約束のデート(勇者〔姫〕:ユリーシャ編)
よろしくお願いします!
イリアルとのデートを終えグランデル王国王宮へと戻ってきた僕らをユリーシャは料理を作って待っていた。ユリーシャが作ったご飯を食べ終わった僕は今、王宮の一室のベッドに座っている。
「んっんー!はぁ...それにしても今日は結構疲れたな...」
そう言いながら、僕はベッドに横になり、体を伸ばし今日のことを振り返る。
(今日は洋服を買いにイリアルの行きつけの店に行くとイリアルが出てる間にエルグから殺されそうになったり、公園ではいつの間にか寝ていてしまったり、最終的には墓地でキスをしたりイリアルに襲われそうになったり、イリアルを襲いそうになったり...色々あったなー!でも、少なくてもイリアルの本心があの時、聞けたような気がする。)
僕はそう思いながら、ウトウトと眠りに入っていった。
『私は待つ!』
イリアルの言葉が眠りに入りながら頭の中で何度もリピートされ、僕は(スヤスヤ)と眠りについた。
(僕は、眠りについた後、夢を見た。良い夢なら良かったが、悪夢だった。思い出したくないあの世界の夢...僕が逃げ足してしまったあの街の夢、僕は皆から追いかけられて、必死に逃げる...逃げても逃げても皆は追いかけてきて、僕はとうとう捕まり皆から暴力を受けようとしていた...。『怖い怖い...』僕は体を丸くし身を庇う姿勢になりながらそう言う。皆が手を上げ振り下ろした瞬間、僕は目を瞑った。『...?痛くない...』僕はそう思いながら、恐る恐る目を開ける...僕の目の前には二人の少女が両手を広げ僕を守るようにそこに立っていた。二人の少女は皆を追い払うと、僕の元に近付いてきて『もう大丈夫だ(です)!』と同時に言うと僕を優しく抱きしめた。とても嫌な夢だったのに、二人の少女のお陰で僕の心が温かくなっていた。)
夢はそこで終わった。
僕は薄目を開けながら目を覚ました。
目からは(ポロリポロリ)と涙が出ていて、僕は涙を拭う。
「んっんー!悠真様...」
「んっうーん!悠真...」
両隣からユリーシャとイリアルの声がし、僕は隣を交互に見た。
ユリーシャとイリアルが、僕の体に自分の体を密着させて(スヤスヤ)と眠っている。
「やっぱりか...」
僕はそう言いながら二人の寝顔を見て(クスリ)と笑った。
「ん?でも、この展開だと、まさか...」
僕は二人の胸もとに目をやる。
「ふぅー...二人とも今日は半裸状態じゃないみたい...」
僕は(ホッ)と一息つく。
「んっんー!悠真様おはようございます!もう、起きられていたのですね?」
左隣に寝ていたユリーシャが目を覚まし言う。
「おはよう!ユリーシャ...で、ユリーシャに聞きたいんだけど、なんで二人は僕と同じベッドに寝ているのかな?」
僕はユリーシャを見て質問する。
「あっ...これはですね...あの...その...」
ユリーシャは動揺して言葉を詰まらせていると突然後ろからイリアルが抱き付いてきて
「それはだな、昨日悠真にお風呂の準備が出来たから部屋まで起こしに行ったら、悠真が気持ち良さそうに寝ててな、その寝顔に見とれてそっとキスをしようとしたら、いきなりユリーシャが『何やってるんですか-!抜け駆けは駄目です!』って入ってきたのだ!その後は、わかるだろ?いつも通り口論になって、しゃべり疲れてはぁはぁと息を荒げていたのだ。すると、ベッドに寝ていた悠真が寝言で『怖い怖い』といって泣いているのが聞こえ、私たちは目を合わせ、両隣から悠真を抱きしめ『大丈夫だ!』と声をかけそのまま寝てしまったみたいだな!悠真おはよう!よく眠れたか?」
と言いながら、こうした状態になるまでを話してくれた。
「ははっ!イリアル、おはよう!いきなり抱き付かれるとビックリするんだけど...それと、そろそれ離れてくれるか?」
僕はそう言いながらイリアルの手を(ポンポン)と叩いた。
「まぁ良いではないか!悠真の体、温かいから気持がいいのだ!」
イリアルはそう言うと(ギュッ)と軽く力を入れた。
「イリアル!悠真様から離れなさい!悠真様は今日、私とデートする日なのです!開始時間に間に合わなくなります。デートの時は邪魔をしない!でしたよね?」
ユリーシャはようやく我に戻ったようで、大きなこえでそう言うとイリアルを見る。
「確かに...そうだな...ユリーシャも約束を守ってくれたし、今日一日は私もユリーシャの家で過ごすとしよう!」
イリアルは素直にそう言うと僕から離れ身を整える。
ユリーシャと僕は、イリアルの素直さに、驚きながらイリアルを見ていた。
「イリアル...今日はやけに素直だけど、何かあったの?てか、アルデルン王国に一緒にいくの?」
僕はイリアルに聞いてみる。
「昨日のデートが楽しかったからと私がしたいことの一つが出来たから...そして、正々堂々とユリーシャに勝ちたいと初めて思ったから、私は二人で決めたルールを守る!だから、今度は私がユリーシャの家に行く!」
イリアルは僕を見てからユリーシャに目をやり、そう言いきった。
「望むところです!私も負けませんから!」
ユリーシャもイリアルの目を見てそう言う。
「では、悠真...私とユリーシャは今から朝ごはんを作るから、お風呂に入ってきたらどうだ?悠真がユリーシャと会ったときに着ていた最初の服をユリーシャがアルデルン王国からたまたま持ってきているらしいから、それを着たら良い!」
イリアルはそう説明して、部屋を出て、ユリーシャと共に風呂場まで僕を案内した。
「えっ?あの、白のスーツじゃ駄目なのか?」
僕はユリーシャに聞く。
「あの服は、正装ように仕立てて貰った服なので...また普段用で今日作りに行きますので、それまでは、悠真様が最初に着ていた服を着ていて下さい。」
「そうなんだね?分かった!ところで、ユリーシャは昨日アルデルン王国に帰らなかったのか?」
僕は目覚めてから疑問に思っていた質問をユリーシャに言う。
「えっと、本当ならば昨日、悠真様にはアルデルン王国に来て貰うはずだったのですが、朝から話した騒動があり、私もそのまま寝てしまって帰りそびれたのです。ここからアルデルン王国まで半日はかかりますので半日しかデート出来ません...申し訳ございません!悠真様!」
ユリーシャは正直にそう言うとシュンとした顔をし僕に頭を下げた。
「えっ?それならたたき起こしてくれて良かったんだよ?それにお風呂に入ってる場合じゃ...」
僕はあわあわとしながらユリーシャに言う。
「しかし、悠真様があんなぐっすり眠られているのにそんな...たたき起こすなんて...それに、半日でも悠真様とデート出来るだけでも私は嬉しいのです!」
ユリーシャもフルフルと顔を振りながら言う。
(ユリーシャなりに昨日色々と考えていたはずなのに...僕が眠ってしまったばかりに、ユリーシャに謝らせて、申し訳ないことしたな...)
僕はそう思いながら
「謝るのは僕だ...ごめん...僕のせいで...ユリーシャの計画台無しだ...」
僕はユリーシャに謝る。
「あー...その事なのだが、ここからアルデルン王国までは、特別に私の魔法を使って送っていくから約三十分で着くと思うぞ?だからゆっくり風呂に入って、朝食にしよう!まだ七時だ!デート開始時間まで十分間に合う!」
イリアルが僕とユリーシャを見ながら言った。
「イリアルー!」
ユリーシャはそう言いながらイリアルに抱き付いた!
「そんな抱き付くな!朝も言ったが、その、ユリーシャとは正々堂々と勝負がしたいからな!」
イリアルは自分の首に手を当てながら照れたようにそう言った。
(本当にイリアルは外見とは裏腹に優しい!)
僕は優しい笑顔で二人を見ながらそう思う。
「じゃあ、悠真はゆっくり風呂にはいってくるといい!ユリーシャ...その間にパッパと朝食作るぞ!」
「了解です!」
そう言いながら二人は歩いていく。
(なんか、双子だと言え、魔王と勇者が仲良く歩いているのは見てて不思議に思うな!)
僕はそう思いながら、二人の後ろ姿を見て(クスリ)と笑った。
「本当に僕は妙な人から好かれたものだ!ここに来てまだ数日しか経っていないのに...まぁ、こう言う生活も悪くない!」
僕はそう思いながらお風呂場に入っていった。
風呂から上がった僕は、食堂に急ぐ。
(ガチャ)
僕は食堂のドアを開け中に入る。
「悠真様!ちょうど良い時間帯に上がられましたね!」
ユリーシャが僕を見てニコリと笑う。
「ふむ!さすが悠真だな!」
イリアルは腕組みをしながらそう言う。
「では、朝食にいたしましょう!」
ユリーシャがそう言い、僕らはテーブルについた。
「...えーと、なぜ二人とも僕の両隣に座っているの?」
二人の位置に疑問を感じた僕はそう二人に聞く。
「お気になさらずに!さぁ、悠真様?私めがお口に運んで差し上げます!」
そう言いながらユリーシャはスープを(ふー)っと冷まし僕の口に持ってきて
「はい、あーん!」
と言う。
「いや...自分で食べれるから大丈夫!」
僕は拒否しながら自分でスプーンを握り食べ出す。
「はぁ...悠真様にあーんしたかったです!」
ユリーシャはそう言うと俯きながらスプーンに乗ったスープをパクリと食べた。
「ユリーシャよ!そう言うのは信頼関係を充分作り上げてから行うものではないか?私と悠真は昨日のデートで信頼関係を深めているから出来」
(るぞ!)イリアルが最後まで言う前に
「いや...イリアルでもしないからね?」
と言った。
「へぇ?今なんと?」
イリアルは僕を見て首をかしげる。
「イリアルがやろうとユリーシャがやろうと僕はあーんはしないよ?」
僕はもう一度ハッキリ言う。
「うっ...悠真ー...」
「悠真様ー...」
二人はうるうるとした目で僕を見る。
「そう言う目をされてもやんないよ?」
僕は二人を見ずに言う。
(今、二人を見たら僕は間違いなくながされる!)
そう思っての行動だった。
「うー...分かった(りました)!」
二人は諦めて自分のご飯を食べる。僕は少しだけ二人の扱いに慣れを感じた。
朝食を食べ終わり、イリアルが食器洗いをメイドに頼む。時計を見ると八時少し前だ!
「よし!では、アルデルン王国に行くとしよう!」
そう言うとイリアルはスクリと立った。
「では、イリアルよろしくお願いします!」
ユリーシャがペコリと頭を下げた。
「じゃあ、二人ともしっかりと捕まっているんだぞ!」
イリアルがそう言い、僕とユリーシャはイリアルにしっかりと捕まる。
「我は魔王、イリアル・シャーク・グランデル!我が身に宿りし魔物の力、今解き放つ!」
イリアルが呪文を唱えると僕らの回りは暗闇に包まれる。
「テレフ!」
とイリアルが言った瞬間に凄い強風が吹き僕は思わず目を瞑った。
「イリアル、ありがとうございます!悠真様私は着替えてきますので少しお待ちください!」
ユリーシャがそう言うと、(ギー...ガチャン)とドアの音がした。
「悠真!いつまで目を瞑っているのだ?もう良いぞ!」
イリアルがそっと囁く。
僕はそう言われ、ゆっくりと目を開ける。そこは、アルデルン王国の森ユリーシャの家の目の前だった。
「うわー!一瞬だ!」
僕が驚きながら言う。
「一瞬だと思うがそうではない!時計を見てみると言い。三十分位かかっているはずだ!」
イリアルはそう言いながら懐中時計を見せた。
「八時半...」
確かに、イリアルが見せた時計は八時半を示している。
「どうして?」
僕はイリアルに聞く。
「私の魔法は、この世界の時間と引き換えにして、ようやく使うことが出来るのだ!だから無闇矢鱈と使っては、この世界の時間がドンドン失われ、大変なことになってしまう。だから、緊急事態の時しか使わないのだ!ちなみに一回の使用で三十分いるんだ!」
イリアルは僕に自分の魔法の事を説明してくれた。
「お待たせしました!」
説明が終わると共にユリーシャが家から出てきた。
青いワンピースに上から白の花柄レースを着て、靴はお洒落なサンダルで立っているユリーシャの姿に僕は見とれてしまった。
「じゃあ、ユリーシャ...私は、ここで待たせて貰うよ?」
イリアルがユリーシャの家に入っていく。
「はい!では、悠真様!デートを始めましょう!」
ユリーシャはそう言うと僕の手を掴みユリーシャとのデートが始まった。
僕らはまた、東のカーペルから入り、ユリーシャの行きつけのアメジスに顔を出す。
「ユリーシャ様、悠真様、おはようございます!またいらして頂けて嬉しい限りでございます。今日はどういったご用件でしょうか?」
老婦ユールが店から出てきて僕たちに言う。
「えっと、今日は普段着るような、ラフな服を悠真様にと思いまして...」
ユリーシャは指をモジモジさせながら言う。
「さようですか!初デートなのですね!分かりました寸法は測ってありますのですぐにお作りすることが出来ますよ?店の中で少々お待ち下さい!」
老婦ユールはそう言って僕とユリーシャを店の中の椅子に案内する。
ユリーシャと僕は顔を赤くしながら老婦ユールについていく。
「じいさんやー、ユリーシャ様達がまた来て下さいましたよ!」
老婦ユールは店の奥に話しかける。
「本当か!」
店の奥から老父コバルの声がし、(トットットット)と駆け足が聞こえのれんの奥からコバルが出てきた。
「これは、これは我が店、アメジスにまた来て頂けるとは...今日はどういった用事ですか?」
老父コバルは老婦ユールと同じ事を聞いてきた。
ユリーシャがさっき老婦ユールに言ったことをまた伝える。
「そうでしたか!では、腕によりをかけてお作りします!」
ユリーシャの話を聞いた老父コバルは笑顔でそう言うと店の奥へと姿を消した。
「では、待っていて下さいね!」
老婦ユールもそう言って店の奥へと姿を消す。
「はは!コバルさん、かなり張り切ってたね!」
僕はユリーシャに向かってそう言った。
「ふふ!そうですね!」
ユリーシャは少し笑いながら店の椅子に腰掛けた。
僕もユリーシャの隣に座り服が出来るのを待つことにした。
二十分後...。
「ユリーシャ様!できましたよ!ささ!悠真様は奥でお着替え下さい!娘達が待っておりますので...」
老婦ユールが奥から姿を現しそう言った。
「あっ...えっと...」
僕は『娘達が待っておりますので』の言葉に尻込みをする。
「ユール!今日は私が悠真様のお着替えをお手伝いしたいのですが...駄目でしょうか?」
僕の尻込みを見てユリーシャは申し訳なさそうな顔で老婦ユールに言う。
「あらあら、お熱いですわね!分かりました。お二人を部屋に案内します。」
老婦ユールは(ニヤニヤ)しながら僕の背中を押し奥の部屋にユリーシャと一緒に案内される。
「えっ?えっ?」
僕は戸惑いながら部屋に通され、ユリーシャと二人きりになる。
「えっ...えーと、ユリーシャ?僕、一人で着替えれるよ?」
僕は戸惑いつつユリーシャに言った。
「それは、分かっています!悠真様があまりにも尻込みをしていたので...私は後ろを向いていますので悠真様はお着替え下さい!」
ユリーシャはそう言うと顔を赤くして僕に背を向けた。
「あっ...うん...」
僕はそそくさと服を着る。
「どうですか?着れましたか?」
ユリーシャが聞いてくる。
「あっもう少し...」
僕は急いでズボンを履こうとしてバランスを崩した。
「おっ...えっ...?」
(ドーン!)
僕は見事に転倒し、物凄い音が部屋に響いた。
「ユリーシャ様!悠真様!どうされましたか?」
老婦ユールと老父コバルが急いで駆けつけ部屋のドアを開ける。
「えっ...?」
「あらまぁー!」
二人は僕らを見て驚きとニヤケの顔をする。
「いてててて...」
僕は頭を押さえながら顔を上げた。
「えっ?」
目を開けた僕は一瞬にして目の前の光景に固まる。
僕は転倒の衝撃で、ユリーシャを押し倒すような形で上になっていて、ユリーシャの股にはズボン半履き状態の僕の腰がスッポリと入っていた。
「ゆっ...悠真様...その...早くどいて下さい...」
目の前にはそう言って顔を赤めたユリーシャがいて、僕の唇とユリーシャの唇はわずか一㎝程しかなかった。
(やばい...)
僕がそう思っていると
「コホン!」
後ろから聞こえた咳払いに僕とユリーシャは(ビクリ)と体を振るわせた。
「お二人ともとてもラブラブなのは分かりますが、そういうことはご自宅でなさってくださらないと...」
老婦ユールが顔を(ニヤニヤ)させながら言う。
「いや...これは、誤解です!僕がバランスを崩して転倒を...」
僕は急いで立ち上がりズボンを上げて誤解を解こうとする。
「またまた!言い訳は駄目ですよ?」
老婦ユールは僕に向かってそう言った。
「ユール、あれは本当に事故なのです!あまり悠真様を困らせないで下さい!」
ユリーシャはそう言いながら老婦ユールに向かう。すると、ユリーシャは何かに躓き後ろに倒れる、僕は咄嗟に手を差し伸べ、ユリーシャを(グッ)と抱き寄せた。
「ふー!」
僕は息を吐く。
「先ほどと言い、今と言い助かりました。先ほどはズボンを半端履き状態で私がドジをし倒れるところを助けバランスを崩してあーなってしまいましたが...助かりました!」
ユリーシャが僕に合図を送りながらそう言う。
「いや!さっきはズボンを半端履き状態だったとは言え上に被さってしまってごめん...」
僕はユリーシャのアドリブに合わせるようにアドリブを言う。
「...?と言うことは、先ほどのはユリーシャ様のドジであの体制になったのですか?」
老婦ユールが言う。
「ええ、お恥ずかしいところをお見せして申し訳ございません...ユール。」
老婦ユールと老父コバルは一時、間を開け
「なんだ、そうでしたか!」
とガッカリして僕らを見た後、店の出入口まで僕らを見送る。
「悠真様...誤解して騒いで悠真様を困らせてしまい申し訳ございませんでした!今日の服の代金はいりませんので貰って下さい!」
店の出入口に来たとき、老婦ユールと老父コバルは僕の前に来て頭を下げた。
「いえ、こちらこそ誤解されるような状態になってしまい、すみませんでした!」
と僕とユリーシャは二人に頭を下げた。
「ありがとうございました!また、お越し下さい!」
老婦ユールと老父コバルに見送られながら僕らはアメジスを後にした。
「さっきのアドリブ凄かった!」
僕はユリーシャを向いて言う。
「ふふ!悠真様も凄かったですよ?」
ユリーシャはクルリと回転して僕に言う。
「ぷっ!ハハハハハ!」
僕らは顔を見合わせてこれでもかと言うくらい笑った。
「似合ってますね!」
笑いが落ち着いたユリーシャが僕の姿を見ながらそう言ってきた。
「ありがとう!」
僕は照れながらユリーシャに言う。
「次はどこに?」
僕はユリーシャに聞く。
「私のとっておきの場所です!」
それだけ言ってユリーシャは歩いた。
僕は首を傾げながらもユリーシャの後を着いていく。
アメジスを出て十分くらい歩いただろうか、目の前に古い小屋が建っており、その中から何やら動物の鳴き声がする。
ユリーシャはその小屋に入っていく。僕もユリーシャに続き小屋に入った。
目の前にはグリフィンが沢山並べられている。
ユリーシャは一匹一匹を観察し、この子をと言いグリフィンを買った。
ユリーシャは外にグリフィンを連れていくと、手慣れたようにグリフィンに横乗りになり僕に手を差し出す。
「えっ?僕も?」
僕がそう言うとユリーシャは頷きながら
「私のとっておきの場所はグリフィンじゃないと行けないのです!」
と僕に言う。
「でも、僕グリフィンには...」
僕がそう言っているとユリーシャは僕の手を掴み(グイッ)と引き上げた。
「じゃあ、お願いしますね?」
ユリーシャがそう言うとグリフィンは(グガー)と声を出し助走しながら空へと飛んだ。
初めての体験に僕は思わず目を瞑る。
「悠真様?悠真様?目を開けてみて下さい!」
後ろからユリーシャ僕の耳に囁く。
ユリーシャの声に僕は恐る恐る目を開け感動する。
目の前には何処までも青い空と何処までも続いてそうな生い茂った緑の森が広がっていた。
「凄い!」
僕がそう呟くとユリーシャは
「高度を上昇しますね!」
と言いグリフィンに繋がれているツタで合図をする。
すると、グリフィンは高度を上げ近くにあった森は小さくなり、青い空がグッと近づいた。
「悠真様!今は訳あってカーペルしか案内できませんが、いつか必ず他の街も案内しますので!私のおすすめ絶景ポイントです!」
そう言いながら、ユリーシャは下を指さした。
下を見るとそこには五つの街のがありその回りには森が広がっていて本当に絶景だった。
僕は感動しながらその景色を見つめた。
気付くとあんなに近かった空は遠くになり、あんなに小さかった森の中に僕らは着地していた。
「悠真様!この辺でご飯にしませんか?」
ユリーシャはそう言うと弁当を取り出した。
「朝食を作るときに一緒に作ったのです!あそこの木陰で食べましょう。」
ユリーシャはそう言うとグリフィンから下り木陰に向かう。僕もユリーシャに続いてグリフィンから下りユリーシャの後ろを着いていき木陰に座る。
そよ風の吹く中僕らは弁当の蓋を開けてた。
「あ...あれ?」
僕はユリーシャを見る。
ユリーシャも僕を見ていて
「すみません!お箸を入れるの忘れておりました...」
と僕に涙目で謝る。
「大丈夫!手づかみで食べれるから!」
僕はそう言ってユリーシャの弁当を食べる。
「うん!おいしい!」
僕は夢中になりユリーシャの弁当を一気に平らげた。
「やっぱり、悠真様はお優しい!」
ユリーシャはそう言うと自分の分の弁当を僕同様に手で食べた。
「ユリーシャ、さっきグリフィンに乗ってるときに言った『訳あって今はカーペルしか案内できませんがいずれは他の街も案内しますので!』って僕がカーペル以外の人から警戒されているからなの?」
僕はユリーシャに質問をする。
「聞いていたのですね?そうです!カーペル以外の人からはあのドラゴンを操りグランデル王国の三分の一を焼き払った者がいて、悠真様がその者の仲間ではないかと疑っているのです!カーペルは私の信者が多く、悠真様を初めて連れて行く前日にカーペルの街中に明日私と一緒に来る人は信用しても大丈夫だと言ってあるので大丈夫なんですが...」
ユリーシャはそう言うと困った顔で残りの弁当を食べ終わった。
「ユリーシャは、僕の過去を聞きたい?」
僕はユリーシャに向かってそう言う。
「それは、もちろん聞きたいです!でも、悠真様が話したくないのでしたら私は聞きません...そのかわり悠真様がご自分で言って下さるまで、私はいくらでも待ちます!なのでゆっくりと歩いて行きましょう!」
ユリーシャはイリアルと同じようなことを言うと僕に近づき、僕をぎゅっと抱きしめた。
僕はその温かさに包まれながら小さい頃に母に抱きしめてもらった時の温かさを思い出した。
僕の中の小さな僕がピクリと動き出した瞬間だった!
僕らはグリフィンに乗りユリーシャの家に向かう。
「悠真様!今日のデートはどうでした?楽しかったですか?」
ユリーシャが後ろから言う。
「ハプニングがあったけど楽しかった!グリフィンに乗れて違う景色が見れて、綺麗な風景が見れたから!」
「それは良かった!」
「ふふふ!」
僕らはグリフィンの上でそんな会話をしながら笑う。
こうしてユリーシャとのデートは幕を閉じた。
このデートで分かったこと、それは、ユリーシャは想像通り優しくて真面目で責任感が強い!それでもって、以外におっちょこちょいな所がある。
グリフィンに乗るのが好きで、アドリブが得意。
このデートで僕にとってのユリーシャは一緒にいて笑顔になれて楽しい気持になれる存在になっていた。