二人の手料理と約束
「んっ...暑...い...」
僕は体に感じる妙な暑さに寝返りを打とうと体を動かそうとする。
(ん?あれ?何で?)
寝返りを打とうとするが、両腕が何かに挟まれており身動きが取れない。
(何でだ?何で動かないんだ?)
僕は必死に体を動かす。
「はぁはぁ...んっうーん!あん!悠真様...」
「はぁはぁ...あっあっ...ひゃん!悠真...」
僕の両隣から小さく吐息を漏らしながら身に覚えのある声が、僕の名前を呼ぶ。
「ま...さ...か...」
僕は恐る恐る顔を右に向ける。
(はぁー...やっぱりか...)
右隣には、イリアルが僕の腕を自分の谷間でしっかりと挟み
「スゥースゥー」
と眠っていた。
(右にイリアルときたら...)
そう思いながら、僕は左に顔を向ける。
(まぁ...そうだよな...)
左にはユリーシャが、同じく胸の谷間で僕の腕をしっかりと挟み
「スゥスゥ」
と吐息をたてながら眠っていた。
(僕はどのくらい寝ていたんだ?)
僕は天井に顔を向け
「はぁー」
とため息をはきながら思った。
すると、僕の頭からふとあることわざが出てきた。
「二度あることは三度ある」
僕はボソリと言う。
よく使われていることわざだけど...
「まさにこのことを言うのか?」
僕は天井に顔を向け
「はぁー」
とため息をはく。
(ちょっと待てよ?このことわざ今の状況で使用して良いことわざか?確かこのことわざの意味は、二回同じ事が起こったら三度目も起こる可能性が高いから身を引き締めて気をつけろ!だったかな?)
僕は冷静にそう思いながら、もう一度両隣を見る。
「ははっ、起きる前にこのことわざを使うのは意味があるけど、起きてからでは、使い方として間違ってるかな?」
僕はボソリと小さな声でそう呟く。
(あっ思い出した!それに、あのことわざは、主に悪いことで使われているのが多いんだったな!)
そんな、どうでも良いことを考えてたら。
「悠真ー...」
「悠真様ー」
(ギューッ)
イリアルとユリーシャが両隣で再び僕の名前を呼び、さらに胸を押しつけてきた。
(あー...三回目だけにこの状況...免疫がついてきて忘れてた...はずがない!そんなはずあるわけない!考えないように、妙な解説を長々としてただけなんだ!)
自問自答しながら僕はそう考える。
(あー...この状態、もう限界だ!自我が保てなくなりそう...)
僕はさすがにヤバいと考えて二人を起こすことにした。
「イリアル、ユリーシャ、起きてくれないかな?」
「んっ?うーん!おはようございます!悠真様!」
「ふぁー!悠真?おはよう!調子はどうだ?」
二人は目を覚まし、僕の腕から胸が離れようやく体が自由になった。
「えーと僕はいったいどのくらい寝てたのかな?」
そう言いながら僕は、起き上がった二人を見る。
「ぶー!」
僕は二人の姿に思わず吹き出して、咄嗟に目を隠す。
「えっと...あれからだいたい丸一日たっていますけど...」
ユリーシャは僕のほうに向き返って言う。
「悠真(様)?どうかしたか(んですか)?」
二人は僕を見て首を傾げる。
「服!早く服を着てくれ!」
「あー!悠真は本当に...初心...なんだな!」
イリアルが僕に近づいてきて耳元で囁く。
耳元で囁かれた僕は背筋がゾクッとなる。
(バッ!)
「イリアル!悠真様がお困りになっています!早く服を着てください!」
ユリーシャは何時の間にか服を着ていて、僕を庇うように僕とイリアルの間に入り込んできた。
「良いではないか!悠真は私の婿になる人だ!」
「まだ、イリアルのと決まったわけではないでしょ?」
「それは、ユリーシャも同じだろう?」
「うっ!」
「二人とも落ち着いて!」
僕は思わず大声で叫んだ。
「はぁはぁはぁはぁ」
「まずは、落ち着こう?それから、イリアルはその...早く服を着てくれないか?」
「ん!このままでは?」
(キッ!)
その一言にユリーシャがイリアルを睨む。
「イリアル、話が一向に進まなくなる!」
僕は少し強めの口調でイリアルに言う。
「あぁ...すまない!分かった服を着よう」
イリアルは少しシュンとした顔をし、床にある服を着た。
「ふぅーようやく落ち着いて話ができ...」
(ぐぅー!)
ようやく落ち着いて話が出来る、僕がそう言おうかしたとき、タイミングよく僕のお腹が大きな音を立ててなった。
考えてみたら、この世界に来てから、まともに食事したのは、ユリーシャが2日前に朝食の手料理を作ってくれたあの時だけで、後は何も口にしていない。お腹が悲鳴を上げるのも無理なかった。
「ははは!お腹...すいたな(笑)」
僕は、そう言ってニカッと笑いお腹を擦りながら二人を見る。
(ズッキューン!)
二人はそんな僕を見て、少し固まったが、
「悠真様!私が今、アルデルンでしか取れない食材をふんだんに使ったさいっこーうにおいしい洋食をごちそうします!」
「いや!悠真は今から、グランデル王国でしか取れない珍しい食材を使ったとてもおいしい私の和食料理を食べるのだ!」
「私とです!」
「私とだ!」
やっと落ち着いたかと思われた言い争いが再勃発する。
「分かった!分かったから、二人の料理を両方食べるから!それでいいかい?だから、言い争いはそこまでにしてくれないかな?」
僕は、ヤレヤレと言った顔で二人を見ながら言った。
「悠真様...」
「悠真...」
「分かった(分かりました)」
(腑に落ちない)そんな顔をしながらではあるが、二人は僕の提案を素直に受け入れてくれた。
それから一時間後...。
「できましたわ!ささ!悠真様冷めないうちにお召し上がり下さい!」
そう言ってユリーシャが僕の前に料理を運んでくる。
「私のも出来たぞ!昨日はゴミに捨てる事になったからな!悠真、食べてくれ!」
イリアルも完成したみたいで料理を運んでくる。
「じゃあ、頂きます!」
僕は手を合わせて、ユリーシャの料理から手をつける。
一口...
(パクッ)
「うん!ユリーシャの料理はやっぱり美味しいよ!」
僕はガツガツとユリーシャの料理を食べる。
「お口に合って良かったです!」
ユリーシャは笑顔で僕が食べるのを見つめていた。
「悠真ー...私のも早く食べてくれない?」
イリアルは少し不満そうに僕を見ながら言う。
「あぁ...うん!食べるよ!」
僕はそう言うとイリアルの料理に目を向けた。
(グツグツ...ポコッ!)
「ん?」
目の前にはこの世に存在するのか分からない色を醸し出した料理が置かれている。
「さぁ悠真、沢山作ったから遠慮せずにドンドン食え!」
イリアルは万民の笑顔でその料理を差し出してくる。
「あっ...あー...」
僕は戸惑いながら箸をつけようかするが引き越し気味で中々、口まで入れることが出来ない。
「どうかしたか?熱いうちに食べないと冷めたら美味しくなくなるぞ?」
イリアルは、少し不安そうに潤んだ目で僕を見てきた。
その目を見て、意を決した僕は勇気を出し一口食べる。
(ハムッ!モグモグ...モグモグ...ゴックン)
「...美味しい」
姿形とは想像もつかないおいしさに僕は一言、言ったきりひたすら黙ってイリアルの作った料理を平らげた。
もちろん、ユリーシャの料理もだ。
「ふぅー!美味しかった!二人とも本当に料理美味しかったよ!ありがとう!美味しい料理を食べさせて貰ったし、お礼に一つだけ二人のわがままを聞くよ?あっ結婚や過激なこと以外でね!」
二人に向かって僕はそう言った。
「じゃあ(では)...私と、一日デートをして欲しい(して下さい)!」
二人は同時に全く同じ言葉を口にした。
「えっ?デッ...デート?」
僕は戸惑いながら言った。
二人を見ると、コクコクと首を縦にふりこれでもかと言わないほどの笑顔で僕を見つめていた。
「分かった!デート...しようか!」
僕はヤレヤレとした顔をしながら二人にそう伝えた。
「約束だぞ(ですよ)?」
二人はそう言いながら僕を見る。
「あぁ!約束!」
僕は二人にそう言って二人の頭に手をポンと置いた。
「悠真、ありがとう!」
「悠真様、ありがとうございます!」
二人は大喜びをして子どものようにして僕に飛びかかってきた。
「ノァ!」
(ドスン!)
二人分の体重が僕にかかり僕は後ろに倒れた。
「いたたたた!二人ともはしゃぎすぎじゃないか?少しは落ち着いてくれ!」
「あっ!悠真(様)すまない(すみません)!」
二人がそう言ってシュンとなり謝った瞬間。
「ふはっ...はははは!」
と二人の犬のような反応に、僕は笑い出してしまった。
「ふふ!」
「ははは!」
僕の笑いにつられてか何時の間にか、イリアルとユリーシャも笑顔で爆笑していた。
「悠真!」
「悠真様!」
「大好きだ!」
「大好きです!」
両耳から囁かれ次の瞬間、僕の両ホッペに暑くて柔らかい物が(チュッ)と押しつけられた。
僕は顔を真っ赤にして突然の出来事で呆然としてた。
ホッペにキスをした二人も別々の方向を向き体をモジモジさせていた。
数分後...
僕の思考回路はようやく、復活した。
復活した僕はある質問を二人にする。
「明日と明後日どっちが先にデートするの?」
「あっ!」
そう言って、二人はスッと向き合いジャンケンを始めたのであった。
はしゃぎながら、ジャンケンをする二人を見つめ
僕の心は優しくなっていた。
ポツンと心の中の小さな僕が暗闇の中さらに大きく輝きだしそして、僕が二人の笑顔を守りたいと思った瞬間だった。