二人の母(前魔王:リーク)との出会い
二人はようやく僕を離してくれたが、なぜかベッドから下りようとしない。
僕が疑問を抱いていると
「悠真様...その...キスしてくれませんか?」
いきなりユリーシャが言い出した。
「なっ...一体どうしたの?」
僕は慌ててユリーシャを見る。
「一回で良いので...」
ユリーシャは上目遣いで僕を見る。
「悠真ー!私ともキスして欲しいのだが...」
そう言ってイリアルも近づいてくる。
「いや...二人ともいきなりどうしたの?」
僕は焦りながら二人に聞く。
「悠真様?」
「悠真?」
「あっ...えっと...」
四つん這いになりながら顔を近づけてくる二人に僕は後ろに仰け反りながら目をそらした。
(コン、コン、コン...)
僕が目をそらした瞬間家のドアから軽くノックする音が聞こえた。
「あっ...誰か来たみたいだよ?」
僕は家のドアの方を見ながらそう言った。
「悠真様...私とのキスはいやですか?」
ユリーシャは少し悲しそうな顔で僕を見る。
「悠真ー...?」
イリアルも悲しそうな目で訴える。
「えっ...えっと...」
僕が慌てながらそう言っていると...
(ドン!ドン!ドン!)
今度は強く家のドアをノックする音が聞こえた。
「ん?ユリーシャ?本当にお客みたいだぞ?」
イリアルがユリーシャを見ながら言う。
「誰かしら...?」
そう言うとユリーシャは少し不機嫌にベッドから下り、家の入口へと向かった。
数十秒後...
(タッタッタッタ!)
入口から部屋まで軽快に走ってくる音が聞こえ、部屋の出入り口から満面の笑顔でユリーシャが入ってきた。
「誰だったんだ?」
僕が聞こうとしたことを先にイリアルに言われ僕は(うんうん)と首を縦に降る。
「イリアル...」
ユリーシャはそう言うとイリアルに抱き付いた。
(ギシッ)
「おっと...」
ユリーシャがイリアルに抱き付いた反動でベッドが少し揺れ僕は無意識にバランスをとりながらそう言う。
「どうしたんだ?ユリーシャ...」
イリアルは訳が分からず首を傾げながらユリーシャを見る。
「イリアル...実は...」
ユリーシャはイリアルの耳元で囁くように話した。
「それは、本当なのか?」
イリアルは驚きの顔をし、ユリーシャを見る。
(コックン...)
ユリーシャは笑顔でゆっくりと頷いた。
ユリーシャの声は僕には聞こえず、二人を見ながら僕はただ首を傾げていた。
「はは!そうか!じゃあすぐに、グランデル王国王宮に戻らないと行けないな!」
イリアルは嬉しそうにそう言うと、即座にベッドから下りた。
イリアル同様嬉しそうにベッドから下りるユリーシャ。
「二人とも...何があったの?」
そんな二人の姿を見ながら首を傾げたまま僕は声をかける。
「母様(お母様)が調査から一時的にグランデル王国王宮に戻ってこられた!」
二人は同時にそう言った。
「イリアルとユリーシャのお母さん?」
「そう!私とユリーシャの母にしてグランデル王国の前魔王だ!」
イリアルは目をキラキラさせながら言う。
「前魔王ってあの、ランクルスって言う巨大ドラゴンを眠らせたって言ってた?」
僕はイリアルとのデート中に教えて貰った事を思い出す。
「そうだ!あの時の母様は凄く格好良かった...」
イリアルは目をうっとりさせながら言う。
「イリアル?」
「はっ!いかん、いかん...こうしてる場合じゃない。ユリーシャ早く王宮に!」
僕が声をかけるとイリアルは我に返り、ユリーシャに言う。
「あっそうでした!迎えのドラゴンが来ているんでした...私はドラゴンには乗れませんので悠真様とのデートの際買った、グリフィンで向かいます。悠真様はイリアルと一緒にドラゴンに乗って行って下さいますか?」
ユリーシャはそう言いながら僕を見る。
「えっ?僕も行くの?」
僕は驚いた表情で自分を指さし、ユリーシャに言う。
「あら?言ってませんでしたか?お母様は悠真様も連れて来るようにと言われているのですよ?」
「えっ?えー!」
僕は病み上がりにこの急展開で頭がフリーズし、ベッドの上で放心状態になっていた。
放心状態から正常状態に戻った時、僕が目にしたのは真っ赤なドラゴンの背中に乗り飛んでいる景色だった。
「のぁっ!」
僕はいきなり見た景色とドラゴンの背中に驚き顔を上げた。
「目が覚めたようだな!」
「えっ?」
後ろからイリアルの声が聞こえ僕は後ろを振り返る。
「一刻も早く母様の顔が見たくてな...悠真が起きるのを待っている余裕がなかった...それと、返事も聞かずに連れ出してしまいすまない。だが、母様には一度、会って貰いたいと思っていたのだ!こんな早く紹介出来るとは私もユリーシャも嬉しい限りだ!ところで、悠真...体調は大丈夫か?」
イリアルは、僕に対する申し訳なさと母親に会える嬉しさの狭間といった声で僕に言う。
「ははっ...今のところ体調は大丈夫...だと思う。あまりにも急すぎて放心状態になっていただけだから...」
僕は苦笑いしながら返事を返す。
「そうか...では悠真よ、これからの流れについてざっと説明しておくぞ?一度しか言わないからよく聞いておいてくれ!グランデル王国王宮に着いたら悠真にはグランデル王国の正装に着替えて貰う。エルグに事情は話してある。王宮に着いたらエルグが待っているはずだから、着いたらエルグについていくといい。私とユリーシャには別々にやらなきゃ行けないことがあるから王宮に着いたら一旦別行動になるが大丈夫か?」
イリアルは心配そうな声をしながら僕に言う。
「うん...大丈夫!」
僕は真剣な顔で頷きながらそう返した。
「よし!」
(コクリ)と頷きながらイリアルは言う。
「そう言えばユリーシャは?」
ユリーシャの姿が見当たらず周りをキョロキョロしながらイリアルに尋ねる。
「あー...だから言ったではないか...ユリーシャにもする事があるから今は別行動中だと...」
イリアルはヤレヤレと言った声で僕に言う。
「あー...王宮に着いてからの話だと...」
「すまない...私の説明が下手だったな...」
そう言いながらイリアルは僕に謝った。
「いや...僕もきちんと聞かなかったのが悪いんだから気にしなくても言い。」
僕はニコリと笑いながらイリアルに言う。
「ありがとう悠真。さぁ、もうすぐ王宮だ!着替え終わったら、エルグが王室まで案内するから着いていくといい、王室に入るまでは絶対にエルグから離れるなよ?王宮は広いから迷子になったら見つけるのが困難だからな!」
イリアルは笑いながらそう僕に言う。しかし、その時のイリアルの声は、笑いながらも緊張感ある声であり、まるで、僕の身を案じているかのように聞こえた。
(そうだった。僕はこの世界のほとんどの人から命を狙われているかもなんだ...)
あの時、エルグに聞いた話を僕は思い出した。
「分かった!」
僕はゆっくりと頷きイリアルに言う。
王宮に着いたときにはもう辺りは薄暗くなっており、街の明かりがチラホラとつき始めていた。
僕はドラゴンから下り、イリアルから言われた通りエルグに案内され王宮の中の衣装部屋へと進む。
「お久しぶりですね?悠真様!その後のことを色々聞きたいところですが、今日は急ぎ支度をしないといけないのでまた次の機会にですね?」
エルグはそう言うとスーツケースからワインレッドのカッターシャツに黒のネクタイとスーツを取り出し、僕のパンツとタンクトップを残して身包みすべてを脱がした。
「ちょっ...エルグさん?僕一人で着替えれま...」
「時間がないからさっさとしますよ?それと、私のことはエルグとお呼び下さい!」
僕の言葉は届かずエルグの言葉に遮られた。
「あっ...はい...」
僕は黙ってエルグの言葉に従い着々と準備をしていく。
スーツを着終わり最後に靴を履き着替え終了。
「うん!思っていたとおりかなりお似合いですよ?悠真様。」
エルグは満足そうに僕の姿を見てそう言う。
「さて、では王室までご案内しますね?」
エルグはそう言うと衣装部屋の扉を開け、おそらくイリアルとユリーシャ、そして前魔王(イリアルとユリーシャの母親)の待つ王室へと歩き出した。
「えっと...ここはどこだ?」
僕は今グランデル王国の王宮で迷子になってしまっている。
エルグと衣装部屋を出た僕は、エルグの傍を離れないようにしっかりとくっつき歩いていたはずだったが...。でかい王宮の中を見ながら歩いていたらいつの間にか、エルグがいないことに気づき今に至る。
(いや...これはヤバいよね?完璧に迷子ではないか?)
僕はそう思いながら辺りを見渡す。
灯りがついているとはいえ外は真っ暗で、僕は怖さを感じていた。
「エルグー!何処だー!?エルグー?」
僕は体をビクビクさせて、エルグの名前を叫びながら王宮をさ迷う。
「はぁはぁはぁ...エルグー!何処行ったんだー!」
エルグと離れてから約三十分...叫びながら王宮をうろうろとしていた僕は体力の限界がきていてフラフラ状態だった。
「どうかされたのか?若者よ。」
いきなり声をかけられ僕は(ビクリ)と体を震わせ恐る恐る後ろを見る。
僕の後ろには、黒白のドレスをキチンと着こなし優しさ溢れる顔をしたそんな綺麗で美しい女性が立っていた。
「...。」
僕はその女性の美しさに言葉を失う。
「若者?大丈夫か?何か困っているのではないか?」
その女性は心配そうに僕を見ながら声をかける。
(はっ!)
「あっ!僕は王室まで行く途中でエルグと離れて迷子になってしまい困っているのです。」
僕は我に返り女性の質問に答える。
「そうか...お主が...。我も王室に向かうところなのだ!若者よ、我についてくると良い。」
女性は僕を見てそう言うと廊下を歩き出した。
「若者、名前はなんというのだ?」
女性が聞いてくる。
「十六夜 悠真です!」
女性の質問に正直に答える。普段の僕なら初めて会った人にいきなり名前を聞かれたら、言うか言わないか迷うところだが、この女性には一切迷わず、すんなりと言うことが出来た。まるで僕の心がこの人は大丈夫だと言っているみたいだった。
(そう言えば、あの時のこと二人は何も触れないでくれてたけど、きちんと話さないといけないしなー。でも、あの夢がなんなのか分かるまでは二人には言えないかな?)
僕が考え事していると。
「若者よ...。何をそんなに悩んだ顔をしているのだ?」
女性が聞く。
「あっ...いえ...気に障りましたか?あと、名前で呼んで貰ってもかまいませんけど...」
「いや...ただ...やっぱり、なんでもない...」
女性は何かを言いかけたが少し考えて言うのをやめた。
「そうですか...。」
(深入りはしないでおこう)
僕はそう思いそれ以上なにも言わなかった。
「悠真?王室に着いたぞ?」
女性はそう言うと扉を開け中に入っていく。
扉が開いた状態で僕は中に入って良いものか迷いながら扉の前に立っていた。
「お久しぶりでございます!再開を喜び分かちたい所ですが、只今緊急事態でして、紹介するはずだった悠真が王宮の中で迷子になってしまったようで...すぐさま探しに行かなければいけません。もうしわけございませんが...」
イリアルの焦る声が聞こえ僕が急いで王宮の中に入ろうとしたとき
「イリアル?お主が探している者はこの者ではないか?」
女性はそう言いながら僕を指さした。
「悠真!よかった。無事だったのだな!あれほどエルグの傍を離れるなと言っておいたのに...」
イリアルはそう言いながら僕に近づいてくる。
「ごめん...ついて行ってたつもりだったんだけど、いつの間にかはぐれていて...でも、この女性が親切にここまで連れてきて下さって、ありがとうございます助かりました。」
僕は女性に頭を下げる。
「いや...あそこであったのが我でよかったのぅ、悠真。」
女性はそう言いながら僕を見る。
「心配したのだぞ?本当にたまたま出会ったのが母様でよかった!でも、こう言った形で会うとは...まぁともあれ悠真が無事で良かった。」
イリアルが安堵の笑みで言う。
「ん?イリアル、誰と出会ったのが良かったと?」
僕はイリアルの言葉に疑問を感じ尋ねる。
「母様とだが?」
イリアルは普通に答える。
「えっ?この綺麗で美しい女性がイリアルの母親...?と言うことは、イリアルとユリーシャの母親にして巨大ドラゴンランクルスを眠らせた前魔王?」
僕は驚きながら女性を見る。
「自己紹介が遅れてしまったな...我はグランデル王国前魔王にして、イリアルとユリーシャの母、リーク・シャーク・グランデルだ!よろしくたのむぞ!十六夜 悠真。」
リークさんはそう言いながら僕に微笑みかけた。
「なっ...そんな馬鹿なー...」
僕はそう叫びながらリークさんを見た。
リークさんはそんな僕を見ながら(クスクス)と笑っていた。
「それにしてもイリアル、綺麗に成長したものだ!最初見たときは誰だか分からなかったぞ!」
「母様...」
リークさんはイリアルと抱きしめ合い再開を喜んでいた。
「ユリーシャも母様に合うの楽しみにしています。もう到着すると言われているのでもうしばらくお待ち下さい。ユリーシャ達が来てから悠真の紹介をします。」
イリアルが緊張気味にリークさんに言った。
「分かった。」
リークさんは首を縦に振りながら一言そう言った。
まぁこれが、僕とイリアルとユリーシャの母親で前魔王のリーク・シャーク・グランデルさんとの出会いだった。