出会いと意思と...新生活!?
僕は今、イリアルとイリアルとユリーシャの母親リークさんと一緒にユリーシャの到着を待っている。
(この人がまさかイリアルとユリーシャの母親だったとは...てか、行き先が同じ時点で僕も気付よ!それにしても、イリアルは初めて会った時の胸元が際どい鎧の格好をしているのか...目のやり場に困る...)
僕は自問自答をしながら心の中で色々と考えながら、王座の前で話しているイリアルとリークさんをチラリと見る。
すると、バッチリと目が合い僕は急いで目を競らした。
「ん?どうかしたか?若者...ではなかったな、悠真よ。」
リークさんは呼び方を言い直しながら数メートル離れている僕の元へと寄ってくる。
「母様?」
イリアルは僕に寄るリークさんを見て首を傾げる。
「あっ...いえ...」
僕は口籠もりながら近寄るリークさんから後ろ向きで下がる。
「どうして下がるのだ?」
リークさんは首を傾げながらまた僕に近づく。
「えっと...」
僕は動揺した声でそう言って顔を逸らし、また下がる。
すると(トンッ)と誰かに当たった。
「あっ...すみません。」
僕は急いで振り返り当たった人に頭を下げながら謝る。
「ふふっ!謝らなくても良い。」
当たった人は笑いながらそう言った。
その人の声に違和感を感じ僕は顔を上げる。
「えっ?なっ...なんで?」
僕はその人の顔を見て驚いた。
「ふふっ...悠真があまりにも逃げるものだからな...驚いたか?」
僕の後ろに立っていたのはリークさんだった。
リークさんは僕の驚いた顔を見て笑いながらそう言うと(フッ)と僕の目の前から消えた。
「えっ?えっ...何処に?」
僕は周りをキョロキョロしながらリークさんを探す。
「ここだ...ここ。」
僕は声のする方に振り向く。
そこには王座の前でイリアルとその隣に立つリークさんの姿があった。
「母様...。」
イリアルはヤレヤレと言った声でそう言う。
「いや、我のこれを見て驚く者が減ったからな...少し嬉しくなってな!」
リークさんはそう言って僕にウィンクをした。
「はっ...はは...」
僕はそれを見て苦笑いした。
(ガチャッ!)
いきなり王室の扉が開き僕は扉の方を振り向く。
「はぁはぁはぁはぁ...グランデル様...悠真様が...見つからない...です。」
扉から入ってきたのは、息を切らせたエルグだった。
「エルグ?」
僕はエルグを見てそう言う。
「へっ?ゆ...悠真様!?」
エルグは僕の顔を見てそう叫ぶ。
「ごめん、エルグ...王宮をキョロキョロしながら歩いていたら、はぐれてしまったみたいで...。」
僕はそう言いながらエルグに謝った。
エルグは安堵の表情をし僕に駆け寄り(ギュッ)と僕を抱きしめた。
「えっ?」
いきなり抱きしめられ僕は固まる。
「ご無事で良かったです。悠真様の身に何かあったらと心配しました。私が不甲斐ないばかりに...すみませんでした。」
そう言ってエルグはより一層強く僕を抱きしめる。
「心配かけてごめんね、エルグ...」
エルグのその姿を見て、僕はエルグの頭を(ポン、ポン)と撫でた。
「ごほん...エルグ、いつまで悠真に抱き付いているのだ?」
(ビクッ!)
隣からイリアルの声が聞こえ、僕とエルグは体を震わせながら横を向く。
「グッ...グランデル様...そのこれは...」
エルグは(サッ)と僕から離れ戸惑いながらイリアルに言う。
「エルグ?私の婿に抱き付き頭を撫でて貰うとは良い度胸じゃないか。」
イリアルは不気味な笑みを浮かべながらエルグに近寄る。
「ごっ...誤解です!グランデル様!」
エルグは後ろに下がりながらイリアルに言う。
「エルグ...なぜ後ろに下がっているんだ?」
イリアルはそう言いエルグに尋ねている。
「えっと...」
戸惑いつつなおも後ろに下がるエルグ。
「くくっ!」
そう言いながら笑う僕の隣で同じく笑うリークさんの姿があった。
「のぁっ!」
僕は驚き後ろに尻餅をつく。
「あっ...すまない。これはエクスと言って、我が使う魔法の一つなのだよ。」
リークさんはそう言いながら尻餅をついた僕に手を差しのばす。
「エクス?」
僕は首を傾げながらリークさんの手を取り立ち上がった。
「瞬間魔法の一つで一時的にスピードをアップさせる魔法だ!」
リークさんはそう言いながらクスリと笑う。
「母様は色んな魔法を使えるがその中でもエクスは得意魔法なんだ!」
そう言いながらイリアルは得意げに話す。
「あっ...リーク様!来ていらっしゃったのですね?申し訳ございません...挨拶もせずに...」
エルグはリークさんを見て深々と頭を下げる。
「謝らなくてもよい!」
謝るエルグにリークさんは笑みを浮かべながら言う。
「ところで、リーク様と悠真様はなぜグランデル様と私を見て笑われたのですか?」
エルグはそう言うと僕とリークさんを見て首を傾げる。
「あー、それは...僕(我)とリークさん(悠真)がさっきまでしてた事と同じ事をしていたから(だ)。」
僕とリークさんは同時に同じ事を言ってまた(クスリ)と笑った。
「はっ...はー...」
エルグは首を傾げたままそう言った。
「ぷっ...ははは!」
エルグのその姿が可笑しくて、僕とリークさんとイリアルは声を出して笑ってしまった。
(ガチャッ!)
僕たちが笑っているとまた扉が開く。
「グランデル様!アルデルン王国、国王と勇者(姫)ユリーシャ様そして、お付きの方5名様が只今王宮にお着きになりました。」
そう言いながら入ってきたのは、140㎝くらいの小さな魔族の女の子だった。
「へっ?子供?」
僕は聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で言う。
すると(ギロッ)とその子は僕を睨みつけてきた。
「えっ?」
小さな声で言ったはずだから聞こえていないと思っていた僕はその子に睨まれ驚く。
(聞こえた...のか?)
僕がそう思っていると
「うむ!報告ご苦労、すぐに王室に案内せよ!」
さっきまで笑っていたイリアルは瞬時にしてまじめな顔になりその子に言う。
「はい!」
その子は僕を睨むのをさっと止め頭を下げて王室を出た。
その子が出て行くと、リークさんは王座の椅子に座った。イリアルもリークさんの隣に立ちユリーシャ達がくる準備をする。
「さっきの子は?子供?」
僕の隣にいるエルグに聞く。
「悠真様...あの子の前で絶対その言葉を小声でも言ったらいけませんよ...」
エルグは真剣な顔で僕に言うと(パチン!)と手を鳴らした。
(シュタッ!)
エルグが指を鳴らした瞬間、エルグの前に三人の女性が現れる。
「隊長。もう、いらしたのですか?」
女性の一人がエルグに言う。
「あぁ、料理は出来たか?」
エルグは三人を見ながら言う。
(コクン)
三人は首を縦に振り頷く。
「そうか、準備ご苦労だった。今からエリがユリーシャ様方を案内して来られる。皆、王座の右下に一列に並んで立ち待機せよ!」
エルグがそう言うと
「了解!」
と三人は言い、王座の右下に一列に並ぶ。
「悠真様、早く王座の前に行って下さい。」
エルグは僕を引っ張りながら王座の前に立たせる。
僕が王座の前に立ってすぐ(ガチャッ!)と言い扉が開いた。
扉からはさっきの子とアルデルン王国、国王と鎧を纏ったユリーシャが入ってきて、その後ろから白いコートでフードを深く被った人達が入ってきた。
国王とユリーシャは王座を上がり国王はリークさんの隣の王座の椅子に座り、その横にユリーシャが立つ。
二人はリークさんを見て笑みを浮かべながら頭を下げる。リークさんもそれに合わせ頭を下げた。
フードをかぶった五人は王座の左下に一列に並び立つ。
ユリーシャ達を連れてきたあの子は右下の列の一番端に並んだ。
「ではこれより、グランデル王国前魔王に悠真の紹介をする。」
イリアルとユリーシャが王室に響き渡る声でそう言い、二人は王座から下り僕の両隣につくと目を合わせ(コクリ)と頷きリークさんを見る。
「お母様(母様)!紹介します。この方が、私が好きになったお方、十六夜 悠真様(悠真)です(だ)。」
二人は同時にそう言って僕を見た。
「...。」
僕は訳が分からずただ呆然とその場に立つ。
「ははっ!またあったな、十六夜 悠真よ。それにしても、ユリーシャだけでなく、イリアルからも好かれているとは...」
国王が僕を見て笑いながらそう言う。
「イリアルとユリーシャから話は聞いていた、二人が好きになった男がどのような人物か会えるのを楽しみにしておった。さっきも自己紹介したが今一度言おう。我はリーク・シャーク・グランデル。イリアルとユリーシャの母にして、このグランデル王国の前魔王だ!あまり、堅苦しい挨拶は我自身あまり好きではない。食事が出来ているようだから、食事をしながら悠真の話は聞くとしよう。もちろん、悠真の二人に対する意思もな。」
「ふむ、ではそうしよう。」
リークさんと国王もそう言い僕を見た。
二人の言葉を聞き、イリアルは(パンパン!)と手を叩いた。
その瞬間、エルグ達は瞬時に動き王室の扉を開ける。
「お食事は、別部屋にて準備させて頂いておりますので、これから、皆様をご案内致します。」
エルグがそう言うとリークさんと国王を先頭にし、僕はユリーシャとイリアルに手を引かれながら王室を後にし、食事の用意がしてある別部屋に向かう。
「こちらでございます。どうか、ご緩りと家族団らんをお過ごし下さいませ。」
エルグがそう言うと、イリアルの親衛隊は目の前の扉を開け僕らを招き入れた。
扉の向こうには、長いテーブルと綺麗に並べられた食器等が置かれていた。
親衛隊の皆は僕ら一人一人につき、エスコートする。
僕のエスコート役はあの小さな女の子だった。
「悠真様はこちらです。」
その子は僕にそう言うと僕をエスコートし席に座らせる。
僕はイリアルとユリーシャに挟まれた席に座る。
「お付きの方はフードを外し、それぞれ名前が書いてある席にお座り下さい。あらかじめ言っておきますが、座られたらテーブルに書いてある名前の印が消えますので驚かずにお願いします。」
エルグはお付きの方、五人にそう言うと自分たちの席に座る。
お付きの方はフードを外し、それぞれの席に座る。
「あー!」
僕はお付きの方の顔を見て驚く。
「しー...悠真様、声が大きいです。」
お付きの方の一人が言う。
「もごっ...」
僕は口を押さえる。
(ルルーシャ、アル、ララルじゃないか!)
僕は三人の顔を見てそう思った。
そう、そこにいたのは、僕がユリーシャに連れられ行った服屋さん、アメジスの三人娘だった。
「悠真どうした?」
リークさんが僕を見て尋ねる。
「お母様、悠真様はきっと私の付き人を見て驚かれたのだと思います。」
ユリーシャが言う。
「ん?知り合いだったのか?」
リークさんは首を傾げて言う。
「前にお父様に紹介したとき服を仕立てにコバル達の店に行ったのです。その時にこのお付きの方三名のルルーシャ、アル、ララルには会っているのです。何も話していなかったので悠真様は驚かれたのだと思います。」
ユリーシャはそう説明する。
「そうか!あのコバルの娘であったか!」
リークさんは嬉しそうな表情で三人を見ながら言う。
「お初にお目にかかります。私、長女のルルーシャと申します。」
「私は、次女のアルと申します。」
「私は、三女のララルと申します。父、母からリーク様のお話は常々聞いておりました。お会いできる日を楽しみにしておりました。」
三人はそれぞれ椅子から立ち頭を深々と下げて自己紹介をしていった。
「ふむ。まさか、コバルの娘に会えるとは嬉しい限りだ!今日はゆっくりと食事を楽しむとよい。」
リークさんが微笑みながらそう言うと
「はっ!」
と三人はそう言い席に座った。
僕は何が何やら分からずに首を傾げながらルルーシャ達を見る。
「ルルーシャ達の事は後で紹介と共にお話しします。」
ユリーシャが僕の耳元でそう囁いた。
僕はユリーシャを見て頷く。
「では、食事とします。」
エルグはそう言うと(パンパン!)と手を叩いた。
すると出入り口とは違う扉が開き料理が独りでに飛んできてそれぞれの席に運ばれる。
(これも魔法なのか?)
僕はそう思いながらその光景を唯々見ていた。
「お食事が整いましたところで、リーク様、国王様、食事前の祈りをお願い致します。」
エルグが言う。
「うむ。」
二人はそう言うと手を前で組み祈りの言葉を言う。
「主よ。今(共に)いただくこの食事を祝してください。今日、この食事会が開かれたことに感謝致します。」
リークさんと国王がそう唱えるとその場にいた皆が祈りを捧げる。
祈りが終わり皆、組んでいた手を離した。
「さっ!食事会の開催じゃ!」
それに合わせたようにリークさんが言い、食事会がスタートした。
「それにしてもユリーシャよ、一段と可愛くなったな!イリアルにしてもユリーシャにしてももう立派な大人なのだな。」
リークさんはそう言いながら二人を見る。
そうして食事会はにぎやかに進んでいく。
「そうか!悠真は空から振って来てユリーシャにぶつかり胸をこねくりまわしたのか...はははっ。なんとも面白い。」
リークさんが笑いながら僕とユリーシャが初めて会った時の事を聞く。
「リークさん...笑いすぎです。」
僕は顔を赤くしながらリークさんに言う。
リークさんは、見た目はキリリとしていて凛々しい方だが、話すとかなりフレンドリーな方でイリアルの性格はリークさん似なのだと分かった。
「それで、イリアル。お主はと悠真はどうやって出会ったのだ?」
リークさんはイリアルに問いかける。
「私は、ユリーシャが結婚すると聞いてその人物が知りたくなって写真を撮ってきてもらったのです。そして写真で見て、一目惚れをしたのです!」
イリアルはニコニコと笑いながら僕を見る。
「写真か...イリアルらしいな!」
リークさんはそう言い首を縦に振った。
「お母様、お父様。私と悠真様との出会いは偶然でした。ですが、悠真様と過ごしていくうちに悠真様の性格も好きになり本気で恋に落ちました。運命の方がこの世に存在するのならそれは悠真様だと確信したのです。」
ユリーシャがいきなり真剣な顔でリークさんと国王に言う。
「それは、私も同じだ!最初は写真で可愛い奴だと思い実物が見たいがためにグランデル王国に連れてきた。でも、色々話すうちに悠真の裏表ない素直な性格に心引かれていった。悠真は私が魔王だとわかってからも普通の女性として扱ってくれた。悠真だけなのだ...心が締め付けられるように、心臓が早く鼓動を打つのは...」
イリアルも僕を見て言う。
「ふむ。結論上、イリアルとユリーシャにとっての悠真とはどのような存在なのだ?」
リークさんはさっきまでのおちゃらけた顔ではなく真剣な顔で二人に問う。
「私にとって悠真(様)は愛して止まない存在です!」
二人は僕に対する思いの丈をリークさんと国王にぶつける。
「本気なのだな?」
リークさんが言う。
「はい!」
二人は力強くそう返した。
「うむ。二人の意思は伝わった。では、悠真の意思はどうなのだ?聞かせてくれ。」
リークさんは僕を見て尋ねる。
「僕...ですか?」
いきなり話を振られ戸惑う僕にイリアルとユリーシャが手を握り僕を見る。
「悠真様自身の考えを言えばよいのです。」
「私達は、悠真の意思を尊重する。だから、素直に言ってくれて構わない。」
二人はそう僕に囁いた。
僕はその言葉を聞き握られた二人の手を握り返して頷いた。
「ハッキリ言って僕自身、二人に好意をもっていない訳ではないです...二人の笑顔を守りたい二人と過ごしていくうちに強くそう思うようになりました。ですが...」
僕はゆっくりと自分の思っていることを話し出した。
「その好意が友としてなのか恋人としてなのか、僕自身分からないのです。二人は僕を全身全霊愛してくれています。でも、僕にはその愛の受け止め方がまだ分からないのです。なので...もし二人が良ければ...」
僕は二人から握られた手を強く握りしめ顔を上げる。
そして
「待っていて欲しい!僕が二人の愛を受け止めたいから、昔のように逃げずに生きたいから。二人と自分に向き合っていきたいから。これが僕の今の精一杯の意思です!」
僕は自分の意思をリークさんと国王に話した。
「ふっ....ふっははははは!うむ、悠真の意思、確かに伝わった。よし、分かった!これから三人には同じ処に済んで貰うことにしよう。この王宮からさらに西に行くと、グランデル王国とアルデルン王国の境目がある。その境目にひっそりと佇む屋敷があるのを見つけたので、そこを買ったのだ!その屋敷をお主らにやろう!」
リークさんは僕の意思を聞いたとたん、そんな話を淡々と進めていった。
「母様...急すぎます。グランデル王国の王宮に魔王がいなくては業務が...」
「私も勇者の以来が...」
二人はリークさんからのいきなりの話で戸惑いながら言う。
「それは、もう手配済みだ!王宮とユリーシャの家に来た依頼と書類は全て屋敷に届くように魔方をかけている。だから安心して屋敷に住むといい!あともう一つ、使用人は今ここにいる、イリアルの親衛隊とユリーシャの付き人10名とする。屋敷の主は悠真がすると良い!」
リークさんは胸を叩いてそう言った。
「えっ?えー!!」
親衛隊と信者の人たちも聞かされていなかったらしく、僕らの声は部屋中に響き渡った。
こうして僕とユリーシャとイリアル、そして、イリアルの親衛隊とユリーシャ信者の合13名、共に新たな場所で新たな生活を送ることになった。
(大変で騒がしい生活になるだろうな...)
僕の予想は呆気なく壊され、予想を超えた生活が待っていることに、この時の僕はまだ知らない。