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悪の美学 ~転生魔王冒険譚~  作者: 古夜タクミ
3/4

2話

 約10分後。

 惨殺という名の実験が終了し周りを囲っていた見えない壁がゆっくりと消えていく。


「ん、だいたいこんなものか」


 その中心に彼、惨殺の張本人で、『魔王』に転生した彼が服を着て身体を伸ばしていた。

 服は殺した野盗の死体から剥ぎ取ったもの。『魔王』たる者が全裸で君臨するなどあってはならないと思ったからだ。

 しかし、他に着るものが無い為に、仕方なく防御力を捨てて現状打破のために着たのだ。


「じゃあな。実験に付き合ってくれて感謝しよう。己を誇るが良い。〈火炎(フレイム)〉」


 彼は自分の辺りに散らばっている死体に火をつけ、礼を言って歩き出す。

 前世、人間であったころでは決してしようと思わなかった惨殺を彼はやり遂げた。

 無論『魔王』に転生したとはいえ前世の記憶は残っており、道徳心が傷まないわけではない。 


「クッ!惰弱なっ!!」


 しかし、彼は『悪』を信念とする者。異世界に飛ばされ、まして『魔王』に転生したのなら、いまさら殺し云々の道徳等を抱いた自分に大声で叱咤する。

 

 そして、死体をわざわざ燃やしたのにも意味があった。

 死体の状態を見れば何があったのかと、誰かが調査をして彼の足跡を辿り、正体諸々がバレてしまい勇者等に情報が伝わるのを防ぐため。

 もう一つは彼なりの慈悲であった。


 矮小で弱小な存在だが『魔王』に挑み、たとえ殺されたとしてもその勇気は称えなければならないと彼は思った。しかも実験体に選ばれた事は身に余る栄誉だからだ。

 そして彼が歩き出そうと一歩踏み出そうとした瞬間頭の中で音と声が鳴り響いた。


「ん?」

[パパパ~パ~パ~♪

おめでとうございます。魔王レベルが上がりました。

Lv1生まれたての最弱ミジンコ魔王から、Lv2初めて殺れたね♥次も頑張ろう弱小ヒヨコ魔王

にランクがアップしました]

「な、何て称号なんだこれは…クッ!」


 あまりにもくだらない称号を頭の中で聞かされて脱力から怒りに火がつくかと思われたその時だが、まだ頭の中の声は続く。


[Lv2になった記念に5種類の特殊技能(スキル)が解禁されました。

Lv2になった記念にあなた専用の武器が一つ創造(クリエイト)可能です。

創造(クリエイト)しますか?

YES/NO

Lv2になった記念にあなた専用幹部部下4体まで創造(クリエイト)可能です。

創造(クリエイト)しますか?

YES/NO]

「これは…」


 称号の怒りが一気に消えていき彼は自分の解禁された能力を確認する。

 確かに先ほどの魔法と同じように使えるのが全身で解り、それが先ほど使えなかった事が改めて認識できていた。

 

 それと同時に自分の存在に疑問も出てきたのだ。

 『魔王』になったからではダメージを受けないのと相手の存在感は説明がつかない。


(おそらく、…存在感は相手の強さによると思うが、俺は…何の種族なんだ?)

「……〈調査(スキャン)〉」


 自分の体に手を当てて〈調査(スキャン)〉を唱える。

 が、


「〈調査(スキャン)〉不能だと?……ならば、上級魔法(ハイ・マジック)上調査(ハイスキャン)〉」


 魔法にはいくつかランクがあり、先ほど唱えたのは下級魔法(ロー)に分類される。

 そして、今唱えたのはワンランク上の魔法でより詳しい情報がわかる魔法を自分にかけて調べたのだ。


「種族が???(アンノウン)だと?……だめだ。これ以上は全て載っていない」


 彼に関する情報の殆どが白紙となっていた。


「ふっ、まぁいい。俺が『魔王』であれば何でもいいさ…ん?あれは…」


 不敵に笑い、さらに歩を進めると彼の目に奴隷商人達が乗っていた馬車や馬が目に留まった。

 彼は情報の隠蔽を図るため手に魔力を集中させる。吹き飛ばすためだ。

 馬車の中にいる女共々(・・・)構わず彼は更に魔力を集中させニヤリと笑う。


「ぐっ!」 


 と、放つ瞬間残った手で自分の頬を思いっきり殴る。

 溜まっていた魔力は霧散し消えていく。


「違う・・・違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!違う!!・・・力に溺れるな!俺は、『悪』だ!奴ら(奴隷商人達)と同じではない!断じてだ!!」


 頭を振り必死に自分に言い聞かせ、一瞬でも力に溺れて己の信じる『悪』を忘れた事を、それ故に、彼は罰の意味を込めて自分の頬を拳で殴って、今一度自分の『悪』を思い出す。

 『悪』というものにとことんこだわり、ここまで自他ともに認めるほど歪んで(・・・)しまった彼の信じるものは、もはや一言の『悪』では済まなくなるほどの徹底さがあった。


 前世で見たビデオをきっかけに彼は、あらゆる特撮鑑賞から始めて主義主張、形、強さ、心意気等『悪』に必要なもの、理想的な『悪』を勝手に(・・・)都合よく(・・・・)独自の解釈(・・・・・)で自らの心に植え付けてしまったのだ。

 

「・・・っ痛ぅ・・・やはり、自分へのダメージは痛い・・・か」


 彼は立ち上がり馬車の方へと歩き出す。

 馬車に近づいた彼は馬車の鉄柱を力で捻じ曲げ、女達の方へと入っていく。見れば年のころは10代後半から20前半の女たちが鎖に繋がれてぐったりしている。

 だが、彼が鉄柱を捻じ曲げたにも関わらず鎖に繋がれた女達は悲鳴も反応もせずに体を隣に預けあってただ天井を見ているだけであった。


 様子がおかしいと思い、潰さないよう軽く頭を掴んで顔を覗き込む。

 女は息はしているがまるで死人のように反応が無い。目はまるで死んだ魚のように虚ろで光も感じていない。

 流石におかしいと思った彼は首に繋がれている鎖を手に取る。手に持った瞬間その鎖から微量な魔力が流れているのを感じ取れた。


「こいつか・・・〈鑑定魔法(アプレイザルマジック)・〈道具(アイテム)〉〉」


 鎖に鑑定魔法をかけどのような効果をもっているか調べる。


「[無気力の鉄鎖]・・・気力を奪う拘束具か・・・なるほど。こんな物で逃げられないようにしていたか。だが、これはこれで都合が良い」

「・・・・・・・・・う・・・・・・あ」

「このまま、お前達を逃がしてやるが、お前達の記憶を少々変えさせてもらう。〈上級魔法(ハイ・マジック)〉〈記憶改竄(メモリーズアルター)〉」


 彼は女達に手をかざし、ここであった事を全てモンスターや事故のせいであったと女達の記憶を変えていく。

 下手に殺して証拠を残し、情報が広まるよりはこの方法が、事を大きくする事もなく、自分の信念を汚すことは無いとベストな判断としたのだ。


(これは『正義』ではない。『正義』ではない。絶対にだ)


 己の心に言い聞かせ一人ずつ付けられた鎖を引きちぎっていく。


「後は勝手にするんだな」


 全ての鎖を解いた後彼は馬車に積んであった金袋を置いて彼は一人平原を歩いていく。




 20分後


 彼は一度立ち止まり頭の中に意識を集中させ、声をもう一度再生させる。


[Lv2になった記念にあなた専用の武器が一つ創造(クリエイト)可能です。

創造(クリエイト)しますか?

YES/NO

Lv2になった記念にあなた専用幹部部下4体まで創造(クリエイト)可能です。

創造(クリエイト)しますか?

YES/NO]


 声が頭の中に再生され彼は選択する。


「全てYESだ」

[あなた専用の武器を設定して下さい]

[4体幹部部下を設定して下さい]


 YESを選択し、空から野球ボール位の黒い玉が2つ現れる。

 彼は黒い玉を握りながら頭の中で、まずは自分専用武器の設定を行っていく。


「さて、どうしたものか・・・」


 頭の中で色々考えながら、設定していく。

 それと同時に設定を一時停止して、頭の中の設定画面を切り替えて、埋め込まれていた地図(マッピング)を出して平原を歩いていく。

 平原の名はボーグ平原。


 元々は闇に覆われて、草木は毒草だらけの平原と彼の地図(マッピング)には書いてあるのだが、今は穏やかな平原と何ら変わりはない。300年も経てば変わっているものかと彼は思った。


「・・・・・・いや、こう設定していけば、・・・ダメだ。・・・ならば、この設定で対抗すれば・・・」


 ブツブツと呟きながら歩いては止まっていき武器の設定に難儀していたいた所に、彼の背後から気配が近づいてくる。

 そして、彼の背後に手が届くまで近づいて何者かが声をかける。


「あ、あの!」

「ん?――!?」


 声をかけられた後、彼は背後を振り向いた瞬間後ろに飛んで距離を取り、相手を注視し構える。


「・・・・・・貴様」

「え!?その・・・え?」


 声をかけたのは一人の、髪の青い女。

 格好もボロの布切れを着ている。先ほど鎖に繋がれていた奴隷の一人。

 一人一人開放したので彼の記憶にもある。強いて言うならばこんなにも生気あふれる顔をしていなかった。

 息遣いが荒く、顔も赤いのでおそらく彼を追いかけ、走ってきたのだろう。


 だがそれだけではここまで彼は警戒はしない。

 理由は2つあった。


 まず、彼は奴隷を解放する際記憶を改変したはずなのに何故彼女はここまで彼を追いかけてこれたのか。

 そして、何より警戒させたのは彼女の存在感の強さであった。

 開放する前は明らかに薄く空気みたいな存在が、殺した頭や奴隷商人等比較にもならなかったのに、今の彼女の姿は強烈過ぎるほど感じ取れていた。

 それゆえ、彼は、最悪逃げる算段を考えながら身構えている。


(何だ?この女?)

「あ、あの・・・その・・・・・・私」

「動くな!!」

「!?」

「下手に動くな。俺の質問だけを答えろ。もし、変に動いたり嘘をつけば・・・即座に殺す」


 殺気を放ちながら彼女を見張る。表情から身体の全て。


「〈上級魔法(ハイ・マジック)〉〈|嘘と真(フェイク&トルゥー)〉」

「ん!・・・???」


 彼女の体が光を放ち、やがて消えていく。

 彼女は一瞬何が何だか理解できず、心配そうに自分の身体を触ったりしている。


「安心しろ。死にはせん。―質問を始める。せいぜい嘘はつかんことだ。まず、お前は誰だ?」

「え!・・・私・・・私は・・・」

「ん?どうした?何故答えられん?簡単だろう?お前の名は?」

「あの・・・私の名前は・・・その・・・ありません」

「何?」

「名前・・・ありません」


 消えそうな声で、そして泣きそうな声で女は答える。

 当然〈|嘘と真(フェイク&トルゥー)〉の効果で彼女が嘘を言っていないことは明白だった。

 念のため〈調査(スキャン)〉をかけ名前を確認したが『名無し』と表記されていた。


「・・・次の質問だ。何故俺を追いかけた?―いや、その前に記憶を変えたはずだ。それなのに、お前は俺の事を覚えているな?・・・何故だ答えろ」

「それも、わかりません。―でも、あの時助けてくれた事は覚えています。・・・他の皆さんは違うことを言ってたけど・・・」

「違うこと?」

「その、モンスターが襲ったとか、雷が落ちたとか、バラバラでした」

(またも、嘘は言っていない。という事はこの女だけ失敗したという事だと?馬鹿な・・・)


 ここまで全て嘘は言っていない為、彼の疑問はますます大きくなる。


「・・・で、わざわざ俺を追いかけて来たのは何のためだ?―いや、それよりもお前のその存在感は・・・いや、今の質問は忘れろ。で、何でだ?」

「・・・・・・その・・・私・・・貴方に・・・助けて・・・くれたので・・・その・・・恩返しを・・・」

「は?よく聞こえん。はっきり言え」

「貴方に・・・恩返しをしたいんです」


 必死に声を絞り出し、涙目で彼に訴えかけるようにして告白する。

 だが、


「必要無い。帰れ」

「!?」



 あっさり彼に拒否をされ、ショックを受ける。また、彼にしてみれば恩返しをしてもらう意味も無い。

 何故彼女の記憶が変えられなかったのかは疑問が残るが、敵意が一切なく、強さもさして脅威では無いことがわかったのでサッサっと追い返そうとする。


「契約だ。俺の事を他に言いふらさないなら別にこれ以上お前には関わらんし、何もするつもりはない。・・・じゃぁな」

「あ・・・待って下さい!」

「!?離さんか!」


 彼の服を掴んでそのまま座り込む。


「ええい、貴様、離せ!」


 フルフル首を横に振り手の力は一層増す。


「・・・よく聞け。これは慈悲だ。これ以上俺に関わることは死を意味することだ」

「慈悲?」

「そう、俺は『魔王』。キサマらの敵だ。本来なら貴様なぞ殺している。見逃すのはこれ以上ない慈悲だ」

「・・・魔王・・・」

「ああ、そうだ。だからこれ以上俺に付きまとうな。残る余生何処かでひっそりと暮らすんだな」


 それでも掴んでいる手を離そうとしない。

 彼もだんだんイライラが膨らんでくる。


「・・・んです」

「あ?」

「私・・・もう・・・他に行く所が無いんです!」

「知るか!?貴様の事情なんて俺に関係あるか!とっとと失せろ!」

「嫌です!」


 『魔王』という事を明かしても彼女は逃げようとしない。

 彼も早く殺してでも進みたいが、下手に殺すことができずにいる。

 そして、しまいには彼女は涙を流しながら彼の顔を逸らすことをしなくなり無言の抵抗をしてしまった。

 彼もどうすれば良いか考えたが、傷つけず、殺さずに彼女から逃げる方法が上手く思いつかない。

 だが、


「・・・いいだろう。そこまで言うなら俺のそばに置いてやる」

「ほ、本当ですか?」


 彼の言葉に彼女の表情は明るくなる。


「置いてやるのは良い。だが、それは俺の物になるということ。つまり、お前は俺の所有物。奴隷に逆戻りを意味する事だ。・・・お前はそれで良いのか?」


 彼は彼女が絶対に拒否をする条件を叩き出し、そのまま別れるであろうと確信した。


「奴隷に・・・戻る。・・・貴方の・・・奴隷?」

「そうだ。貴様の全てはこの俺の物になり、一生尽くす人生を過ごさなければならない」

「・・・・・・・・・」

「さぁ、最後のチャンスだ。今ならまだ間に合うぞ」


 彼の言葉後、彼女は顔を上げ祈るように手を組んで彼の前に跪く。


「なります。主の名の下に、今この時より貴方の所有物になることをここに誓います」

「なっ!?」

「これで、私を置いてくださいますか?」

「・・・正気か?貴様。本当に奴隷に戻るというのか?・・・信じられん。予想以上の馬鹿か?」


 彼は軽くよろめき、自分の頭に頭痛が出てきそうな感覚を味わっていた。


「・・・後悔は無いのか?魔王の奴隷になるのだぞ?」


 フルフルとまたも首を横に振り、彼女はニコリと彼に微笑む。


(やはりおかしい。この女・・・いや・・・むしろこれはこれで良いのかもしれん。この女の正体を確かめねば)


 彼女の存在感を究明するために彼は、半ば諦めを含めた納得と言い訳で彼女を受け入れる事にした。


「いいだろう。ならば俺についてくるんだな」

「あの、その前に・・・貴方のお名前は?何てお呼びすれば?」

「ん、そうか。そういえば、名前か・・・」


 彼からしてみれば『魔王』というだけで、そう呼ばれるだけで満足だったのでそこまで気にはしなかった。

 が、『悪』の名前には、呼ばれるだけで畏怖と尊敬を含まれることがあるので、彼はそれらが含まれる名前を考え出す。


「ここは、あえて分かりやすい『悪』の名前を・・・いや、それでは幼すぎるか?・・・ならば、威厳と恐怖を・・・これでは長すぎるか?」

「???」


 ブツブツと頭を抑えながら呟いて考えていた。

 そして、


「!?これでいこう」


 閃いて、改めて彼女の方へと向いて彼は名乗る。


「我が名は『ネオ』。新しく生まれた、この世界の魔王『ネオ』だ」


 これが『魔王ネオ』の誕生となった。


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