再会とイリアルの秘密
僕らはグリフィンに乗ってイリアルの待つユリーシャの家に帰り着く。
(ガチャ)
「ただいまー!」
僕らはドアを開けて家の中に入った。
「...」
家に入るはずのイリアルから返答がこない。
(ジャー...)
奥の台所から水が流れている音が聞こえる。
「イリアル?」
僕はそう言いながら台所を覗いた僕は驚愕した。
「イリアルー!!」
僕はそう言ってイリアルに駆け寄る。
そこで僕が見たのは、水が流れっぱなしの台所でイリアルが床に倒れている姿だった。
「悠真様?どうされたのです...イリアル!!」
僕の声を聞き後からやって来たユリーシャも叫びながらイリアルに駆け寄る。
「はぁはぁはぁはぁ...」
イリアルは顔を真っ赤にさせ小刻みに呼吸をしていた。
(良かった息はある...)
僕はそう思いながらイリアルの息がある事に少し(ホッ)とした。
しかし...
「悠真様。これは...一刻を争う事態ですわ!」
とユリーシャはイリアルの額に手を当て少し強ばった表情でそう言った。
「え?」
僕はそう言いながらユリーシャを見る。
「今、イリアルは魔力暴走している状態なのかもしれません...私もお母様から少ししか伺っていませんので予測でしかありませんが...しかも、臭いを嗅ぐ限りこうなってからかなりの時間が経っていると思います。このままでは一時間も持たないかもです...」
ユリーシャは強ばった表情のままそう僕に伝える。
「えっ?魔力暴走?一時間も持たないかもって?何がどうなっているんだ?」
僕はユリーシャの言葉が理解できずにパニック状態になりながら言う。
「悠真様!まずは、落ち着いて下さい!止める方法が...」
ユリーシャが僕をなだめるように言う。
「こんな状態で...落ち着いてられるかー!」
僕はパニック状態で自我を失っていた、次の瞬間...
(パンッ!)
その音と共に僕は我に返る。ほっぺたに痛みが走り初めて叩かれた事が分かった。
「ユリーシャ...」
僕はそう言いながらユリーシャを見る。
「悠真様...叩いてしまって申し訳ありません...しかし、こうでもしないと悠真様聞く耳を持とうともして下さらなかったので...許して下さい。」
ユリーシャはそう言うと僕のほっぺたを優しく撫で、ゆっくりと僕を抱きしめた。
「ごめん...ユリーシャ...」
「いえ...大丈夫です。」
僕は泣きながらユリーシャに謝りユリーシャはそんな僕を優しい言葉で許してくれた。
僕の中の小さな僕が目を開けた瞬間だった...。
『カチッ!』
僕の中で何かの音がした次の瞬間
(ぶおぉぉー!)
と僕の中から黒と白の斑模様の霧が溢れ出しその霧は僕とユリーシャとイリアルを包み込んだ。
「こっこれは...?」
ユリーシャは驚きの顔で僕を見る。
(ぶおぉぉー....)
その霧はしばらく僕ら三人を包みこみその後、(スッ)と僕の中に消えていった。
僕は何が起きたのか分からず、気づいたら体の力が抜け床に倒れていた。
「悠真様?悠真様?ゆう...」
ユリーシャが何度も声をかけてくれていることは分かった。
(ユリーシャ僕は大丈夫...それよりイリアルはどうなったんだ?あれ...声がでない...)
そう話しながら、声が出ないことに気づいたが、僕の意識は段々と遠退いていき、僕は意識を失った。
僕は(ハッ!)と目を覚ます。
目の前には黒い空が何処までも続いている。
『ん?ここは何処?』
僕はそう言いながら体を起こす。
『えっ?』
僕は体を起こしてビックリした。
上は黒い空が広がっていて、下は透き通った綺麗な湖が何処までも続いている。
僕は訳なく、その妙な世界を歩く。
しばらく歩くと光る球体が見えてきてその球体に駆け寄る。
『なんだ...これは...僕...なのか?』
その球体の中にはスヤスヤと眠る白黒の斑模様の小さな僕がいた。
『十六夜 悠真...』
誰かが僕の名前を呼ぶ。
『誰?』
僕は振り返り、辺りを見回すが周りには誰もいない。
『悠真...』
また、声が聞こえる。
『誰?どこにいるんだ!?』
僕は辺りを見渡しながらそう叫ぶ。
『私ですよ、お忘れですか?』
声は僕の体の中から聞こえ、僕の体から何かが出てきて、人になった。
『神...様?』
僕は思い出したかのようにそう言った。
『そうです!お久しぶりですね?悠真...』
僕の目の前には初めて会ったときと同じ姿の神様が立っていてそう僕に話しかけてくる。
『神様!ここは何処なの?この小さな僕はなんなの?この世界は?』
僕は思いつくだけの質問を神様にする。
『悠真...少し落ち着きなさい!一回深呼吸をして...』
神様はそう言うと僕の肩を(ポンッ)と叩いて深呼吸をする。
『う...うん...。(スー...ハー...)』
僕は神様に言われたとおり深く深呼吸をする。
『はい...落ち着きましたか?』
神様はそう言って僕を見る。
『うん...』
僕は言う。
『悠真?今、貴方がいるここは貴方の心の中なのです。』
『心の中?』
『はい...』
僕は神様からそう言われ、もう一度辺りを見渡す。
『じゃあ...この球体の中に入る小さな僕は何?』
僕は球体を指さしながら神様に言う。
『それは、貴方が覚醒し貴方の心の中の感情が小さく人化したものです。』
神様は球体を見ながらそう話す。
『覚醒?感情が人化?何のこと?』
僕はスヤスヤ眠る小さな僕を見ながら神様に言う。
『まぁ説明はまた今度のようですね、この意識はまだ完璧に覚醒したわけではないようですから、その先の話はこの子が完璧に覚醒してから話しましょう。』
神様はそう言うとその球体を優しく撫でた。
『えっ?この子を覚醒させるにはどうすれば?』
僕は神様に聞く。
『それは、貴方自身が考えて答えを出さなければいけません。強いて言うなら向き合うこととだけ言っておきます。』
そう言うと、神様は(スゥーッ)と黒い空に消えていった。
「まっ...待ってー!」
僕は手を上に伸ばした状態で(ハッ)と目が覚めた。
「こ...こは?」
僕は手を下ろし、起き上がり周りを見る。
「ユリーシャの家?」
そこは間違いなくユリーシャの家で僕はベッドの上にいた。
「あれは...」
僕は下を向きながらそう呟く。
「んっ...うーん...」
隣で声が聞こえ僕は横を向く。
(スゥースゥー)
隣には僕の手を握りしめ吐息をたてながら寝ているイリアルの姿があった。
「イリ...アル?」
僕はイリアルの名前を叫ぶ。
「ん...うーん...」
そう言いながらイリアルは目を覚まし僕を見る。
「悠真ー!!」
僕を見たイリアルは、突然抱き付いてきた。
「いっ...痛い...」
僕は仰け反りながらもイリアルをしっかりと抱きとめた。
「うっ...うぐ..ぐすん...ぐすん...」
イリアルは僕に抱き付きながら涙を流して泣いていた。
「イリアル?体は...大丈夫...?痛いところ苦しいところはない?」
僕はゆっくりとイリアルに話しかけた。
「馬鹿者!!私の心配より自分の心配しろ!ユリーシャから聞いた。私の魔力暴走を悠真が抑えて、助けてくれたと...ありがとう...感謝してもしきれない...」
イリアルは僕から離れ頭を下げて礼を言った。
(ガチャ)
「イリアル...何を...」
そう言いながら、ドアからユリーシャが入ってきた。
(バシャン...カランカラン)
ユリーシャはベッドに座っている僕を見て持っていたタライを床に落とし、僕に駆け寄り抱き付いてきた。
「ぬおっ!」
勢いよく飛び付かれたせいで、またも僕は、体制を崩しかけた。
しかし、なんとか持ちこたえ体制を立て直す。
「悠真様ー!目を覚まされたのですね...良かったです!」
ユリーシャは泣きながら僕にそう言う。
「えっと...ユリーシャ?ちょっと苦しいから一旦離れて?」
僕は苦笑いをしながらユリーシャの頭をポンポンと軽く叩く。
「あっ!すみません...」
そう言うとユリーシャは僕から離れイリアルの隣に座った。
「えっと...何だか二人にかなり心配かけたみたいだね...」
僕は申し訳なさそうに二人を見ながら言う。
「本当です!どれだけ心配したか...」
ユリーシャは涙を流しながら僕に言う。
「ごめん...いつの間にか意識が飛んでて...ところで、僕が意識を失ってから何があったのか、聞かせてくれるかな?」
僕は真剣な表情でユリーシャに向かってそう言った。
「はい...」
ユリーシャはそう言い頷くと静かに話し出した。
「あの後、悠真様は床に倒れて動かなくなってしまいました。何度声をかけても体をやさぶっても起きずただスゥースゥーと眠っていました。息があるのが分かり、私は冷静さを保ち、悠真様を私の部屋のベッドに、イリアルをベッドの下に敷物を敷き寝させました。しばらくするとイリアルの魔力暴走は止まっていて顔色も元に戻り呼吸も正常に戻っていました。それから二、三分後イリアルは目を開けたのです...イリアルが目を覚ましてから私は事の事情を説明しました...自分を責めるイリアルをなだめながら最初は私一人でお世話をする予定だったのですが、イリアルが自分もやると頑固として悠真様の傍を離れようとしなかったので、二人ですることにしたのです。夜は時間を決め交互に昼間は一緒に悠真様が起きるまで身の回りのお世話をしていました。悠真様が気を失った原因は、あの黒白の斑模様の霧のせいであることは一目瞭然だったのですが、私はあのような魔法を見たことがなく、イリアルが目覚めてから聞いたのですがイリアルも分からないと言う事だったので、下手なことは出来ずにただお世話をする事しか出来ませんでした...」
ユリーシャは淡々と僕が気を失った後のことをたまに俯きながら僕に話していった。
「そうだったんだね...ごめんね...心配と迷惑をかけて」
僕は二人に頭を下げながらそう言った。
「それで、イリアルはなぜ魔力暴走を?」
今度はイリアルを見て僕は言う。
「あぁ...本当のことを話さないとな...」
イリアルは俯きながら一回深呼吸をし胸を落ち着かせながらゆっくりと話し出した...。
「私は生まれたときから魔力は人一倍あった...なぜなら、ユリーシャが持つべきだった魔力のほとんどが私の方に来ていたのだ。そして、ユリーシャには私が持つべきだった勇者の力のほとんどがいっていた。双子に生まれたそのせいで、ユリーシャは使える魔法が治癒魔法のみで、私は勇者が持っている剣を触ることは出来るが扱うことは出来ないのだ。すまない、脱線した...まぁ、魔力が人一倍ある私だったが、それを使うための魔法の器は他の者より小さかった...本来ならば魔力と器は等しい大きさでなければいけないが私は違っていた。でかい魔力に小さな器....説明しなくとも分かると思うが大きな魔法を使うすなわち、器から魔力が漏れ、それによって魔力暴走を引き起こすのだ。」
イリアルはそう言い少し黙り込んだ。
「でも、イリアル...君は僕が熱を出して倒れたとき、治癒魔法を使っているよね?あの時は魔力暴走はしていなかったのはなぜ?」
僕はイリアルに疑問をぶつける。
「あぁ...治癒魔法は、器に入るくらいの魔法だから、魔力暴走は起きないのだ...」
イリアルは僕の疑問に答える。
「じゃあ今回、魔力暴走を起こしたのは...」
僕はそう呟いて、考えながら記憶を辿る。
(はっ!まさか...)
そう思いながら僕はイリアルを見る。
「テレポーテーションか?」
僕が小声で言った言葉にイリアルはピクリと反応したのを僕は見逃さなかった。
「原因はテレポーテーションなのか?」
僕はイリアルに聞く。
(コクン)
イリアルは僕の質問に首を縦に動かした。
「はぁ...やっぱりか...なんでそんな無茶を...」
僕は静かだけど怒るような声でイリアルに聞く。
(ユリーシャが黙って聞いている所を見るとユリーシャにはもう話してるみたいだな。)
僕はそう思いながらユリーシャを見た。
「いや...私自身大丈夫だと...」
イリアルは顔を俯かせ泣きそうな声で僕に言う。
「はぁ...もう良いよ?怒っていないから。僕も無理には聞かないよ...だから、顔上げてくれないかい?」
(ユリーシャに説明してるのならばこれ以上は、聞かなくてもいい...)
僕はそう思い追求はしなかった。
「悠真...」
イリアルは顔を上げ僕を見る。
「無事ならそれでいい...」
僕はそう言いながらイリアルの頭を(ポン)と撫でた。
「悠真...様?」
ユリーシャが物欲しそうな顔で僕を見る。
「ん?」
僕は首を傾げながらユリーシャを見る。
「その...私も...えっと、頭...」
ユリーシャは言葉を詰まらせながら僕に言う。
(頭...?あぁー!)
僕は(ピン)ときてユリーシャの頭に手を置き(ポンポン)と撫でる。
「ユリーシャ、ありがとう。」
僕は優しく微笑みながらユリーシャに言った。
「悠真ー...私にもかまってくれ。」
そう言いながらイリアルが抱き付いてくる。
「悠真様ー」
普段大胆なことはしないユリーシャも負けずと僕に抱きついてくる。
「ちょっ...二人ともそんなに抱きつかれたら...」
(ドタン!)
僕は二人から抱きつかれバランスを崩し後ろに倒れてしまった。
「ちょっ...苦しいから一旦...」
僕がそう言いかけた時、僕の胸元にふにゃりと柔らかい感触がした。
(この位置と感触は間違いなく...イリアルはわざとだろうが...ユリーシャは無意識なんだろうな...)
もう流石にこんな状況に慣れてしまって僕は苦笑いする。
『向き合うこと...』
僕の頭に(フッ)とあの言葉が過ぎった。
「向き合う...か...」
僕は天井を見ながらそう呟き二人を見た。
(二人と向き合うこと?それにしても、もうそろそろ離してくれないかなー...まぁ、今回は心配かけたし...もう少しだけ良いかな?)
僕はそう思いながら二人の頭を(ポン)と撫でた。
いつも素人作品を最後まで読んで下さる読者の皆様ありがとうございます!皆様のお陰で10部までくることができました!
悠真の覚醒も気になりますが、イリアルそしてユリーシャとの恋の行方も気になります。
ようやく二人の扱いに慣れてきた悠真ですが、さらに二人から積極的なアプローチが...!まぁそれは、また次の話のお楽しみ...と言うことで...。
では、引き続き『モテなかった僕がなぜか魔王と勇者に愛されて!』をよろしくお願いいたします!
※言葉を文章化するのが苦手で誤字脱字、文章表現が可笑しいところあると思います。その時はご感想にて教えて下さい!