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悪の美学 ~転生魔王冒険譚~  作者: 古夜タクミ
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1話

[新魔王誕生します]


(頭の中に声が聞こえる。穴に落ちてどの位たった?何も見えない。…俺はどうなっている?)



 青空広がる大平原。風が心地よく吹いている。

 その大平原を1台の大きめの馬車とそれに付き従う馬に乗った人間が進んでいる。

 馬に乗っている者達は厳つい顔して下卑たように馬車を見つめて笑っている。


「ヒヒヒッ。いい具合に手に入りやしたねぇ。ねぇ旦那」

「ぐふふ、ぐふふふ。今回は上玉が揃って高く売れるわいのぅ」

「旦那ぁ。売る前に俺達に味見をさせてくださいよ」

「待て待て、先にワシが味見をたっぷりとしてからのぅ」

「味見という名のメインでやしょ?」

「そうとも言うかのぅ」

「こいつはひでぇや。ギャハハハハ」


 下卑たように馬に乗った者達は馬鹿みたいに大笑いした。

 馬車はまるで檻のように囲まれていた。その中身は全員女だった。

 皆まるで絶望したように顔を伏せているか目は死んだようにして始終無言で男達の笑い声を聞いていた。


 そうして男達が馬車を進ませると途中で空から黒い雷が走った。

 パリパリと青空なのに雲のない場所から雷は少しずつ勢いを増していく。

 そしてついに巨大な黒い雷光が地面に落ちた。その衝撃と音は離れていた男達を驚愕させ馬から転げ落ちる者を出すほどだった。

 女達もその光景に幾人かが顔を上げて様子を見る。

 

 雷光の落ちた地面は大きな(クレーター)が出来ていた。

 その穴の中心部に1人裸で立っていた。


「…ここは?俺は…」


 自分の手を見つめて所々身体を触りながら確かめていく。

 身体は人間そのものだが、髪は前とは違い、長く銀色になっている。身長も体つきも多少幼くなったよう縮んでいる。顔を確かめようとも鏡が無いので確かめようもない。

 そして今度は少しずつ頭の整理をしていきゆっくりと何があったのかを思い出していく。あの時の夜が夢であったのではないかと若干疑っていた。

 だが、周りや空を見ても前の世界とは全然違うことが明らかに理解した。


「フッ、フフフフフフッ、ハーハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 先ほどとはうって変わってまるで壊れたように大笑いした。


「これが転生か!ついに、ついに俺はなれたんだ!俺はなれたぞー!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


 天に向って叫ぶ。彼がなりたくてなりたくてたまらなかった『悪』。その頂点の『魔王』に。

 そして感謝した。彼を『魔王』にしてくれた大恩人。前魔王バンデルに。その恩に報いるために。

 ひとしきり笑った後彼はゆっくりと歩き出して穴から出る。


「ん?」


 穴から出てきた所で先ほどの男達と馬車が待っていた。男達は装備していた剣や弓矢を構えて彼に殺気を放っている。

 先ほどの雷光の様子でも伺おうとしたのだろう。


「だ、誰だテメェ!」

「さっきのは一体何だ?何しやがった!?」


 彼は殺気立つ男達を見つめる。

 普通なら逃げ出すかその場に立ちすくんで命乞いをする所だが、不思議と彼には恐怖が沸いてこない。

 むしろ目の前にいるというのに男達の存在感が余りにも薄く、まるで空気が喋っているような不思議な感覚を体験していた。


 「ん?おおおおお!これが転生した俺の顔か!?」


 彼は一人の男の前に走り出して持っていた剣を指で掴み鏡のように自分の顔を映し出す。

 顔は少々童顔になって全くの別人になった。彼の人間だった前世の面影は一切無くなっていた。しかし、転生前よりも美形になっていた事に満足し何度も頷いた。


 彼に剣を掴まれた男は彼の指を外して切りかかろうとするが剣が一向に外れない。いや、動こうとしなかった。明らかに男よりも細い腕なのに。


「ん?どうした?何をそんなに力んでいる?あぁ、これは剣だったのか。危ないな。ほら」

「つはっ!????」

「しかし、剣ならもっと早く言え。あまりに薄い(・・)から鏡かと思った。それに何をそんなに激しく息をしているんだ?軽く掴んだだけだぞ」


 別に馬鹿にしているのでは無く、ただ純粋に質問しただけなのだが男は馬鹿にされたのだと受け取って一気に怒りと殺気を放ちながら彼の脳天に剣を叩きつけようと向かっていく。

 それを見ていた男の仲間達は馬鹿にされた男と、この一撃で死んだと笑いながら眺めていた。

 しかし、彼にしてみればまるでスローモーションのように感じていて余りにも遅いと思っていた。


「ふざけているのか?」


 彼は楽々と脳天の一撃を避け振り抜いた男の眉間にデコピンをしようと指を構えた。


「危ないと言ったろ」


 ピンと彼にしてみれば本当に軽くなのだが指を弾いて眉間に当たった瞬間男の頭が吹き飛んだ。

 頭が吹き飛んだ男は首から大量の血を噴き出しながらそのまま倒れピクピクと痙攣をしながらやがて動かなくなった。

 仲間達は一体なにが起こったのかよく分からず誰も言葉を発さず沈黙する。

 そして彼は頭が吹きんだ死体を見ながら弾いた指と自分の身体をもう一度見つめる。

 

 「う、うわぁーーーーーーーーーーーーー!」


 ようやく頭の理解が追いついた仲間の一人が恐怖と怒りのあまり彼に矢を放つ。

 彼も叫び声に気がつきその方向に振り向く。が、すでに矢は放たれて彼に向かっていった。

 だが、それも彼には遅く見えて簡単に掴んでしまった。そしてじっくりと矢を見つめながら笑い出して男達を見る。


「フフフフフフフフ。そうか、これが力か。わかる。全てが解るぞ。感謝しよう。そして光栄に思え。お前達は俺の力の!」


 全てを言い切る前に剣や斧を持った男達が彼の首や体に斬りかかった。

 しかし、刃は皮膚から内部に移れず、音も鈍重のように鳴り響いた。刃がただの皮膚に負けたのだ。

 そして彼は何事も無かったかのように不敵に続ける。


「最初の実験体に選ばれたのだから」

「ひっ!」

「まずは、〈調査(スキャン)〉!」


 彼は魔法を唱える。

 それと同時に彼から見えない波動の波が男達を包み込んで頭の中に男達の情報が入ってくる。

 しかし、その情報は大雑把なもので男達の性別と名前、職業等ごく簡単な情報だった。


「ほぅ、奴隷商人と雇われの野盗か。丁度いい。こういうクズなら問題ない」

「な、なんだこいつ!?ヤバイぞ!」

「化け物だ!フル●ンの化け物だ!!助けてくれー!」

「おいおい、逃げないでくれ。そうじゃなきゃ力が試せないだろう?ま、全員逃がさないけどな。〈閉ざされる空間(ロックフィールド)〉」


 手を前に出し別の魔法を唱える。

 彼の手からまたも見えない波動が出て今度は周りを円形状に包んだ。

 逃げ出した野盗達はその見えない壁に阻まれて先は進めずに己の拳や武器で壊そうと躍起になった。


 しかし何故彼が転生してすぐ自由に魔法が使えるのか?

 それは彼自身も何故かは分からなかった。だが、魔法が使える(・・・・・・)という事だけは頭の中、心、全身全てが解ったのだ。

 転生して、生まれてすぐ誰に習ったわけでもないがこれが『魔王』というものだと彼は一先ず納得した。


「出せー!出してくれー!」

「なんで、これ以上進めないんだよ!」

「さてと、逃がさないのはこれで良いとしてどうしたものか…」

「き、来た!」


 彼は考えながらゆっくりと男達のもとへと近づいていく。

 男達をどうやって殺すかを考えながら。


「調子こくんじゃねぇ!この化け物野郎!!」

「ん?何だ?」

「「頭!?」」

 一際筋肉が発達した大男が巨大な斧を彼に向けて声を荒げる。


「この俺様がミンチにしてやるぜ!このクソ野郎!」

「ほぅ。それは頑張って欲しいところだが、もう少し存在感を出してくれないか。声だけだと少々迫力に欠けてな、それではただうるさいだけだ」

「ほざけー!!どうりゃーーーーーーーー!!」

「困ったものだ」


 野盗の頭は斧を手に勇敢に彼に斬りかかって行く。

 その姿を見て手下達は頭の応援をして頭の後ろ姿を見る。 

 彼の目からは先ほど殺した部下と同じ薄い存在がただ向かってくるようにしか見えなかった。


 そしてガキィィィンと、

 金属同士がぶつかったような鈍重な音が響いて、振り下ろした斧は難なく片手で止められ掴まれていた。


「どうした?これで終わりか?これでは芸がないなぁ」

「ならこれで死ねや!フル●ン野郎!〈爆炎(フレイムボム)〉!!」

「!?」


 斧の柄にはめ込まれた赤い宝石が頭の呪文と共に輝いて炎と共に彼を包み込む。

 その衝撃で掴んでいた手は離れ、頭は距離を取る。

 頭は炎に包まれている彼が死んだとその場で笑い出した。

 

 「ギャハハハハ!ボケが!魔法を使えるのが自分だけだと思ったか?ああ?ギャハハハハハハハハ」


 頭は燃えている彼を指差し大いに笑っている。部下達も頭に続いて笑い始める。

 だが、


「ギャハハハハ…ハハ……ハ……は?」


 炎は勢い良く燃えているというのにその中にいる者は一向に倒れない。

 それどころか燃えながら頭の所へと歩いていく。

 炎はだんだん小さくなっていき頭の前に着いた時には完全に鎮火して彼が立っていた。


「ん~、炎に包まれるのは初めての体験だ。それに、斬撃を防がれるのを見越して魔法を撃つとはな。いやいやなかなか機転も働くじゃないか」

「ば、馬鹿な!?あれだけの炎で、な、なんで死なねーんだ!―いや、死なないにしても傷一つ負っていないだと!?」

「おいおい、あれだけの炎だと?あんなものはぬるい程度にも入らんぞ。それに、見た所その斧は下級魔法を使えるようだが所詮弱小武器。威力も固定ダメージ(・・・・・・)しか与えられないとみた。それでは俺に傷どころかダメージすら与えられん」

「く、クソッ!〈爆炎(フレイムボム)〉!〈爆炎(フレイムボム)〉!〈爆炎(フレイムボム)〉!〈爆炎(フレイムボム)〉!!」


 頭の勝利への愉悦が一気に消え去り全身に恐怖が襲う。

 頭は斧を地面に突き立て彼に対して魔法を乱発する。しかし、彼に当たっても今度は全身を炎につつむどころか当たった瞬間に炎はすぐに鎮火して消えていく。

 その光景を見ている頭はより一層恐怖が倍増していき自分が失禁しているのも忘れて近づいてくる彼に魔法を撃つ。


「無駄だと言ったろ。いいか、炎とはこういう事を言うんだ。――〈爆炎(フレイムボム)〉」


 ポンと頭の肩に手を当てて彼も同じ魔法を唱えた。

 頭は一瞬にして炎の柱に包まれてしまった。しかし、その炎の火力は段違いであり、火柱は10m以上にもなるほど勢いを出していた。

 頭は自分が何をされたのかも分からずに骨も残らずに焼死した。


「あ、おい!頭がこんな下級魔法で簡単に死ぬな!クソッ!これでは、俺の力が試せないじゃないか。…仕方ない後は残った雑魚共でやるしかないか」


 矛先を残った子分達に向け、頭のような事を繰り返さないよう反省し彼は歩を進める。

 恐怖に駆られた子分たちが逃げようと見えない壁に向って喚きながら体当たりや地面を掘る等をして脱出しようとする。

 

「ま、待ってくれー!」

「ああ?」


 子分達の中から少々太った男、奴隷商人が出てきて彼の前に立つ。


「ああああ、あの頭を瞬殺し、じゃ、弱小とはいえこいつらの攻撃が効かないとは、すすす、素晴らしい強さじゃないか。そこででで、わわわしと手を組まないか?」

「手を組むだと?」

「そ、そうだとも!こいつらは好きにしても良い!でも、わしを助けてくれたら望むだけの金を渡そうじゃないか。それに女も用意しよう。それに加えてわしらが手を組んだら何でも手に入るぞ!」

「ほぅ…何でも…か?」

「そうだとも!お前、いや!あなた様の放った魔法であんな威力は見たこともございません!あなた様程の魔法使い(ソーサラー)なら国だって手に入れられますぞ!」

「国か………クッフフフフフフフハーハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」


 彼は男の言った誘惑を前にして大笑いをした。

 それに続いて奴隷商人も顔を引きつって笑う。

 しかし、それい以外の者達は関せず急いで脱出しようと躍起になっていた。どの道承諾してもしなくても殺されるとわかっているからだ。


「ど、どうでしょうか?悪い話ではないでしょう?」

「……愚か者が」

「へ?」

「つまらん嘘をペラペラと。よく回る舌だ。聞いているだけで反吐が出る」

「う、嘘などつきません!わ、わしは本心で!」

「見るのも聞くのも耐えん。いい事を教えといてやる。最初の〈調査(スキャン)〉でキサマらの事は大体分かっているんだ。――だから実験体にしたんだよ」

「そ、そんな!?」

「それにな、俺はキサマらみたいな悪党(・・)は嫌いでね」

「ど、どうかご、ご慈悲を!お助けを!!」

「ああ、かけてやるとも。貴様の顔などもう見たくもないわ!消え失せろ!」

「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「〈風の刃(ウィンドカッター)〉!」


 奴隷商人は身体中バラバラに切り刻まれて死亡した。

 彼は死亡したのを確認した後怒りを沈めてニコリと爽やかな笑顔を残った子分達に向けた。


「見苦しい所を見せてしまったな。……さ、遅くなったが今度はお前達の番だ。せいぜい簡単に死なないよう頑張ってくれ」


 ゆっくりと笑顔を向けて歩を進める。

 逆に子分達は一目散にバラバラに逃げる。しかし、どこへ逃げても見えない壁が邪魔して一定上の距離を進めることが出来ない。

 それでも、諦めずに逃げるが絶対的な死は笑顔を向けたまま歩を進めて追い詰める。


 子分達が全員完全に死ぬのまでそれから10分後の事だった。

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