狼が立ち上がる、明確な怒りを、敵意を相手にぶつける為に。
標的は勿論ノワールだ。そうだった。
「遅いんですよ、もう向かってました」
後ろから聞こえた女の声に、レンはバツが悪そうな顔をする。
「悪い、一発当てたがまあまあ健在ぽい」
「グルルルル〈爪鋼鉄化〉〈ステップ〉」
「甘いってんですよ〈遅延する蔦〉」
「ギャイン!?」
持ち上げられた足に地面から生えた植物が絡みつく。切り裂こうともがくが、
足首に巻き付かれてはさすがに苦労しているようで、無防備に
両前足を蔦を切る事だけに使っている。
「無事でよかった。思ったよりクジさんが早かったので、正直間に合わないと
思いました。次からは経験者の言う事をよく聞くよーに!」
「はいよ、悪かった。思ったより楽勝っぽいんだが、鬼の様なリーチで
殺されかけてました・・。近づくのはちょっと危険かも」
「なるほど、さて、魔法職の見せどころですね!〈砂の檻〉〈炎の槍〉」
バシュッ・・ジュウウウ!!
砂の牢獄に囲まれる直前、影の腕が本体を吹き飛ばし、直後に打ち込んだ槍が
発する炎が、壁にめり込んだ片足を焼く。
「〈凍結〉〈毒の鞭〉〈岩の槍〉
「グルアア!!」
ザグッ!ビュン!!ガガガガ!!!
熱で溶けた壁を凍らされる直前、瞬時に片足を切断しながら突進するも、
毒の鞭を避けようと無理にジャンプしてしまったため、次手の岩槍が
体中を打ち付ける。そして・・。
「〈風の鎌〉〈異常進化〉」
反応の遅れた狼の顔に風の刃が突き刺さり、裂かれた顔を見たマキリスが
紙を取り出し、魔法を唱える。その瞬間―
「ガ・・・アアア”ァ”ァ”!??」
グジュ・・・ギュアアアアア!!!
膨張した肉が二つの傷口から嫌な音を立てながら飛び出して行く。
しかし、それで死ぬことは無い。むしろ、叫ぶ理由は肉体の
限界値が伸び続けた歓喜に近い。しかし、それも終わる。
〈魔力吸収〉〈鉄砲水〉」
肉に触れた手から吸収された魔力が、スクロールに移り、その量に
耐えきれなくなり、一瞬でそれを燃やし尽くす。燃え尽きる瞬間、
膨大な水が周囲全てを埋め尽くし、その時点でレンの意識は途絶した。
・・・
「何か言う事は?」
埋め尽くした水は例外なく全てを流し、
魔法の効力が切れるまで草原内を(レンを含め)蹂躙した。
「ごめんなさい・・・」
「今日はそんなのばっかりですねえコーさん」
「お、クジの呼び方取ったのか。ま、気に入った方で呼んでくれ」
「それにしてもですよ!勝手に私を投げ飛ばしてクジさんに
運ばせるのやめてくださいよほんとに!!」
「まあ、そりゃそう言うよな。でもなー、お前勝てないって言ったじゃん」
おとりが機能しないならともかく、少なくとも十数秒は稼げたし、
まあ、近場に高レベルNPCでも居ればワンチャンスあったのだから、
これは間違いとは呼ばないだろう。結果的に助けられたのだとしてもだ。
「びしょびしょ、はぁ、結局倒せたんだ?」
「まあ、そこそこズルしちゃいましたけど・・・経験値は美味しかったです」
「ゴメンネマキちゃん、昔からこの人に頭上がらなくてさ」
「カタコトで謝っても説得力ねえぞー!それにお前、割とノリノリで
逃げてたよな?」
「ばれたか、テヘッ」
同僚のぶりっ子なんて、見ても何も感じんわ!!
「じゃ、レベル上げ・・・出来そう?」
「ぜっっったい街の近くでやるべきです!!」
余裕そうに見えたマキリスだが、少なくとも今みたいなことを
複数回やるだけの余裕は無い様で、焦った顔から漏れる
次会ったら絶対死ぬ!感に押され、西寄りの北にある平原から、
城から真北にある森でレベル上げをすることになった。
・・・・北の森・ドニル
「どうせなので狩り勝負でもします?」
「まだレベル3なんだが?」
「僕もー」
「ではお二人は討伐数×2倍で良いですよ。ゲーム形式の方が
楽しそうですし」
負けるつもりは無さそうなんだよなぁこいつ。別に敗者を決める
戦いは嫌いじゃないが、ちょっとなー。
「別に良いけど、こいつもセットだと多分クジ確定で負けじゃね?」
「私も負ける可能性ありますって!」
「だって、死んだらそこまでな俺たちと違って、お前普通に死なないじゃん」
倒した数と言うのは、いわゆる死ぬまでに殺した数とも言える。
レベル3でも普通に死ぬような敵もまだ少ないがいるこの森だと、
ちょっとクジが割を食いすぎると言う話なんだが・・。
「別に良いよ~。多分勝つし」
「へえ、自信満々かよ」
「じゃ、15分間縛りで行きましょー。負けた人は二人に驕る感じで!!」
「え、ちょまっ――!」
結局レンがボロ負けした。
よし1日目終わった。
と言う訳で、今回は強者(狼&マキ)と弱者(レン&その他)をメインにやってみました。
マキリスが色々と魔法を使っていましたが、アレは別にマキリスの
レベルになれば取得できる物ではなくて、スクロールでの使用以外ではまだまだ結構
取得まで時間がかかる魔法です。描写したと思うけど、一応。
今回の奴のステータスも書きますね。
バイオレンス・ウルフ
Name.less LV.(2/20) Race.暴虐狼 Total.15
HP241/241 MP80/80 SP130
exe:0/0(ここは気にしないで下さい)
STR:142
END:138
AGI:189
INT:73
MIN:139
LUC:10
うん、強い(確信)一応、正面戦闘だとマキでもまだ勝てない位の強さです。
ちなみに、マキのレベルは11