4.エジル・ハインリヒ
「えー、あーここ含む「女性に年齢とは、不躾な奴じゃのう。何歳に見えるかの?」
ふむ、面倒くさい。分からないから聞いたんだが・・・。
「どう考えても10歳くらいのこの人は今年で100・・何歳でしたっけ?」
「こら、答えるまで待っても良かろうよ。100歳まで数えておれば良い。
つまらんのう、ハクリ」
「え、マジ?ほんとに??」
嘘だろ100歳、お婆ちゃん超えて魔女やってそうじゃんよ・・・。
「面白い反応をしよるなぁお主、良かろう。推薦状を貰えるかの?」
「はい・・・これです」
「フム・・・なるほどのう。付いて来なさい。ハクリも一緒にじゃ」
「どうかしました、師匠?」
ギィ
何度か頷きながら書面を見た後、下へと続く扉を開き、歩き出す
エジルに恐る恐る付いて行くハクリの後ろをついて行く。すると。
「何これぇ・・超綺麗・・・!」
「拡張空間の一種じゃ、1000リルは有るので、はぐれる事の無いように」
「リル?」
「えと、2500m位だと思ってください。2.5㎞でしたっけ?」
マジで広いな!魔法万能かよ。
「と言っても、今回は魔法陣に触れるだけじゃ。余計な場所に手を出すでないぞ」
扉の先は小高い緑の草原、端っこに位置するその場所から、ほぼ正面に森、
右には崖、左はサバンナの様な地形が作り出されていた。今回言っている魔法陣は
扉を出てすぐ後ろ。10歩かそこらの距離にあった。
「そう警戒するでない。魔法陣を踏めば目的の場所じゃ、其処で
あ主の適性を見る。問題なかろう?」
「はい、で、踏んだらどうすれ―――!?」
シュッ!
「師匠、移動する魔法陣については全部説明して下さいって言ってますよね・・」
「そう睨むでない。異界人には丁度良い暇つぶしになるじゃろ。
待たせるのも悪い、先に行くかの?」
「はぁ・・・」
「呆れるでないわ!!?」
弟子と師の、何気ない日常であった。
・・・・
「酔っだ・・・」
ジェットコースターの景色が見えない版とでも言うべきか、目まぐるしく
一瞬で切り替わる景色を目で追おうとしたのが間違いだった。
と言うか・・・本当に吐きそう・・!
「凄いですねこの人・・・」
「まだ吐いておらんか、よしよし、重畳じゃな」
移動に使った魔法陣を経た先もまた魔法陣だった。とても強い不快感以外
何も残らなかったな・・・。ふぅ、やっと引っ込んだ。
グイッ、ザッ!
「慣れておるのか、ならば宜しい。この先に切り立った崖が有る。
其処が目的地じゃ。もう少し頑張りなさい」
「ハァ・・・はい」
「ゆっくりで良いですからね?」
少年に肩を借りながらなんとか進むと、周囲の木々が少なくなって行く。
ものの数分で下を直視したくない程度には高い崖の上にたどり着く。
「到着したかの。お主には、この場所でとあるモンスターと戦ってもらう。
酔いも覚めたじゃろ。はよう円陣の中へ」
「・・・、はいよ」
「待って下さい!なんでこの人だけ」
スッ
「だけ、ではないかのう。ハクリ、お前に課さなかったノルマの一つを
こやつに課しておる。それだけの話じゃ」
「まあ、取り敢えず始めましょう。時間も少々少ないので」
「よかろう。〈召喚・小鬼〉」
パサッ
「ギグイ」
「なん、つう・・・バケモンかよ・・ッ!」
小柄、130㎝未満の体躯に似合わぬ隆起する肉体、両腕もそうだが、
明確に発達しているのは足、膨れ上がった太腿のソレは人間とは
比べようも無く、絶対値の差が見て取れる。こいつ、人間より強い。
「このままでは勝負も見えていよう。さて、力はくれてやる。
ワシにその力を示せ。最初のクエストじゃ」
《対象からクエストが発令されました。〈チュートリアル:戦闘〉
〈チュートリアル:魔獣使い〉が発生しました。クエストを受注しますか?》
「イエスだ」
《クエストを受注しました。対象との戦闘を開始します。step1:攻撃を当てろ》
ダッ!!パシッ!パパンッッ!!
「・・・(やっぱり早い。が、予想通り)」
開始と同時に正面からご自慢の筋肉を活かした大股の一歩を踏み込んだ
ゴブリンから繰り出された攻撃を弾き、リーチに勝るこちらのジャブを
二発正面から喰らう。
《step1 クリア step2:攻撃を避けろ》
「攻撃?・・・ッ!」
ビュン!ッバキャッ!
《step2 失敗 step3:有効打を与えろ》
「ざっけんな!」
地面に散らばっていた砂利を投げた所までは反応出来た。しかし、
いつの間に持っていた棍棒の一撃までは反応しきれず、左腕が死ぬ。
ってか有効打と言っても・・・ん?何で右手に杖あるの?
「まあ良いや、しねえええ!!」
「グガ」
ガッ!シュルルゥ・・バキッッ!!!
「なンッッ!??」
単調な振り下ろしとは言え、真上からの一撃をいなし、流した
回転のままに側頭部を打ち抜く。その動作の美しさに、つかの間、
意識と思考が止まる。そして、
「そこまで!!」
スッ・・
立ち上がるまでに足へ向けられた棍棒が叩き込まれ、おそらく
戦闘続行不可能になる前にエジルの声でゴブリンが止まる。
「強い・・・!!」
常に二手は余裕を持たれていた。しかも、対人戦にも大分慣れている。
少々甘く見たが、勝てないなコレ、初手では特に。
「何故近接戦闘を行ったのか聞いても良いかの?」
「まあ、武器が手元にあったので、取り敢えず殴れば良いかなと。距離を
取ろうにもあの瞬発力で走られたら無理でしたから」
(ふむ・・・危機管理についてはまあ合格点をやれる。しかし・・)
「真上から叩こうとしたのはなんでじゃ?」
「普通防御しようとするでしょ?」
そう、上からの攻撃は、基本的に受け流そうと動けない筈なのだ。
いきなり現れた木の杖、対象のリーチ、判断材料が多くなるほど
動きは反射に近くなり、結果として、防御と言う単純な反射以外の
選択肢を失う。・・筈だった。
「慣れの話か。なるほどのう。ハクリ、この子の治療の後、戦ってやりなさい」
慣れ程度の話なのかあの反撃・・、と言うか待て、今
「えっと、怒りますよ師匠?」
「待て待て、場慣れ度合を見たいからこその推手と考えんかばかもん!
わかったからその棍棒を下ろすんじゃー?!」
2分後
「骨折ってこんな簡単に治るんだ・・。すげ」
「それで、戦うかの?」
「あんまり初めての人と戦いたくないんですけど・・・」
「気が進まないかい?」
「ええ、お兄さん弱いですから」
ドクン!
「クカカッ!煽るのうハクリや、それでは相手をその気にさせるじゃろ」
「いえ、やる気出ました・・・やろうか。少年」
「その少年呼びやめてもらえません?」
「勝てたら答えるよ。その希望」
「はぁ・・・また怪我しても知りませんからね?」
ブゥン!
「ハクリ、残念じゃが、お主とこやつでは力に差が有り過ぎる。
速度と筋力は制限させてもらうぞ」
「その程度で良いんですか?」
「十分」
バッ!!
「そんな単調に・・ッ!」
グイ!ッパン!!
「油断すれば飲まれる程度の実力差じゃ、安心して殺しに行きなさい」
差し出された右腕の裾を掴み、戻そうと動かした瞬間けり上げようとした
右足に乗っかる。遊ぼうぜ、少年!!
「この人今さっきゴブリンに殺されかけてましたよね!!?」
「生命として起こる思考の段階の差を認知出来なかっただけじゃよ。
アレは戦いを楽しんでいる類の性格じゃった。じゃから
思考と行動の差に体がついて行かなかっただけじゃ。その思考が
出来る者なら、お主程度なら蹂躙出来て当然とも言えよう」
「よそ見してる場合かよ」
グッ!ブンッッ!!バッ、タンッ!!ザッ、サクッ!
「癖が有るんだよ。君の動きには」
内股刈りから一本背負いまでの連続技に吹っ飛ばされたハクリが、
どうにか転ばずに2.3回転しながら体勢を立て直す。そんな事
許すはずがないんだが。
「腕貰うぞ」
バキィ!!!
「グッッ!!?」
「実力差はそうでもないんじゃがなぁ。不安か?」
「クイゥ」
「見ておれよ。お主の飼い主もこのままでは終わらんぞ」
片腕を折られながらそれでも構えるハクリを見つめるエジルは、
その戦いをただ静かに見つめていた。
次
克己、就職す。
見ての通り、仰々しく推薦状とか書いてた割に簡単に成れます。
ですが、滅茶苦茶面倒な事に、スキルの仕様を説明してくれる様な
暇な人は少ないです。なので、忙しくても片手間に説明してくれる人に
推薦状を書いてこの人はこんな職業に就きたいらしいですよーと伝え
、忙しければギルドで簡単な講習を、暇ならそのまま実地訓練を
お願いするシステムになっています。なのでめっちゃ報酬は高いです(私事が
ほぼ出来ないので)。一応、お仕事を発注する人は複数名居ます(エジルは固定です)。
なお、このお婆ちゃんは死ぬほど多忙な人です(今回はこんなですが)
次の登場でそこら辺は話せると思います。