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悪の美学 ~転生魔王冒険譚~  作者: 古夜タクミ
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プロローグ

 どこかの広い玉座で今まさに一つの命が失われようとしていた。


「うっ、ぐぅわーーーーーーーーーーーーーー!!」


 断末魔は広い玉座の部屋中に響き渡った。


「い、いい気になるなよ勇者ども!私が滅んでも、魔王は永遠に不滅なのだーー!!」


 傷口を抑えて勇者と呼んだ者達を見つめながら断末魔を叫んだ男は倒れ死んだ。

 勇者達は確実に死んだことを確認して、皆喜び笑い、涙しながら勝利を高らかに宣言した。


―――――――――――ここに魔王は倒され世界は平和を取り戻した。




(間違っている!)


 人通りが少なくなっている夜道で青年はひどくひどく、とてもひどく憤っていた。


(お前達は絶対に間違っている!俺は認めん!認めてなるものか!!)


 彼が怒る理由は今日の出来事にあった。

 それは彼の通う大学のサークルの出来事で、サークル仲間達が言った事が原因だった。


「いや~、あの瞬間のヒーローの必殺技の演出は最高だったな~」

「ああ!あの怪人のヤラレ具合がなんとも言えないぜ。やっぱり、ヒーローはああでなくちゃな!」

「く~!俺もヒーローになって悪の軍団をぶち殺しまくりたいぜ。なぁ、お前もそう思うだろ?」


 こんな他愛の無い、下らない会話が彼の怒りを呼び出してしまった。


(貴様達は分かっていない!だからあんな軽はずみな事が言えるんだ!)


 今にも人を殺しそうなほどの殺気を放ちながら夜道を早歩きで進んでいく。

 

 何が彼の怒りに触れたのか。

 それは、サークル仲間が怪人、悪の組織を馬鹿にした事が原因だった。

 

 彼は、正義の味方、ヒーローよりも悪の組織に憧れを抱いている自他共に認める歪んだ思いの人物だった。

 無論表立ってそれを言いふらしたり、犯罪に手を出すような事はしない。が、それでも信仰に近い『悪』という己の信念を持って育った。


 何故そうなってしまったのか。

 幼少の頃、彼の親がレンタルビデオ店で借りてきた特撮ヒーローのビデオを見ていた時に、とある話数で悪の軍団がヒーローよりも気高く、誇り高い姿で演出されていた事が彼の心を射止めた。

 今で言う『早すぎた特撮』という奴で子供より大人的な考えの特撮だった。


 それ以来彼は『悪』というものにひどくこだわりを持つようになった。


「『悪』の何が悪い?確かにあまりに卑劣な事をする奴は死んで当然だ」


 独り言を小声に出してをブツブツと言い出した。


「だが、何度やられてもヒーローに立ち向かう不屈の精神、厳しくも部下を思いやり、ヒーローを倒すことを信じる心。そして、怪人が魅せる命を賭けてまで貫く信念。美しいじゃないか。シビれるじゃないか!格好良いじゃないか!!」


 声は少しずつ大きくなり、ついに叫んだ。


「そうだ。悪の組織がいるからヒーローが生まれるんだ。『悪』がいるから始まるんだ。そうじゃなきゃ奴らは何も出来ないんだ。何もしないんだ」


 もはや誰もいないのを良い事に憚らず暴言を吐きだした。


「………ああ」


 どこからか声がする。


 怒りを顕にしていた彼だったが暴言を吐き終わり少しずつ冷静さを取り戻してゆっくりと歩を進める。


「……ついに、ついに」


 やはりどこからか声がする。だが、それはひどく弱々しくて誰にも聞こえない。


「…見つけた」


 そして、彼が夜道の狭い路地に入った瞬間に彼にも聞こえるよう小声で喋った。

 一瞬足を止め前と後ろを確認して声の主を探した。

 しかし、誰もいない事を確かめて気のせいだと思い歩を進める。


「あの、すみません」


 今度は聞き間違えがないほどの声が彼の耳に入る。

 彼は少し怖くなって急いで路地から抜け出そうとその場からダッシュした。


「ああ!待って下さい。怖がらせたのなら謝りますから。逃げないで。話を聞いて下さい。お願いします」


 やはり声がどこから発せられているのかわからず一目散に逃げた。

 路地から出て街灯が照らされている場所まで走った後、呼吸を整えるためにその場に立ち止まり深呼吸をした。


「なんだったんだ?今の声は」


 辺りを見回し誰もいない事を念入りに確認する。


「ようやく止まってくれましたか」


 ここでも声が聞こえて体が硬直する。

 そして、ゆっくりと声のした方へと向く。


「ふぇっ!な、なんだこれ!?」

「『これ』とは少し失礼ですね」


 間抜けな叫び声を上げ尻餅をついて声の主を指差す。

 しかし、そこには()はいない。

 代わりにあったのは黒くて丸いマリモみたいな物が宙に浮かんで喋っていた。


 「すみません。驚かせるつもりはなかったのですが、つい、話を聞いて欲しくて」


 マリモは本当に申し訳なさそうに体をペコリと上下させる。

 お辞儀をしたのだが顔が無いのでなんとも言えなかったが、その声は静かに彼に向け敵意や悪意が無い事を伝えた。

 それを察して彼はゆっくり立ちあっがてマリモを見つめる。


「で、あ、アンタは一体何者なんだ?ていうか何だ?」

「あ、これはすみません。自己紹介が遅れました。(わたくし)魔王のバンデルと申します」

「……はっ?」

「失礼しました。()魔王のバンデルです」

「違う。そういう事じゃない。…お前ふざけてんのか?」


 マリモは自分が魔王と言い出した。

 その答えに毒気を抜かれたのか少し呆れ気味になってマリモ魔王バンデルに返す。


「あ、違うんです違うんです。ふざけてないのです。真面目なのです。確かにこの姿ではふざけて見えるでしょうけど、この姿は訳あって魂の姿なのです」


 バンデルは必死に違うと弁明する。まるでサラリーマンのように。


「すみません。本題の前に聞いて下さい。実は、私は此処とは違う世界で魔王をやっていました。勿論この姿ではないですよ」

「…はぁ」


 別に聞いても無いのに自称魔王バンデルと名乗るマリモは語り出した。

 もはや彼の心に恐怖は微塵も無くなってしまった。


「自分で言うのも何ですがね国を収めたりして頑張って魔王を務めていたのです。特に妻が死んでからは特に」


 シミジミと感慨深くマリモは語る。


「ところが突如、頑張っていた私の前に勇者達パーティーが乗り込んできて戦いを仕掛けてきました。私は魔王として必死に戦いましたが、残念ながら結果はこのザマで滅ぼされました。しかし、私は死ぬ前に自分に呪いをかけ、以来300年以上もこんな魂の姿で彷徨っているのです」


 以上と事の成り行きを言い終えたマリモはどうですか?と彼に伺った。


「…一つ聞きたい。アンタは生きている時もそんな調子で魔王をやっていたのか」

「ええ。お恥ずかしながら」


 照れている感じでマリモは答えを返した。

 しかし、彼のこめかみに神経が浮き出て顔も一層凶悪になっていく。


「ふざけるな!」

「ひっ!?」

「魔王と言えば『悪』の親玉。力強く誇り高いボスだろうが!それが何だ?リーマンみたいにヘラヘラと媚びを売るような感じで喋りやがって。姿は100歩譲ってしょうがないとしても威厳だけは魔王らしくしろ!」

「ひぃぃ!す、すみません」


 マリモに全力で怒鳴る。

 当然だ。彼の考えている『魔王』とは全然違いすぎていたからだ。

 まして、大学で起こった事と合わせれば彼の怒りはより強くなっているのは当然だと思われる。


「フゥフゥ。まぁ良い。アンタの世界の事だからこれ以上はもう言わん。…怒鳴ってすまなかった」


 言いたい事を言い終えていきなり怒鳴ったことをマリモに謝った。


「い、いえ。こちらこそ申し訳ありませんでした」

「…で、俺に一体何の用で来た?」


 バンデルは本当に申し訳なさそうに謝った。

 そして、彼はバンデルにどうして来たのかと本題を促す。


「はい。先ほど言った通り私は死ぬ前に呪いをかけました。これはアイテムによる呪いなのですが、その呪いの内容は……魔王を受け継がせるまで成仏はしないという呪いです」

「魔王を?」

「そうです。…頑張ったとはいえ、今にして思うと私には魔王としての才能が無いから簡単に勇者達に滅ぼされたと感じるのです。そう考えると悔しくて悔しくて。だから死ぬ前にこの呪いをかけたのです」

「つまり、俺に魔王を引き継いで欲しいと」

「はい!」


 バンデルは力強く返事を返す。

 しかし、彼には疑問が残った。どうして自分を選んだのかと。

 その理由を聞くまでは迂闊に返事は出来ないと考えた。

 そして、バンデルに理由を聞いた。


「私は死んで300年以上あの世とこの世の狭間で相応しい者を探していましたが、誰も彼も正義の味方や勇者、ヒーローばっかり憧れる者が多くて、希にそれ以外の者を見つけてもしょうもない欲望丸出しの輩ばっかりでした。しかし、あなたは違う。ヒーローに憧れず下らない欲望より自分の信じるものをお持ちだ。私はあなたしかいないと確信をもって受け継いで欲しい思いこうして現れたんです」


 彼は顔を赤らめ照れた。

 ここまで力説に評価してくれる事はあまり無かったためだ。

 それに、彼にとって正直魅力的な誘惑だった。『魔王』とは悪の首領。現実では決してなれないものが今、手に届くところまであるからだ。

 むしろ、夢が叶うといっても過言ではない。


「ただ、その…」

「??」

「こことは違う世界の魔王として君臨してもらうので受け継ぐ為に、1度死んでもらわなければならないのですが…」


 バンデルは言いにくそうに死ななければならないと告げる。これは重要なことですと。

 そして、これを言ったからには断れる事を覚悟をした。だが、


「そんな事か。別にいいぞ。受け継いでやる。魔王になれるなら死んでやる」


 彼は平然と答えた。

 その顔は狂喜に満ちて笑っていた。


「ええ!?死ななければならないのですよ。普通怖がって時間をおいて考えるとかどうかしますよ。あなたは怖くはないのですか?」

「怖い?むしろ俺には歓喜しかないね。夢が叶うんだ。その夢の為に命をかけないでどうする?こんな絶望しかない世界とはとっととおさらばしたいね」

「あの、未練はないのですか?愛する人は?両親は?」

「…いないね。両親なんてとっくの昔に死んでいる。さぁ!早く俺を魔王にしてくれ!」


 その姿にバンデルはゾクリと寒気を感じた。魂になって久しく感じたものだ。

 バンデルとてこの姿ではあるが元魔王。こんな性格だが通常の人間よりは格上と思っているのだが、ただの人間にここまで寒気を感じたことは無いと思っていた。自分を殺した勇者よりも。

 それは本当にこの人間に受け継がせても良いのかと思うほど。


「……わかりました。あなたに魔王を受け継いでいただきます」


 そしてバンデルはそのまま念じると、彼の前に空間を出した。

 空間はちょうど彼が入れるほど大きさで中は何も無い暗闇が続いていた。


「この穴に入れば、あなたは死に、こことは違う世界に魔王として転生されます。」

「入る前に質問したい。受け継ぐのはアンタの全てか?つまり、転生したら魔王バンデルの姿や力も同じになるのか?」

「いえ、受け継ぐのは魔王としての要素や最低限の魔力や力、知識等です。転生したらどのような姿になるかは私にも分かりません。しかも転生したては受け継いだといっても魔王としては最弱です。熟練の勇者達に出逢えば即殺されるでしょう。だから魔王としてどうしていくかはあなた次第です」

「俺次第…」

「そうだ。不安なら最初に私の城を見に行って下さい。そして、まずは勇者達に出会わないよう生き残る事を優先にそこから何かを掴んで下さい。転生したら目標地点を記して起きますから。これはサービスですよ」


 彼の不安を和らげようとしたのかバンデルは最初に目標を与えてくれた。

 顔は無いがその言葉を発したときは優しく笑顔であったに違いない。

 そのおかげで彼はより勇気が沸いて来た。


「ありがとう。俺はアンタの、いや、バンデルさんのおかげで夢が叶う。感謝してもしきれない。受け継いだらしっかりと魔王をしていく事を約束する」

「お礼を言うのはこちらですよ。これでようやく成仏できます。…それと、これとは別にお願いがあります」

「ん?」

「私には娘がいます。私とは違って、妻に似た力も魔力も強い娘なんです。私が生前ダメダメだった為城を出て行ってしまいましたが。あの子は生まれた時から生粋の魔王でしたからもし生きていたら、もし会えたならこの言葉を伝えて欲しいのです」


 バンデルは必死に伝える。

 受け継いで欲しいと言った時よりも切実に。

 たとえどんな状態になろうとも、魔王よりも父であろうとする姿がそこには見えた。


「■■■■■■■■■■■■■■■■」

「ああ、約束する。会ったら必ず伝える」

「ありがとう、ございます!」

「じゃぁ、さようならバンデルさん。俺、頑張りますから」

「はい、どうか気を付けて」


 そう言って彼は穴の中に入り闇の中に落ちて行った。

 穴は次第に小さくなっていきそのまま閉じて消えていった。

 それを見届けたバンデルも穴が消えたと同時に魂が少しずつ削れるように消えていっている。


「ああ、ようやく会えるね。ヴィヴィアラ……」


 バンデルは想い人の名前を言いながらそのまま完全に成仏していった。








[前魔王バンデルの呪い及び魂の完全消滅を確認]

[これより新魔王の創造(クリエイト)を開始します]

[新魔王の魂の読み込み(ロード)を開始]

[魂の読み込み(ロード)完了]

[器の創造(クリエイト)を開始します]

[器の創造(クリエイト)を完了]

[現段階の使用可能能力及び知識を魂に注入(インストール)開始]

[前魔王バンデルの城への道程及び城のマッピング情報を|注入(インストール開始]

[注入(インストール)完了]

[器との適合率100%]

[新魔王の創造(クリエイト)の全工程完了]

[新魔王誕生します]

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